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2010-06-26

仮面ライダーオート第19話

 付喪神の出現が妙に減った事に疑念を抱くハルト。そんな彼の前に現れたのは、仮面ライダーシュートと名乗る人物。そして、シュートを守護する四神。
 その四神が一斉に01に襲いかかってきた!!


 ≪ETCスロットイン ドライブソード≫
 01の右手にはドライブソード。左手にはリバースブーメランが握られている。
 その歪な二刀流で四神の攻撃を受け流し、反撃し、防いで行く。しかし!
 「ぐっ!?」
 先読みの能力も反応しきれなければ、無用の長物。
 「くそったれ! 早すぎる!!」
 白虎の高速攻撃に気を取られれば、玄武の重厚な一撃が01を襲う。それだけではない。朱雀と青龍の航空爆撃は着弾点がわかっても爆風や爆煙に身体を焼かれる。
 「はははははは!! 圧倒的ではないか!!」
 地面にひれ伏した01を見下し、シュートは愉快そうに嗤った。
 「神々がこの程度の男に手こずっていたとは、わはははははは!!」
 傍観を決め込んでいたシュートは、倒れていた01の所まで歩み寄ると、その頭を足蹴にした。
 「オート01。大したことはなかったな。さっさと死ねばいい」
 言うとシュートは持っていたガトリングでありライフルでもある、ハイパーシューターで01の身体を――
 遠くない場所で発砲音が聞こえ、気づいた時にはハイパーシューターは弾かれていた。
 「誰だっ!!」
 シュートは発砲音のした方を向いた。そこには……
 「ナツキ、レイラ……」
 桜庭ナツキと、M16を構えているレイラの姿があった。
 「大丈夫か、ハルト! 今、助けるぞ!! 変身っ!」
 言って、ナツキは仮面ライダーギアへ変身した!
 しかし、いつものギアとは様子が違う。腰にあったマフラー型の銃の代わりに、ベルトから延びるのはハンドル。マフラーは肩へと延びていた。
 「仮面ライダーギアセカンド!」
 その名はギアセカンド。以前の模擬戦で露呈した問題を完全に消し去り、高速戦に特化したフォルムと武装。遠距離攻撃を無くしたギアは、ドッグファイトに特化していた。
 その補強の代わりではないが、レイラがM16と呼ばれる小銃を装備している。連射が可能な小銃はギアの戦いをサポートする。弾丸は通常のものに対付喪神用の術式を組み込んである。
 「ったく、世話を焼かせないでよね!」
 「ナツキ、レイラ!」
 新しい力を手に入れた2人の登場が無性に嬉しくなったハルト。そんな彼の元に、もう一組みが現れる!
 「ハルトさん!」「ハルト様!」
 「トウコちゃん、モジミ!」
 洋服を纏ったトウコと、巫女服を着崩したモミジだ。
 「いくよ、モミジさん!」
 「いつでもよいよ!」
 「「変身!」」
 二人は声をそろえると、その姿を変えた!
 モミジは、その姿を完全に巫女服へと変化させ、それをトウコが身にまとう。そして、彼女の手に握られるのは、名刀・神斬紅蓮丸!
 「上霧トウコ、紅葉姫、押して参ります!」
 クレーン車に憑依したモミジ。彼女と共に変身すれば、装甲が分厚い代わりに重たくなってしまう。華奢なトウコには扱いきれなかった。だからこそ、モミジは巫女服へ憑依し、トウコの身体に合わせた。それと同時に、上霧家の家宝とも言える名刀・神斬にも憑依したのだ。
 「さすがに家宝とも言えるだけあって、神斬はパワーが違うわね」
 「えぇ! でも、これからはハルトさんの力になれます!」
 「そうね!」
 「トウコ、モミジ……」
 胸が熱くなる! 俺は一人じゃない!!
 ――お兄ちゃん、そのまま動かないで!!――
 遠くから、直接頭に響く声が聞こえる。
 「ムツキ?」
 刹那、5発の弾丸がシュート達を襲った!!
 「何!?」
 その一瞬の隙をついて、01はシュート達から離れた。
 「これは一体……」
 隙をついたとはいえ、何が起こったのか解らないのはシュートもハルトも同様であった。
 ――お兄ちゃん、大丈夫?――
 「ムツキ?」
 ――そうだよ!――
 「これは一体?」
 ――んんふぅ、ボクが説明しましょう!!――
 「遠野か!」
 これは01に搭載されているGPSなどの通信機器を介して会話を行っている。だから、声はハルトにしか聞こえていない。
 そして、さっき彼らを襲ったのはムツキの放った、超長距離ライフルの弾丸だという。もちろん、対付喪神用の属性付加はされている。
 ――これでも、私は戦線のリーダーだったんだよ。狙撃はお手の物よ――
 「ムツキ、遠野」
 もう大丈夫だ。これだけの仲間が集まれば、俺たちは無敵だ!!
 そんな確信めいた気持ちがハルトを奮い立たせた!
 
 「……興ざめです。帰ります」
 そんな時、シュートはやれやれと言った表情で背を向けた。
 「待て!」
 「待ちませんよ。まぁ、今日のは挨拶程度です。これからは全力で潰しにいきますので、夢々お忘れなく」
 そう言うと、シュートと4柱の付喪神は姿を消した。
 「……仮面ライダーシュート」
 ハルトは現れた最後の敵の名を深く刻み込んだ。

 「状況を整理しよう」
 家に帰り着いた7人は、上霧神社でミーティングをしていた。
 「あぁ、頼む。帰国したばっかりで状況が把握できない」
 ハルトに向かってナツキが言う。それにレイラも頷いていた。
 「最近の付喪神の減少は覚えているな」
 ハルトの言葉に誰もが頷いた。
 最近の付喪神の減少の原因は、あの仮面ライダーシュートだと言う。シュートが言うには、シュートが神の代行者であり神々の命を受けて新都と古都に神々の楽園を作ろうとしている。
 そのために、付喪神を狩り集めて絶対の守護獣を、つまり四神を復活させた。つまり、あの四神には多くの付喪神の魂が入っている。従って、大獣神など相手にならないレベルだという。
 そして、もちろん仮面ライダーシュート自身も付喪神と契約をしている。果たして、それはシュートに代行業を任せた上位神なのか、別に付喪神なのか?
 「多分、その両方だと思う」
 そう言って、ハルトは結論づけた。
 「その根拠は何?」
 結論に疑問を抱いたのはレイラであった。
 「シュートの姿を見れば解るが、あれは大獣神のなれの果てだ」
 思い起こせば、あの姿は確かに獣帝大獣神の姿を連想させるものではあった。が、あれほどゴテゴテしてはいなかった。
 「加えて、あのプレッシャーは大獣神だけでは出せない。恐らく上位神の力も得ていると思う」
 大獣神にしては強すぎる。とハルトは付け加えた。
 「とりあえず、これからは5人行動が原則だな。でないと勝てる見込みが少ない」
 ハルトは、そう言って締めると、早々と部屋に戻ってしまった。
 
 翌朝の地方新聞の一面には、『仮面ライダーは実在した!?』という見出しと共に、ハルト達の名前が書かれていた。

 つづく
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2010-06-08

仮面ライダーオート第18話

 第18話

 「あぁ。悪かったな、無事に戻って来れたし、パワーアップも出来たぜ」
 夕日が木々の間から零れおちる、境内の木陰でハルトはケータイで電話をしていた。
 「おう。それじゃ、俺はこれからパトロールに行くわ。っと、忘れるところだった」
 幹に背を預けていたハルトだったが、ゆっくりと立ち上がり、茜色の空を仰ぎ見た。
 「最近、仮面ライダーについてかぎ回ってるマスコミがいる。気をつけろよ。って、写真を撮られたヤツの台詞じゃねーな。おう、それじゃ!」
 そう言うと、彼はケータイの通話を終えた。
 「ハルト様、誰と電話をしていたのですか?」
 姿を見せたのはモミジだった。夕方であったので、既に日傘は射していなかった。
 「ん? あぁ、零司にな。トウコちゃんやナツキが零司にまで話してたみたいだったから、連絡を入れておいた」
 「そうですか…… それにしても、ハルト様は、なぜマスコミを嫌うのですか?」
 「あー、それなぁ……」
 逡巡して答えた。
 「イタズラに新都の人を不安がらせても悪いし、それに取材となれば危険が伴うしね。正直、記者を守りながら戦う余裕はないと思うんだ。それに」
 「それに?」
 「粋がったバカな連中が付喪神にちょっかいをかけられても困るしね」
 そう言って、ハルトは苦笑を洩らした。
 今の所、付喪神が取りつくのは古い物ばかりだが、その中でもパソコンや自転車などの一件無害そうなモノばかりだった。しかし、大獣神の一件以来、付喪神が強力になりつつある。そんな予感がしていた。
 「確かに。おそらくですが、今後の戦いは更に厳しくなると思います。スグに憑依しないと消滅してしまう小物は、あらかた片付いたと思いますので、残りは強力な付喪神だけでしょうし」
 「ま、悩んでも仕方がないさ。とりあえず、俺たちは通常業務をこなそう。そのためには……」
 「ご飯ですね」
 「正解!」
 
 食事も終えて、完全に日が落ちた午後8時。新都の繁華街を歩いていたのは、ハルトとモミジとトウコだった。
 「やっぱり、トウコには紅蓮の武装は重すぎるのか」
 会話の流れから、三人の会話はトウコの変身した姿、仮面ライダー紅蓮へと移っていた。
 「そりゃ、そうだろ。オート紅蓮でも攻撃特化型で遅くなる上に、この間の零司との模擬戦でやったアレでもハイパワーすぎて扱いに困ったしな」
 「でも、私はハルトさんの力になりたいですよ!」
 「「「う~ん」」」
 三人は頭をひねった。
 「……そう言えば、最近は巫女服を着なくなったね、トウコちゃん」
 「えっ!? あ、はい。やっぱり目立ち過ぎるので。この頭ですし……」
 「そうか!」
 唐突にハルトは声を上げた。それに首を捻るのは、トウコとモミジだ。
 「モミジ、武装ってのは割と自由なモンなんだろ?」
 「えぇと。一応、私の場合はクレーン車なんで武装は鋼になってしまいますが?」
 「うーん、やっぱり都合よくいかないかぁ」
 「ハルトさん、何を思いついたんですか?」
 「いや、トウコちゃんの武装を巫女服とかにすれば、いいんじゃないかなぁ、と」
 付喪神との変身の場合、その防御力は憑依物の素材よりも付喪神自身の霊力に依存することが多い。
 対付喪神戦においては、やはり霊力の大小が大きなカギになるので、実はオートや紅蓮のような姿をする必要はない。むしろ、重すぎるので推奨はされない。
 ただ、素材の硬度というのは重要な所もあったりする。対付喪神戦における防御力を霊力防御と呼び、いつかの夜のボウガンの矢などの物理的攻撃に対しては物理防御力が重要になってくる。
 仮にあの夜にボウガンが巫女服武装したトウコを襲ったならば、確実に重症だった。そういう話だ。
 とはいえ、やはりあんなイレギュラーは多くはないだろう。
 「ま、巫女服云々に関しては、一度、トオノに相談するべきだろうなぁ」
 「ですね」
 そうして、今日も日が昇っていくのであった。

 ――ハルトの生還から2週間。付喪神が姿を現すことは一度もなかった。

 「どう思う?」
 上霧神社、陽の光がさんさんと降り注ぐ午後。神殿の縁側に腰をかけているのはハルトとモミジだった。
 「度々、付喪神の出現の気配は察知できますが、より強い気配が現れた途端に気配が飲みこまれてしまいますわ」
 「突風のような付喪神が出たのか」
 「そこまでは、さすがに……」
 「だよなぁ……」
 ハルトが生還してからは、付喪神に関する環境が変化しているように思えた。
 「とにかく、ロクでもない事が起こっているのは確かだ。警戒するべきだな」
 「えぇ」
 「あ、モミジ様、探しましたよ」
 そこへ現れたのは、トオノだった。
 「ようやく術式が完成しました。早速で申し訳ないのですが……」
 「わかった。行きましょう」
 「えっ? 何が出来たって?」
 モミジとトオノの短いやりとりについていけなかったのは、ハルトだった。
 「以前、お話していたアレですわ。私の憑依を巫女服へ移すというものですわ」
 「あぁ、アレ。本当にやるんだ」
 「はい。トオノは良くできる男ですわ。ねぇ?」
 「光栄です、モミジ様」
 しばらく談笑した後に、彼らと別れたハルトだった。

 まだまだ日が高く、それでも今さら学校に行く気にもなれなかったハルトは、仕方がなしに境内の掃き掃除をしていた。
 「あ、ハルト!……お兄ちゃん」
 そんなハルトの姿を見つけたのは、ムツキであった。
 今度の九月から中学校に通うことになったムツキは、タカヤやマイコに一般常識から小学生程度の勉強を教わっていた。しかし、時々、2人とも忙しいエアポケットが生まれる時があり、その合間を縫っては神社を抜けだしていた。
 「よぉ、ムツキ。脱走か?」
 「脱走って、失礼しちゃうな」
 「はは、悪い悪い」
 ハルトは掃除の手を止めて、ムツキと共に日陰に入った。
 「いよいよ夏真っ盛りって所か…… 暑くてかなわないな」
 暦では既に7月。容赦なく日が照りつけている。
 「暑いかな? GSに居た頃は、周りはコンクリートで固められてたし、地下は地下で蒸し風呂状態だったから、これぐらいは気持ちがいいくらいよ」
 「……なんか、ムツキって負ってる業が重いよな」
 「そうかしら? 私はお兄ちゃんが負ってる『神殺し』の方が思いと思うわ」
 「……」
 『神殺し』。それはハルトがお狐さまと契約した時に知ってしまった業。そして、仮面ライダーオートで在り続けるための対価。
 「ムツキは何処まで知ってる?」
 「知ってるも何も、私は全てを知っているわ。GSの中にもいたから、『神殺し』は」
 「そうか……」
 「『神殺し』。人を守る神を殺した人間に与えられる咎人の証。烙印を押された者は、死ぬ事を許されず、神からの寵愛を永劫に失う」
 「まさに神道における考え方だな。人や地域を守る……拡大解釈だが、生きている人に救いを与えるのが、神道だ」
 「誰かを守ろうとして、後ろから刺されたら怒るものね」
 「だけど、俺は刺したんだよ。カミサマってやつを」
 「……」
 「さて、と。そろそろ戻った方がいいんじゃないか? マイコさんが心配してる」
 「うん。わかった」
 手を振って駆けていくムツキに、手を振り返す。
 「『神殺し』、か……」
 ハルトは小さく呟いた。

 その日の夜は、1人だった。トウコとモミジは、コンバートに時間がかかっているらしく動けないし、ナツキとレイラはギアのオーバーホールのために日本を離れている。
 「今日も今日とて独りきり、か」
 独りごとを呟き、彼は夜の繁華街を歩いていた。
 「!?」
 その時、ハルトにも感知できるほどの大きな気配を感じた。彼の探知能力は優れているとはいえ、距離が距離なだけに、その気配の大きさは尋常ではない。
 ハルトははやる気持ちを抑え、バイクのアクセルを開いた。
 
 ハルトが到着した場所は、駅前広場だった。開発された新都のシンボルである新都ビルは、中に多くの店舗だけではなくオフィスや駅を内包している。その新都ビルの正面にあるのが駅前広場。以前、プロジェクトフェアリーがライブを行った場所よりも広いそこは、待ち合わせの場所としても利用されていた。しかし、いつもは人でにぎわうはずのそこは誰ひとりとしなかった。その代りいたのは、4柱の付喪神と……
 「仮面ライダー……!!」
 広場で待っていたのは、4柱の付喪神と、付喪神に守られるように立っていた仮面ライダーの姿だった。
 「ようやく来たのか、楠木ハルト君。いや、仮面ライダーオート!」
 中央に立つ仮面ライダーは、ボイスチェンジャーで声を変えており、男なのか女なのか判断がつかない。しかし、ハルトは仮面ライダーの存在以上に、敵が自分の名前を知っていたことに驚いていた。
 「アンタ、誰だ? なんで、俺がライダーだと知っている!?」
 「……愚問だな、オート。私は君達ライダーズに勝てると思ったから姿を現したんだよ」
 つまり、それはライダーズの正体を知っている上で、ということだ。
 「おっと、自己紹介が遅れたな。私の名前は仮面ライダーシュート」
 仮面ライダーシュート…… その姿はなんとも形容しがたかった。モチーフは恐らく恐竜であり、頭はドラゴンの上あごが乗っておりバイザーの役割を果たしている。両肩にはトリケラトプスとサーベルタイガーの頭が武装されている。背中には大きな2枚の翼が広がっている。それだけではない。よく見なければわからないが、身体のあらゆる場所に砲門がついているのがわかる。そして、シュート最大の特徴は、その手に持ったガトリングともスナイパーライフルとも思えない大きな銃だ。おそらく、両方の特性があるのだろう。
 「仮面ライダー、シュート――」
 ハルトは言葉を切り、姿を変えた。
 「――何が目的だ?」
 「ほぅ。この間は遠目にしか見えなかったが、やはりパワーアップしていたか……」
 シュートは01の姿を見て感心していた。しかし、それは01の神経を逆なでする事になる。
 「質問に答えろ、シュート!!」
 ≪ETCスロットイン リバースブーメラン≫
 刹那、01が放ったブーメランがシュートめがけて飛んでいく。が、しかし、そのブーメランはシュートの前の現れた黒い物体により弾かれてしまい、どこかへと飛んで行った。
 「そう慌てるな、オート。そうだな、私の目的は…… この新都および古都を付喪神が支配する『神の都市』を形成する!!」
 「なん、だと……?」
 神々が住まう都市。新都と古都。……キーワードにしてみれば充分だった。
 「『特区』、か!?」
 「『特区』? なんのことだかわからないが、おそらくは君の思っている通りだ。この地に神を降ろして支配する! それが私の目的だよ、仮面ライダー」
 『特区』。それは、200年後の世界で見た地獄。溢れかえる付喪神を封じるために、新都と古都をコンクリート壁で取り囲み、世界中のあらゆる結界を施した地獄。取り残された人々は、日々付喪神と戦うだけの毎日を過ごしていた。
 「なんの……」
 「?」
 「なんの意味があって、そんなことをするんだ! 付喪神の全てが悪とは言わない! だが、この地に眠る大半の付喪神は荒魂だ! それを解き放てば、どんなことになるか……!!」
 荒々しく01は叫んだ。それは200年後の世界を見たからこその、正当な怒り。
 「ハルト君。君は勘違いしているのではないか?」
 「は?」
 「荒魂、和魂。それは我々人間程度の矮小な存在が決めた線引きだ。そこに価値はない。必要なのは神の意思だけだ」
 「なにを……?」
 「私は神々の声を聞き、その願いを手助けする神官なのだよ。言わば、神の代理人。神々の意向を伝え、実現する事こそが神官の務め! 故に私こそが正義! 私こそが神だ!!」
 シュートは笑った。芝居がかった動き、大ぶりな身振り、自己陶酔するように大きな声で。
 「……というのは、建前さ」
 「なんだと?」
 「私はね、ハルト君。神々と契約したのさ。私が神官を務め果たせば、願いを叶えてくれると!!」
 なるほど、な。と01は1人心の中で呟いた。相手はただの狂人ではない。正気と狂気が入り混じった、厄介な相手。
 「だが、この場に建前も本音もいらない。あるのは正義と悪だけだ。神々の意向を受けし私こそが正義であり、その私や神々を殺そうとする君こそが悪だ!! さぁ、紹介しよう、彼らこそが最強の付喪神となった四神だ!!」
 01の目の前に現れたのは、4柱の付喪神。どれも今までの付喪神とは格が違う…… 獣の姿をしていた。
 「玄武!」
 漆黒の甲羅に身を包んだ大亀。その尾は二匹の蛇だった。
 「青龍!」
 青く輝く鱗を持つのは、四神の中で最長の体長を持つ龍。。
 「朱雀!」
 赤と金の入り混じった美しき羽を持つのは巨鳥。
 「白虎!」
 純白の毛皮に身を包むのは虎。
 「さぁ、この四神と私を含めた5人を相手に君は生き残れるかな?」
 シュートの頬が歪むのが解った。

 つづく
2010-06-07

仮面ライダーオート第17話

 第17話

 ムツキとドクターは終始きょろきょろしていた。夜だというのに、光溢れる世界。行きかう人々の多さと、その表情の多種多様性。閉鎖された特区ではみられなかった、戦う目的以外のアイテムの数々…… 見るモノ全てが目新しい世界だった。
 しかし、一転。川を越えると、そこは閑静な住宅街。先ほどの場所を新都と呼び、今いる場所が古都と呼ばれている。
 古都は静かな場所だった。古い街並みが広がり、人通りも少ない。どちらかと言えば、雰囲気はこちらの方が未来に似ているというのは皮肉な話だ。
 しかし、決定的に違うのは、住宅街では家々から光が漏れており、時に朗らかな笑い声が聞こえてくるのだ。そんな事が信じられないといった表情で、周囲を見渡していた。
 「久しぶりに帰ってきたなぁ。一ヶ月ぶりぐらいか…… ここに住んでたのも、長くはなかったハズなのになぁ」
 実際、彼がここに住んでいた期間は、未来よりも短い。しかし、それでも懐かしく思うのは、未来での出来事が濃厚であった事と、この上霧神社がハルトにとって居心地のいい場所だったからだろう。
 「ここがハルトの住んでた所なの?」
 上霧神社の境内までやってきた彼ら。土地と家の広さに唖然としていたのはムツキだった。今や『SG』のリーダーではなくなり、13歳の少女となった彼女の言葉に固さが抜けて、年相応の少女のような声色と口調であった。
 「文献で見たことはあったけど、ここまで大きいとは思わなかった」
 ドクターも動揺を隠しきれていない様子であった。
 その時、カタンという物音が聞こえた。それに驚き、ハルトは視線を音のするほうへ向けると、そこには巫女服を着たトウコの姿があった。まるで、幽霊でも見たかのような表情で口元を手で覆い、涙を浮かばせて……
 「ハル、ト、さん……」
 「ただいま、トウコちゃん」
 夜風に乗って、ハルトの声は彼女の耳に届く。それは、自然な言葉。ごく普通の挨拶のように。
 「ハル――」
 「ハルトぉぉぉぉぉぉぉ!!! 歯ぁ、くいしばれ!!」
 トウコの言葉をかき消して、聞こえてきたのは怒号。野太い男の怒号だった。
 刹那、ハルトでさえも反応できない速さで走ってきたタカヤの拳がハルトの頬を殴り飛ばしていた。
 「ってぇ!! 何するん――」
 「バカ野郎。心配かけさせやがって!!」
 殴り飛ばされたハルトが文句を言おうとした瞬間、タカヤは尻もちをついているハルトを強く抱きしめた。
 「ハルト。お前は、もうウチの子なんだよ。だから、もう心配をかけさせるな!!」
 タカヤの言葉にハルトの胸が熱くなった。
 「ったく、少し痩せたんじゃないか? 飯は食ったのか? 怪我はしてないのか?」
 ハルトを話したタカヤは、心配そうに色んな事を尋ねていた。
 「はは。大丈夫だよ、飯も食ってたし、怪我はオヤジに殴られて口の中を切っただけだ」
 ハルトの言葉にタカヤは「そうかそうか」と安心したような声を漏らしていた。
 「ハルトさん……」
 「トウコちゃん……」
 タカヤから離れたハルトは立ち上がると、トウコと抱擁を交わした。
 「ハルトさん、無事でよかったです」
 「あぁ。おかげ様で、ピンピンしてるよ」
 「本当によかった……」
 もう一度、抱き合う2人。
 「ところで…… その人達は?」
 トウコの視線の先。複雑な表情を浮かべたムツキとニヤニヤとしているドクターの姿があった。
 「あぁ、今まであった事を全部含めて説明するよ」
 そう言って、彼らは上霧神社の中に消えていった。

 上霧家の食卓では、食事の量も食べる人間もまかなえなくなり、広めの居間に集まっていた。
 ハルト、トウコ、モミジ、タカヤ、マイコ、ムツキ、ドクターに加え、連絡を受けたナツキ、レイラも参加していた。
 こうやって、ようやく腰を落ちつけるまでには一悶着があったのは、言うまでもない。
 未来では消えてしまったモミジが生きていたこと、そのモミジがハルトを見るなり涙をこぼしてしまったこと。それが終わってからは、ハルトの隣に誰が座るかで、トウコ、モミジ、ムツキの三人が大喧嘩をしたり。
 ナツキとレイラが来てからは、更に混迷を極めた。ナツキに殴り飛ばされるハルト、不意にも涙と笑みを見せたレイラにざわめく会場。
 こんなバカみたいな騒ぎは、ハルトにとって久しぶりであり、戻って来れたことをなお一層に感慨深いものにした。
 閑話休題
 なんだかんだでようやく落ち着いた一行。落ち着いたと言えば、ハルトの両脇にはトウコとムツキで決着したようだ。
 「で、この『一週間』、何処で何をしていて、この子達はなんなんだ?」
 そこでようやく、家長であるタカヤが口を開いた。
 「っと、本題を忘れるところだった。この『一ヶ月』の間、何をしてきたのか……」
 ハルトは未来であったことを話し始めた。

 「……にわかには信じがたい話だな」
 話し終えたハルトに対してナツキは神妙そうな顔つきで言った。
 「信じるしかないでしょう。この人達、ムツキとトオノの存在がそれを証明しているわ」
 怪訝なナツキに対して言ったのは、以外にもレイラであった。
 「それに、そこの付喪神も裏界について話したハズよ」
 裏界…… 天照から逃げる為に付喪神達は日中は、自身の持つ世界である『裏界』に逃げ込む。その世界における時間軸は、現世におけるタイムラインから外れている。それについては、モミジが既に説明をしていた。もっとも、タイムラインから外れる理由までは解らなかったのだが。
 「……いいじゃないですか。未来に行ったか、どうかなんて」
 「トウコちゃん?」
 「ハルトさんが無事に帰ってきてくれただけで十分ですよ。ね?」
 トウコの笑みに、ナツキも面を喰らったようで「あぁ」と答えるしかなかった。
 「それよりも、大獣神はどうなってる? ……と聞くまでもないな」
 会話の流れを変える為にハルトは大獣神の話を切り出した。が、聞くまでもなかった。
 「日付的には…… ハルトが消えてからの一週間で、二度も遭遇するけど、二度とも敗走。理由は、トウコ様とモミジ様の紅蓮のシンクロが上手くいかなかった事と、ナツキ様のギアの整備不足によるもの、ですね」
 「なんで、知ってるの!?」
 ムツキの言葉に驚きを隠せないのはトウコだった。いや、口には出していないが、他の面々も驚きの表情を浮かべていた。
 「さっきの未来から来た云々の証明ではありませんが、私にはトウコ様の書き綴った日記がありますので」
 「えっ!?」
 そう言ってムツキが見せたのは、かなり古ぼけてはいるが確かにトウコの日記帳であった。
 「これには、トウコ様がいかにハル―― むー! むーっ!!」
 揚々と語るムツキの手から日記を取り上げ、かつ彼女の口を塞いだのは、もちろんトウコだった。
 「あはは…… ムツキちゃん、一緒に入ろっか?」
 「むー! むー!!」
 「レイラさんもどう?」
 「……遠慮しておくわ。私はシャワーで十分」
 「そう? それじゃ、行こうか? ムツキちゃん」
 「むーーーーーー!!」
 食卓に不気味な沈黙と、居心地の悪い雰囲気が漂ったのは言うまでもない。

 今後の対策もさておき、宴会モードになっている居間では衝撃の事実が判明していた。
 それは……
 「ハルト、酒なんて久しぶりだろ? 飲め飲め!!」
 と、ナツキはいい感じに出来上がっており、嫌にハルトに絡んでくる。
 「よせって、ナツキ。それよりもドクターについでやれよ」
 「ん? それもそうか! よし、遠野とか言ったか? まぁ、飲め!」
 「あ、イエ。遠慮しておきましょう」
 「遠慮なんかするなよ!」
 「そうではなく、ボクは19歳ですからね」
 「「「「「「!?」」」」」」
 衝撃の事実発覚。
 「えっ!? あ、えぇ!? ドクター、年下だったの?」
 「えぇ、まぁ。200とんで2歳ぐらいは……」
 「……見えないわ。若く見積もっても25ぐらいよ、アナタ」
 動揺を隠しきれないレイラも口を開くほどの衝撃の事実。
 「信じられない。私と同い年だなんて……」
 「「「「「「!?」」」」」」
 衝撃の事実再び。
 「……何よ、私がまだ10代で悪いの?」
 「おい、レイラ。10代なのは正直驚いた。俺らよりも歳は近いとは思っていたけど、まさか…… って、おい、やめろ! 襟をつかむな! ひきずるなーー!!」
 レイラ、ナツキを引きずって退場。後に絶叫。
 「世界が平和でありますように」
 ハルトはお猪口に入った日本酒を一気に仰いだ。

 そうして、夜は更けて…… 朝が来た。
 「よし、ムツキ、それから遠野。お前らはウチの子になれ!」
 朝食の席で、開口一番にタカヤは言った。しかし、当のムツキとドクターはぽかんとしたままだった。
 「あの…… タカヤさん、それは一体、どういう意味ですか?」
 タカヤの隣でニコニコとほほ笑むマイコを除いて、「言ってる意味はわかるのに、理解が出来ない」という表情を浮かべる一同を代表してハルトは尋ねた。
 「昨日の夜、マイコと相談したんだが、ウチのバカが考えなしに連れてきた、この2人をウチで預かってやることにした。戸籍的にも」
 「誰がバカだっ! って、戸籍も!?」
 解りきっている話だが、未来人たるムツキとドクターに現代日本における戸籍などない。
 「伊達に長いこと神主をしとらんわい。氏子の中に、そういうことに融通の効く人間がいてな。そいつをシメあげれば、なんとでもなる」
 (スルーもつっこみ。スルーもつっこみだから! 物騒な単語なんか聞いちゃいない!!)
 「で、どうだ? 2人とも」
 視線をやった先、ムツキとドクターは困ったような表情を浮かべていた。
 「確かにありがたい話ですが、僕達には所謂一般常識もありませんし、食べる口が増えればそれだけ……」
 珍しく(?)正論を言うのはドクターだった。しかし、そんなドクターを笑って一蹴した。
 「若いモンが細かい事を、それも金の心配なんざするな! 困ってる人がいれば助けてやるってのが人情ってもんだ!」
 わっはっは。そう笑い飛ばすタカヤ。
 「本当にいいんですか?」
 今度はムツキだ。
 「いいんですよ、ムツキちゃん」
 答えたのはマイコだった。その笑みは無限の慈しみさえも感じられるものがあり、トウコと親子であることを感じさせるものだった。
 「それでは、お世話になります」
 「よろしくお願いします」
 そう言って、2人は深々と頭を下げた。そんな2人の前に立った上霧夫妻。
 マイコはムツキを優しく抱きしめた。
 「もう、貴方は何とかのリーダーではなく、私達の娘。だから、難しい言葉を使わなくてもいいのよ」
 タカヤはドクターにヘッドロックを決めていた。
 「オメーも、小難しそうな顔をしないで、そこのバカどもとおんなじように笑え!」
 上霧夫妻の優しさに触れて、両親を早くに亡くした2人は涙をこぼした。

 上霧トウコには兄妹が出来た。
 兄は1つ年上の上霧遠野、19歳。意外な話ではあるが、『遠野』は苗字ではなく名前だったそうだ。トオノ曰く、特区には苗字という概念はとっくになくなっていたそうだ。
 妹は5つ下の上霧ムツキ、13歳。なんだか理由をつけて、来年から中学生になるそうだ。それまでは自宅で小学生の勉強をやることになった。
 
 その日の夜。ハルトは1人でパトロールに出ていた。
 同行したがっていた三人娘ではあるが、ハルトは三人の願いを取り下げた。
 見られたくなかったのだ。未来を壊した大獣神を倒す自身の姿を。未来では過去に戻る事で頭が一杯だった上に、大獣神の魂が風前の灯であった。故に怒りが込み上げてこなかった。いや、怒りはあった。だが、どこか憐れみさえも感じたのだが、今回は違う。明確な敵意を持っている。
 ハルトは失いたくなかった。ムツキやトオノが上霧家で見せた笑顔を。この街の未来を。
 その為ならば、彼は阿修羅となる。ギアや紅蓮が頼りにならないわけではない。しかし、史実が彼らの敗北を示して、特区の悲劇を生んだ。イタズラに彼らが傷つく姿を見たくはなかった。
 だから……
 「出てこい、大獣神。決着をつけてやる」
 新都郊外のゴーストタウン。浮浪者が住まう土地は、未来の大獣神らの根城。
 「まさか、帰ってくるとは思わなかったぞ。オート!!」
 ビルの陰から姿を現したのは、大獣神とドラゴンシーザーであった。
 「裏界に引きずり込んだというのに、生還したのは素直に驚嘆に値する。が、壊れたベルトで何が出来る!!」
 「何の策もなしに出てくるかよ。行くぞ、変身!!」
 ハルトは腰に拳を叩きつける。そうして現れたのは変身ベルト。今までと変わった様子はない。ただ一点、鍵穴がないことを省いては……
 ハルトはその姿をブランクフォームへ!
 「イグニッション!!」
 キーを回す代わりに、彼はセルモーターを回した!!
 それはオートと似て非なる姿。両肩から延びていたマフラーは左肩だけに外へ、仮面ライダードレイクのように。右肩にはDN01の頭がある。左腕からはハンドルシールドが失われて、右手のチェンジバーもなくなっていた。代わりに、背中には二輪のタイヤが羽のように伸びていた。まるで、DN01を頭からすっぽりかぶったような姿であった。
 「はっ、武器も減って、果ては二輪車? その程度の武装で勝てると思ったか!!」
 「勝てるさ。この仮面ライダーオート01ならな!!」
 01は嗤った。刹那、その白い姿が視界から消えさる。
 「!?」
 次の瞬間には大獣神の後ろに回り込み、回し蹴りを叩きこんだ!
 「へぇ…… 3000の車に対して、680だったからパワーに不安はあったが…… トオノめ、細工をしてたな」
 バイクならば初速に関しては申し分ない。が、やはり車とは決定的にパワーが違う。だが、やはり200年後の産物だ、パワーもオートと同等……いや、それ以上だ!
 「お、おのれ……! がぁ!?」
 大獣神が立ち上がる寸前、01はその背中にかかと落としを叩きこんでいた。
 「今のお前じゃ、俺には勝てない!!」
 「だったら! 獣帝合体!!」
 大獣神はドラゴンシーザーと合体し、その姿を獣帝大獣神へ変えた。
 「剛龍槍ドラゴンアントラー!!」
 そして、ドラゴンシーザーの尻尾と胸のペンタゴンを合体させたドリルの槍を装備した。
 「まだまだ!! 恐竜剣、ゴッドホーン!!」
 今度は天に手を掲げて、愛剣を呼びだした!
 「そこだぁ!!」
 その瞬間、01は文字通り空を飛んだ。背中の車輪をうねりをあげて01の身体を浮かす! 天高く、ゴッドーホーンに届くほど!!
 「恐竜剣、ゴッドホーンは貰った!!」
 01は飛来した恐竜剣を空中で横取りをした。それだけではない!
 「ETCスロット、ドライブチェーンソー」
 取り出したカード……ドライブチェーンソーのカードを右肩にあるDN01の頭に投げ込んだ。さながら仮面ライダーガイである。
 「一気に決めてやる!!」
 右手にはドライブチェーンソー、左手にはゴッドホーンを。01は獣帝大獣神向けて一気に急降下した。
 「甘いわ! 喰らえ!! 超爆裂・龍神突き!!」
 向かって飛んでくる01に対して、獣帝大獣神はドラゴンアントラーを突き付ける!
 「未来は予測出来てるんだよ!」
 PiPiと、電子音が聞こえる。01の2本の触角の先が赤く点滅している。それは…… 01の新武装であるナビの能力。
 ナビによる未来予測がある以上、防御よりも回避が優先される。故に、シールドは不要。速度命!!
 01はゴッドホーンでドラゴンアントラーを叩き斬る!! が、ゴッドホーンも耐えきれずに砕けてしまう。
 至近距離。速度もパワーも上。加えて、01には武器がある!!
 「必殺、兜割り!!」
 振りおろしたドライブチェーンソーは、獣帝大獣神の兜……ドラゴンシーザーを脳天からかち割った。が、それだけだった。
 「まだまだぁ!!」
 それさえも予想範囲内! ガラ空きのどてっ腹に蹴りを叩きこみ、間合いをとる。
 「終わりにしてやるッ! オーバードライブ!!」
 持っていたドライブチェーンソーを大獣神に向かって投げつけ、ざっくりと胸に刺さっていた。
 「オーバードライブキック!!」
 01の体は空を飛ぶ。ビルの10階をゆうに超える高さから、チェーンソー目がけて、急降下!!
 「消えろ!」
 いつの間にか地面に降り立った01は小さく呟いた。それに呼応するように大獣神は、無残にも爆散していった。
 「ふぅ……」
 ほとんど虐殺であった。これまでの戦いに似て非なる一方的な殺し合い。こんな姿を彼らには見られたくなかった。
 「っと、感傷に浸っているわけにもいかないな」
 気持ちを切り替えて、01は胸のハッチを開いて大獣神の魂を回収しようとした。が、その時!
 PiPiとナビが警告音を出した。
 (左上方からボウガン!?)
 咄嗟にサイドステップで避けた。01が立っていた場所にはボウガンの矢が地面に突き刺さっていた。
 「誰だ!!」
 ボウガンの飛来先、ビルの屋上には何者かが立っていた。大きな満月を背にした何者かが。
 「あ!」
 その何者かは、01が回収しようとした大獣神の霊魂を回収してしまっていた。それを確認したそいつは、踵を返して姿を消してしまった。
 「ま、待て!!」
 と、追いかけようとした時、誰かに腕を掴まれていた。
 「いやー、先ほどの戦いを拝見させてもらいましたよ」
 「えっ?」
 「あぁごめんなさい。私、フリーのジャーナリストで橘ミユと言います。インタビューに応じてもらえませんか、仮面ライダーさん?」
 
 つづく
2010-06-06

仮面ライダーオート第15話

 ハルトは何処か半信半疑であった。200年後の世界、トウコたちの事、究極大獣神…… しかし、目の前にいるモミジが全てを語った。
 「だったら、信じるしかないだろ……」
 この200年にあった出来事を聞かされたハルトは信じるしかなかった。
 「ハルト様、これを……」
 そう言ってモミジが差し出してきたのは――。
 「これがあれば、あるいは……」
 言葉を濁すモミジ。ハルトはモミジの取りだした物を受け取り言った。
 「ありがとう。モミジ」
 微笑みかけたハルトの目の前で、モミジはゆっくりと目を閉じて消えていった。

 付喪神とて命は無限ではない。モミジはそう言っていた。
 長い長い時間の中で魂を模り成長させ、様々な器を移りながら生きていく。しかし、時間が経つにつれて魂は磨耗していき、いつしか魂は命を失う。
 人間と、生き物と同じなのだ。その期間が少しばかり長いだけで……
 モミジは待っていたのだ。ハルトを。成り行きで仮面ライダーへの道を選んだお人よしが、特区の状況を見捨てるはずがない。きっと彼は輪廻転生の中で必ず特区に現れることを。
 だからモミジは待っていた。切札となるアイテムを守りながら。
 役目を終えた今、歴史の時代に生まれた魂は限界を迎え、しばらくの眠りについた。

 「モミジ様とは話せたか?」
 部屋を出たハルトに声をかけたのはムツキだった。
 「あぁ。切札をくれた。そして、長い眠りについたよ」
 「そうか……」
 ムツキはモミジの状態を知っていた。『SG』のリーダーというよりも、上霧トウコの子孫として彼女とは長い付き合いであったからだ。
 遠くで爆音が聞こえる。地下深くにあるシェルターの中だというのに小刻みに空間が揺れていた。
 「ムツキ。俺、戦うよ。トウコちゃんやモミジが守ってきた新都と古都を守る」
 「ハルト…… すまない、恩にきる!!」
 ハルトに頭を下げたムツキは、すぐに無線機を手に取った。
 「遠野! オートキーは、どうなってる!?」
 ≪ダメだ。まだまだ時間がかかる!!≫
 「ちっ!」
 乱暴に通信機を切ったムツキの肩に手を置いたのはハルトだった。
 「大丈夫。俺にはこれがある。案内してくれ!」
 「お前、それは…… いや、わかった。行こう!」
 
 地上では激戦が繰り広げられていた。
 迫りくるのは、ショッカーよろしくの大軍付喪神。その数は優に500を超えていた。曰く、大獣神が素質のあるものを保護して昇華させていたのだ。
 それに対抗すのは人間だった。だれもが普通の格好をしていた。Tシャツにジーパンといった街にいそうな格好。とにかく物資がないことを証明していた。そんな彼らが持っているのは日本刀や包丁、ナイフなど、とにかく切ることが可能なものばかりだった。
 男女が混合の野戦隊の数は多くはない。100人もいないだろう。腕が立つ彼らではあるが、やはり人間と付喪神の差に加えて数の差が彼らを不利な状況を追いこんでいた。
 そこへ救援が現れた。数十人の若者たち。彼らの誰一人として武器を持っていなかったが、代わりに持っていたのはベルトとバックル。
 ≪変身!≫
 横一列に並んだ若者たちは一斉に変身した。
 仮面ライダークウガ。アギトとギルス。龍騎を含む13ライダーズ。555達。ブレイド達。響鬼達、鬼。ガタック達。電王とその仲間のライダー。キバ達。ディケイドとディエンド。そして見たこともないライダー達。
 変身した若者は皆一様に仮面ライダーの姿をしていた。中には、縦にラインの入った半分っこ怪人なども交じっているが…… どれもこれも仮面ライダーであった。
 「ムツキ。あれは?」
 「あれがカミキリ一族が守り続けてきたマスクドライダーシリーズだ」
 ハルトが敗れ、ギアも紅蓮も窮地に追いつめられた。いつしか新都と古都は特区と呼ばれ、塀囲まれた頃にトウコとナツキが集めたのだ。変身シリーズを。
 「可能性のひとつにかけたかったんだ。大獣神は元々玩具であったが、その使命や設定を強く残していた。だったら、ライダー変身ベルトも長い歳月の中で、その質を玩具から本物へ変えるのではないか、と」
 「それがマスクドライダーシリーズ……」
 「さぁ、ハルト。最後の1人を埋めてきなさい。そのためにモミジ様がくれたのでしょう? カブトゼクターを」
 「あぁ!!」
 
 『ZECT』と書かれた銀色のケースから取り出したのはベルトとカブトゼクター。
 「さぁ、行くぜ! 変身!!」
 カブトゼクターをベルトに差し込み、その姿を変える!!
 カブト・マスクドフォーム。それはカブトムシのさなぎのような格好をしていた。
 「行ってくるぜ」
 「ハルト!」
 行こうとするハルトの背に向かってムツキは声をかけた。
 「生きて帰ってきなさいよ」
 ハルト――カブトは振り返らずに、サムズアップを見せた。

 カブトは敵陣のど真ん中に飛び降りていた。
 「!?」
 突然の出現は付喪神を動揺させるには十分すぎた。動きを止めた付喪神に向かってカブトはキャストオフする!
 くぐもった声で『cast off』と聞こえ、さなぎは成虫へ…… 『Change Beetle』
 カブトの身体を纏っていたさなぎは四方八方へ吹き飛び周囲の付喪神を巻き込んで飛散。弾かれた付喪神はドミノ倒しのように次々に倒れていき、軟な体から簡単に霊魂を吐き出す結果となった。
 そうして現れたのは仮面ライダーカブト・ライダーフォーム。烈火の赤を基調としたボディ、複眼の色は涼しげな水色だった。
 「いくぞ!」
 『clock up』
 腰にあるボタンを押せば、そこはカブトの独壇場。静止した世界で動けるのはカブトのみ。
 カブトクナイガンを手にカブトは戦場を駆け巡る!
 蹴る、殴る、刺す、撃つ……ッ!!
 静止する付喪神など敵に非ず。それは指揮官にみえる付喪神も同様であった。
 『one two three』
 カブトゼクターにあるボタンを押せば、右足に力が流れ込んでくる!!
 「ライダーキック」
 前回し蹴りが付喪神の顔面を捉え……
 『clock over』
 刹那の出来事。三十数柱の付喪神がその身から離れ、魂だけの存在になっていた。
 「弱すぎる」
 小さく呟いたハルトに気づいた者は誰ひとりいなかった。
 「ありがとうモミジ……」
 反撃の狼煙は突然振りだした雨の中に立ち上り、雨を受けたカブトは涙を流しているようだった。
2010-06-05

仮面ライダーオート第16話

 対付喪神戦において、常勝無敗の楠木ハルトにとって、200年後の付喪神は弱すぎた。
 カブトゼクターをモミジから受け取ったハルトは、オートキーの修理が終わるまで仮面ライダーカブトへ変身して戦っていた。
 元々、非常に強力な付喪神との戦いを繰り返していたハルト。百年単位で魂を形成し続けてきた付喪神を相手に戦ってきた彼にしてみれば、平和ボケをしたような若い付喪神など相手にならなかった。
 加えて、カブトゼクターの特殊能力であるクロックアップは自分が高速の世界に身を置くことができる能力。動かない付喪神など彼にとっては赤子も同然であった。
 ハルトの強さとクロックアップは、事実上無敵であり、彼の所属する『God to Strike』は一ヶ月の間で付喪神軍との形勢を逆転させる程になっていた。

 「いよいよね…… 最終決戦」
 ハルトはムツキに呼び出されて指令室へやってきていた。
 「あぁ。究極大獣神を引きずりだせば、あとは俺が倒す」
 ハルトの登場は『GS』とって、まさに救世主のようであった。それは戦いにおいてだけではない。
 仮面ライダーへの変身の仕方はわかっても個々の能力については、ほとんど無知であったライダー隊。彼らに能力の説明や活用の仕方を教えてやったのだ。
 例えば、クウガの超変身と武器の装備。ガタック達のクロックアップなどだ。
 それにより、戦いは好転に継ぐ好転。200年の戦いは嘘のように収束へ向かっていた。
 「で、そんな話をするためだけに読んだんじゃないだろ?」
 「えぇ」
 頷き、ムツキが取り出したのは見覚えのあるキー。
 「治ったのか!?」
 それはオートキーであった。
 「残念ながら修理ではない。改造……いや、交換といったところか」
 大獣神の攻撃により故障したオート。それを修理するよりも交換をしたほうが速いという事であった。
 「まずはお狐さまの霊魂の抽出」
 オートの強さの源でもある、親・人間派であったお狐さまの魂の抜け殻であるエネルギー体を取り出した。
 「それを新しいボディに移植した」
 「それこそが、DN-01!!」
 突然、指令室に入ってきたのは遠野であった。通称・ドクター。
 「ハルト君の戦いの話を聞くと、高速戦を好んでいたようなのでね。クロックアップほど速くはないが、それなりに高速で高出力を期待できるよ!」
 朗々と語るドクターによれば、2008年から製造を開始されたHONDAのオートマバイク『DN-01』。大型バイクでありながらオートマという異色のバイクであり、大型AT免許では乗れない代物。
 かつては仮面ライダーディケイドが乗っていたといわれるバイクである。
 「それに加えて、今回はその『DN-01』に特区外で実用化されているフロート機能と高性能GPS、ETCスロットもつけてあるぅ!!」
 妙に鼻息の荒いドクターを見れば、よほど機械が好きなんだと思えた。
 さておき、フロート機能は、誰もが予想した未来絵図である空飛ぶ車。それが販売にむけて量産化を始めているようだが、その技術を(何処からかパクってきて)DN-01に乗せたそうだ。これによりDN-01はデロリアンよろしくの飛行能力を得ていた。
 また、無意味に思える高性能GPSは一種の未来予知のような能力を持っており、敵の動きを予想して教えてくれる優れモノ。
 さらに無意味に思えるETCスロットは、モミジとハルトの話をヒントにして装備したもの。オートの紅蓮化や零のアクセスチェンジのように武装を解除することなく、追加武装すために実装されたのだ。
 「そして、これがETCカードだ」
 そう言ってポケットから取り出したのは、三枚のカード。
 「オートにあった三つの武器を覚えているかい?」
 「もちろんだ。ニュートラルウィップ、リバース・ブーメラン、ドライブチェーンソーだな」
 「その通り!! その武装をできるだけ再現して、カードに封じてある。スロットに入れれば自由に使えるはずだ」
 ドクターのカードを三枚彼に手渡した。
 「無論、モミジ様も入れるようになっているさ」
 「……ドクター、もしかして」
 「遠野だけじゃない。私も解っている。あるんだろ? ハイパーゼクターが」
 口を挟んだのは、ムツキだった。
 ハイパーゼクター。カブトがパワーアップするためのアイテムであり、特筆すべき能力はクロックアップのハイパー化。
 「過去へ戻れる、か」
 「そうだね。確かにハイパーゼクターなら可能だ。しかし、ハルト君が居た世界は200年前。それだけのジャンプになれば、エネルギーは計り知れない」
 「そこで、遠野が考えたのは究極大獣神の力を利用する事だ」
 大獣神を倒した際に得られる霊魂の能力は非常に大きい。その霊魂をタキオンに変換して、過去へ飛ぶのが決戦における目的だ。
 「なるほど。だいたいわかった。そのエネルギー変換は」
 「ぬかりない。全て遠野に任せてある」
 ドクターへ視線をやれば、そこにはサムズアップを決めるドクターの姿が。
 「そう、か。過去へ戻れる…… それじゃ、勝たないとな!」
 ハルトの神妙な顔が少し明るくなり、そのまま部屋を出ていった。
 「よかったのかな? 姫」
 「姫はよせ。 ……いいんだよ。ハルトがいるべき所はこんな場所じゃない。もっとよりより未来を掴むために……」
 「素直じゃないね。姫」
 「だから、姫は……」
 尻すぼみになっていくムツキに、背を向けてドクターは部屋を出ていった。

 最終決戦は総力戦だった。
 お互いに出し惜しみはなく、ライダー達は付喪神を次々と撃破していった。それはライダーの成長だけではなく、ベルトのパワーアップ化を狙ったドクターの作品の数々が功を得ていた。
 「エクストィィィィィィィム!!」
 「トライアル!!」
 まったく聞き覚えなんかない変身音が聞こえてもくる。
 そんな戦闘をビルの屋上から見下ろしているのは、ハルトとムツキであった。
 「圧倒的だな」
 「当然よ。トウコ様が残してくれたライダーシリーズと遠野の渾身の力作だもの」
 そんな好況の戦場の空気が一変した。
 「来たな、大獣神!」
 大獣神のサイズはビルを超すほどの大型ではないが、全高が5mを越えるだけでも、やはり大型と言えるだろう。
 「戦況が変わるな」
 ハルトがポツリとつぶやいた刹那、究極大獣神が放ったグランパニッシャーが戦っていたライダーや付喪神を巻き込んで、彼らを一掃した。
 「……さすがに200年に経っていれば、さらに力を得るか」
 モミジのように魂の擦り減りが少なく見えるのは、当時の付喪神の中でも若い付喪神であったからだろう。
 「大獣神に負けたのは、ただの相性。今の俺なら必ず勝てる!」
 自分に言い聞かせるように呟いたハルトは、振り返ってムツキにサムズアップを決める。
 「それじゃあ、世話になったな」
 「……あぁ」
 「どうした? なんだか歯切れが悪いな」
 「あのな、実は、ずっと秘密にしていたことがあるんだ」
 「なんだ? 今生の別れになるんだ。言ってくれ」
 『今生の別れ』。この言葉を選んだハルトは少し後悔をした。言って、初めてムツキや遠野との別れを実感してしまったからだ。
 複雑な表情を浮かべるハルト。そんな彼に気づかずにムツキは顔を真っ赤にして言った。
 「実は私はハルトに一目ぼれ、してた……って事よ! 早く行け、バカ!!」
 ムツキはハルトの唇を奪い、そのまま彼をビルから突き落とした。
 「トウコ様の所へ、行ってよ。ばーか」
 「……ったく、誰がバカだよ」
 「えっ?」
 振り返った先には……
 
 「くそっ、なんなんだ。ちくしょう、めちゃめちゃ可愛いじゃねぇか!! 未練が残るっての!! 変身!!」
 ハルトはカブトゼクターを差し込み、その姿をカブト・マスクドフォームへ変えた。
 「喰らえっ!!」
 カブトクナイガン・アックスモードで先制攻撃。あっさりと究極大獣神……キングブラキオンの長首を叩き切った。
 「久しぶりだな、大獣神。ずいぶんとゴキゲンなこと、やってるじゃねーかよ」
 「お前は……まさか、オートなのか!?」
 「御明察! やっぱり人も神も最初に手を下した相手の事は鮮明に覚えているようだな!!」
 『cast off』
 カブトを覆っていたパーツが弾け、究極大獣神を強襲する!! 
 「さぁ、お前の罪を数えろ!!」
 そこからは一方的だったのは書くまでもない。
 最初のキャストオフでほとんどの砲門を潰されてしまった究極大獣神。デカくなった体はドッグファイトに向かずに、ただひたすらにサンドバック状態だった。
 「お前の強さは集団戦における一掃能力。絶望的な破壊力とワイドレンジかつロングレンジの攻撃は確かに恐ろしい」
 『one』
 「しかし、同時に威力を得るために固定砲台化した結果、動きは愚鈍」
 『two』
 「もう少し管理局の白い悪魔を見習っておけ!!」
 『three』
 「終わりだ。ライダーキック!!」
 カブトの放った蹴りは、究極大獣神の頭を捉え、蹴り飛ばした。
 はずだった!!
 「まだだぁ!!」
 究極大獣神は、キングブラキオンとドラゴンシーザーを切り離し、その姿を大獣神へと変貌させた。
 元々は7つの付喪神から形成されていた究極大獣神。長い長い年月の中で、魂の結合が強くなりすぎて離れなくなっていた。故にブラキオンとシーザーの切り離しが出来なかった。
 しかし、カブトの攻撃によりブラキオンとシーザーはその肉体を捨て、大獣神の中に入ってきたのだ。
 「まだ、私は倒れるわけにはいかない!! 恐竜の世界を取り戻すために!!!」
 「哀れな……」
 もはや大獣神は自我を失っていた。長い長い倦怠の日々の中で、モミジ同様に魂がすり減っていたのかもしれない。ただ目的達成のために。
 「終わらせてやるよ。ハイパーキャストオフ」
 言ったカブトの元に現れたのは、ハイパーゼクター。それを手に取り、腰にはめ込み、カブトはさらなる変身を見せる。
 『hyper cast off』
 カブトは更にその姿を変え、最強のライダーの名にふさわしい姿……ハイパーカブトへ変身した。
 『Maximum Rider Power』
 パワーをチャージし、そして……
 「ハイパーライダーキック!」
 より強化されたライダーキックは、今度こそ大獣神を粉砕した。
 「よし。さて、と。先にあの姫様に文句を言わないとな」
 『hyper clock up』
 
 「トウコ様の所へ、行ってよ。ばーか」
 「……ったく、誰がバカだよ」
 「えっ?」
 ムツキが振り返った先には、ハイパーカブトが立っていた。
 ハイパーカブトのハイパークロックアップは過去へも飛べる。だから最後に話をしようと思い、彼女の所へやってきたのだ。
 「おまえ、あれ?」
 「混乱してるようだな。これがハイパーカブトの時間跳躍能力だ」
 「すごい……」
 呆然とするムツキ。
 「で、だ。お前、言い逃げは酷くないか?」
 「いや、あの……」
 ムツキにとって、完全に不意打ちだった。
 「あの、さ。俺はお前の気持ちには応えてやれないけど――」
 応えてやれない。この言葉にムツキの顔は苦いものになる。
 「――きっと楽しいことがある。お前の人生はこれからだろ? だからさ、一緒に行こう。過去の世界へ」
 「えっ?」
 何度目かの感嘆。
 「あと、そこに隠れてるドクター。アンタもだ。一緒に過去に来てくれないか? きっとアンタの力が必要になる」
 「おやおや、バレてたか。さすがだね、ハルト君」
 物陰から現れたのは、いつも通りのドクターの姿だった。
 「どうだ? 一緒に……」
 「行く! 私、行きたい!!」
 ハルトの言葉に満面の笑みを浮かべて彼女は言った。司令官としての固い言葉ではなく、13歳の年相応な少女のような声色で。
 「そうですね。僕も過去の世界というのを見てみたいからねぇ。是非、ご一緒させてもらうよ」
 「そうか。話はまとまったな」
 そう言って、カブトはムツキとドクターを両脇に抱えた。
 「もう決着がつく」
 ビルの下。ハイパーライダーキックを叩きこむカブトの姿が見えた。
 「しっかりつかまってろ!!」
 『hyper clock up』
 カブトは宙に舞った大獣神の霊魂に向かって駆け出した。

 世界はまるでビデオの巻き戻しのように歪んだ。
 200年と言う長い長い歴史を逆回しに見ていくうちに、見慣れた光景に行きつく。
 
 『hyper clock over』
 無機質なくぐもった声が聞こえ、彼らの世界は元に戻った。
 平和な夜の光景。
 夜だと言うのに光に満ち溢れた、新都。
 「「これが……」」
 眼下に広がる光溢れる世界を見つめるムツキとドクターは思わず言葉を漏らしていた。
 「俺は帰ってきた。1ヶ月ぶりに、俺参上!!」
 2人を下ろしたカブトは小躍り気味にポーズを決めるが、その瞬間、カブトゼクターとハイパーゼクター、そしてベルトが粉々に砕けてしまった。
 「やはり200年にも及ぶ時間跳躍には耐えられなかったか」
 砕けたゼクターを見ながら、ドクターは小さく呟く。
 「さて、と。とりあえずは、家に帰ろう。案内するよ、2人とも」
 3人は光溢れる世界に身を投じていった。
 この光を絶やさぬよう、決意を新たに家路についた。
2010-06-04

仮面ライダーオート第14話

 第14話

 大獣神の放った雷はオートにとって弱点であった。これがギアであったならば、純粋な雷のダメージだけで済んだかもしれない。しかし、オートとはその名の通りでコンピュータでギアチェンジをコントロールしている。そして、そのコンピュータにとっての天敵は雷。雷のせいでオートの中のコンピュータが破損し、行動不能に陥った。
 そんなオートを助けようと、トウコとモミジは力を合わせ仮面ライダー紅蓮へと変身したが、彼女たちの前に立ちふさがったのはドラゴンシーザーであった。ただでさえ重たい紅蓮の装備で重厚なドラゴンシーザーの攻撃を凌ぐのが精いっぱいだったトウコ達。
 トウコのピンチを救ったのはギアであったが、それは一歩遅かった。大獣神は朝日が昇る直前、オートを連れて裏界へと消えてしまった。

 ハルトが目を覚ましたのは、ベットの上だった。自分の家ではない。上霧家でもない。もっと汚い、コンクリートが打ちっぱなしの、まるで野戦病院のような……
 「やっと、目が覚めたか」
 ふいに声が聞こえた。ハルトが視線をさまよわせると、ベッドわきで足を組んで座っている少女がいた。
 髪は腰まで届きそうなほど長く後ろで三つ編みにしている。不機嫌そうに口を『ヘ』の字にしている顔は凛としている。目はツリ目で勝気な雰囲気が漂っている。まごうことなき美少女、のはずだったが……
 身長は明らかに150cmに満たない少女であった。
 「ようこそ。神への反逆の軍団『Strike to God』。私がリーダーのムツキ・カミキリだ」
 彼女は、そう言って不敵に笑った。
 「……」
 「どうした、私の顔に何かついているか?」
 思わず少女――ムツキの顔を見つめてしまった。
 「いや。それよりも、ここは……?」
 見る限り衛生状況から病院ではないだろう。古都の何処かとも思ったが、あそこは町並みが古くコンクリート製の建物はほぼ皆無だったはず。新都にしては建物の劣化が激しい。
 (どうやら頭はしっかりと働いているようだ)
 自分の冷静な状況分析能力に苦笑する。
 「ここは『SG』の本拠地の地下シェルターの一室だ」
 ムツキはそう言って、今まで読んでいた本を閉じた。
 「そういえば、さっき『Strike to God』とか言っていたな。……『神を討つ』か。どういう意味だ?」
 「どういう意味も、こういう意味も、言葉の意味のままだ。私たちは付喪神を……究極大獣神を討つ」
 まさか。付喪神と戦っていたのは仮面ライダーオートである自分と巫女の上霧トウコ、付喪神の姫であるモミジ、仮面ライダーギアの桜庭ナツキ、対魔組織アリスマジックのエースであるレイラ・グラニデ。別枠で仮面ライダー零もいる。
 「俺たち以外に付喪神に……ん? ちょっと、待て」
 「待ても何も私は何もしていないぞ?」
 「いやいやいやいや…… まさか、そんな。はっは」
 「何だと言うのだ。おかしな男だな」
 「お嬢ちゃん――」
 「誰がお譲ちゃんだ!!」
 「――名前はなんて言った?」
 「ったく、名前ぐらい覚えていろ。私はムツキ・カミキリだ」
 OK。ムツキは……まぁいい。だが、ファミリーネームがカミキリ、だと?
 「……お譲ちゃんにお姉さんがいるかな? 銀髪の可愛いお姉さんが」
 「予想通りで助かるよ、ハルト・クスノキ。少し長い話になるが、それを全部聞いてくれるか?」
 何が始まるんだ?という疑問は尽きなかったが、可愛い顔立ちだというのに終始険しい顔をしていたムツキの顔が一層険しくなったので、ハルトは黙って話を聞くことにした。
 ムツキの話はにわかに信じられなかった。なぜなら……
 「200年後の世界にようこそ。仮面ライダーオート」
 ムツキはまた不敵に笑った。

 2009年某日。仮面ライダーオートは大獣神に裏界に連れていかれて二度と戻ってくることはなかった。公式記録は行方不明ということになっている。
 帰って来ないハルトに代わって、トウコとモミジの仮面ライダー紅蓮、ナツキのギアは共闘し大獣神へ挑むが、その前に現れたドラゴンシーザーやキングブラキオンにも敵わず、究極大獣神となった付喪神7柱には太刀打ちできなかった。彼らに出来たのは被害者を最小限にとどめる事だった。
 いつしか付喪神は当然の知識として、その存在を確立。信仰にまで至り、信仰よりさらに力を得た付喪神の前に人間はひれ伏すだけだった。
 政府は新都と古都を『特区』として制定し、あらゆる術式を組み込んだ壁を作り完全に封殺することに決定。中にいる人間は全て生贄となった。
 付喪神が支配する世界『特区』。術式が有効だったのか、この200年の間に付喪神が外に出ることはなかった。
 取り残された人々は、付喪神に負けることを良しとせずに決起。和魂たるモミジと契約をしたトウコを象徴に『Strike to God』を結成。それから200年もの間、ただただ戦うだけの……生き残るための戦いを続けた。

 ハルトは笑い飛ばしたかった。しかし、それが出来なかったのは、古びた一冊の本――先ほどまでムツキが読んでいた本の存在があったからだ。
 「トウコちゃんの日記……」
 彼女が日記をつけていた事も、彼女の字も知らなかったが、そこに書かれていたのはハルトと出会ってからの出来事、ハルトのことをどれだけ想っているのか……
 耐えきれずハルトは本を閉じてしまった。
 「わかった。信じるよ」
 「そう。よかった」
 ハルトから差し出された本を受け取ったムツキは端的に応える。
 「気になる?」
 「え?」
 ほんの少し呆然としていたハルトにムツキは尋ねていた。
 「私とトウコ様の関係」
 気にならない、といえばウソになる。当たり前だ。
 「私は、トウコ様とナツキ様の子孫よ」
 彼女はあっさりと言った。ハルトはそれを当り前のように受け止めた。
 「そう、か…… トウコちゃんとナツキが……」
 「意外ね。やけにあっさりしてるじゃない」
 半ば予想はしていた。順当な結末だったから。
 「まぁいいわ。それよりも本題に入りましょう」
 言ってムツキは立ち上がった。
 「現状は既に理解していただけたと思う。未だに私たちは付喪神と戦い続けている。彼らは……究極大獣神は和魂も荒魂に変える程の力を持っている。それに200年の歳月もあれば付喪神は沸いて出てくるほどになっているわ。私たちは、倒した荒魂を回収して和魂にコンバートして武具に込める術式を完成させたわ。レイラ・グラニデの研究成果でね。それでも、まだまだ予断が許される状況ではない。だから……」
 「だから、俺に手伝えと?」
 「話が速くて助かるわ。正直、コンバートして戦う力はあるけど、それでも1対1を張れるほどの技量も力もない。それに比べてあなたは違う。伝説の英雄級の力を持っていると確信している」
 「そりゃ、どーも」 
 「そんなあなただからこそ、力を貸してほしい。いいえ。厳しいことを言うようだけど、この事態を招いたのは貴方の責任であると言う意見もあるの。だから、その責任を今果たして頂戴」
 「……手厳しいな。けどな、俺の変身能力はほぼ失われたと思っていい。なんせ――」
 「大獣神の雷で壊されたから? そんなものは始書を読めば解っているわ」
 「え?」
 「トウコ様は貴方の帰りを信じていた。だから私たちは、ずっと研究していたの。あなたに新しい剣をあげるわ。ついてきなさい」
 そう言ってムツキは病室(?)から出ていってしまった。その後を慌ててハルトは追いかけることにした。
 (……傷は大したことなかったようだな)

 部屋の外は、さながら穴倉であった。炭鉱で穴を掘っているような感じである。むき出しの土くれの通路を抜けて、さらに地下へと潜っていく。
 「ついた。ここだ」
 しばらく歩いた先にあったのは部屋だった。
 「入れ」
 「あ、あぁ……」
 入った部屋は……研究室だった。しかし、普通の研究ラボではない。なにか儀式めいた部屋であった。
 (なるほど、コンバート、ね)
 つまりは、捕まえてきた付喪神を和魂へコンバートして武器に付与する。研究所、といよりも工場に近いかもしれない。
 その研究室には1人の研究員(?)がいた。
 「調子はどうだ、遠野」
 遠野と呼ばれた人物は男だった。やせ細った身体、外人を彷彿させる長身、汚れ放題の白衣の下には緑のTシャツとスラックスをはいていた。
 「これは、姫。彼がそうですか?」
 丸眼鏡のブリッジを指で上げながら、彼はハルトを見ていった。
 「姫と呼ぶな。……ったく。そうだ、彼が楠木ハルト…… 仮面ライダーオートだった男だ」
 「なるほど。僕は遠野。よろしくお願いするよ、仮面ライダー」
 そう言って差し出された手を、戸惑いながらもハルトは握り返した。
 「楠木ハルトだ。よろしく頼む…… ドクター」
 挨拶もそこそこに。
 「で、遠野。修復は完了したのか?」
 と、ムツキが漏らした瞬間、遠野の眼が光った。
 「解析は完了したよぉ。霊力の大きさがハンパじゃないから時間がかかったけどねぇ。でも、修復は無理かなぁ。なんせ、物理衝撃ではなく霊魂破壊ですからねぇ」
 心なしかハァハァしている遠野はつらつらと良く喋る。
 「始書によれば、大獣神の攻撃はゴッドホーンのような物理攻撃ではなく霊力攻撃。ハードがぶっ壊されても修復は可能だけど、ソフトがぶっ壊されてはアルゴリズムもプログラムソースも不明ですからねぇ」
 「つまり?」とハルトが尋ねれば、ぐるりとハルトのほうを向いた遠野は息遣いも荒く言った。
 「つまり!! このオートキーからお狐様を取り出して、新しい器に入れる必要があるのですよ!!!」
 遠野によれば、既にお狐様の意思はなく、あるのは霊力の塊だけ。それを何かに移植するのは簡単だ。
 「ですが、容量が容量ですので時間がかかるねぇ。それに、仮面ライダーの武装としてのプログラムを書き込む必要があるかもしれません」
 「……なるほど。わかった。それでは、早急に依代を用意して移植しろ。いいな、楠木!」
 「お、おぉ……」
 ハルトはムツキの気迫に気圧されて頷くしかなかった。

 研究室を後にしたハルトとムツキ。次に向かうまでの間にムツキが口を開いた。
 「すまないな。勝手にキーを借りたりして」
 それはオートへ変身するためのオートキーの事だろう。
 「あぁ、別にそれは構わないが…… これから何処へ行くんだ?」
 「貴方にゆかりのある人の所よ」
 「?」
 それっきりムツキは口を閉ざしてしまった。
 ツカツカと歩くムツキの後ろ姿は、どこか肩肘張って相手にナメられないようにしている、大人になろうとしている子どものような危なっかしさを孕んでいた。

 「ここだ」
 「ここって……」
 ハルトが連れてこられたのは、またしても部屋だった。それも地下にあるこの基地の最下層にあるような、厳重に守られている部屋。まるで重罪人が閉じ込められているような……
 「私はここで待っている。ここから先は1人で行け」
 「あ、あぁ…… わかった」
 壁にもたれかかり腕組みし目をつぶったムツキの前を通り過ぎ、重厚な扉を開いた。
 そこは、祭壇であった。雛壇があり、その脇にかがり火が二つ。そして、雛壇の上にいたのは……
 「も、モミジ、か……?」
 雛壇の上で伏していたのは、見間違うハズがない黄色と黒のド派手な着物を纏ったモミジの姿だった。
 「その声は…… もしや、ハルト様!!」
 ゆっくりと身体を起したモミジは、信じられないモノを見たかのような顔をしていた。
 「あぁ、俺だ。ハルトだ!!」
 「あぁ…… ハルト様、ハルト様ぁ……」
 モミジはハルトに抱きつくと、むせび泣き始めた。
 ハルトは、これまでの出来事に何処か腑に落ちない気持ちでいた。200年後の世界、究極大獣神をはじめとする付喪神の支配、特区、コンバート……
 しかし、目の前に現れたモミジの姿が、それを全て証明しているようだった。
 「モミジ…… やはり200年後なんだな。俺が大獣神と戦ってから」
 「えぇ…… ハルト様、会えてよかった……」

 つづく
2010-06-03

仮面ライダーオート第13話

 第13話

 「テメェも俺の神話に加えてやる!!」
 採掘現場で対峙するのはオートと全長3メートルの大獣神。自分達を忘れた若者を恨み復讐していた大獣神は、自身の使命を思い出し、恐竜時代の栄光を再び手にしようとしていた。それに立ちふさがるのは仮面ライダーオート。今、まさに仮面ライダーとスーパー戦隊が激突する!!
 「行くぞ!!」
 言って駆け出したのはオート。右手に掴むはチェンジソード。
 「恐竜剣ゴッドホーン!! マンモスシールド!!」
 突如、空を割って振り下りてきたのは剣だった。オートはゴッドホーンに行く手を阻まれ足を止めた。その瞬間、オートを襲ったのは強烈な衝撃と次いで浮遊感……!!
 (マンモスシールドで殴られた!?)
 宙に舞った刹那に状況を理解。彼が着地して立ち上がった時には、ゴッドホーンとマンモスシールドを装備した大獣神が目の前に現れていた。
 (しまっ……)
 考えた瞬間には、もう遅い!! ゴッドホーンに切り上げられ、追いうちのように頭部から発せられた電撃がオートを襲う!!
 「ぐあぁあ!?」
 「ハルトさん!!」「ハルト様!?」
 トウコとモミジの悲痛の叫びも虚しく、オートは地面にたたきつけられてしまった。
 「おのれ、小童が…… 紅蓮姫・紅葉姫の力を見せてやるわ!!」
 オートの無残な姿を見て激昂したモミジは巨大な扇子を両手に大獣神に駆けだしていった。しかしっ!!
 「!?」
 彼女の行く手を遮ったのはドリル。極太のドリルだった。その一撃をバックステップでかわした。しかし、追撃するようにミサイルが飛んできた!!
 「小娘ッ!!」
 「きゃああああ!!」
 ミサイルはトウコもろともモミジに直撃した!!

 (トウコ…… モミジ……!!)
 一瞬気を失っていたハルトは爆音で目を覚ました。なんとか立ち上がろうとするが、まったく力が入らない……
 「くそっ、立てよっ!! 立ち上がれ!!」
 声を出して自身を鼓舞する。しかし、気持ちとはウラハラに立ち上がる事ができない。身体が鉄の鎧で纏われたかのような錯覚……?
 (……錯覚? 違う、これは!!)
 気がついた時には、もう遅い。いや気がついたからといって、どうにもならない。地面でもがくオートを大獣神は情け容赦なく踏みつけた。
 「存外、あっけなかったな。仮面ライダー。いや、当然の結果だろう。我々は5柱で1柱。一部では1/5人前の腕しかないと思われがちだがな…… チームワーク。人間が好きな言葉ではないか」
 ガン、ガン、ガン。愉悦に浸る大獣神は何度もオートを足蹴にした。オートはただただされるがままだった。
 お狐さまが憑依した車は型は古くとも『オートマチック』。ギアチェンジなどを含んだ部分は全てコンピュータに頼らざるを得ない。精密機器は雷に弱かった……。

 たちこめる爆煙を暴風で払ったのはモミジだった。煙の中から姿を出したのは、無事な姿のモミジとトウコ。
 「言ったであろう。紅蓮姫と。炎を司る私に火炎爆発は無意味!!」
 モミジはミサイルの雨を自身の持つ扇子を盾にトウコと自分の身を守ったのだ。
 そんなモミジ達の前に立ちはだかるのは、竜。言うなれば緑の竜……ティラノザウルスを和風とは言わないが、彼女たちの前に現れたのは洋風の竜。その名を『ドラゴンシーザー』という。
 「新手か。ハルト様に加勢したい所ですが…… きっと、ハルト様なら「トウコちゃんを守れ!」って仰るでしょうね。羨ましいわ、トウコ」
 モミジは悲しそうな顔で笑った。それを見ていたトウコは、似たような表情を浮かべた。
 「私も、モミジさんが羨ましいです。私が巻き込んだのに、ハルトさんは1人で戦って…… 私は足手まといなのに、モミジさんは戦えて……」
 結局、無い物ねだりだった。お互いがお互いにないものを欲しがる。そんな2人だからこそ、心が通じる時がある。絆とは違う何かが心に芽生えた時……
 「トウコ、共に戦いなさい。貴女なら…… 私なら、きっと成れる!」
 「モミジさん、私、戦いたい! もう見ているだけはイヤ!!」
 そう願った時、モミジは艶やかな姿を変え、それは見たことのある鍵となり、トウコの手中に納まった。
 「私はもう…… 見ているだけの弱い私じゃない!! 行くよ、モミジさん! 変身!!」
 トウコはその身に鎧を纏う。黄色と黒を基調としたブランクフォームはクレーン車を彷彿とさせる。彼女はバックルにキーを差し込み、叫ぶ!
 「イグニッション・紅蓮!!」
 それは仮面ライダーだった。仮面ライダーオート・紅蓮。いや、それよりも純粋な『クレーン車』。頭には黄色と黒の縞模様のウィングが二本、クレーン車のような縦長の窓をイメージさせるマスク、肩にはウィング同様のアーマー、背には紅蓮丸、腰回りもウィングや肩同様の模様のミニスカート、足にはキャタピラ……
 「仮面ライダー紅蓮!」
 ハルトを想う愛しさと、ハルトを守れない切なさと、同じ気持ちを持つ乙女が2人いる心強さを…… 紅蓮は体現していた。
 「行くよ、モミジさん! 紅蓮丸!!」
 紅蓮は背にある刀を引き抜くと、ドラゴンシーザーめがけてかけ出した。

 大獣神の大きな足がハルトを襲った。しかし、オートも何度も蹴られるほど甘くはなく、身体を回して地面を転がっていく。
 (このままじゃ……)
 咄嗟にバックルに差し込んでいたキーを引き抜いた。変身の解除ではない。武装の解除。オートの基礎はハルト自身の容量(キャパシティ)に納まっている霊力を鎧にしている。そこに追加武装としてキーに込められた膨大な霊力を纏う。
 基礎は車。武装はオプション。いかにオートがオートマティック車であろうと、マニュアルへ変更することは可能! キーを引き抜いてしまえばいい!!
 「動ける……!」
 オートは足元をふらつかせながら立ち上がった。
 「ほう。やはり一筋縄ではいかんか……」
 満身創痍のオートの前に立ちはだかるのは、大獣神。
 ――夜が明けようとしていた。

 いかに仮面ライダーに変身しようと、中身は非力な女の子。モミジの補助があっても余りある経験値不足。トウコ……紅蓮は苦戦を強いられていた。
 ドラゴンシーザーの攻撃は尻尾のドリルの単一のものだったが、大ぶりでありそれだけに強力。日本刀の扱いに心得がある紅蓮でも、攻撃をいなすのが精いっぱいであった。
 (トウコ、このままではじり貧になるわ)
 「解ってます。でも、これ以上は、もう……」
 重いのだ。繰り返すようだが、紅蓮の装備は補助があっても重い。それはオート・紅蓮の時に指摘されていた問題。ハルトにも重い物は、トウコにはなおのこと重い。
 だから、紅蓮丸に振り回される!!
 「しまっ……!!」
 いなした瞬間にドリルに巻き込まれ、紅蓮丸の重さも相まって紅蓮は体制を崩した。そんな隙をドラゴンシーザーが見逃すはずが……!?
 「吹き飛べぇ!! ヒートエンジンシュート!!!」
 刹那、一筋の光が紅蓮の側を迸った。次の瞬間にはドラゴンシーザーは胸部に激しい焼け跡を作り、吹き飛ばされていた。
 「ナツキさんですか!?」(ナツキか!!)
 紅蓮が振り返った先には、金髪の美少女を連れた仮面ライダーギアが立っていた。
 ――夜が明けようとしていた。
 
 武装なきオートはオートに在らず。ブランクと呼ぶ。
 ブランクは健闘していた。オートの時よりも武装が無い分、防御力はないものの速度は上がっている。軽量さからくる速さ。加えて、サワ直伝の蹴りが愚鈍な大獣神には連続でヒットしていた。
 一撃でも喰らえば、おそらく地獄行き。地獄にいければいいが…… ギリギリのバランスゲームは、肉体的にも精神的にもハルトを追い詰めていた。
 「くそっ! これじゃあ、らちが明かない!!」
 確かに大獣神を翻弄するだけの力はあるが、それがダメージに繋がるかと言えば、答えはNoだった。いくら人間が鉄板を蹴ろうとも鉄板に穴が開くことはない。
 「……残念だが、タイムアップだ」
 唐突に、憎々しげに言ったのは大獣神。付喪神は、天照(アマテラス)の前にはおいそれと出ていく事が出来ない。故に夜にしか現れない神さま。5柱の付喪神である大獣神であろうと例外ではなかった。
 「だが……!!」
 一瞬の油断が悲劇を招いた。吹き飛ばされてきたドラゴンシーザーに背中を押され、大獣神の前につんのめってしまったブランクは、その頭を大獣神に掴まれてしまった。
 「人間が、裏界に入ったらどうなるのだろうな?」
 天照の下にいられない付喪神は、夜の間は裏界あるいは離界と呼ばれる固有結界の中に姿を潜める。この世ではない別世界にある自分の家、と考えればいい。そして、その裏界に人間が足を踏み入れた前例は、ない。
 「ハルトさん!!」(ハルトさま!!)「ハルト!!」「ハルトくん!!」
 じたばたともがくブランクに向かってトウコをはじめとする4人が呼びかけ、駆けだす。しかし……
 「引くぞ、シーザー」
 大獣神はブランクを連れて裏界へと姿を消してしまった。
 「ハルトぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 悲痛なトウコの叫びが、夜明けの採掘場に響き渡った。

 ――転章

 ハルトが目を覚ましたのは、ベットの上だった。自分の家ではない。上霧家でもない。もっと汚い、コンクリートが打ちっぱなしの、まるで野戦病院のような……
 「やっと、目が覚めたか」
 ふいに声が聞こえた。ハルトが視線をさまよわせると、ベッドわきで足を組んで座っている少女がいた。
 髪は腰まで届きそうなほど長く後ろで三つ編みにしている。不機嫌そうに口を『ヘ』の字にしている顔は凛としている。目はツリ目で勝気な雰囲気が漂っている。まごうことなき美少女、のはずだったが……
 身長は明らかに150cmに満たない少女であった。
 「ようこそ。神への反逆の軍団『Strike to God』。私がリーダーのムツキ・カミキリだ」
 彼女は、そう言って不敵に笑った。
2010-06-02

仮面ライダーオート第12話

 第12話

 昼下がりの講義室。眠たい目をこすりながら、ハルトはナツキの話を聞いていた。
 「連続殺傷事件?」
 「あぁ。なんでも、ここ数日の間に5件も立て続けに20代前半の男が狙われているって話だ」
 最近は夜のパトロールやらで、ろくにテレビも新聞も見ていなかったハルトに覚えのない事件が起こっていた。
 「しかも、これが新都の人気のない場所で起こってるらしいぜ。これが普通の通り魔だったら…… まぁ、通り魔でもアレだけど、この事件の特異性ってのが気になってな」
 「特異性?」
 「あぁ。ほとんどの被害者は死亡には至ってないけどな、身体の部位を破壊されているんだ」
 「部位破壊って…… モンハンじゃねーんだから」
 「いやいや。まず1件目は、右足が獣に食いちぎられた感じになっていたらしいぜ」
 「食いちぎられた?」
 「それだけじゃない。次の被害者は左足を串刺しにされたんだ。その次は両腕を踏みつぶされた感じに。4件目は胸に引っかき傷……特大の引っかき傷があったんだ。で、昨日の事件では頭が噛み砕かれていたんだ」
 いよいよ穏やかな話ではなくなってきた。
 「……付喪神、か?」
 「レイラが事件現場を見に行った時に霊力の残滓を感じたってよ。これはいよいよ……」
 「十中八九、付喪神の仕業だろうな。けど……」
 「あぁ、噛み砕き、食いちぎり、突き刺し、押しつぶし、引っかき…… これだけのことが出来る付喪神がいるのか?」
 「わからん。が、心当たりはある」
 「マジ!?」
 「あぁ。日が暮れたら、モミジとトウコを呼び出して、そこへ行ってみる。お前もレイラを呼び出しておけ。大型の付喪神かもしれない」
 「了解!!」

 なんて講義中にべらべらと喋っていたら、講師に怒られるのは当然だった。締まらない2人である。

 午後7時。新都駅でハルトとナツキ、モミジとトウコ、レイラの5人が合流した。今さらながら、このチームに何気に馴染んでいるレイラは、相変らずツンデレであった。
 「なんで、エースである私がアンタ達、素人とゴーストと一緒に行動しないといけないのよ!」
 開口一番がコレだ。
 「ま、まぁまぁ…… 俺1人じゃ不安だしさ。ここは協力してもらおうぜ」
 「ふん。小娘2人など必要ないわ。私とハルト様2人で十分事足りますわ」
 「なによ、この妖怪大年増」
 レイラは日本語に精通していた。あながち間違いではない。
 「今すぐ地獄へ送ってあげてもよくってよ?」
 火花を散らす黒と金。雄弁な黒と寡黙な金……胸的な意味で。
 「……トウコちゃん、行こうか」
 「あ、はい! ハルトさん!!」
 「ちょ、ハルト! トウコちゃん! 俺を置いていくな!!」
 ……レイラがデレることはなかったようだ。

 「博物館、ですか?」
 彼らがやってきたのは、新都に設立された国営博物館だった。
 「ハルトさん。ここは以前、サワさんと一緒に来ましたよ」
 確かにトウコの言う通り、以前(第08話)でサワと共にやってきた博物館だった。あの時は三葉虫付喪神を相手に戦ったのだが……
 「そうだね。普通、シリーズでは同じ場所に、2度も敵は登場しないハズだ。けど、実際問題、付喪神は古いものに取りつくと言われている以上は、博物館とか記念館とかは最重要危険区域なんだよ」
 雄弁に語るハルトに、レイラさえも納得していた。
 「でも、ハルト。なんで、博物館なんだ?」
 確かにそうだ。博物館の他にも記念館なども考えられると彼は言った。
 「いいか、昼間のお前の言ってた事件。食いちぎったり、かみ砕いたり、引っかいたり。これが出来るのが動物型だろ?」
 なるほど、と言ったようにレイラは手を叩き、言葉を繋げる。
 「踏みつぶすことが出来るのは、大型よね」
 正解!とハルトは指を鳴らせば、トウコが続く。
 「そっか、その条件を満たすのは……恐竜ですね!」
 「ビンゴ!! よくわかったね、トウコちゃん。最後のキーワードは突き刺す。これは月並みだけど、敵はトリケラトプスか、あるいはマンモスだな」
 なるほど。果たして、草食系と呼ばれたトリケラトプス、マンモスに人間の体をかみ砕いたり、引っかいたりできるかは甚だ疑問ではあるが、博物館という考えは間違いではない。
 「よっしゃ。それじゃあ、乗り込もうぜ。行くぞ、レイラ!」
 「えぇ! 先を越されてはたまったものじゃないからね!」
 駆けだした2人。ハルトとトウコもそれに続こうとしたが、モミジはケータイを見つめたまま動かなかった。
 「モミジさん。どうしたんですか?」
 「えぇ。ハルト様、トウコさん。これを見てください」
 そう言って彼女は自身のケータイの画面を2人に見せてきた。
 ――新都博物館 開場10:00 閉場19:00――
 「閉館してんじゃん」
 「はい。だから入るのは得策ではないです。それともう一つ、気になる事件が……」
 ケータイをパチパチ動かして、再びハルト達に見せるモミジ。
 ――猟奇的傷害事件、6件目。手口は1件目と同じ――
 「これは……」
 「新都郊外ですわ。今なら付喪神の霊力の残滓から追えるハズです。行きましょう!」
 モミジに言われた通り、ハルトとトウコとモミジの3人は事件現場へと急行した。ガードマンに止められているナツキとレイラをすっかり忘れたまま。

 現場は騒然としていた。多くの警察、多くの野次馬、多くの人が集まっている中、3人は霊力の残滓を辿って人里離れた場所までやってきていた。ご存知の通り、新都は10年前に都市開発が進められ、駅を内包した超高層ビルを中心に発展している。川を挟んで東側が新都、西側を古都と呼んでいる。元は1つの市であったが、地元の人がいつしか呼び分けるようになった。これが意識結界の起こりである。新都と言えど、繁栄しているのは駅周辺だけであり、50%以上が未開発の土地である。付喪神は新都に現れる。ともすれば、未開の50%以上の土地に現れる確率は、都心に現れるより遥かに高い。これが人々が形成した結界の――無意識下の認識である。
 要するに、新都である以上は、付喪神の封印が壊されている壊されていないに関わらずに出てこれるのだ。
 話が脱線した。元に戻そう。ハルトたちがやってきたのは、新都の外れにある工事現場であった。採掘場、と言い換えてもいいかもしれないそこは、見渡すかぎり砂の平地であり、断崖に囲まれていた。
 「……東映の戦闘シーン場、みたいだな」
 これを見たハルトはポツリと漏らした。その時、断崖に気配を感じ、視線を送った。
 「よく来たな、仮面ライダー……」
 そこには、メカメカしい黄色いサーベルタイガーの姿が!
 「ハルト様、あっちにも!!」
 「なに!?」
 反対に視線を送れば、そこには同様の青いトリケラトプスが……
 「ハルトさん、上!!」
 今度は、白いプテラノドン。
 「後ろじゃ!」
 黒いマンモス……
 「赤い、ティラノザウルス」
 そして目の前に現れたのは、真っ赤なティラノザウルスだった。
 「……まさか、5柱の付喪神が同時に現れるなんて」
 完全に包囲されたハルト達。驚きを隠せずにトウコは言葉を漏らした。そんなトウコよりも驚き、動揺していたのはハルトだった。
 「大獣神……」
 大獣神。今から17年ほど前に放送されていたスーパー戦隊シリーズの第16作目『恐竜戦隊ジュウレンジャー』。ジュウレンジャーに力を貸し、巨大化した敵と戦ったのは、恐竜時代の神である大獣神。設定では、恐竜時代に負った傷から7柱の神々に分裂したという。そのうちの5柱が今度の付喪神であり、ハルトにとっては仮面ライダーと同等のヒーローであった。
 眩い光がハルト達を襲った。そして、光が納まった頃には、5柱の神々は1つの姿になっていた。
 ≪我が名は、大獣神。恐竜を守護する神也≫
 突如、頭に響くのは大獣神の声。これは脳に直接語りかけてくるのだ。
 「大獣神……一体、なんでこんなマネを!」
 ≪知れたことを。我々を忘れ去り、私腹を肥やすようになった連中を滅ぼすために≫
 17年だ。当時4歳であったハルトでさえ21歳になっている。そんな子どもだった連中は大人になっている。
 ≪そして、当時のティラノザウルスの思想によってデザインされた私よりも、現代のティラノザウルス、いや、T-レックスのほうがカッコいいのが妬ましい!!≫
 「後半、真ん中の赤いヤツの私怨だろう」
 モミジの突っ込みはさておき。豆知識として、17年前のティラノザウルスの造形は、いわゆるゴジラ型と呼ばれるものであった。しかし、研究が進み、現在ではバランス型と呼ばれる地面に並行なるようなフォルムをしている。俗称もティラノザウルスから、T-レックスと呼ばれている。
 ≪だが、≫
 「?」
 ≪今では、そんな連中の事などどうでもいい。どうでもよくなった。私は思い出したのだ≫
 「何を……」
 ≪我らは恐竜を守護する為に在ることを。故に人を滅ぼし、恐竜の時代を到来させる!! 私は神。この地に眠る全ての神々を恐竜へ!!≫
 ハッ!とハルトは嗤った。
 「そんなこと、させねーぞ。行くぞ! 変身!!」
 腰に現れたベルトはハルトの身体を包み込む。
 「イグニッション!!」
 手にした鍵をバックルで回せば、ハルトを包むスーツに武装が追加される!!
 「仮面ライダーオート、参上! テメェも俺の神話に加えてやる!!」

 つづく
2010-06-01

仮面ライダーオート第11話

 第11話

 961プロの人々と別れた翌日、ハルト、トウコ、紅葉の3人は、パトロールもそこそこに、閉店間際のケータイショップにやってきていた。昨日、961プロの人々と連絡先を交換したハルトを羨ましく思ったトウコと紅葉のケータイを買いに来たのだ。
 「なんだか10カ月ぶりに外に出た気分だな」
 ケータイを眺めながら、ハルトはポツリと呟いたが、トウコも紅葉もケータイを物珍しそうに見ているだけで、「不穏な発言はやめてください!」といったツッコミが入ることはなかった。
 そんな彼女たちの態度に寂しさを覚えながらも、気を取り直したハルトは、トウコに声をかけていた。
 「どう、トウコちゃん。気に入ったケータイはあった?」
 ハルトに声をかけられたトウコは、彼の顔を見ると困ったような笑顔を見せた。
 「えへへ、どれも素敵で迷っちゃいます」
 それもそうか。ハルトは彼女を見て、そう思った。初めて買うケータイではあるが、今までケータイとは無縁な生活を送ってきたトウコからすれば、機能は二の次であるし、デザインだけならメーカーの数だけあるし……
 「あ、あの…… ハルトさん」
 思案に耽っていたハルトに声をかけたのは、トウコだった。
 「もしよければ、ハルトさんと同じものがいいです」
 うつむき加減に言ったトウコの顔はよく見えない。けれど、耳まで真っ赤になっているのは分かった。
 「えっと、まぁ、いいとは思うけど……」
 「?」
 言葉を濁したハルトに、トウコは小首をかしげた。
 「俺の一年前のモデルだから、残ってるかわかんないぞ?」
 ……頼むから捨てられた子犬みたいな顔で俺を見ないでください。
 「ハッルト様~♪ トウコの機種は決まりましたか?」
 そこへ上機嫌な紅葉がやってきた。
 「えらく機嫌がいいな、紅葉」
 「えぇ! 兼ねてより欲しかったケータイが手にはいると思うと、この、そこの小娘よりも遥かに大ぶりな、胸の高なりが止まりませんわ~♪」
 カチン!
 「わ、私だって、決して小さくはありません! 少なくとも私よりも年上のレイラさんよりも2カップは大きいです!」
 やいのやいの!
 ……最近、頻発するのは2人の不毛な争い。それに関与したくない(関与したらロクでもない結果になるのは、目に見えている)ハルトは、こそこそと2人から離れようとした。が、そこで店員の女性に捕まった。
 「ラブい定額プランになさいますか?」
 しねーよ。つーか、ここのキャリアは今も昔もラブい定額プランにしてなかっただろ。
 
 結局、新規加入者紹介キャンペーンということで、新規の人も紹介者も割安で購入できるとのことで、3人とも新しい機種にすることになった。

 「えへへ、ハルトさんとおそろい……」
 トウコは真新しい青色のケータイを眺めながら幸せそうに笑っていた。
 「ふふふ、ハルト様とおそろいだわ」
 紅葉も赤いケータイを見つめては、トウコと同じような表情を浮かべた。
 「……これでよかったのか」
 上霧家の好意に甘え、生活費が浮いたとはいえ、さっそく銀色のケータイに買い替えてよかったのだろうか。とは考えつつも、新しいガジェットに喜びを隠しきれないハルトだった。

 三者似たような表情を浮かべながら、付喪神が現れそうな所へ向かって歩いて行った。人通りは皆無で、月明かりもロクに届かない、都会に潜む闇。太陽(アマテラス)の下には出てこれない付喪神は、月明かりさえも嫌がる者が多い。
 「……いるな」
 不意に足を止めたハルトは呟いた。
 「えぇ」
 ハルトに答えたのは紅葉だった。次いでトウコも足を止める。
 「行くぞ、トウコ、紅葉!!」
 「「はい」」
 3人は気配のするほうへ駆けだしていた。

 駆けだした、その先には……
 「なんだ、ハルト。お前らもパトロールか?」
 「ナツキとレイラかよ」
 ハルトの幼なじみの桜庭ナツキと、対魔組織アリスマジックのエースのレイラ・グラニデだった。
 
 なんだか久しぶりに再会した気分な5人。ナツキもレイラもパトロールの途中だったのだが、問題になっているのはナツキの熟練度不足だった。
 ハルトもナツキも喧嘩慣れはしていた。だが、それはあくまでも喧嘩の範疇を越えてはいない。しかし、彼らが今、要求されているのは殺し合いである。そこまで物騒な話ではなくても、はやり一歩間違えば命を落としかねないのだ。ナツキに比べ、ハルトは数戦の差ではあるが命のやり取りをほぼ1人で切り抜けてきた。しかし、ナツキのタイマンはグレイモンの1戦のみ。加えて、ハルトはオーダーメイドで身体の一部として仮面ライダーになるのに対し、ナツキはG3よろしくのモビルスーツである。動きが緩慢になるものである。
 「で、模擬戦をしたいと」
 「あぁ。このままじゃ、ダメだと思うんだ」
 「……よし、わかった。模擬戦を引き受けよう。決して、付喪神がいないからではないぞ」
 「……何のことだかわからんが、よろしく頼む」
 というわけで、ハルトとナツキの模擬戦が始まった。

 「紅葉。紅蓮の動きを調整したい。イケるな?」
 「えぇ。お任せください、ハルト様」
 よっしゃ! ハルトは銀色のケータイを取り出し、叫んだ!
 「メタル!!」
 次いで紅葉が赤いケータイを取り出し続く!
 「ヒート! って、なんですの、これ?」
 「いや、次はこれで決まるかと思って……」
 ※2009年6月です。
 「さ、冗談もメタネタも今回だけだ! 気を取り直して行くぞ! 変身!!」
 ハルトの腰にベルトが巻きつくと、その姿を変えた。同刻、紅葉はその姿を変えて車のキーへと変化させ、ハルトの手に納まった。
 「バースト・イグニッション!!」
 紅蓮キーをバックルに差し込み回せば、そこに現れるのは真紅の仮面ライダー……
 「仮面ライダーオート・紅蓮! 推参!」
 オートは左手を突き出して、言い放つ。
 「さぁ、お前(貴方)の罪を数えろ!」
 
 「……こっちも行くぞ! 変身!!」
 ナツキも腰にベルトを巻くと、キーを差し込み、その姿を変えた。
 「絶望がお前のゴールだ」
 
 「ねぇ、トウコ」
 そんな3人の姿を眺めていたレイラが口を開いた。
 「あの2人、なんなのかしら?」
 「さ、さぁ……」
 閑話休題
 
 結論から言えば、オートの防戦一方であった。
 確かにパワーだけなら、紅葉の力を受けているオートは、言わばショベルカー以上の力を持っている。しかし、それは機動力を完全に殺してしまっているのだ。逆にギアの場合はバイクの力だけあって初速から高速までの移行が速い。それゆえに、オートが捉えきれないスピードで走りまわるギアの攻撃を避ける・受けるのが精いっぱいである。
 「おらおらおら! 遅いんじゃねーの!! ハルト!!」
 「チィィィ!!」
 「ハルト様、このままじゃパワーで勝ってもレスポンスの差でアウトですわ!」
 じり貧に追い込まれるオート。
 「さぁ、決着をつけてやる!!」
 ギアは叫んで、オートの真後ろで足を止めた。左手をしっかりと伸ばしてオートへ向ける!
 「! ハルト様、後ろですわ!!」
 オートが振り返った先で、ギアはニヤリと笑っているようだった。
 「吹き飛べぇ! ヒートエンジンシュート!!」
 左腕のボウガンから射出されるのはエンジンが発する全ての熱を内包した、1点突破にかけては現代兵器において最強の矢!!
 「やられるかぁ!!」
 刹那、オートは紅蓮丸を地面に突き刺し飛び上がった。そして、刀の上で逆立ちをする格好になり、飛来する矢を避けた!
 「!?」
 「これで決まりだァ!!」
 着地し、駆けだす。
 「紅蓮キック!!」
 オートの放ったケリは、ギアの胸の寸前で止まった。
 そして、残ったのは、しばしの静寂とオートの駆けた後を示す炎の道だけだった。

 「いやぁ、参った! 俺の負け。まさか、あんな風に避けられるとは思わなかった」
 一行は24時間営業のファーストフード店に入って反省会を行っていた。
 「しかし、危なかったよ。ギアの速度があれほどとは思わなかった」
 2人はお互いの健闘を称えながらも、互いの弱点について話をしていた。
 オート・紅蓮の弱点は、やはり速度の問題。普通に戦うだけなら問題はない。しかし、やはり反応が鈍くなる分、隙が多くなってしまう。だが、それを補うほどの装甲の堅さと、灼熱の刀の持つ威力は魅力的である。
 ギアの場合は、決定力不足が問題になっているだろう。確かにヒートエンジンシュートは非常に強力な武器にはなるし、その威力は紅蓮丸に匹敵するだろう。それだけに反動が凄まじく、また一発限りに近いために足を止めて打ち出す必要がある。ともすれば、魅力である速度を全く活かせなくなるのだ。設計思想としては支援型というのがあるのかもしれないが、レイラが戦わない以上は単騎撃破を目的にした武器が必要になるだろう。
 
 お互いの弱点が判った今、いかに弱点を補っていくのか。それが付喪神との戦いを有利に進められるのか。
 考えている間に、夜は明けていった。

 彼らの戦いを盗み見していた者の事も知らずに……

 つづく。
2010-05-30

仮面ライダーオート第10話

第10話
 
 「なに? オートの仕組みじゃと?」
 遡ること数日前。モミジと将棋を指しているハルトは、かねがね気になっていた事を彼女に尋ねた。
 「そうだ。俺がお狐様の力を受け継いだとは言われているけどさ。実際は『変身』した後に『イグニッション』しないとダメだろ? それが気になってさ」
 確かにそうなのだ。一度、ブランクフォームに変身した後に、『イグニッション』をして武装が追加される。
 「まるで、電王のようだ」
 「ふむ…… でんおう、というのは解らぬが、理屈で良ければ説明するぞ」
 「あぁ、頼む」
 元々、お狐様の霊力は和魂、荒魂に限らず付喪神中で最強の一角の強さを誇ったと言われている。そんなお狐様の霊力を普通の人間が受け入れられるハズがないのだ。
 だが、実際にはハルトが完全に受け継いでいる。それはなぜか?
 ハルトの身体に納められる最大限までをお狐様の霊力を注ぎ込んだ。しかし、それでも大半が身体から溢れてしまう。故にお狐様は、自身の霊力を凝固させて作ったのが『オートキー』である。つまり、オートキーは霊力の塊とも言えるのだ。
 そして、変身システムについて。
 これはオートキーによって呼び出されたハルトとお狐様の霊力が表面化して形を成したのが、ブランクフォームである。確かに人間の持ち得る力を超越しているが、付喪神には追い付かない。
 そこでオートキーをブランクフォームに組み込むことで、お狐様と同等以下の力を引き出すことが可能になった。これがオートの正体である。
 「あー、なんだ… つまりだな」
 一通り説明を受けたハルトは、頭の中で情報を整理し、簡略化する。
 「俺が50Gしか記憶できないパソコンで、元々20Gしか入っていなかった。だが、そこに500Gの情報を入れられそうになったので、30Gは俺の中に入って、残りの470Gは外付けHDDになった、と?」
 「ふむ… 簡単に言えば、そういう事になりますね」
 「なるほど…… という事は、俺が50Gの力しか持ってなくて、追加武装(プラグイン)がお狐様の470Gを持っている。だから…… お狐様と同等の力を持っているモミジも追加武装になれば……?」
 それはモミジの凝固形態をカギに変えてしまう、ということ。
 「ハルト様のブランクフォームに、妾の力が加算される、という事になりますわ」
 「出来るのか?」
 「恐らくは……」

 ――――――――――

 「仮面ライダーオート・紅蓮! 推参!!」
 まさか、本当出来るとは! オートは内心大きくガッツポーズを決めた。
 「さぁ! ショーータイムだっ!!」
 名刀・紅蓮丸を握るハルトが叫ぶと、ステージでは突然音楽が鳴り始めた!
 「この曲は…響か!」
 その音楽にいち早く反応したのは、仮面ライダー零だ。
 「やっぱり正義のヒーローには歌が必要だろ♪」
 響は、マイクから口を離して零にウィンクをひとつ。
 「おいおい…」
 零は軽くこめかみを押さえ唸った。何故、『オーバーマスター』を選曲したのかと…
 隙のできた零、それを怪物が逃す筈もなく、襲いかかってきた。
 「行ったぞっ零!」
 「っと…応!…はあ!!」
 零はギアの声で我に返り向かって来たチーターの怪物に全力の一撃を叩き込んだ。
 『!?』
 怯む怪物、それを見たギアは驚いて零に質問した。
 「零、攻撃は効かないんじゃ…」
 「クウガのドラゴンみたいなもんだからな」
 それを聞いたギアは納得して頷く。
 「なるほど…っと!」
 今度はギアに向かって行った怪物だが、ギアはマフラーガトリングで牽制して足を止める。
 「もらった!」
 零はそう言うと腰のカードケースから一枚のカードを取り出した。
 『ゼロバルガロア』と書かれたカードにはセミロングの美女が描かれていた。
 だが、その美女は額から二本の角を生やし、見た目は人間とあまり変わりないが肌の色が白色をしていて鎧の様な体と生身の体が一体化している様な肉体。そして、背中から黒い翼を生やしていた。
 「アーティファクト!」
 『セットレディ』
 零がそのカードを持ち、前に突き出しながら叫ぶとベルトから声が聞こえて来た。
 そして、カードが光りみるみるうちに刀へと変化していった。黒刃の流麗な刀へと…
 「虚無の太刀…ハッ!」
 刀で怪物を切り上げる、その一撃を受け宙に浮く怪物。
 そして、ギアと共に蹴りを放ち同時に叫ぶ。
 『今だ!オート!!』
 「任せろ!おりゃあああぁぁ!!」
 紅蓮丸で足を叩き切るオート。『グギャアアア!?』
 叫び声を上げる怪物、そこに間髪入れずに零が攻める!
 「バニティーチャージ!」
 刀を親指と掌で挟み、切っ先までスライドさせていく、すると手が触れた部分が光り輝いた。
 「チェックメイトだ…ハッ!」
 一息で三回刀を振るう、先ずクロスにそして横一文字に…。
 3つの斬撃が怪物に向かって飛んでいき捕らえると怪物の周りに雷の様なモノがまとわり付き動きを封じた。
 『グウ!?』
 零が刀を弓を引き絞る様にして刺突の構えをとると零と怪物の間に謎の紋様が浮かび上がる!
 「くらえ!!」
 怪物に向かって飛ぶ零、紋様を通過する度に速度が上がり巨大な槍の様になっていった。
 突きが怪物に届くと同時に一瞬輝き爆発した。
 爆発が収まるとそこにはステージの上に立つ零とその頭上に浮かぶ始魂があった。
 「何だ…あれ…まるで…」
 オートは始魂を見て付喪神を倒した時の事を思い出していた。
 「あれは始魂、さっきの怪物の魂なんだと」
 零はオートの呟きに対し応えると腰のカードケースからブランクのバニティーカードを取り出し始魂に向かって投げつけた。
 カードが始魂に触れると同時に始魂はカードに吸収されていった。
 全て吸収しきったカードが零の下に戻る。
 それを掴むと腰のカードケースにしまい一言。
 「封印完了」
 次の瞬間、会場から歓声が響き渡った。
 『ワアアァァァァァ!!』
 「すげぇ!今の全部演出だろ?すげぇよ961プロ!」「ハンパねぇな!」「変身した人カッコ良かったー!」
 「助かったよ二人共」
 零は近づいて来たオートとギアに礼を述べた。
 「気にすんな」
 「ああ、それよりここからどうやって抜け出すかだが…」 
 オートとギアだけなら簡単に抜け出せるがトウコとレイラの二人を連れてとなるとこのファン達の壁を越えるのは少々キツい…。
 「それなら任せろ、こっちだ」零は四人をステージ脇へ導いて舞台裏へと連れて来たのだった。
 
 ―――――

 「……ハルト君ともみじ姫ともう一つの和魂、新都に散った荒魂。それだけではなく、異分子までこの街に入り込んだか……」
 ステージより遥か遠く、誰かに言うわけでもなく誰かが呟いた。
 その人影は戦いを見届けた後、踵を返して歩き去ってしまった事に誰も気づいてはいなかった。
 
 ―――――
 
 舞台裏では、961プロ一行とハルト一行が話をしていた。
 「俺の名は神楽零司、さっきは本当に助かった」
 「だから気にすんなって、えっと…」
 「零司でいいぜ」
 「ああ、わかった、とにかく気にすんな零司、んで、俺の名前だけど、楠木ハルトってんだ、よろしくな」
 互いに自己紹介をする零司とハルト。
 それを皮切りに他の面々も自己紹介をし始める。
 先ずはステージの上で歌って場を盛り上げてくれたポニーテールの女の子の響が、「自分の名前は我那覇響!よろしくな!」と。
 次に女王を思わせる程の風貌がある女の子が、丁寧に「私は四条貴音です」と。
 そして、豊満なバストを持ったトウコよりも年下に見える女の子が、「美希は~星井美希なの~」と。
 次いで自己紹介したのはナツキとレイラだった。
 「俺は桜庭ナツキ、よろしくな、君達三人の名前は有名だからな、余程興味の無い奴以外は知ってると思うぜ?」
 「…レイラ・グラニデよ、ナツキ悪かったわね興味の無い奴で私は知らないわよ」
 「いや、レイラは特別だろ…」
 不機嫌そうな顔をしたレイラに、まぁまぁと言わんばかりにナツキはなだめた。
 そんなやりとりを聞いていたトウコとモミジが口を挟む。
 「あの…上霧トウコです… ナツキさん、私もよく知らないんですが…」
 「妾はもみじ姫じゃ、妾も知らんが?」
 そんな二人に苦笑しながらハルトが頭に手を乗っけた。
 「まあ、トウコちゃんとモミジは仕方ないかな、特にモミジは」
 そこに透き通る様な声が補足する。
 「確かに付喪神であるもみじ姫は知らなくて当たり前かもしれませんね」
 「ほう? 小娘そなたの名は?」
 その言葉に感心したような声を発するモミジ、興味が湧いたのか、声の主に名を問う。
 「武田信玄、これが私の名です」
 その名に、知っていた者を除き誰もが驚きを隠せなかった、レイラを除いて。
 そんな人達を無視して、信玄は姉である春佳を紹介する。
 「そして、彼女は私の姉で…」
 「武田春佳だ。よろしくな!」
 そして、最後に仮面ライダーであった零司は別として、このメンツの中で最も不必要な男が自己紹介をしようとするが…
 「ふっふっ…そしてこの俺は……」
 「そなたら武田家の子孫か?」
 無視された。
 「…おーい?」
 「ええ、私の名は代々受け継がれてきたモノで…」
 無視というか、存在を忘れられている感すらある。
 「うぉーい! 俺を! この九十九クシナダを無視するなあぁぁ!!」
 「なんだ居たのかクシナダ?」
 今気づいたと言わんばかりの零司。
 「あれ? 荷物持ちさん居たんだ~」
 と美希、名前すら覚えてない模様。
 「ヒドッ!?」
 「元気だせって、気づいてもらえただけでもありがたく思わないと」
 クシナダの肩を叩き笑顔で慰める響。
 それに感動したクシナダは響の手を握り目を潤ませその思いを口にしようとしたが…
 「響ちゃん…やっぱり俺の天……」
 「なっ、『グラナダ』!」
 ピシッという音が聞こえてきそうなほど見事に固まったクシナダ。
 「名前違うぞ響、クシカツだ」
 「うわ…トドメ」
 名前の間違いを指摘した春佳だったが、その名前も間違っていた。
 「…いいんだ、どうせ俺なんて…」
 完璧にいじけモードに入るクシナダ、それをなだめて全員の自己紹介が完全に終わったのはそれから一時間後の事だった。

 何はともあれ、バケモノ騒動があったもののステージは大成功を納め、ハルト達五人は打ち上げに参加することになった。
 最初はモミジはともかく、他の四人は行く気はさらさらなかったのだが、その場の空気が「え? ハルト達、来ないの? ありえなーーい」みたいな感じで。
 最終的にはハルトがプロジェクトフェアリーの三人の誘惑(?)に負けてしまったと言ったところだろうか。
 最も抗議の声をあげそうなレイラだったが、先ほどの怪物に関しての情報が欲しいのか参加を表明。ナツキもそれに付き合わされるハメに。
 モミジは武田姉妹が気になっているので、最初から参加する気マンマンである。
 問題は…… 妖精に囲まれてデレデレしているハルトにムッとしているトウコだったが、(あらゆる意味で)ハルトが心配になって参加することになった。

 打ち上げの会場は、新都の駅前にある大きい居酒屋である。
 ここでは個室の用意もされるので、アイドル達はきがねなく酒が…… というわけではなく、ファンに囲まれることもないだろうという、黒井社長(961プロデュースの社長)の好意である。
 「それじゃあ、ステージの成功と!」
 オレンジジュースを持った響が立ち上がる。
 「先輩ライダーとの出会いに!」
 その隣で嬉しそうな零司がウーロン茶を持って立ち上がる。
 「「「かんぱーーーい!!」」」
 そして、全員がそれぞれコップを当て合った!
 
 零司とアイドル達とクシナダ、スタッフ達、そしてハルト達の3グループに分かれて騒いでいた。
 しかし、時間が経つにつれて、人は入り混じって行く。
 トウコ(半べそをかいて)は妖精たちに連れて行かれ、モミジは武田姉妹と話をしていた。
 取り残されたハルトとナツキ、そしてレイラの元にウーロン茶を持った零司がやってきた。
 「よ、お疲れ、零司」
 ハルトは飲み物をビールから日本酒に変えていた。
 「えっと… お疲れ様です。ハルト……くん」
 ハルトの呼び方を迷ったが、着地したのは「くん」であった。零司がウーロン茶を持っているのは、下戸というわけではなく、今は高校生であるからだ。
 「レイジ、とか言ったわね? さっきのバケモノに関する情報を全て引き渡して、この件から身を――――」
 「はいはい、レイラはあっちでトウコちゃんと一緒に遊んでましょうね~~」
 口を挟んだレイラを抱きかかえたナツキは、トウコをおもちゃにしている3人の所に向かった。
 「えっと… さっきのは?」
 「気にするな。自称・対魔組織のエースだから。それよりも、さっきのバケモノについて教えてもらえるか?」
 「あ、はい。あれは… 『バルガニブル』という神様の一種だ」
 「バルガニブル…… 神、か……」
 バルガニブル。狂神と呼ばれる存在は、単身ではこの世界では姿を維持できないが、稀に人間に憑依して肉体を得て凶暴化する。その目的は『人狩り』だ。
 「なるほど、ね。付喪神と似ているワケだ」
 「あの… そのツクモガミってのは何なんだ?」
 ハルトは付喪神について、簡単に伝えると零司は驚きの表情に変わる。
 「それじゃあ、バルガニブルとツクモガミは似たような存在じゃないか!」
 「あぁ、そうだな。今の所では、ハッキリ違うのは二つ」
 依代をモノにするヒトにするか。そして……
 「付喪神の目的がわからない」
 確かにそうなのだ。バルガニブルが人狩りを目的にしているのに対して、付喪神の目的があまりにも不透明なのだ。
 ハルトは「(あとで、モミジに聞いてみるか)」と一人思う。
 その時、よれよれになったトウコが帰ってきて、ハルトにしがみついた。
 「おかえり、トウコちゃん。どうだった?」
 「ふ、ふええぇぇん… 怖かった……」
 まぁ、すべからく女の子は怖いだろうな。
 「そろそろ、お開きッスね」
 トウコが帰ってきた事で、自分を取り巻く空気は読めない癖に、人の空気は読みとる零司は立ち上がった。
 「あ、おい!」
 そんな彼をハルトは引き留めた。そして、トウコの耳を両手で塞いだ。
 「バルガニブル、狂神。俺もお前も、神殺しの大罪を背負った身だ。だけど、今ならまだ引き返せる。よく考えて、身の振り方を考えろよ」
 「神殺し……?」
 「……そうか、知らないのか。それならいい。要するにだ、戦いから身を引けば、お前を救う手立てはあるって事だ」
 「………? よくわかりませんが、わかりました」
 零司はそう言うと、首を傾げながら席を離れた。
 それからトウコの耳を離したハルトに、彼女は「何の話をしていたんですか?」と聞かれたが、ハルトは曖昧に笑って誤魔化した。

 酒で火照った身体に、夜の風が気持ちいい。
 居酒屋を出た彼ら。
 そこでハルトに声をかけたのは零司だった。
 「あのハルトくん。俺達、しばらくこの街にいるんで、もしバルガニブルを見つけたら電話してください。それと…… よかったら手合わせしてもらえるとありがたいです」
 そう言って、零司はハルトに自身の電話番号とメールアドレスが書かれた紙切れを渡してきた。
 「おーけ。それじゃあ、もし付喪神に出会ったら俺に教えてくれ」
 ハルトはメモ帳に自分の電話番号とメールアドレスを書き込んで零司に渡した。
 「おっ! メアド交換! それじゃあ、これが私の電話とメアドね!!」
 なんて、響がハルトに電話番号とメールアドレスが書かれた紙を渡してきた。それに続き、
 「それでは、わたくしのも」「美希も~」「私のもお受け取りください」「それじゃあ、私のも」
 貴音、美希、信玄、春佳と次々に紙をハルトに手渡していった。
 「……アイドルとか、関係者の連絡先って、こんなに気安いのか?」
 とハルトは嘆息し、
 ≪こんなにキャラがいたら、管理しきれねぇよ≫
 と著者は嘆いた。

 零司達と、そしてナツキ達と別れたハルト達。
 その道中で、モミジが唐突に言った。
 「ハルト様。妾はケータイ電話が欲しいです」
 「なに? それはまた、どうし――」
 て?と言いかけて、言葉を呑み込んだ。どうにもモミジの過去と関係のありそうな姉妹が現れたのだ、話したい事もあるだろう。
 「そっか。それじゃあ、明日にでも買いに行くか!」
 「本当ですか!! ありがとうございます、ハルト様!」
 と、童心のように喜んだモミジを見て、ハルトは「手痛い出費だけど、まぁいいか」。そんな気分になった。
 そんな折、トウコがポツリと漏らした。
 「私も…… ケータイが欲しい、な……」
 「え?」
 「ううん! なんでもないです!! 早く帰りましょう、ハルトさん!! 私達の家に!」
 トウコはハルトの手を掴んで、走りだした。
 彼らが住む、上霧神社へ!

 つづく
2010-05-29

仮面ライダーオート第09話

 第09話

 二時間ほど前、家に女を連れ込んだ罪(?)で家を追い出されたハルトとモミジ。
 大家の最後の好意により、家が見つかるまで荷物は置いといていいと言われたので、ハルトはモミジをサワから貰ったバイクの後ろに乗せて新都まで来ていた。
 「三件目、全滅だぁ~」
 新都にある不動産屋から出てきたハルトはがっくりと肩を落とした。
 「ハルト様… やはり条件が難しすぎるのではないでしょうか?」
 ハルトの隣にいるモミジは、肩を落とすハルトに言った。
 「ん? あー、まぁそんなんだけどさぁ…」
 彼の提示した条件は、敷金礼金なしで家賃が3万以下、風呂トイレ別というものである。
 探せばなくはないのだろうが、現在では土地開発が進んだ新都では、そんな物件などありはしなかった。
 「はぁ…… どうしたもんか」
 項垂れるハルト。そこに、
 「あら、ハルトくんとモミジちゃん?」
 買物袋を下げたマイコが通りかかった。

 『あとりえオガワ』は大学の側にある隠れた喫茶店。今日も今日とて、客は少ない。というか、いない。
 「はい、お待たせしました。コーヒーです」
 店のボックス席に座った三人にコーヒーを出してくるタカヨ。
 「それでは、ごゆっくり♪」
 アイスコーヒーを置いて、ハルトの顔をみてニヤリと笑う。あぁ… きっと勘違いされているんだろうな。ハルトは考えただけで、ちょっとブルー。
 さておき。
 「それで、ハルトくん、引越しするの?」
 マイコはアイスコーヒーを一口。
 「いえ、いや、はい。まぁ… ちょっと家を追い出されまして」
 「まぁ、大変ね! それでお家は見つかったの?」
 「いやぁ… それが……」
 かくがくしかじか、まるまるさんかく。事情を説明すると、
 「それならいい物件があるわよ!」
 なんて言い始めた。
 「ほ、本当ですか!?」
 それに食いついたハルトは半身を乗り出していた。
 「えぇ! 場所は古都で静かな場所なんだけど、駅から遠いわよ。大学にも遠いけど、三食付き!」
 「マジですか!? や、家賃は? 家賃は高いんじゃないんですか?」
 「いえ! 家賃は0円。食費もなしよ!」
 「いや、ちょっと、それは危険な物件じゃないですか?」
 「そんな事ないわよ? まぁ、オジサンとオバサンと若い娘が一緒に住むことになるけど、部屋はたくさんあるわよ」
 「構いま――」
 「ハルト様、お待ちなさい!!」
 ハルトが即決しようとした時に、口を挟んだのはモミジだった。
 「な、なんだよ、モミジ?」
 「ハルト様、よくお考えください。先ほどの条件… 食事や家賃の事は忘れた場合、該当する場所が一件あるんじゃないんですか?」
 「えっ? 該当する……?」
 モミジに言われ、ハルトは逡巡する。古都の静かな駅から遠い、オジサンとオバサンと若い娘が一緒………
 「あ」
 「どう? ハルトくん。どうするの?」
 思い至ったハルトに迫ってくるマイコ……

 「思った以上に荷物があったなぁ」
 ハルトは運んでもらった荷物を下ろして汗をぬぐった。
 食器の類や布団は前の家に置いてきた。衣服や本は、狭い部屋とはいえ結構な数があったが、全てタカヤに運んでもらった。
 「ここが新しい家… 上霧神社」
 あの時、マイコが彼に提示したのは自分の家だった。
 最初はハルトも遠慮していたのだが、マイコの好意を無碍には出来ず、半ば押し切られる形で家を決めてしまった。
 時刻は午後3時。さっそく部屋で荷ほどきを始めるハルト。その後ろで不機嫌オーラを全開にしているのはモミジだった。
 「モミジ、まだ怒ってるのか?」
 「当たり前です。妾の意見も聞かず家を決めて」
 「悪かったって。でも、仕方がないだろ? しばらく居候して、そのうち物件見つけるから機嫌直せよ」
 「ふんっ」
 すっかりへそを曲げている。当然だろう。モミジはハルトに想いを寄せているワケなんだが、その恋敵の家に転がり込むなんてのは面白くないのだ。
 「ったく… モミジ、これやるから機嫌直せよ」
 嘆息したハルトはポケットから取り出した紙切れを彼女に渡した。
 「これは……? プロジェクト、フェアリー?」
 「そ、961プロデュースのアイドルユニットだったか? プロジェクトフェアリーのライブチケット。さっきの不動産屋がくれたんだよ」
 新都では珍しく人のいい店員で、家を見つけられなかった事のお詫びにハルトに譲ってくれたのだ。最後に「彼女によろしく」と言っていたのは、忘れておこう。
 「も、も、ももももも、もしかしてこれがデートのお誘いと―――」
 「3枚あるから、トウコちゃんと3人で行こうな」
 「………」
 天然か作為なのか、ハルトはそう言った。

 午後5時になる頃、ようやく荷物の整理が終わった。
 前のアパートと同じく使っていない家具を使わせてもらった。
 すっかり汗だくになったハルトは、さっそく着替える事にした。幸い、部屋にはモミジはない。先ほどの問答で怒って出て行ってしまったのだ。
 「さ、てと…」
 「誰かいるんですか?」
 服を脱ごうとした瞬間! ガラリと部屋のふすまが開いた。そこには銀髪を揺らす美少女―白い生地にデフォルメされた猫の赤いマークが散りばめられたパジャマ―が立っていた。
 ………
 訪れる静寂。そして、絹を切り裂く悲鳴!
 「ぎゃー!!」
 ハルトだった。
 「じゃ、ジャミラがいる!? ど、どうしよう!! 助けに行かなかった事を恨んで…… そうだ、水! 水をかければ!!」
 同時にトウコも混乱していた。
 「ま、待て! トウコちゃん!! 俺は宇宙飛行士が事故で水のない惑星に不時着して救助を待つうちに本国が事故を隠蔽して救援を送らずいた事を知り恨んで怪獣化して宇宙船直して地球に戻って暴れまくった挙句にあれほど欲していた水が弱点であったために死んでしまい最後には赤ん坊のように泣き叫び万国旗を倒して科学特捜隊に疑問を投げかけた怪獣じゃないよ!! それより、なんで18歳の女の子がそんな事知ってるんだよ!? つーか、作品中で最も長いセリフだっ!!」
 著作権・円谷プロ。
 「どうした、トウコ!? 貴様は…ジャミラか!! 俺はお前を軍事利用しようとなんかしてないぞ!! 水、マイコ! 水を持ってこいっ!!」
 「今度はタカヤさぁぁん! 待てって! 俺は木星探査宇宙船の宇宙飛行士で航海中に青い光を受けて怪獣化が始まって『人間の心を失ってしまう前に娘のカレンに生きて再会したい』という強い思いで地球に帰還したけど自分を軍事利用とした祖国を恨んで怪獣化したけど最後に人の心を取り戻して殺してもらった怪獣じゃない!! なんで、パワードのネタを知ってんだアンタ!!」
 著作権・円谷プロ(アメリカ)
 「あなた! トウコどうしたの? きゃあああああ! ジャミラ!? バルタン星人に改造されたのね!! み、水を…!!」
 「マイコさぁぁぁん!? 俺はあなたを信じていたのに!! 待ってください! 俺の後ろには大事なPCが!! ホント、マジで勘弁!! 俺は怪獣墓場を探索していた宇宙ステーションのクルーがバルタン星人に改造されて科学特捜隊に致命傷を食らって死んだ怪獣じゃないですよ!? というか、上霧家で大人気だなジャミラ!!」
 著作権・高田裕三、角川
 ちなみに『ウルトラマン』をはじめ、米国版のウルトラマンの『ウルトラマンパワード』、コミカライズ版の『ウルトラマン THE FRIST』のジャミラを知っているハルトも大概である。 
 閑話休題

 「つ、つかれた………」
 あの場はすぐに収集がついたのだが、嫌に喋りまくったハルトは疲れ切っていた。
 「あ、あははは…」
 彼の隣で力なく笑っているトウコ。
 その真反対のとなりでモミジが言った。
 「ハルト様、どうやらついたようですわ」
 新都で最近設立された野外ステージ。出来たばかりと言う事で様々なアーティストがやってきては連日ライブをしている。
 「うぅむ… まさかここにアイドルが来るとは…」
 ハルトは感慨深く頷く。
 「確か…プロジェクトフェアリー…でしたっけ?」
 「ふっ妾の美しさに比べればあの様な小娘共なんぞ…」
 トウコとモミジがそれぞれ勝手に喋るが、ハルトは聞いてはいなかった。なぜなら、彼の目線の先には知人が二人いたからだ。
 「あなた達!?」
 「よお、ハルト」
 金髪ツインテールにシスター服のレイラといつも男前なナツキだった。
 彼らは、この野外ステージで妙な気配を感じたので、様子を見に来たそうだ。ハルト達もチケットは貰ったものの、ステージ近くに付喪神とは違う気配を感じていた。
 とりあえず、付喪神とは違う妙な気配の正体がわかるまでは休戦ということで。
 「…良いでしょう」
 レイラは不承不承といった感じで提案を飲んだ。

 そして始まった野外ライブ。ステージでは我覇那響という黒髪をポニーにした活発な女の子が叫んでいた。
 「みんなー!自分達の歌を聴いて盛り上がってるかー!」
 『おおぉぉー!!』
 メチャクチャ盛り上がっていた。
 このまま、つつがなく進むとその時は誰もが思っていた。
 だが、休憩時間中に事件が起こった。
 突如ファンの一人が警備員を蹴散らし舞台の上に上がって来たのだ。
 『ヴヴ…』
 瞳は虚ろで焦点が合わず、肉体の一部が変態していた。
 その瞬間、ステージ脇からツカサ程の身長の少年が舞台の上に躍り出た。
 「零司!」
 飛び出した少年に心配そうな声を挙げたのは響きだった。
 「お前達! 下がってろ! ……行くぜ、変身!」
 零司と呼ばれた少年は叫びと同時に姿を変えた!
 まさに仮面ライダーと言わんばかりの頭部、違うところが有るとすれば、ガンダムのアンテナのような角だろう。
 体は鎧のようなものを着たような感じになっていた。
 全体的に灰色、イメージ的には何も入っていない、ブランクを彷彿とさせる色合いだ。
 バックルは楕円形で0の形をしていて回転しそうな感じがした。
 そして、前回と同じように天に指を突き出し高らかに叫んだ。
 「夢を与える妖精達!! 夢を与えて希望を見せて!! 世界は笑顔で満たされる!! 邪魔する奴は容赦しない!! 俺を誰だと思っていやがる!! 俺は妖精達を護る戦士零!! 仮面ライダー零だあぁぁぁぁぁ!!」
 そして決めポーズをとる仮面ライダー零。
 ざわめく観客をよそに怪物と零の戦いが始まった。

 「おいおい…マジかよ」
 「仮面ライダーのバーゲンセールか?」
 零の登場に驚き変身途中で動きを止めるハルトとナツキ。
 だが、一番驚いていたのはレイラであった。
 「ああっもう!何なのよこの街は!次から次へと!」
 そんな中冷静に零や怪物の力を分析していたもみじ姫は少し驚きを含ませた声色で語り出した。
 「ほう…あの零とかいう仮面ライダー、ハルト様と同等の力を有しておるの…怪物の方はそうでもないが…」
 「判るのかモミジ?」
 「何となくではありますが…」モミジの言葉に驚きを隠せず反応するハルト、だがもみじ姫はまだ確信が持てておらずハルト質問に曖昧に答えた。
 「この戦いを見れば判る…か?」
 ハルトの言葉に頷くもみじ姫。
 「じゃあ、お手並み拝見といくか…良いだろレイラ?」
 「…好きにしなさい」
 ハルトの言葉を引き継ぐ様にナツキがレイラに伺い、それをまたもや不承不承頷くレイラ。
 何もわからない今の状況で迂闊に手を出せば護るべきモノに被害がおよぶ可能性があるためだろう。
 さて、全く会話に参加していなかったトウコはというと…
 「さっきのちょっと格好良かったかも…ハルトさんもあんな風に…はぅ」
 何やら軽くトリップしていた。
 「………」
 ハルトはトウコの言葉を聞き逃さなかった。

 「行くぜ!」
 先手必勝と言わんばかりに、怪物に攻撃を仕掛ける零。
 まだ完全に変わっていない為まだ動きに無駄が多い怪物は辛うじて零の攻撃を防ぐ。
 『グウ!』
 その様子を見た零は一気にケリをつける事にした。
 「一気に決めてやるぜ!」
 だが、必殺技を発動する為にエネルギーを溜めようとした瞬間、どこからともなく邪悪な波動が怪物目掛け飛んで来て変態途中だった肉体が一気に完全体へと変わってしまったのだった。
 「何!?」
 そいつは人型のチーターいった感じの怪物だった。
 そして、その姿に違わず、恐ろしい程の速さで零に襲いかかって来たのだ。
 「クッ…速い!?」
 形勢が逆転してしまった。
 今度は零が辛うじて攻撃を防ぐ。
 「零!」
 響が叫ぶ。
 その声には零を案じる思いが込められていた。
 「心配すんな響!…うわっ!?」
 「零!?」
 響に心配かけまいと返事を返したが、敵の攻撃を喰らってしまい逆効果となってしまう。
 「もっと…もっと速く動ければ…」
 零がそう強く願ったその時、どこからともなく声が聞こえて来た。
 (なら、力を貸そうか?人の子よ)
 「!?…誰だ!?」
 (ファストバルガロアとでも名乗っておこうかな?)
 「ファスト…バルガ…ロア?」
 (そう、ファストバルガロア、神速の剣王さ…ゼロが力を貸したって聞いてね興味が湧いたのさ……どうする?)
 ファストバルガロアを名乗る存在は零に問いかける、自分の力が欲しいかと…。
 「力を貸してくれ!これ以上彼奴等に心配かけたくねえ…」
 (OK、今後ともよろしく♪あ、そうそう、私は力仕事得意じゃないから)
 そして、零は右手を顔の前に持っていき…
 「アクセスチェンジ!」
 叫ぶと同時に手を右下に払った。
 すると、零に付けられていた功績が光り零の姿が変わっていく。
 青い軽鎧を身に纏い、ガントレットと呼ばれる籠手を装着した戦士がそこにいた。
 「行くぜ…」
 目にも止まらぬ速さで動くゼロと怪物。
 だが…
 「…っと」
 零の攻撃が敵に効いていなかった。
 「なるほどな…力仕事が得意じゃないか…」
 この姿はスピードが格段に上がった分パワーが落ちていたのだった……。

 「ったく、見てらんないな。『仮面ライダー零』」
 零の攻撃を受け付けない怪物に歯がみする零の隣にハルトが立っていた。
 「レイラ、やるぞ!」
 「最初から、こうしていればよかったのよ!」
 更にナツキとレイラがステージに上がってきた。
 「なんなんだ、アンタら! 一般人は下がってろ!!」
 荒々しく言い放つ零だが、ハルト達は笑っていた。
 「悪いな、零。俺達は一般人じゃない! 変身! イグニッション!!」
 ハルトはオートへ変身する!!
 「仮面ライダーは一人じゃないってこと。平成ライダーなら常識だろ? 変身!!」
 ナツキはギアへ変身する!!
 「あ、あんたら一体……」
 呆然と二人の変身を見上げている零。オートはギアに目配せをする。ギアもそれに気付き頷いた。
 「月夜の晩に現れ出でて!」
 オートは天高く指をさす!
 「平和の道を切り開く!!」
 ギアも続いて指をさす!
 「白銀の女神を護り、黒と黄色の女と戦い、」
 「金色のシスターを援護する!」
 「仮面ライダーオート!」
 「同じくギア!」
 「「悪・即・斬!!」」
 ばっちりポーズを決めるオートとギア。ものすごく満足げだ。
 「ちょっと、ナツキ! それとアンタも!! ふざけてないで――――」
 レイラが二人に文句を言おうとした瞬間、後ろから黄色い歓声が聞こえた。
 「ハルトさぁん!! すっごくカッコいいです!!」
 「ハルト様!! 妾は惚れ直しました!!」
 トウコとがうっとりしながら、モミジも似たような状態だ。
 それだけではない。ざわついていた観客にも変化が起きていた。「なんだ、余興か?」「演出かぁ~ やるな961プロ!」「やれやれ!」など。
 「というわけだ、協力してショーに仕立て上げた上でアイツを倒すぞ」
 零の肩を叩いたオート。
 「あ、あぁ…… わかった」
 それに頷いた零。
 「よし、いい子だ。それで、その姿は高速になる代わりに攻撃力が激減するんだな?」
 「あぁ…」
 「それなら、零とギアで足を止めろ。その瞬間に俺がアイツの足を叩き切る! だが、トドメはお前が刺せよ? 俺はこれ以上は罪を重ねたくないんでね」
 「罪…? いや、いい。わかった。頼む」
 「任せろ! 行け、ギア!!」
 「応!」
 チーターの怪物は高速で走り回り、それを追撃する零、そしてギア。
 「来い、モミジ!! アレをやるぞ!!!」
 オートは振り返らずにモミジに言った。
 「本気ですか! ハルト様!!」
 「あぁ、試すには絶好の機会だ!」
 「わかりました!! ハルト様に全てを委ねます… さぁ、妾を激しくしてくださいませ!!」
 モミジが叫び、その姿を変えた。それはオートのバックルに刺さっているキー、それも黄色と黒で彩られたものだ。
 オートは、その黄色いキーを掴むと、ベルトに刺さっていたキーを抜く。オートの基本武装が解除され、言うなればブランクフォームになった。
 「さぁ、行くぞ! イグニッション・紅蓮!!」
 オートはその姿を変えた! 赤と銀色を基調にしていたものから、黄色と黒を基調にしたクレーン車を彷彿させる姿へ!
 最大の特徴は右肩から背中に垂れているクレーン。先端にはフックが付いている。
 「仮面ライダーオート・紅蓮。推参!」
 オートは日舞のような舞を見せポーズを決める!
 「名刀・紅蓮丸」
 背中のクレーンから引き抜いたのは、炎を纏う刀だった。確かに刀なのだが、柄の先にはフックがついている。そして、紅蓮丸とはクレーンにひっかけているだけであるが、それが反映され炎の刀になった。
 「さぁ! ショータイムだっ!!」

 つづく
2010-04-20

仮面ライダーオート第08話

前回までの仮面ライダーオートは!
 
 剣はその姿を変えた! 剣にしてはあまりにも無骨。斧にしてはあまりにも繊細。分断というただ一点にのみ特化した、それは……
 「ドライブチェーンソー!!」
 フォルムはあくまで剣。だが、そのエッジは回転式の刃が無数に並び、超高速回転している!!
 「フルアクセルドライヴ!!」
 超高速で移動したオートは、気づけばメタルグレイモンの真後ろに居た。
 メタルグレイモンの体は縦に真っ二つに切られ、声もなく爆発してしまった。

 ウォーグレイモンは一直線にオートめがけて飛んできた!! オートよりも先に立つのはサワ。
 「やめろ! サワぁぁぁぁぁぁ!!?」

 第08話

 体中が痛い。関節痛とか筋肉痛とか火傷とか、そんな温いものじゃない。
 なんかこう…… 全身を焼かれた挙句、強烈な蹴りを二発も食らったような…… 昔、懐かしい感覚……
 「………」
 ハルトはゆっくりと目を開いた。そして、彼の視界に飛び込んでくるのは、いつもの自分の部屋の天井。
 だけど、少し違う。いつもなら、自分の右側に壁があるはずなのに、今日は壁がない。
 けれども、いつも通りの所もある。脱衣可能なら普段から着るなよ、と言ってはみたものの… いや、さておき。ネグリジェを着たモミジが自分の左側で寝息を立てている。これは、最近になっての日常だ。
 「………」
 だが、では、右側にあるハズの壁がない代わりになにがある? 恐る恐る、首を回し確認。
 誰もない、布団。誰かが使った形跡のある布団。
 「…………」
 落ちつけ、ハルト。きっと、昨日はナツキが泊まりに……は問題があるな。えっと、トウコちゃんが…? いやいや、すぐにタカヤ氏に殺されるだろう。 大穴中の大穴、レイラは… 今頃、俺は天獄、か……
 「誰なんだよっ!?」
 ガバリと起き上がったハルト。頭が割れるように痛いし、胸もすごく痛い。物理的に。
 でも、そんな事を忘れるような出来事が目の前で展開されていたのだ。
 「あら、ハル。起きたの? 大丈夫?」
 楠木ハルトの幼馴染で、一つ年上の女性、池澤サワが狭いキッチンで朝食を作っていた。
 説明しよう。この際、サワがどうこうではないのだ。爽やかな朝、目が覚めると、自分の嫁さん、あるいは恋人が朝食を作っているというのは男にとっての夢の一つである。ちなみに、ハルトとサワは幼馴染以上ではない。
 「えっと…… サワ?」
 「そうだよ。どうしたの? 寝ぼけてるの?」
 「いや、いいんだ。……いや、よくねーよ。何やってんだ、アンタ」
 「えっ? ハルト、昨日の夜の事、何も覚えてないの?」
 「えっ?」

 昨晩の出来事。

 サワへ…正確にはオートに向かって風の如く飛んでくるウォーグレイモン。
 「やめろ! サワぁぁぁぁぁぁ!!?」
 ウォーグレイモンのドラモンキラーがサワの体を捉える、その瞬間!! サワの痛烈な回し蹴りがウォーグレイモンの… クロンデジゾイド製の甲冑を砕き、体を捉えた足を地面に叩きつけた。
 「やっちまった……」
 オートは頭を抱えてやれやれ。だが、未だに動くウォーグレイモンの生命力に感謝して。
 「Good die♪」
 ウォーグレイモンの頭に剣を一突き。霧散したウォーグレイモンの体と現れる霊魂。オートは胸のハッチを開き、その霊魂を回収した。
 
 「さて、と。ハル、ナツ。説明してくれるわよね?」
 サワはウォーグレイモンの事など気に止めてなどいなかった。飛んでいた蚊を潰しただけ。そんな表情だ。
 「ナツキ…… やるしかないぞ」
 オートはサワから間合いを取り、剣を捨てた。
 「わかってる。ハルト」
 ギアも武器の一つも構えず、ファイティングポーズ。
 この際、なぜサワが変身しているハルトとナツキの正体を見破ったのか?という疑問はどうでもいい。どうしても理由が欲しいのなら、サワは昔から視える人だった。それだけで充分だろう。
 さておき。サワは戦闘意志を見せる二人にニヤリと笑う。それは獰猛な狩人の如く。獰猛な狩人という単語がオカシイ気がするが、そうとしか形容できない!
 「へぇ… そう。ヤル気なのね? なら、相手になってあげる」
 ……
 「来なさいっ! ハルト、ナツキ!」
 「「うぉぉぉぉぉぉ」」
 刹那、駆け出した二人。サワを挟み撃ちするつもりだ! しかし!
 「甘いよっ!!」
 サワは跳躍。それも真上に飛び、二人の正面衝突を狙う! わけじゃない。華麗に跳び、ギアの顔を足蹴に更なる跳躍。夜空に浮かぶ三日月のように、しなやかな体を反らす。そして―――!
 「粗砕(コンカッセ)!!」
 反転、そして、オートの顔面に痛烈な踵落としを食らわせる。
 「がっ!?」
 オートの足元がフラついた! だが、倒れない!!
 サワは踵を振りぬかず、反動を使って更に宙返り。大きく身を屈めての着地。
 「仔牛肉(ヴォー)ショット!!!」
 一瞬のうちに姿を消したサワの姿を満身創痍のオートが捉えられるハズがなく、胸部に強烈なとび蹴りを食らった!!
 「がはっ…… さ、ワ…… それは、色々、ダメ、だ……」
 オートは気を失い、変身が解けてしまった。
 
 その後、ギアとレイラは姿を消した。残りの4人は、とりあえずハルトを自宅まで運ぶことにした。トウコはサワに促されて帰宅。モミジとサワで、簡単にハルトに手当てをすると、そのまま眠ってしまったのだ。
 
 「――というわけよ」
 一通り説明されたハルト。
 「それじゃ、朝ごはんにしましょう。話はそれからよ」
 「あ、あぁ……」
 
 よくも六畳一間の部屋に布団が3セットもあったと思うのだが、さておき。
 ちゃぶ台一つに三人分の食事が乗ると狭いものだ。とはいえ、朝食なのですぐに片づけてしまう。
 そして、お茶を前にハルトは語りだす。
 ナツキに話した内容と全く同じものを。
 「てなワケで、今回は帰れなかった。悪かった、サワ」
 語り終えたハルトはサワに頭を下げていた。
 「ううん、いいの。ちゃんと説明してくれたし、昨日の事を見なきゃ、信じられなかったし……」
 ハルトの誠実な心が伝わったのか、サワはハルトの事を信じてくれた。その事に胸を撫で下ろすハルトだが…
 「それじゃあ、特訓しなくちゃ!」
 「えっ?」
 「さ、行きましょう! ゴー!!」
 サワはハルトの首根っこを捕まえて、部屋を後にした。取り残されたモミジは……
 「寝るかの」
 眠り足りないのか、モミジはハルトを追う事無く、布団を敷いて眠り始めた。

 さて、所変わって、上霧神社境内。
 昼間の境内とはいえ、閑散としているので特訓には適しているとはいえば、そうなのだが……
 さっそく始めようとするサワを止めて、ハルトはタカヤとマイコの所に行って、事情を説明。
 マイコは「あらあら、大変。頑張ってくださいね」とマイペースな返事。タカヤは「殺されてしまえ」と非常に不吉な言葉をくれた。
 「あてが外れた……」
 がっくり項垂れるハルト。当てが外れたのだ。良識ある人なら、迷惑だからやめてくれと言ってくれるに違いなかったのに……
 「それじゃ、始めるわよ!」
 ハルトが帰ってくるなり、ファイティングポーズを取るサワ。
 「ちょ、ちょっと!? 特訓って実戦かよ!!」
 「何? 不満?」
 池澤サワという女性は、予定を狂わされるのが嫌いである。サワの特訓の内容に苦情=サワの予定を狂わす。こんな事になるわけで……
 「いやいやいやいや…… ありがたいんデスヨ? でもね、俺、昨日、散々蹴られてるわけなんですけど!?」
 必死。
 「…まぁ、それもそうね。ゴメンね、ハル。それじゃあ、私の技を盗みなさい」
 「はっ?」
 「私が今から蹴るから、それを見て勉強しなさい」
 何を勉強しろと? サワさん、貴女、スカートですよ!? なんて考えていると、サワは気にせずに虚空を蹴り始めた。
 チラチラ見える、素敵な何かに心捕らわれぬようにハルトは必死になって明鏡止水を……

 そして、思い出すのは、サワの伝説。

 元々、喧嘩は強かったサワなのだが、その実力に拍車がかかったのが、彼女の大学生時代だ。
 事の始まりは、彼女が高三の冬の頃。
 彼女は受験勉強を頑張っていた。来る日も来る日も机にかじりついて、勉強をした。
 そして、待ち望んだ受験日当日…の前日。
 勉強もそこそこに眠ろうとしたサワ。だが、その時、彼女を襲ったのは暴走族であった。
 眠りに落ちかけていたサワの目を覚ましたのは、暴走族の撒き散らす爆音であった。
 そして、彼女は目が覚めた(二重の意味で)。
 勉強のストレスが限界値まで来ていた彼女は、暴走族の前に躍り出て……
 阿鼻叫喚であった。
 その翌日、受験日は血眼になっていたのだが、無事合格したあたりが、流石サワというべきなのか。
 さて、大学に入学してからすぐの事だ。
 暴走族とつながりがあるレディースの皆さんに喧嘩を売られたサワは…
 再び阿鼻叫喚。
 本人が望まぬまま、レディースのトップに立った。
 それからは、酷いものであった。
 女帝の名を欲しいまま(いらないけど)、次々と他の族を潰して行ったのだ。
 その時に磨かれたのは、足技。
 ……ハルトが昔、サワに貸した、ひとつなぎの大秘宝を探す海賊の漫画を貸した際に、随分と気に入っていたキャラがいたのだが……
 さておき。あらかた族を潰したサワは、引退した。引退と言うか、あまりにも強すぎて誰も近づいてこなかっただけなのだが。
 
 というわけで、サワの足技は漫画の世界の再現という事になる。

 「どう? 解った!?」
 気がつくと、サワがハルトの前にやってきていた。
 「えっと…?」
 「…ハル。見てなかったの?」
 「いや、その…… サワ、下着が見えるぞ?」
 「…………」ガシッ!!
 「サワ、落ちつけ! 無言で蹴るな!!」
 サワの一撃を受け止めたハルトは必死だった。
 「もぅ、ばか、えっち!!」
 「…」
 ハルトはサワのその一言に違和感を覚えつつも、平謝り。
 その後は、サワの指導で足技の練習をさせられた。

 丁度、夕方になった頃。
 「ハルトさ~ん、サワちゃ~ん、ごはんですよ~」
 マイコが境内にやってきて、二人に声をかけてきた。
 「「は~い」」
 なんて、二人で声をそろえて答えた。そんな事が少し可笑しかった。

 いつの間にか合流していたモミジと上霧家の人たちとハルトとサワ。
 騒がしく楽しい食事の後に、サワを加えた4人でパトロールに出かけた。

 「博物館とか、危なくない?」
 
 そんなサワの一言。女の勘とは、恐ろしいもので、博物館から飛び出した付喪神は……
 「三葉虫付喪神!?」
 太古の生物、三葉虫。節足動物に区分され、現代に生きる節足動物といえば、蜘蛛やサソリ、蟹もこれに数えられる。
 「…くそっ! 作者め、面倒だからって適当な事をしやがって!! 俺は傷が癒えてないんだぞっ!! 変身、イグニッション」
 ハルトは忌々しげに吐き捨てながらオートへ変身した。
 三葉虫付喪神。全長は3メートルを超える。正直、不気味だ。
 「一気に決めてやる!! ドライヴ・スルー!!」
 チェンジバーソードを三葉虫付喪神に投げつけ、柄を殴ろうとした! しかしっ!!
 「か、かてぇ……」
 腐っても化石。その硬度は並ではない。
 「だったら、ドライヴチェーンソーで……」
 オートは剣を地面に突き立てたが。
 「ハル! さっき教えた事をやりなさいっ!!」
 後ろからサワの声が聞こえた。
 「何っ?」
 「いいから! 今すぐっ、ナウっ!!」
 「ナウって… くそっ、やってやるっ!! トウコ! あいつの動きを止めろ!!」
 「は、はいっ!! 神呪縛!!」
 オートの命令に従い、トウコは御札を投げつけ、三葉虫付喪神の動きを止めた!!
 「よくやった、トウコちゃん!!」
 言って、オートは駆け出し、勢いのまま跳躍、体を大きく捻って!
 「ホイールハンマーキック!!」
 高速回転した足についているタイヤ、そして繰り出される踵落としは三葉虫付喪神の装甲にヒビを入れる!!
 「トドメだっ!!」
 身動きの取れない三葉虫付喪神を足の乗せ、天高く蹴りあげる!!
 それを追いかけ、オートも跳躍!!!
 「ドライヴスル―キック!!」
 自由落下する三葉虫付喪神の背中をオートが蹴りで貫いた!!!

 霊魂を回収したハルト。
 トウコを神社へ送り届け、家に帰る途中。
 「ハル、よくやったね。えらいえらい」
 サワがハルトの頭を撫でた。
 「やめろよっ! 恥ずかしいっ!!」
 ハルトはそんな事を言いながらも、久しぶりにサワに褒めてもらえた事が嬉しかった。

 その日の夜。
 ハルトを真ん中にして、左にはモミジ、右にはサワが寝ていた。
 狭い六畳の部屋にこれだけの人数がいると狭いものだが、モミジは早々に寝息を立てていた。
 そんなモミジが少し羨ましいハルトは、眠れぬ夜を過ごしていた。
 「ねぇ… ハル。起きてる?」
 ふと、隣からサワの声が聞こえた。
 「起きてるよ、サワ」
 彼女も眠れないのだろうか?
 「今日のハル、カッコよかったよ」
 「なんだよ、急に」
 「これなら、もう大丈夫かな…」
 「サワ?」
 トーンが落ちるサワに、ハルトは困惑した。今まで彼女が見せたことがないような表情をしているように思えた。
 「あのね、ハル」
 「ん?」
 「私… 結婚するの」
 ドキリとした。心臓がバクバクいっている。嫌に喉が渇く。けれど、ハルトはそれを悟られない様に…
 「そうか。よかったじゃないか。嫁のもらい手が見つかってさ」
 軽口を叩いてやった。
 「ハルは祝福してくれるの?」
 「も、もちろん。おめでとう、サワ」
 あくまで体は起こさなかった。
 「ありがとね、ハル! 私、幸せになるわ!!」
 ハルトはサワのそんな返事を期待していた。だが、いつまでも返事は帰って来ず…
 「そう、祝福してくれるのね……」
 そう小さくつぶやくだけだった。
 「サワ?」
 「おやすみ、ハル!」
 そうかと思えば、次にはいつもの調子を取り戻したサワは、そう言って今度こそ眠ってしまった。
 「……おやすみ、サワ」
 ハルトもそう呟くと、彼も眠りについた。

 翌朝、サワが作った朝食を食べていると、
 「それじゃ、私、帰るね!」
 と言い出したのだ。
 「おいおいおいおいおい…… いくらなんでも急すぎやしないか?」
 あまりにも突然の事にハルトは驚いた。
 「う~ん、そうなんだけどね。ほら、これでも私、婚約者がいるからさ。他の男の部屋に何泊もするわけにはいかないでしょ!」
 なんて、サワはウィンクを飛ばした。
 「いや、まぁ、そうなんだけどさ…… っていうか、結局、何しに来たんだよ。サワ」
 「う~んとね、一つはGWに帰って来ない不良な弟を説教しに。あと、結婚報告」
 「結婚報告がついでみたいに言うなよ」
 「あはは、そうだね。そう、だね…」
 「サワ?」
 「あぁ、そうそう! これが本題っ!! はい、コレ!」
 そう言って、サワはハルトに何かを投げ渡してきた。
 「おっと… これは?」
 「この子のキーよ」
 サワは自身が乗ってきたバイクを撫でながら言った。
 「いや、そんなのは解ってる。それ、サワの大切なものなんだろ?」
 「うん、まぁね。でも、嫁入りするのにバイクを持っていくのもどうかと思ってさ。このまま車庫で錆びらせるぐらいなら、ハルに預ける方がいいかなって。ハル、中型の免許持ってるでしょ?」
 「いや、まぁ、そうなんだが… 本当にいいのか?」
 「あげる、あげる! その代わりに大事にしなさいよね!」
 「あ、あぁ……」
 「私だと思って大事にしなさいよ……」
 それから沈黙が降り注ぐ。
 「はぁ、湿っぽいのはなしっ! それじゃね、ハル!!」
 サワはそう言うと、元気よく歩き出した。
 「あ、あぁ… サワ! 元気でな!! 幸せになれよ!!」
 ハルトは大きく手を振った。振り返らないサワの後ろ姿が見えなくなるまで。
 「行っちまったか…」
 「嵐のような女ですわね」
 二人の別れを黙って見ていたモミジは、ようやく口を開いた。
 「まったくだな。さて、部屋に戻ろうか、モミジ」
 ハルトはモミジに声をかけると、振り返る。
 「楠木君」
 そんな彼の目の前に2メートル程の筋骨隆々の中年男性が現れた。
 「お、大家さん?」
 この巨大な男は、ハルトが住むアパートの大家だ。タンクトップに半ズボンはデフォルト。
 「楠木君。困るよ。女を連れ込んじゃ。これじゃあ、夜這い……ゴホンっ! とにかく、女が住みつかれると困るんだよ。だから出て行ってくれないか、今日中に」
 「よば…! いや、それより、今日中ですか!?」
 「そ、今日中。それじゃあね。あ、餞別代わりに今月の家賃はいらないから」
 ガチな大家はそれだけ言うと、自分の部屋に戻って行ってしまった。
 「……ど、どうしよう」
 ハルトは大きく項垂れた。
2009-10-02

仮面ライダーオート第07話

 仮面ライダーオート

 前回までの仮面ライダーオートは!
 「グレイモンなのか…」
 目の前の出来事が信じられず、呆然と立ち尽くすナツキ。その目の前に迫り来るのは巨大な火球…メガフレイム!

 ナツキはベルトを巻き、「変身っ!」と叫びキーを差し込み回す!
 ベルトからエンジン音が唸りをあげる! ナツキは、ツアラーバイクを模した仮面ライダーへと姿を変える!
従来のライダーとは違う、隻眼…いや、一つ眼と頬にはウィンカー。オートは違い、マフラーは右の腰に一つ、それもガトリング砲のようだ。左腕にはボウガンにも見えるハンドル。銀と青を基調としたライダーの名は!
 「仮面ライダーギア! いくぞ! グレイモン」

 「ヒートエンジンシュート!!」
 エンジンが発する熱を全て矢に叩き込む! 現代小型兵器の中では最強! 一点突破において、これほど有効なものはない!!
 高速で射ち出される矢は局地的な暴風を纏い、メガフレイムを砕き、グレイモンの左腕をかっさらう!!

 第07話

 ナツキ達を追うハルトとモミジだが、GWということもあって大勢の人が出歩いている。その人ごみの中から二人を探し出す事は出来なかった。
 そして、気づけば日は傾いていた。
 「はぁ… しゃーねぇな。モミジ、神社に行こうぜ」
 捜索を諦めたハルトはため息一つ。
 「は、はい。ハルト様」
 
 上霧神社へ行く途中。おもむろにモミジが口を開いた。
 「ハルト様… あの二人が気がかりですか?」
 「ん? あぁ、アイツら… というか、シスターの方は専門家だから、それなりにプライドがあるんだろうけどさ」
 モミジの三歩先を歩くハルトは振り返らずに答えた。
 「いえ、そうではなく…… ご学友にしても、あの小娘にしても戦闘に支障はないでしょう。それよりもハルト様が気がかりになっているのは、か―――」
 「ストップ」
 ハルトは足を止め振り返ると、モミジの顔の前に手を出した。
 「それ以上は言うなよ。アイツらに、特にトウコちゃんには言うな」
 真剣な眼差しでモミジを見据えるハルト。内心、ドキドキしながらも、モミジは引かなかった。
 「ですが! ですが、何もハルト様だけが罪を背負う必要はありませんわ! 今ならまだ妾が引き受ける事だって」
 「モミジ…」
 彼女の肩に手を置き、優しい眼差し。そして、微笑んだ。
 「ありがとよ。けどな、これは俺がお狐様と契約した時に覚悟していた事だ。だから、気にするな」
 ハルトにそこまで言われると、モミジはそれっきり黙ってしまった。
 それから二人は無言のまま、上霧神社へ歩いて行った。

 上霧家の食卓は、ハルトの他にモミジが加わっている。
 タカヤは別段気にした様子はないし、マイコは家族が増えたと喜んでいた。トウコと言えば…
 「はい、ハルトさん。おみそ汁です」
 「あ、ありがとう……」
 満面の笑みと共に渡されるみそ汁を戸惑いながら受け取る。
 それもこれも、ディケイド――ツカサ達が、この世界にやってきた時に、トウコからの告白の返事として「キミの作ったみそ汁が飲みたい」と言った為に、こうなってしまっている。
 「あらあら、ハルトさん。そんなにおみそ汁が好きだったんですか? だから、トウコったら、最近一生懸命作っていたのね」
 あらゆる意味で無敵のマイコはニコニコと、そんな事を言った。マイコ、トウコの発するニコニコほんわかオーラの傍ら、ピシピシとガラスとか割れそうな程の重いオーラを発しているのは、タカヤとモミジだ。
 「のぉ、トウコや。ワシにもみそ汁をくれないか?」
 タカヤは泣いた子供も失神しそうな笑顔のまま言う。
 「お父さん? ごめんなさい。もうおみそ汁はないの。ごめんね」
 ピキピキッ!
 「(ヒィィィィィ!? タカヤさんの汁椀が割れそうですよ!?)」
 「トウコさん? どうして、こんなにみそ汁を作るんですの?」
 次いでモミジは、あろうことか直球にトウコに尋ねた。
 「(トウコちゃん!? 余計な事は言うなよ!! マイコさんの言う通り、俺がみそ汁大好き人間でいいじゃない?)」
 「えっと… その、この間ハルトさんが『君の作ったみそ汁が飲みたい』って」
 ピキピキ、ガチャン!!
 「ほぉ…… トウコの作ったみそ汁をのぉ…… どーいう意味かのぉ? ハルトくん?」
 「それは是非、妾も聞きたいですわね?」
 迫りくる二大巨塔。
 「えーと…ですね?」
 「アナタ! モミジちゃん!」
 困惑したハルトに救いの手。それはマイコだった。珍しく怒っているように見える。
 「「は、はい!?」」
 マイコの一声はタカヤのみならずモミジも竦みあがらせた。
 「ハルト君は、戦って汗をかくんですよ! 塩モノが欲しくなるのは当然じゃないですか!!」
 的外れだが… ナイスだ! マイコさん!!
 心中、ハルトは満面の笑みで親指を立てている。だが、表には出さない。
 それから、食事は粛々と進んだ。
 外傷はなかったハルトだが、マイコの余計な気遣いのおかげで、紅じゃけは異様に辛く、塩分多過になりそうだった。

 食後はいつも通り、新都のパトロールに出かけた。
 以前と違うのは、ハルトとトウコに加えてモミジも参加している事だ。
 ハルトは付喪神に対する嗅覚とでも言うのか、それが人並み以上に効くのだが、それ以上にモミジの嗅覚は鋭い。
 モミジが発見した付喪神は一体だが、期間が短い事が数の少なさの原因なのだが、ハルトにも捉えられなかった付喪神を発見したのだ。
 ハルトとモミジの火力の前に並みの付喪神など風前の灯であった。
 さておき。
 「ハルト様!!」
 「わかってる!!」
 唐突に声を挙げた二人。解っていないのはトウコだけだ。
 「え? えっ?」
 戸惑うトウコだが、彼女に「付喪神が現れた」とハルトが告げ、共に駆け出した。

 「マフラーガトリング!!」
 「ギア、サードへ!!」
 「おう!!」
 現場へ急行したハルト達。そこではシスター・レイラとギアが既に戦闘を行っていた。
 ギアはベルトのハンドルを動かし、サードギアへ入れる!
 「くそっ! このままやらせるか! いくぞ、モミジ! 変身、イグニッション!!」
 「はい! ハルト様!!」
 ハルトはオートへ変身。モミジは両手に扇子を持ち広げる。
 「相手は… メタルグレイモンか!!」
 グレイモンが半サイボーグ化した姿で、元の姿よりも倍はある巨体、左腕にはクロンデジゾイドメタルで完全機械化したトライデントアーム、頭の兜も同様の金属でメタル化、六枚羽根で飛行能力も獲得したが、強烈な拒否反応から肌の色は青紫に変化してしまった。
 「行くぞ!」
 オートは剣を構え、メタルグレイモンに突っ込んでいく!
 「ハルト!?」
 ガトリングの手を止め、突然の乱入者に驚くギア。そんなギアに叱責の言葉を飛ばすレイラ。
 「ギア! この際よ、あいつもろとも倒しなさい!」
 「させぬよ、小娘ども」
 ギア達の前に立ちふさがるモミジは、二枚の扇で煽ぎ突風をくりだした。
 「きゃあ!」
 「レイラ!?」
 自重がかなりあるギアは踏ん張れば留まれたが、レイラはそうもいかなく吹き飛ばされそうになった。
 「くそっ! 大丈夫か、レイラ」
 浮き上がったレイラの腕を取り救ったギア。そこへ追いうちのようにモミジは更なる暴風を叩きつける。
 「おっほっほっほ! 弱いのぉ。それではハルト様の足手まとい! そこで大人しくしてなさい!!」
 
 「うりゃああああああ!」
 Lギアから繰り出される一撃は速くはない。だが、力強い一撃がメタルグレイモンを強襲する。
 しかし、一向に有効打にはならない。
 「くそったれ! クロンデジゾイドか!」
 メタルグレイモンの装甲はデジモンワールドでは最高の硬度を誇るとされるクロンデジゾイド。易々と傷付けられるものではない!
 ちょこまかと動きまわるオートに苛立ちを隠せないメタルグレイモンはトライデントアームで乱暴に振り払う。
 「うああああああ!? がはっ!」
 弾丸のように飛んだオートは、そのまま壁に叩きつけられる。そこへ追撃してくるのはチェーンで繋がれたトライデントアーム!
 爪の間に体を滑り込ませたオートだが、それでも威力は高く身動きが取れない。さらに追いうちの如く、オートを強襲するのはギガデストロイヤーと呼ばれるメタルグレイモンの必殺技。二発のミサイルが胸のハッチから飛び出し、自身の腕ごとオートを焼き払う!
 「がっ… は……」
 トライデントアームはメタルグレイモンの腕に収まる。あれだけの爆発の中で、少し焦げた程度で済んでいるのは、流石、クロンデジゾイドというべきか…
 倒れるオートに止めを刺そうとするメタルグレイモン。その胸のハッチが開いた。その瞬間!
 「はっ!」
 今まで戦いを見る事しかできなかったトウコが、メタルグレイモンに対して4枚の御札を投げつけた。
 ペラペラの紙であるハズの御札なのだが、真っ直ぐにメタルグレイモンに向かって飛び、その体に張り付いた。
 「神縛呪!」
 トウコの叫びに応じて御札が光り、その動きを止めてしまった。
 「ト、ウコ、ちゃん……?」
 なんとか立ちあがったオート。そんな彼にトウコは
 「ハルトさん! 今です、動きを止めている間に付喪神を!!」
 そんな事、無理だ! 叫びたかった。けれど、オートはトウコの熱い眼差しに気づいた。
 彼女はハルトを信じている。満身創痍の自分が再び立ち上がり、付喪神を倒してくれると…!
 「ったく… 俺を過大評価しすぎると、後悔するぜ……!!」
 チェンジバーソードを杖に立ちあがったオート。
 チェンジバーソードに描かれているのは『P』。パーキングソードでは切れない。リターンブーメランでも無理。ニュートラルウィップでも焦げ目がせいぜい…
 「だったら!!」
 パーキングからドライブへ!!
 剣はその姿を変えた! 剣にしてはあまりにも無骨。斧にしてはあまりにも繊細。分断というただ一点にのみ特化した、それは……
 「ドライブチェーンソー!!」
 フォルムはあくまで剣。だが、そのエッジは回転式の刃が無数に並び、超高速回転している!!
 「フルアクセルドライヴ!!」
 超高速で移動したオートは、気づけばメタルグレイモンの真後ろに居た。
 メタルグレイモンの体は縦に真っ二つに切られ、声もなく爆発してしまった。

 オートはチェーンソーの回転を止める。
 そして、駆け寄ってくるトウコを抱きとめた。
 「ハルトさん! 大丈夫ですか? わ、わたし… 無茶を言ってしまって……」
 泣きじゃくるトウコを抱きしめ、その頭を優しく撫でるオート。
 「いいんだ。俺を信じてくれてありがとう。トウコちゃん」
 「ハルト様!! 妾も! 妾もハルト様を信じていましたわ!! だから、抱きしめて!! それよりも鞭で叩いて!!」
 「ちょっと、アナタ! よく私の邪魔をしてくれたわね!!」
 「ハルト… 大丈夫なのか?」
 オートの周りにみんなが集まってきた。
 戦いの後で、割と怪我をしているオートは嬉しくもあり、うんざりもしていたり。

 ―――だから、気づけなかった。

 「見つけたよ、ハルト」
 真紅のバイクにまたがったライダースーツの女が現れた。
 女はフルフェイスのヘルメットを取ると、自前の茶髪が揺れ、美しい顔立ちが現れた。
 「まさか…… サワ!?」
 「何ィィィィィィ!?」
 オートが女性の名前を呼ぶと、それに嫌に反応したのはナツキだった。
 「ハル。それにナツ。GWに帰って来なかったと思ったら、女の子をたくさん囲んで楽しい気分? へぇ、いい度胸ね?」
 ライダースーツの女の名前は池澤サワ。ハルトとナツキの幼馴染で歳は一つ上。普段は優しいのだが、予定を崩されると悪鬼羅刹の如く……
 「さ、説明してもらおうかしら? そのヘンテコなコスプレと女の子の関係と、この爆発と」
 「あ、あの… サワ…?」
 「包み隠さず、全て、全部、オール!!」
 一言一言、一歩一歩。サワはオートに向かって歩いてくる。
 「ウォォォォォォ!! ニンゲン!! 俺の邪魔をするなぁ!!!!」
 突如、炎を消し去るほどの咆哮がオート達を襲う!!
 炎の中から姿を現したのは、メタルグレイモンの進化した姿、ウォーグレイモン。2メートル程の体躯と小型化したが戦闘能力はデジモンの中でもトップクラス。完全武装は全てクロンデジゾイドメタル。
 ウォーグレイモンは一直線にオートめがけて飛んできた!! オートよりも先に立つのはサワ。
 「やめろ! サワぁぁぁぁぁぁ!!?」
 
 つづく。
2009-08-05

仮面ライダーオート第06話

 仮面ライダーオート

 第06話『ギア誕生』
 今はGW真っ只中。暇を持て余していたハルトは、新しい同居人であるモミジと二人で将棋を指していた。
 「桂馬の高飛び歩の餌食じゃの、ハルト様」
 黄色と黒の派手な、大きく胸元を開いて豊満な胸を見せつけるように着ている着物は高貴な気高さと娼婦のような妖艶さをかもしだしている常識外れの美人の付喪神、もみじ姫…モミジが妖しく笑った。
 「先読みが甘いぞ、モミジっ! 王手飛車取りだっ!」
 六畳一間の安っぽい部屋、将棋盤を挟んでモミジの前に座っているのは、春先までは普通の大学生だった楠木ハルトだ。
 「ハルト様… 先読みが甘いのは、妾ではなく、ハルト様では?」
 モミジは大将ににじり寄っていた金将を銀将で討ち取った。
 「うえ!? だぁ! ダメだ、勝てねぇ! モミジ強すぎだ~」
 ハルトは盤面の駒を巻き込んで倒れた。
 「あぁ! ハルト様ぁ~、それは反則じゃぞ!」
 モミジは抗議の声を上げた。だが、ハルトは特に気にした様子はない。むしろ、してやったり!といった表情だ。
 モミジがブーブー文句を言っている隣、ハルトのケータイが一昔前に解散したガールズバンドのアルバム曲を鳴らした。
 「あ、ハルト様。ケータイが鳴っていますわ」
 モミジはケータイを取ると、両手でハルトに差し出してきた。
 ハルトの家に居候し始めた頃には、ケータイが鳴る度に驚き「アヤカシの類いか!?」と大騒ぎ。自分が付喪神であることを忘れているのだろうか?なんて疑念を抱いたものだが、今ではすっかり慣れたようで。DVDレコーダーもパソコンも扱えるようになっている。基本的には頭がいい娘なのだろう。
 さておき、モミジにケータイを手渡され、ディスプレイに出ていたのは、桜庭ナツキの名前であった。
 桜庭ナツキと言えば、ハルトの幼馴染みで同じ大学に通う、エキゾチック系のハンサムである。その容姿上にモテるのだが、今のところは特定の恋人を作っている様子はない。
 「もしもし」
 「おっ、ハルトか? 今、暇か?」
 「まぁ、暇を潰していたといえば、そうなんだけど」
 「そっかそっか。それなら、『あとりえオガワ』に来いよ」
 「ん? あぁ、わかった。お前が昼飯を奢ってくれるならな」
 「は? そんなことは一言も――」
 ぽちっと電源ボタンを押したハルト。ケータイを折り畳むとポケットに財布とねじ込み立ち上がった。
 「ハルト様、お出掛けですか?」
 先ほどの対局を再現しようと、駒を並べていたモミジが、どこか寂しそうに言った。
 「おう。なんだったら、モミジも行くか?」
 ハルトがそう訪ねると、モミジは嬉しそうな顔をして、「はいっ」と答えた。

 『あとりえオガワ』へ向かう道中、ハルトは以前からの疑問をモミジへ投げ掛けていた。
 「付喪神って、日中は行動できないんじゃないのか?」
 「え? そんな、原作者が忘れているような疑問を… いいですわ。答えは単純ですわ。妾が高位の付喪神であることと、憑依しているからですわ」
 原則、付喪神は太陽(アマテラス)の下には出てこれないのだが、時折例外が存在する。その例外…というよりは、条件を満たした場合と言った方が正しいだろう。
 まず、最大の条件は憑依していることである。魂だけの付喪神が太陽の下に出てくるのは、真っ裸でマグマに飛び込むようなものだ。憑依…モミジの場合、クレーン車が丁度防護服の役割を満たしているといった所だ。
 その次の条件は、高位であること。いくら防護服があるからと言っても、肌が弱い… 魂が脆ければ、服が熱を通して肌を焼いてしまう。だが、高位の魂は格段に頑丈になっていくので、焼けずに済むということだ。
 余談ではあるが、日中の剥き出しの付喪神は、自分で産み出した小さな結界…離界へと避難している。また、憑依した付喪神は直射日光に当たらなければ平気らしい。
 「あぁ、だから日傘」
 話を聞いて納得したハルトは、黄色と黒のド派手な着物に男物の黒い傘を広げた、かなり目立つモミジの格好に納得していた。
 …本当によく目立つ。今すぐにでもモミジを置き去りにすればよかった。規格外の美人が変な格好をしているのだら、一緒にいるハルトも否応なしに目立つ。
 こんな恥ずかしい思いをするのは、トウコが可愛くてプラチナブロンドの髪で巫女服だった時以来だ。なんて、ハルトは苦笑した。
 モミジは、そんなハルトの様子が面白くないのか、ムスッとしていた。
 
 「ちわーす」
 「邪魔するぞ」
 ハルトとモミジは、『あとりえオガワ』の戸を開き入店する。
 「あ」
 「あ」
 先にやってきていたナツキは、ハルトよりも一緒に入ってきたモミジを見て。
 入店してきたモミジは、先に来ていたナツキを見て。
 「「お前は!!」」
 声を揃えて、
 「あの時の怪人!?」
 「あの時の仮面ライダー!?」
 と。ちなみに、ナツキはモミジを指して『怪人』と。モミジはナツキを指して『仮面ライダー』と。
 「え゛!?」
 ハルトは二人の発言に加えて、ナツキの隣に座る金髪ツインテールで碧眼でシスター服を着ている少女を見て声を出していた。
 「この間の… シスター?」
 奇しくも4人中、3人は驚きの声を挙げずにはいられなかったようだ。

 レイア・グラニデというのは、シスターさんの名前らしい。
 一応、ハルトとナツキはお互いの連れを紹介すると、どうしようもない沈黙が降りる。
 「はぁ… 面倒だな。ナツキ、どういうことだよ? お前が、この間の『ギア』なのか?」
 沈黙に耐えかねたハルトは、頭を掻きむしりながらナツキに言う。
 「と言う事は、ハルト… お前、やっぱり、あの場にいたライダーなんだな?」
 質問に質問で返すナツキだが、それは肯定と同じ意味である。
 「あぁ、そうだ。俺が仮面ライダーオート。この地に封印された付喪神… それも荒魂(あらみたま)を狩るのが俺の仕事、みたいな事になってる」
 ハルトは、誤魔化しようがないと判断したのだろう。自分が今までやってきた事をナツキに話した。
 長く使われたモノや生きたモノに魂が宿り意志を持つ、付喪神。
 その中でも、大きく二分すると、ハルトに力を与えた太古の大妖にして上霧家の先祖と共に戦った和魂(にきたま)である、言うなれば正義の付喪神のお狐様の事を。
 それぞれの邪心を胸にした悪の付喪神である、荒魂(あらみたま)の事を。
 モミジは元は荒魂であったが、ハルトの調教(?)により和魂となり共に戦うようになった事を。
 「……そうか、それで、お前はあんなに眠そうだったんだな」
 「ま、そういうこった。で? お前はどうなんだ、ナツキ?」
 「参ったな。流石、長らく付き合ってきただけはあるな。こうなったら、俺も洗いざらい話すしかない、な?」
 そう言って、ナツキはレイラの方を見る。レイラはメロンソーダの入ったグラスに刺さるストローを口にしたまま、
 「ふん! 好きにすればいいじゃない」
 なんて言っていた。

 それは、ハルトとトウコがモミジと争う日よりも少し前の事だ。
 その頃はハルトとトウコが街中を巡回している時刻。だが、ナツキはそんな事を知らずに、友人に誘われていった合コンに顔を出した後だった。
 ナツキの異様なモテっぷりに、ナツキを誘った友人ではない別の友人は怒っていたように思う。
 だが、ナツキには、そんな事はどうでもよかった。今の所、特定の恋人を作るつもりなんてなかったし、友人に誘われて行った合コンに顔を出して怒られる筋合いはないのだ。
 まぁ、ある種の傍若無人さを感じるところはあるのだが、これが桜庭ナツキという人物である。
 さておき。
 丁度、駅前に差し掛かった所、見知らぬ少女から声をかけられた。
 「そこのアナタ。少し時間はいいかしら?」
 見知らぬ少女――名はレイラ・グラニデ。金色のツインテールを揺らしているだけでも目立つが、それに加えてシスター服を着用しているので、より目立つ。
 ナツキは、関わりたくないなぁ、なんて思うが無視すると物凄く怒るだろうなと、ため息。
 「なんですか?」
 「ようやく話が出来るようになったわ。この国の人間は冷たくていけないわね。これでよく国際化だなんて叫んでいるわ」
 レイラは返事をしたナツキを無視して、嘆息して愚痴を溢す。
 「あら失礼。私は対魔組織アリスマジックのレイラよ。アナタの名前は?」
 彼女の自己紹介は、確実にアレだ。やばい。下手をしたら、新興宗教より危険かもしれない。だって、対魔組織だぞ? アリスマジックってなんだよ!?
 ナツキは正直に答えるべきか、かなり判断に困っている。そんなナツキの態度にシビレを切らしたレイラ。
 「ちょっと黙ってないで答えなさい!」
 「は、はい! 私の名前は桜庭ナツキです! 正直に答えたから呪わないで!」
 「呪―って、しないわよっ! 道案内をお願いしたいの」
 「道案内ですか? はぁ」
 どうやら新興宗教の勧誘ではないらしい。まぁ、普通に考えたら――
 「で、何処に行きたいんだ?」
 ようやく自分のキャラを思い出したナツキ。
 「郊外に行きたいの。そこに…」
 言葉を濁したレイラ。なんだか様子がオカシイとは思いつつも、ナツキは彼女が漠然と指差す方へ向かって歩き出した。
 
 レイラ・グラニデは対魔組織アリスマジックでは有名である。数々の悪魔や怪物を相手に勝利を納めてきた。
 そんなエリートの彼女に与えられた指令かつ昇進試験となったのは、日本で大量の魔力反応が見られたため、原因の究明と事態の終息であった。
 
 なんて話をされたものの、シスター服である事以外、信用に足る要素がないのでナツキは話し半分にしか聞いてなかった。
 「ここよ」
 不意に足を止めたレイラ。その視線の先には…
 「アグモン!?」
 二足歩行する黄色いトカゲ、あるいは恐竜の子供のようにも見える生物は、過去にブームを巻き起こしたデジモンのキャラクターの一つであった。
 デジモン…デジタルモンスターはネットの世界に生息する電子生命体であり、携帯ゲーム機の中で育て友達と対戦するというゲームなのだが、同時期に流行っていたポケモン人気に圧倒されてしまった。今でも根強いファンは多いし海外ではドラゴンボール、ポケモンと並ぶほどの人気だが、日本では既に過去の遺産。付喪神になるのも頷ける。
 そのアグモンは、呆然とするナツキをよそに敵意剥き出しのレイラに身の危険を察知したのか、身構え、そして…
 アグモンの数倍の大きさにオレンジの肌、顔を覆う黒いカブトを纏った姿へ進化した。
 「グレイモンなのか…」
 目の前の出来事が信じられず、呆然と立ち尽くすナツキ。その目の前に迫り来るのは巨大な火球…メガフレイム!
 「危ないっ!」
 間一髪! ナツキの命を救ったのはレイラだった。
 「しっかりしなさい!」
 そう言われ、ナツキは自分が置かれている状況の特異性に気付いた。
 「なんだよ、これは! なんだってんだ!?」
 「ごめんなさい… 私が案内させたばかりに、巻き込んでしまったわ」
 取り乱すナツキに、今まで勝ち気だった少女が本当に申し訳なさそうにしている姿は、冷や水をかける。
 「悪い… 俺がしっかりしなくちゃな」
 パチンと両手で頬を叩き気合いを入れる。
 「よっしゃ! それで、この状況から脱出するにはどうすればいい?」
 「えっ? あ、あの…」
 ナツキの変貌に戸惑うが、追求はしなかった。レイラの瞳には、ナツキを巻き込んでしまった自責から来る弱気から、対魔組織アリスマジックのエースである勝ち気で自信に溢れたものへと変化する。
 「よく聞いて。この地に現れた悪魔は、どういうワケか実体をもっているの」
 レイラが今まで相手にしてきたのは、曰く精神体。付喪神に言い換えるなら、霊魂のままの相手だ。
 「私に出来るのは、あのバケモノから精神体をひっぺがしてからなの」
 「オイオイ… それじゃあ、手の打ちようがないじゃないか! それに相手は逃がしてくれそうにないぞ?」
 「えぇ。だから、これをアナタに」
 そう言って、レイラが取り出したのは大きくなバックルがついたベルトとキーだった。
 「これは?」
 「ウチの技術者が作った変身ベルトよ。こんな事もあろうかと準備してもらったの」
 ナツキはベルトを受けとる。
 「自分で使わなくていいのか?」
 「えぇ。私じゃ身長が足りないし… それにアナタの方が件か馴れしてそうだしね」
 レイラはウィンクを一つ。
 「オーライ。やってやるぜ!」
 ナツキはベルトを巻き、「変身っ!」と叫びキーを差し込み回す!
 ベルトからエンジン音が唸りをあげる! ナツキは、ツアラーバイクを模した仮面ライダーへと姿を変える!
従来のライダーとは違う、隻眼…いや、一つ眼と頬にはウィンカー。オートは違い、マフラーは右の腰に一つ、それもガトリング砲のようだ。左腕にはボウガンにも見えるハンドル。銀と青を基調としたライダーの名は!
 「仮面ライダーギア! いくぞ! グレイモン」
 ナツキの頭の中にギアベルトの使い方が流れてくる。
 腰に付いているガトリングを手に取り乱射する。残弾は尽きない、弾は空気を圧縮したもの。一分間で二百発!
 空気のツブテがグレイモンを襲う!
 グォォォォォォォォォ!
 だが、グレイモンの肌には掠り傷をつけるだけで、余計に怒らせただけだ。
 「おいおいおい… これ、効かねぇぞ!」
 ナツキは文句を言いながらも、射撃の手を止めない。
 「ギア、バックルに付いているハンドレバーを反対へ動かして! ギアベルトのギアを上げられるハズ!」
 「ハンドル? これか!」
 ギアはハンドルに手を付け、動かす!
 ガチャリ、ギアがロウからセカンドへ!
 グォォォォォォォォォ!?
 ギアが切り替わると同時にグレイモンの声に変化がみられた。
 明らかに苦しんでいる声だ!
 「よっし! ギアサード!」
 呼応してガトリングは唸りをあげる!!
 「ナツキ! ハンドルボウガンを!」
 「おうっ!」
 ギアはレイラに従いガトリングを止め、左腕をグレイモンに向けて真っ直ぐと伸ばす。
 空気のツブテの強襲が終わり、身動きが取れるようになったグレイモンはギアに向かってメガフレイムを吐き出した!
 だが、ギアは避けない。ただ真っ直ぐにグレイモンに向かって腕を伸ばしている。その腕には変化が! 明らかな熱を持った矢が蒸発しそうな程だ。
 「ヒートエンジンシュート!!」
 エンジンが発する熱を全て矢に叩き込む! 現代小型兵器の中では最強! 一点突破において、これほど有効なものはない!!
 高速で射ち出される矢は局地的な暴風を纏い、メガフレイムを砕き、グレイモンの左腕をかっさらう!!
 
 「これが俺の限界だっ!」
 そう吐き捨てるように言い、ギアは大の字に倒れた。
 「ちょっと! 逃げちゃうじゃない!」
 ナツキに駆け寄ったレイラは、胸ぐらを掴み揺らす。だが、その時にはグレイモンの姿は消えていた。
 「いいじゃん、別に。一応、難は免れたんだし」
 どーでもいい、そんな感じでナツキは言う。
 「もぉ! こうなったら、手伝ってもらうわよ、最後まで!」
 怒るレイラに、極度の疲労に眠気が隠せないナツキは、適当に返事をして気を失った。

 「――というわけで、現在に至る」
 ようやく語り終えたナツキは満足げに頷くと、コーヒーを啜った。
 「うん、なんか大切な事をすっとばされた気がするぞ」
 例えば、気絶した後とか。
 「もういいじゃん、そんな事。俺はギアとしてレイラと戦うから。ハルト、お前が危険な事をやる必要はないよ」
 「いや… お前、グレイモン、取り逃がしてるじゃん。悪いけど、俺は全勝中だぞ?」
 ハルトに言われ、ナツキは引き下がりそうになった。しかし。
 「いいえ、素人は引っ込んでなさい」
 口をはさんだのはレイラだった。
 「この案件は我々アリスマジックが引き受けるわ。それに…」
 キッとハルトとモミジを睨んだ。
 「あなた達だって、掃討対象なのよ」
 そう言うと、レイラは立ちあがり『あとりえオガワ』を出て行ってしまった。
 「あ、おい! レイラ!! 悪ぃ、ハルト。俺、行くわ」
 ナツキはテーブルに千円札を置いて、レイラを追いかけて行った。
 「ハルト様、どうします? よろしければ、あの生意気な小娘は妾が始末しますわよ?」
 妖しく微笑むモミジ。ハルトはモミジの頭を軽く叩き、
 「バカな事言うなよ、な?」
 真剣な表情をした。モミジはそんな彼の表情にドキリとして、それ以上は何も言わなかった。
 「さて、と。俺達もそろそろ行こうぜ」
 そう言って立ちあがったハルト。その肩にポンっと手を置いてにっこりほほ笑むのは、タカヨだった。
 「ハルトくん」
 「な、なんですか? タカヨさん」
 「ナツキくんの支払いが足りないの。悪いけど、一緒に払って行って?」
 有無を言わせぬ無敵の笑顔に気圧されたハルトは、余分に240円支払って店を出た。ナツキに倍返しさせようと胸に秘めながら。

一方、その頃、トウコは…
 「あぁん… ハルトさん… むにゃむにゃ……」
 何の夢を見ているのか… いずれにせよ、幸せそうに眠っていた。
2009-07-20

仮面ライダーオート第05話

 第05話
 ゴールデンウィークを間近にした四月の末。毎年、ゴールデンウィークは学校も休校となるのでナツキと共に実家に帰っていたのだが、今年は帰ることが出来なかった。ツクモガミの件があるからだ。
 「悪い、今年は帰れそうにもないよ」
 ハルトは電話越しに頭を下げていた。電話の相手はハルトの母、楠木ミズホである。
 「ちょっとォ! それじゃあ、毎年帰ってくるのを楽しみにしているサワちゃんの気持ちはどうなるのよっ!」
 おおよそ21歳の息子がいるとは思えない口ぶりである。ちなみにサワというのは、ハルトとナツキの幼馴染みで彼らよりも一つ上の女性、池澤サワの事である。
 「いや、楽しみにって… サワも社会人なんだから分別ぐらい…」
 言いかけて、ハルトは言葉を遮った。
 確かにサワは基本的に優しい。少々の事では怒らない。例えば、着替えている所に、事故で乗り込んだとしても、「あら何? ハルってば、そんなにオネーサンの体に興味深々? 触ってみる?」と鉄拳制裁もなく、恥じらうどころか脱ぎ出す始末である。繰り返すがサワは優しい。ズレているぐらいだ。だが…
 だが、彼女は予定調和が乱されるのを嫌うのだ。ゲームで負けて癇癪をおこすわけじゃない。自身で決めたスケジュールが乱されるのが嫌なのだ。
 彼らが小さかった頃、休みの日に遊びに行く約束をしていたのだが、前日にクラスメイトに「女と遊びに行くのかよ~」なんてからかわれ、恥ずかしさのあまり、彼女との約束を破ってしまった。無論、すっぽかす事は出来ず、適当に理由をつけて断ったのだが、一週間は口を聞いてもらえなかった。それだけなら可愛いものだが、嘘もクラスメイトの件も彼女の耳に入る事になり、その日の放課後はボコボコされた。更に一ヶ月も口を聞いてくれなくなった。
 これを我儘と捉えるのかはさておき。とにかくハルトは久しく会っていない幼馴染の影に身震いをした。
 「まぁいいや。とりあえず、今年は帰って来ないのね!」
 「あ、あ~ あぁ…」
 「そう。それじゃ、サワちゃんには『彼女が出来たから帰れなくなった』って伝えておくわね☆」
 「お、お母さま!?」
 「じゃ!」
 「おかあ… 切りやがった………」
 回線が切れた音を規則正しく鳴らす受話器を持ったハルトは、ガクリと項垂れた。

 喫茶店『あとりえオガワ』。カウンター席で一人、無言で神に祈りをささげる男がいた。楠木ハルトだ。
 タカヨに出されたコーヒーはすっかりと冷めてしまったが、そんな事は気にせずに、ただひたすらに祈っていた。
 「ちわーす。タカヨさん、マスター……と、ハルトか?」
 お昼時。能天気な声と共にやってきたのは、ナツキだった。
 「タカヨさん、あれどうしたんですか?」
 タカヨを呼び寄せたナツキは、ハルトを指さしながら小声で言った。
 「それがわからないのよ… 入ってくるなりカウンター席に座って、あの状態。もう一時間になるかなぁ… せっかくコーヒーだしたのに」
 彼女はハルトの様子よりもコーヒーが冷めてしまった事を心配している様子だ。
 ナツキはタカヨから何も聞き出せないと解ると、コーヒーを注文してハルトの隣に腰を下ろした。
 「ハルト、どうしたんだ?」
 「……な、つき、か?」
 ナツキの声に、ようやくハルトは顔を上げた。顔面蒼白。血の気が失せたような、そんな雰囲気である。
 「ど、どうしよう…」
 「何があったんだ? 話してみろよ」
 「実は――――」
 
 「何ィィィィィィィィィィィ!?」
 「……」
 「ま、マズイぞ!? それはマズイ!」
 ハルトは一通り話し終えると、ナツキもハルト同様に顔を青くした。
 「ねぇねぇ、どゆこと? そんなにサワって人が怖いの?」
 二人の会話の中にタカヨが混じってきた。
 「あ、あぁ… 俺もナツキも多少喧嘩慣れしているけどさ…」
 「俺ら、サワねぇに勝てた試しがない……」
 人に話して気分が落ち着いたのか、タカヨに答えたハルト。そして、一気にテンションが下がってしまったナツキが言葉をつなげた。
 「ず、随分と豪快ね… サワさん」
 「豪快というか… 豪力?」
 「あぁ、そして疾風の如くだ」
 絶望する二人。
 「で、でも、ゴールデンウィークには帰れないでしょ? 次に帰るとしたら夏休みだし……」
 「「それだっ!!」」
 ユニゾンする幼馴染。
 「あぁ… タカヨさん、僕には貴女が天使に… いえ、女神に見えますっ! というわけで、ざるうどんをお願いします」
 ハルトは救いの女神タカヨに感謝しつつ、安心したのか急に腹が減り注文する。
 「タカヨさん… 俺、貴女になら抱かれて――っ!?」
 ナツキは救いの女神タカヨに感謝しつつ、安心を体で表現しようと抱きつこうとしたが、タカヨの鉄拳が鼻がしらを急襲した。
 
 ちなみに、先ほどの『多少』と言うのは、二人が高校生だった頃に不良の彼女がナツキに一目惚れしてしまった際に起きたゴタゴタである。
 そして、喫茶店『あとりえオガワ』のざるうどんはマスター自慢の手打ちであり、非常に美味かった。

 「う~ん、食った食った! 腹いっぱい!」
 神社の境内。ハルトは大きく伸びをしながら満足そうに言った。
 「そんなに美味しかったですか? あのエビフライ」
 「おうっ! あんなに美味いと食が進むね! それに、昼飯はざるうどんで腹も減ってたしっ!」
 「えへへ… あの、エビフライ、私が揚げたんです」
 「マジ!? トウコちゃん、料理上手なんだね! きっといいお嫁―――っ!?」
 刹那、ハルトはものすごい殺気を帯びた物体の飛来に反応して、体を反らして避けた。
 「げ、げた…?」
 地面に落ちていたのは、ゲタ。そして飛んできた方を見ると、鬼のような顔をしたタカヤであった。
 「小僧っ!! テメェには、ぜってぇトウコはやらねぇからなっ!!」
 ダンダンと地団太。
 「やかましいわっ! さっさと子離れしろ、ひげオヤジっ!! …あ、やべ、顔面」
 言い返し、ゲタを投げ返すハルト。彼の投げたゲタは見事にタカヤの顔にぶつかった。
 「逃げ…… いや、パトロールに行こう。トウコちゃん!」
 「えっ? はわわ!」 
 タカヤが起きてくる前にと、ハルトはトウコの腕を掴んで走りだしていた。

 随分と走っていたので、夜とは言え二人とも汗をかいてしまった。
 「悪い悪い…」
 「いえいえ。私、途中からなんだか楽しくなってきちゃって」
 あはは、と彼女が笑う。
 「俺もだよ」
 うはは、と彼が笑う。
 「あ、そうだ。トウコちゃん」
 「はい?」
 「服、買ってみない?」
 「えっ?」
 唐突な話にトウコは何を言われたのか解らぬまま―――
 気づけば、試着室の中にいた。
 「お客様、大変よくお似合いです」
 などとテンプレのように言う店員の言葉に素直に喜ぶのは、トウコぐらいのものだろう。
 「あの… 本当に大丈夫でしょうか? ハルトさん、笑ったりしませんか?」
 トウコは基本的に家族とハルト以外とは喋らない。人見知り、というわけではなく喋る機会がなかったのだ。
 さておき、店員は『ハルト』と言われても解らなかったが、たぶん一緒に来ていた冴えない男性の事だろうと思い、
 「えぇ。カレシさんも喜ぶと思いますよ」
 と答えた。

 少し時期には早いが、白い半袖のワンピースに桜色のカーディガンを着たトウコは、巫女服ではないためかそわそわとしていた。
 そんな彼女の仕草にハルトは、
 「大丈夫、よく似合ってるよ」
 と言い、自分のセリフの甘さに背中がかゆくなる思いだ。
 「え、えへへ…」
 だが、トウコは嬉しさが隠しきれずに笑みをこぼした。
 それだけトウコが喜んでくれるなら、今月の娯楽費(主にゲーム)を盛大に節約するのも悪くはないな、なんて思う。
 
 それから暫く歩いていると、老舗呉服店の側までやってきた。
 この店は新都が出来るよりも更に古い店だったが、新都設立を機に店を建て変え、デザイン性の高い着物を扱うようになった。
 無論、古くからの着物も多数展示されており…
 「当然、付喪神が現れるよな… イグニッションっ!」
 「よく気づいたのぉ、狐」
 オートの前に現れたのは、高貴な存在でありながら娼婦のようにも見える妖艶な女性だった。胸元を大きく開いた着物は黒や赤、金色と豪華絢爛。髪は長いが時代劇に出てくるような髪型ではなく、縛らずに綺麗に髪を揺らしている。
 「今までの付喪神とは格が違う…… トウコちゃん、下がってっ!」
 「は、はいっ!!」
 オートはトウコを下がらせると、付喪神と対面する。
 「ぬし、なかなか慧眼だの… どれ、わらわに従ってはみぬか?」
 そう言って胸元をもう少し開いてくる。
 「非常に魅力的な提案だな… けど、背中に刺さる視線が痛いから辞退するぜ」
 オートがちらりと後ろを振り向くと、恨めしそうにジト目でオートを見ているトウコの姿が目に入り、慌てて前を向いた。
 「……ハルトさん、やっぱりえっちぃのがいいですか?」
 聞こえない聞こえない。トウコちゃんの呪詛みたいな言葉は聞こえませんっ!!
 「ならば仕方がないのぉ。では、もみじ姫の華麗な舞と共に散るが良い」
 付喪神…もみじ姫は、鉄扇を両手に持ち、風のような舞と共にオートを急襲するっ!
 一見無駄に見える動きも次への攻撃の布石! 華麗なる連撃をかわし、受け、いなす!
 「ちっ! うっとうしいっ!!」
 オートは半ば乱暴に剣を振うと、鉄扇を打ち返した。そして、バックステップで距離を空けると、剣をパーキングからリバースへ!
 「食らえっ!!」
 繰り出されるブーメラン! だが、もみじ姫は容易く受け流し、あろうことか鉄扇を投げつけてきた。
 「!?」
 突然の事に驚き、オートは胸部に鉄扇の直撃を食らった。だが、バク転で体制を取ると帰ってきたブーメランを受け止めた。
 「ほぉ… やるのぉ、ぬし。やはり、わらわと一緒に来ぬか?」
 「…断るっ!」
 「なんで間があったんですか? ハルトさん」
 …後ろから怨嗟のような空気が流れてなんてきてない、きてない。
 「ふむ… もしや、そのおなごに尻に敷かれておるのかえ? ならば、わらわが始末してやろうぞ」 
 どうにもオートを痛く気に入ったもみじ姫は、鉄扇をトウコへ向かって投げようとした。
 「ギア、撃ちなさいっ!」
 その時、何処からともなく三人目の女の子の声が聞こえた。同時にテレビでしか聞いたことがないような機関銃の音が街中に響く!
 「!?」
 咄嗟の出来事だったが、もみじ姫は鉄扇を広げ弾丸を全て弾いていた。
 「受け止めたのね? でも、遅いわっ! ギア!」
 薄暗い闇の中から現れたのは、シスター服の金髪の少女と、それに付き従う従者に見える……
 「「仮面ライダー!?」」
 オートとトウコ思わず声を上げていた。それもそのハズだ。シスターと共に現れたのは、緑と黒を基調にしたバイクを彷彿させる仮面ライダー。背中には羽根のように二輪の車輪が、右の腰にはマフラーのようなガトリング銃、左腕にはハンドルのようなボウガンが装備されていた。
 ギアと呼ばれた従者は、ハンドルボウガンをもみじ姫に向けると、発射。着弾と同時に鎖が展開して、もみじ姫を拘束する。
 「あっ」
 …もみじ姫の語尾にハートがついたかもしれない。
 さておき。身動きを取れなくなったもみじ姫に、向かって宝石で削り出したような短剣を握りしめたシスターが走って行く!
 「悪霊は地獄へ帰りなさいっ!! その胸と共にっ!!」
 後半、私怨のようにも聞こえたが… シスターの短剣はもみじ姫には届かなかった。寸前、拘束を引きちぎったもみじ姫は強烈な風圧でシスターを弾き飛ばしたのだ。
 「レイラ! だから言わんこっちゃないんだ。今日は引くぞ!」
 すっかりと目を回しているシスターを抱えて、ギアはさっそうとその場から逃げ出した。
 「な、なんだったんだ…?」
 「わらわに聞くな」
 仕切り直し。
 「もう一度、聞こうかの。ぬし――」
 「断るっ!」
 「ハルトさん!」
 「ならば、死んで後悔せよ」
 再び舞と共に向かってくるもみじ姫。
 「やれるもんなら――」
 オートは、剣をパーキングからニュートラルへっ!
 「――やってみなっ!」
 剣から芯が抜けたように、へちゃりとしてしまう。それどころか細く、そして長くっ!
 「ニュートラルウィップ!」
 バチンッ!と地面を叩く音は鞭。ニュートラルは、剣を鞭へと変形させる!
 「行くぜぇ!!」
 大きく振りかぶり、向かってくるもみじ姫に一発。 
 「きゃ」
 意外に可愛い声を出す姫。だが、オートは油断しない。最初は力強く… セカンド、サード、トップへとギアが変わるたびに鞭打つ速度は加速するっ!!
 「ああん♪」
 なんだか、悦んでいる姫。
 「………ぴ、ピストンドライヴ!!」
 若干、動揺したオートだが、最大加速した鞭を幾度となく叩きつけ、それはピストンのように姫にぶつかるごとに爆発を巻き起こす!
 「フィニッシュ!!」
 バチンッッッ!!と最後の一撃を叩きこむと、もみじ姫は爆発した。
 そして、胸のハッチを開き霊魂を回収しようとした、が!
 霊魂はオートのサーキュレートを逃れ、近くにあったクレーン車に乗り移ってしまった。
 「うそ!?」
 クレーン車は姿を変え、人間程の大きさになると、再びもみじ姫の姿を現した。ただし先ほどの着物のようだが鎧のようにも見える、クレーン車の黄色と黒を基調としている。
 「まだ、やるのか! もみじ姫!」
 オートは叫ぶが、もみじ姫は、しなやかに歩いてくると、オートの前に座ると深々と頭を下げた。
 「どうぞ、紅葉とお呼び捨てください。ご主人様……」
 「はっ?」
 「えっ?」
 どちらとはわからないが、オートもトウコも素っ頓狂な声を挙げていた。
 「あれほどの快楽を味わった事はありませぬ。あれほどの事を知っているご主人様なら軍門に下るべきは、わらわのほう… 末永く、どうぞ、末永くよろしくお願いいたします」
 「何ィィィィィィ!?」
 「ハルトさん……」
 変身を解いたハルトの服にしがみつくトウコ。
 トウコにライバル出現か?

 つづく
2009-06-23

仮面ライダーオート第04話

 第04話『オートの世界! 二人の距離』

 「ここは… オートの世界…?」
 新都郊外の森の中に、銀色のオーロラの中から三人の男女が姿を現した。長身の青年は、森の中を見回すと呟いていた。
 「オートですか? でも、仮面ライダーはツカサくんを含めて10人じゃないんですか?」
 紅一点。モデルのようにすらっとしている髪の長い女の子は、長身の青年を見上げて疑問を投げかける。
 「クウガ、キバ、龍騎、ブレイド、ファイズ、アギト、電王、カブト、響鬼、それでディケイド。確かに10人だ」
 女の子と同じぐらいの身長の人懐っこい犬のような顔の青年は指折り数えてながら納得する。
 「多分だが―――」
 「きゃあああああ!」
 長身の青年が何かを言おうとした瞬間、近くで女の子の悲鳴が聞こえた。
 「ツカサくん、ユウスケくん!」
 「ツカサ!」
 「わかってる! 行くぞ!!」
 長身の青年は二人に促され、悲鳴の聞こえた方へ走りだしていた。

 そこでは、バッタの怪人…仮面ライダー1号が、今まさに巫女服を着た少女に止めをさそうとしていた。
 「うりゃ!」
 間一髪。男二人の蹴りが1号の横腹を叩いた。
 「行くぞ、ユウスケ!」
 「おう!」
 そう言うと、長身の青年はベルトを取り出すと、それを腰に巻きつける。そして、一枚のカードを差し込み、お腹の前で腕を交差させた!
 犬のような青年は、お腹に手を当てると、そこからベルトが浮き上がってくる。
 「「変身っ!」」
 長身の青年は、マゼンダとブラックを基本カラーにした仮面ライダーに変身っ!
 犬のような青年は、クワガタをイメージさせる仮面ライダーに変身っ!
 「なつみかん、その娘を頼むぜ!」
 「わかりました!」
 
 「な、なんだぁ!?」
 変身を解かず、大急ぎで戻ってきたオートは、目の前の状況に声を上げざるを得なかった。
 1号に吹き飛ばされるクウガ。その飛んできたクウガを避けるディケイド。ちょっとした乱痴気騒ぎだ。
 と、呆然としていると、自分の目の前にクウガが落ちてきた。
 「新手か!? 超変身!!」
 クウガがオートの姿を見るなり、すぐに起き上がり、その色を紫―タイタンフォームへ姿を変え、転がっていた木の枝を手に取ると、剣へ姿を変えた。
 「お、おい! 待て!]
 [聞く耳持たないっ!」
 オートの制止も聞かず、クウガタイタンは襲いかかってくる!
 クウガの苛烈な一撃! あの一撃を受けようものなら剣ごと叩き斬られる!
 オートはすかさず、ベルトのチェンジバーを『N』へと切り替える! その瞬間、ふと体中の無駄な力が抜けた。
 クウガの一撃を剣で簡単にいなすと、『D』へ入れ替え…!
 「食らえっ!!」
 オートは逆にクウガに一撃を叩きこんだっ!
 「いってぇ!! なんつー堅さだっ!!」
 だが、タイタンの堅さは、鉄の比ではなかった。
 
 1号と肉弾戦を繰り広げるディケイド。だが、その実力は歴然だった。
 1号が一撃叩きこもうとすれば、ディケイドはかわしては10発も叩きこんでいた。
 「遊びは終わりだ!」
 そう言って、ディケイドは1号の腹に強烈な一撃を叩きこみ、1号は倒れてしまった。
 すかさず、ライドブッカ―から『龍騎』のカードを引き抜く。
 ≪カメンライド… リュウキ!!≫
 ディケイドライバーの音声に合わせて、ディケイドはリュウキ・ディケイドへ姿を変える!
 ≪ストライクベント≫
 加えて、ストライクベントのカードを差し込むと、リュウキ・ディケイドの右手には無双龍ドラグレッターの頭部を模したガントレットを装着していた。
 「食らえっ!」
 リュウキ・ディケイドは、1号に向かって拳を突き出すと、ガントレットの先からは火球が飛び出し1号を強襲した! 1号は耐えきれず、森の中へ消えてしまった。
 
 ディケイドは変身を解くと、クウガに向かって声をかけていた。
 「おい、ユウスケ! そいつは敵じゃないぞ!!」
 そう言われたユウスケは「えっ? ウソ!?」と長身の青年の方へ視線を送る。
 よそ見をした瞬間、クウガの顔面にオートの蹴りが叩きこまれ、クウガはその場に伸びてしまった。

 犬のような青年―小野寺ユウスケが目を覚ますと、そこは見慣れない天井が広がっていた。
 「――こいつは、小野寺ユウスケだ」
 長身の青年―門矢ツカサは、眠っていたユウスケを指さして言う。
 「それじゃあ、あなたたちの名前を教えてもらってもいいですか?」
 モデルのような女の子―光ナツミは正座したまま、向かいに座るハルトとトウコに尋ねていた。
 「あ、あぁ… 俺は楠木ハルト」
 「私は上霧トウコです」
 「あれ… ここは…?」
 ようやく目を覚ましたユウスケは、よろよろと起き上がるとキョロキョロと周りを見渡した。
 「ここは私の家です」
 トウコが答えると、それに付け加えるようにツカサは、
 「お前、ハルト…オートを敵と勘違いした揚句に頭を殴られてのびてたんだ」
 という。
 「で、だ。ハルト。どうして俺達の事を知っている? ディケイドはともかくクウガの事も知っているというのは納得できない」
 ツカサはハルトに向かって、怪訝そうに言う。
 「それは… ツカサ達、今は特撮番組になっているからだ」
 「はっ?」
 「いや、だから―――」
 仮面ライダーオートの世界では、仮面ライダーという存在は『子供向けのヒーローの一種』と言う事になっている。
 あの1号から始まり、ディケイドまで。全てが架空の存在だという事だ。
 仮面ライダーオートも元々は、その特撮をモチーフにハルトがイメージした姿だ。
 「なるほど… そういう世界があってもおかしくはないか…」
 ツカサは話を聞くと納得したように頷いた。だが、ハルト以外の三人は二人の会話に付いていけず、ぽかんとしていた。
 「あら、トウコ? こんな朝早くお客様?」
 気づけば日が昇り始めており、マイコは仕事服に既に着替えていた。
 「お、お母さん! あ、あの…」
 トウコがわたわたと慌てだした。当然だ、ツカサやナツミにユウスケに加え、ハルトまでもが一緒にいるのだ。余計な誤解をされるかもしれない。
 だが、マイコは…
 「ツクモガミ関連のお客様? 大変っ 朝ごはんを作らないと」
 と別のベクトルで慌てて部屋を出て行った。

 ディケイドが本来来るべき世界ではない為なのか、光写真館は移動しておらず、オーロラに飲まれた三人は宿なしになっていた。
 しかし、マイコやタカヤの好意により、当面は上霧神社に居候することに決まった。
 ハルトは夜明かしが堪えたのか、家に帰って眠ることにした。
 夕方になると、自然と目が覚めたハルトだったが、いつもよりも家を出る時間が遅くなっていた為に少し早足で上霧神社に向かった。
 ハルトが到着して、ツカサ達を加えた七人での食事。その中で、トウコは本当に楽しそうにしていた事にハルトは嬉しくなったが、同時に少しさびしさを覚えた。
 
 「それじゃあ、ツカサとナツミちゃんとトウコちゃん。俺とユウスケのチームでパトロールだな?」
 「そうですね。ツカサさん達だけだと、新都の地理にも詳しくないでしょうし」
 チーム分けした彼らは新都までは一緒に向かうと、そこからは散り散りになった。トウコ達は昨日、付喪神が現れた場所へ向かう。ハルト達は?華街をパトロールする事になった。

 「…」
 「…」
 道中、ハルトとユウスケは無言だった。
 人懐っこいユウスケだが、勘違いとは言えハルトに襲いかかった事を気に病んでいるし、ハルトは逆にユウスケになんて声をかければいいのか悩んでいる。
 そうやって、重苦しい空気の中、とあるレンタルビデオ屋の前に人だかりが出来ている事に気づいた二人は顔を見合わせると、その人だかりの中へ入って行った。
 ――――
 野次馬達の話を整理すると。
 仮面ライダーが店の中に入って行くと、仮面ライダー関連のDVDが全て強奪されたそうだ。止めようとした店員は顔面を殴られ、鼻骨を折り重傷だそうだ。
 「ハルト!」
 「わかってる!!」
 間違いなく、昨日の付喪神だ。リュウキ・ディケイドの昇竜突破(ドラグクローファイヤー)では倒しきれなかったのだ!
 その答えに一瞬で辿りついた二人は駆け出していた。
 途中、電気屋が襲われテレビとDVDデッキが強奪された事も判明した。
 その日、ハルト達は散々駆け回ったが遂に付喪神を見つける事は出来なかった。

 翌日。翌日、また翌日。そんなわけで五人はチームを入れ替えては捜索を続けたが、一向に成果が上がらなかった。
 一週間経った、今度はハルトとナツミ。トウコとツカサとユウスケのチームに分かれて行動することになった。
 「あの、ハルト君。聞いてもいいですか?」
 ツカサ達と別れた後、缶コーヒーを片手に人通りの少ない道を二人は歩いていた。
 「トウコちゃんとは、どういう関係なんですか?」
 ハルトは傾けようとしていたコーヒーの動きを止め、それからしばらく動かなくなった。
 「……仕事仲間?」
 ようやく答えたハルトだったが、その答えは歯切れはよくなかった。
 「なんで聞くんですか?」
 「いや…」
 ハルトは困惑したまま、コーヒーを流し込んだ。
 「あのね、ハルト君。ハッキリ言うけど、トウコちゃんはハルト君の事が好きですよ?」
 ナツミの言葉にハルトは盛大にコーヒーを吐き出していた。
 「きゃ! 大丈夫ですか!?」
 「す、すまん…… どうにも疲れているのか…」
 「聞き違えた。なんて言わせませんよ。トウコちゃんはハルト君が好きです。私にはわかります!」
 ハルトは「女の勘だろうか?」と思いつつも、それ以上は言及しなかった。しない代わりにため息をひとつ。
 「あのね、ナツミちゃん。トウコちゃんが俺なんか好きになってくれるわけないじゃ―――」
 言いかける途中、ハルトは付喪神の気配を感じ取り駆け出した。
 「あ、ハルト君!?」
 「付喪神だっ!!」
 
 始まりの場所。アザオキ・コーポレーションの廃工場。
 そこにツカサ達も集まっていた。
 「ツカサ! 付喪神はっ!」
 ツカサはハルト達を見るなり、工場の方を向いて顎を動かした。
 「…なるほど。それじゃあ、乗り込む―――」
 
 「あいや、しばし待てぇい!!」
 
 ハルトの言葉をさえぎり、妙な叫びが木霊した。声のした方向を見れば、そこには……
 「付喪神っ……?」
 確かに付喪神だった。確かに付喪神だ。自転車もホッピングも装備していない、付喪神… あるいは社会的には変態と言うべきだろうか? 全身ベージュタイツにイエローニット帽を顔全体ですっぽりかぶる。加えて、首には真っ赤なマフラーが巻かれていた。
 「我が名である『仮面ライダー』を名乗り、我が同胞を葬ってきた怪人!」
 付喪神はハルトを指さす。
 「そして、世界の破壊者ディケイド! それに加担するクウガ!」
 ビシッとツカサとユウスケを指さす付喪神。
 「我が名は付喪神(つくも かみ)! 貴様らの悪事もそこまでだっ! 変身っ!!」
 付喪神はポータブルCDプレイヤーのようなバックルを腰に巻き、バックルの中にCDを入れると、変身したっ!
 造形は仮面ライダーのように見えなくもないが、目が円盤になっている。
 ハルトは「カマキリか?」。ユウスケは「いや、見えなくもないけど…」。ツカサは「ベルデだろ」。
 「違う違うっ! 我が名は仮面ライダーディスク! 悪の手先め! 美少女を二人もたぶらかした罪は重いぞ!!」
 身に覚えがあるような、ないような… どうでもいい罪状が積み上げられていく三人。高所から飛び降りてきたディスクの襲撃に備え
 「「「変身っ!」」」
 三人は変身した。
 「むぅ!? 三人がかりとは卑怯なっ! 海東! 海東はいるか!」
 「叫ばなくてもいい。ここに居る」
 付喪神の叫びに応じたのは、仮面ライダーディエンドの海東ダイキだった。
 「な、海東! お前まで!」
 驚きの声を上げたのは、ディケイドだった。だが、海東はそれを無視。
 「報酬はわかってるだろうな?」
 「あぁ、解っている! 我がベルトが必要なのだろ! この戦いが終われば、世界は平和になる! そうなれば、我は田舎に引っ込んで小さな喫茶店を開くのだ! そこにディスクプレイヤーは必要ない! 持って行け!!」
 「わかってるならいい。変身っ!」
 海東はディエンドライバーを使って変身した。
 そして、ライオトルーパーと王蛇を召喚した。
 「行くぞ!!」
 ディスクはそう言うと、ディエンドを残してライオトルーパーと王蛇を引き連れてオート達に向かって走り出した。
 ディケイドはディスクと。クウガは王蛇と。オートはライオトルーパー三人と交戦を始めた。
 「お、おい! 俺が主人公っ! せめて、王蛇と戦わせろっ!」
 オートの叫びもむなしく、交戦は始まった。

 「最初はこれだっ!」
 ディスクが叫ぶと、ディスクケースから取り出した一枚のDVDをバックルにセット。再生ボタンを押すと、ディスクは姿をV3へ変えた。
 「へぇ、面白いな。それなら、俺はこれだっ!」
 ディケイドは、リュウキ・ディケイドへ変身した。そして、アドベントカードを装着すると
 「食らえっ!!」
 昇竜突破(ドラグクローファイヤー)をV3へ叩きこもうとする。だがっ!
 「効くものかっ! ダブルタイフーン!!」
 V3ベルトのファンがうねりを上げて回転するっ! それは強烈な横向きの竜巻を生み出し、火球を跳ね返しディケイドに直撃させる!
 「なっ!? 強いぞ、コイツ…」
 ディケイドは戦慄した。一週間前に戦った敵とは思えない程の戦闘力だ。
 「ふんっ! 次はこれだ!」
 そう言って、ディスクは次のDVDを挿入。変身したのは…
 「ストロンガーか! なら、こっちは…電王!」
 ディケイドは、電王ガンフォーム・ディケイドへ変身した。
 
 無言で不気味に猛攻を叩きこんでくる王蛇。まともにやりやったのでは勝てないと判断したクウガはタイタンフォームへ変身した。
 ベノサーベルの攻撃にもびくともしないクウガはやり返さんと、剣を叩きこんだ。
 形成は一度逆転したかのようにも見えた。しかしっ!
 王蛇はファイナルベントを挿入。クウガに向かってベノクラッシュを叩きこもうとした。
 だが、間一髪と言うべきか。ライジング・タイタンフォームになり、ベノクラッシュを耐えきった。
 しかし、必殺技だけあってダメ―ジ量は半端ではなかった。
 王蛇はトドメとばかりに、ユナイトベントを取りだした。

 三人のライオトルーパーの連携攻撃に苦しんだオート。正直、油断していた。毎度毎度登場しては一瞬で倒される彼らはショッカーぐらい役に立たないと思っていたのだが…
 「くそっ! なんてやつらだっ!!」
 上手い具合に連携の取れた攻撃とあなどれない攻撃力。トドメの一撃と言わんばかりの三人同時の攻撃に吹き飛ばされたオート。
 「ちくしょう、カッコわりぃ!! …くそ、こんな俺を……?」
 素人とは言え、オートは本来、ここまで弱いハズがないのだ。彼を煩わせているのは… 心配そうに彼を見つめるプラチナブロンドの髪が美しい彼女―――
  
 「くそっ! ストロンガーでは互角なのか!? ならば…!」
 ディスクは三枚目のディスクを取り出して、変身した!
 「が… がんがんじい!? なんで、スカイライダーじゃないんだ…!!」
 ディスクが変身したのは、スカイライだーの協力者(?)のがんがんじい(仮面ライダーではなく鎧を着た一般人)だった。
 ツカサは嘆息。そして、一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに入れた。
 「お前、殺すけどいい? 答えは聞いてないっ!」
 言うより先に、弾丸をディスクに叩き込んでいた。

 「トウコちゃん! こんな時でごめんなさいっ! でも、答えて欲しいの!」
 「な、ナツミさん…? なんですか?」
 三人が戦う最中、ナツミはトウコに迫っていた。
 「トウコちゃん、ハルト君の事、好きだよね?」
 「え、えぇ!? あの… いや…」
 トウコは困惑していた。あまりにも場違いな質問と核心を突かれた質問。
 「ハルトさん、すごく素敵な人です… こんな私にも優しくしてくれるし… こんな素敵な人、世の中の女性がほっておくわけ…」
 ぽろぽろと涙が流れだす。言っていてトウコは気づいた。こんなバケモノのような姿をしている自分に優しくしてくれて、命がけで戦ってくれるような人に恋人がいないわけがない。そう思った時、自分が恋をしていた事に気づき、そして失恋したのだと。
 「トウコちゃん、泣いてるの?」
 「たはは… 片想い中の小娘の単なる僻みなんです」
 失恋したのと同時に、ハルトのあったこともない誰かに嫉妬してしまった。自分とは違い黒い髪をしていて、自分とは違いまっとうな時間に生活していて、自分とは違い大人な女性―――
 
 「と、うこちゃん…… 今、なんて…」
 吹き飛ばされたオートは偶然(?)にもトウコの話を聞いてしまった。
 「ハルトさん!? あ、いや……」
 話を聞かれた上に、泣いてる顔まで見られてしまった。その事に動揺して言葉が出ないトウコ。その背中を軽く押したのはナツミだった。その瞳には「頑張れ」と映っていた。
 「ハルトさん! 大好きです!!」
 あまりにも場違いな言葉。だが、ハルトには充分だった。
 「ありがとう、トウコちゃん――!」
 ハルト―オートは立ちあがろうとした。そこに差し出されたのはディケイドの手だった。
 「回りがお前らを兄妹だとか言おうが関係ない。大事なのはお前たちの気持ち次第だぜ?」
 オートはディケイドの手を取り立ちあがった。
 「おうっ! さんきゅうな、ツカサ」
 ハルトの感謝の言葉が、二枚のカードを生み出した。
 「オートの『ファイナルフォームライド』と『ファイナルアタックライド』のカード?」
 「使い捨て、みたいだけどな。それじゃあ、ちょっとくすぐったいぞ!」
 ディケイドはオートのFFRのカードを入れる。そして、オートの頭を前に押し出すと… 頭が回転。狐の貌が現れた。
 みるみる姿を変えたオートは、オート・フォックスへと姿を変えた。
 「これは… なるほどな」
 オートは自分の姿を確認した。獅子のような大きな体躯の金色の狐に姿を変えている。尻尾は九尾。まさしく『お狐様』だ。
 オート・フォックスは、尻尾から火球を生み出すとライオトルーパーに叩きこみ、ダメ押しとばかりに鋭い爪を食らわせていた。まるで、障害物をどかせるためのような軽い動作。
 
 まさにユナイトベントが差し込まれようとした瞬間!
 王蛇を襲う金色の狐が現れた! オート・フォックスだ。
 「ハルト、なのか?」
 「おう! それよりも、早く王蛇にトドメを!!」
 突然現れた狐に困惑しながらも状況を理解したクウガは、転がる王蛇に剣を突き立てた。
 広域爆発を予測されたのだが、オート・フォックスの妖術により被害が最小限にとどめられた。

 「おのれ! 海東! 海東は…? いないっ!? あやつめ、逃げよったな!! まぁいい。これが最後のディスクだ!!」
 ディスクが取りだしたのは、これ見よがしに黄金の円盤だった。それを挿入したディスクは、金色に光る全てのライダーをごちゃ混ぜにしたような奇妙なライダーになった。あまりにも形容しがたいが、とにかく金色だ。
 「…ツカサ、どうする?」
 「どうするも、こうするも… あれじゃあ、装甲は堅いだろうな…」
 クウガは困惑したように言い、ディケイドも打開策が思いつかないようだ。
 「だったら、これを使えばいい」
 そこにやってきたオート・フォックスはディケイドに一枚のカードを渡した。
 「ユナイトベントだと…?」
 ディケイドは驚いた。
 「あぁ、この世界のクウガはゴウラムをバイクに装着して引き殺すという荒業をやってのけた。太古ではバイクの代わりに馬を使ったようだが、な?」
 ニヤリと笑うオート・フォックス。その言葉の意図する事に気づいたディケイドは、どこか楽しさを隠しきれない様子だった。
 「よし、ユウスケ。変身しろ!」
 ディケイドは、クウガのFFRを挿入すると、クウガはあれよあれよとクウガ・ゴウラムへ変形。
 「それじゃあ、合体っ!」
 果たしてディケイドライバーとアドベントカードに互換性はあるのだろうか?なんて考える間もなく、クウガ・ゴウラムはオートフォックスに装備された。
 「お、おいっ! 俺の体がバラバラに!」
 「気にすんなよ。ユウスケ」
 「そうだぞ、ユウスケ。お前はハルトにくっついてればいい。行くぞっ!」
 ディケイドが手にしたのは、オートのFARだ。その模様は少し形を変え、オート・ゴウラム・フォックスへ―――!!
 ≪ファイナル・アタック・ライド! オ、オ、オ、オ、、オート&クウガ!!≫
 オート・ゴウラム・フォックスは駆け出した。それこそ、555のアクセルにもカブトのクロックアップにも負けない速度だ! そんな規格外の速度にディスクが太刀打ちなど出来るはずが――ないっ!!
 ゴウラムの角はディスクの腹部を捉え、ディスクの体にはゴウラムの紋様が浮き上がっていた。
 オート・ゴウラム・フォックスの進行方向の先にはディケイドが待ち構えていた。
 加速するオート・ゴウラム・フォックスと迫りくるディケイドのキック。それに挟撃されて無事な者など――――皆無ッ!!
 ディスク…もとい、仮面ライダー付喪神は爆散。逃げ出そうとした霊魂を取り込もうとしたオート・ゴウラム・フォックスは姿を元に戻し、胸のハッチを開き霊魂を回収した。
 「…ユウスケ、いつまで俺におぶさってるつもりだ?」
 「あ」
 
 「もう、行くのか?」
 「あぁ」
 戦いの後、ツカサ達の後ろには銀色のオーロラが現れていた。
 「その… 悪かった。いきなり襲いかかってさ…」
 ユウスケは一歩前に出ると、そう言って謝ってきた。
 「いや、気にしてないさ。元気でな、ユウスケ」
 「おう」
 そう言って、二人は堅い握手を交わした。
 「ナツミちゃんには… その世話になったね」
 「いえいえ、気にしてませんよ。私は恋する女の子の味方なんです!」
 「調子に乗るな、ナツミカン!」
 「ツカサ君!!」
 笑いが起こる。しかし、また沈黙。
 「それじゃあな。また、会おう」
 「おう。またな」
 簡潔な別れ。そして、ツカサ達はオーロラの中へ消えて行った。

 「さびしくなりますね、ハルトさん」
 「そうだな…」
 ツカサ達が去った後、残された二人に落ちるのは微妙な雰囲気。
 「あのですね、ハルトさん!」
 「何?」
 「返事を… 聞かせてもらってもいいですか?」
 「あ、あぁ…」
 ハルトは熟考。そして――
 「俺、トウコちゃんの作ったみそ汁が飲みたい、かな?」
 ハルトなりの精いっぱいの答えだった。だが…
 「えっ? あ、はい。それじゃあ、帰って作りますね!」
 トウコは駆け出していた。
 あぁ、きっとこの子はあれだ―― 首をかしげながらみそ汁を作るのだろう。
 そして、バカ正直にタカヤに言うんだろうな―――
 そう考えたハルトは、タカヤがトウコに似て察しの悪い人であってほしいと願うばかりだった。
2009-06-09

仮面ライダーオート第03話

 第03話
 
 「なぁ、ハルト」
 「んぁ?」
 昼間の大学。講義室で小太り中年講師が、ギリシャの哲学者のアリストテレスについて、ものすごく楽しそうに話しているが、活舌が悪いのか興奮しているのか、上手く聞き取れず、学生の大半は授業を聞いてはいない。こそこそと話す声が聞こえてくるぐらいだ。
 その流れに乗じて、ナツキは隣に座るハルトに声をかける。
 「授業、フケようぜ」
 「…そうだな。このままじゃ、またビデオを見て終わるパターンだろ」
 ハルトはナツキに同意すると、二人して講義室を後にした。
 
 「このあと授業ないだろ?」
 「まぁね。ナツキも終わりか?」
 「おう♪」
 「…なんか話でもあるのか?」
 「ハルちゃん、ご明察!」
 「ハルちゃんと呼ぶな、ナッちゃん」
 「…ハルト、不毛な争いはやめようぜ」
 「そうだな」
 二人は、いかんともし難い空気に耐えかねて、どちらが先というわけじゃなく歩き出した。

 向かった先は、『あとりえオガワ』という、コーヒーが美味しい小さな喫茶店だった。大学の近くにある喫茶店だが、数年前にスタバが建ってしまってからは、知る人は本当に少ない店だ。
 「こんちわー、タカヨさん、マスター」
 ナツキはドアを開けると、気軽い雰囲気で声をかけた。
 「あ、いらっしゃい。ナツキくん、それに… ハルトくんだっけ?」
 「こんにちわ」
 明るいアットホームな雰囲気で二人を迎え入れてくれたのは、ポニーテールのよく似合う『頼れるお姉さん』といえば一番しっくり来る女性、緒河タカヨだった。ジーパンにスニーカー、腕捲りをした真っ白なブラウスの上に黒いエプロンをしているのがよく似合っている。
 その隣で無言のまま、無心でコーヒー豆を挽いている百九十は越える大男こそ、『あとりえオガワ』のマスター、緒河だ。名前は… タカヨもよく覚えていないそうだ。タカヨの格好とそっくりで、ブラウスの代わりにカッターシャツを着ており、更にサングラスまでかけている。これはこれで妙に似合っている。
 「さぁ、注文は何にする?」
 タカヨはカウンター席に座った二人の前に立つと、そう言った。
 「それじゃあ、俺はアイスコーヒーを」
 ハルトに続いてナツキは、「俺はアプリコットティーを」と言うと、タカヨのこめかみがピクリと動いた。そして、笑顔のまま、「お父さん、コーヒー二つね!」とオーダーを通した。
 マスターはこくりと頷くと、コーヒーを要れ始めた。ナツキはタカヨに抗議の声をあげるが、「『あとりえオガワ』はコーヒー専門店です♪」と笑顔のまま言われると、ナツキは頷かざるを得なかった。
 ハルトはそんな光景を眺めながら、やれやれとため息をついていた。

 「で、話って何だ?」
 コーヒーが出される数分の間、間がもたなくなったハルトはおもむろに切り出した。
 「あー、うん。あのさ、ハルト」
 ナツキはどうやって話を切り出せばいいのか迷い、言葉を濁した。だが、意を決したかのようにハルトに聞いた。
 「昨日、一緒にいた女の子は誰だ?」
 数秒の間。そして、ハルトは驚いたようにガタガタと椅子から落ちそうになった。
 「お、お前… それをどこで?」
 「昨日、新都の繁華街でな… いや、いいんだっ! 合意の上ならさ! 例え、相手が高校生ぐらいの女の子で、銀髪のウィッグを被せて、巫女さんプレイでもさ!」
 「え? いや、お前は何を勘違い――」
 「いや、いいんだ。言わなくても解ってる。けどな、ハルト…」
 ナツキはハルトの言葉を遮り、一気にまくしたてる。だが、言葉は次第に小さく落ちついていく。彼の横顔は真剣そのものだ。
 「巫女さんもいいが、シスターも捨てがたいと思わないか? さしあたってタカヨさんがシスター服を着れば、すごくかわいいと思うんだ」
 ナツキは至極真面目な顔で、そう言った。ハルトはそんな彼の横顔をジト目で見ると、嘆息。
 「タカヨさん」
 「なぁに?」
 「彼にセンブリ茶をジョッキで」
 「かしこまりました♪ お父さん、コーヒーひとつ取り消しで、センブリ茶をジョッキ、ホットで!」
 タカヨのオーダーにコクリと頷くマスター。どこか嬉しげだ。
 「いや、て言うか、ここコーヒー専門店だろ!? 何気にホットになってるし!」
 ナツキの抗議にタカヨはニッコリと微笑む。
 「うちはコーヒーとセンブリ茶の専門店です♪ おとーさん! センブリ茶にくさやでも沈めといて!」
 マスターはコクリ。心なしかウキウキしている。
 「Nooooooooooooo」

 「みたいな事があった」
 ハルトは今日あった出来事をトウコに話した。
 トウコは話を聞くとくすくすと笑いながら、楽しそうにしていた。
 「それで、ナツキさんはセンブリ茶を飲んだんですか?」
 「おう。タカヨさんに、飲まなきゃ請求額は三万円だ、って言われて飲んだよ。あの後のナツキの顔と臭いはないよ」
 トウコは声を押さえきれず、あははと笑う。
 そんな彼女の笑顔に、ハルトは小さな幸せを感じてしまう。
 「あらあら、幸せそうですね。ハルトさん」
 緩むハルトの頬。その真隣に顔をのぞかせたのは、マイコだった。
 「うわっ! 驚いたッ!?」
 「お、お母さん!?」
 突然の不意打ちに二人して驚くが、マイコはそれを楽しんでいるように微笑んでいた。
 「トウコ、ハルトさん。晩御飯の時間ですよ」
 嬉しそうな笑顔を崩さずに言うと、二人は「はーい」と返事をした。
 「まるで、兄妹ね。うふふ♪」
 一向に嬉しそうな顔を崩さないマイコだが、二人に妙な亀裂が入ったような気がした。

 上霧マイコと言えば、上霧タカヤの嫁であり、上霧トウコの母親だ。
 トウコは確かに綺麗な顔立ちをしているが、幼さというのか、世間知らずで可愛さを残している。だが、マイコはトウコから可愛さを取り除き、代わりに色気が追加された感じだ。
 年齢は実はタカヤと同い年だというのに、仮にトウコと一緒に歩いていれば姉妹に見間違えられるかもしれない。
 頭も良く、家事全般が得意。さすが嫁にしたいナンバーワンと学生時代に言われただけはある。
 そんな彼女が、なぜタカヤを選んだのかは前世紀最大の謎とまで言われる程、謎だ。
 さておき。そんな無欠のマイコだが、最大の欠点がある。それは他人からの好意悪意に酷く鈍感なのだ。そう言った意味では、空気が読めないと言い換えてもいい。
 だが、それが逆にタカヤを選んだ決め手だったのかもしれない。
 愚直に誠実に愛を説いたタカヤに惹かれたのかもしれない。
 とはいえ、トウコがハルトと仲良くしている姿を見て「兄妹」と形容したのは、微妙な二人の距離感を混乱させる事になる。だけど、これは別のお話。

 夕食後、ハルトとトウコは、いつものようにパトロールへ出かけた。
 だが、二人の間には会話はなく、居心地の悪い雰囲気が重くのしかかっていた。
 気づけば二人は新都へとやってきていた。
 昨日、あれだけの騒ぎがあったというのに、人通りが減るわけでもなく、むしろ、昨日の事など既に忘れているようにも感じられた。
 「薄情なもんだよな」
 ポツリとハルトは漏らした。その言葉にトウコはコクリと頷くと、やはりそれっきり会話はなくなってしまった。
 そうやって無言のまま歩いていると、いつしか景色は変わりショウウィンドウが立ち並ぶ地区へとやってきていた。
 ハルトの三歩後ろを歩いていたトウコは、ふと足を止めてガラスの向こうに並ぶ服を見ていた。
 「トウコちゃん?」
 それに気づいたハルトは振り返る。そして、一向に動こうとしないトウコの元に歩み寄っていた。
 「服、見てるの?」
 「はい…」
 トウコは短く答えるが、続きはなかった。ハルトはトウコが気になっている服が気になり、それに視線をやった。
 体のラインを現すようなノースリーブの黒いシャツ、その上からは上品なグレーのカーディガン。下は足首が隠れそうな程長いカーディガンと似たような色をしている。
 「欲しいの?」
 ハルトは沈黙を破り、トウコに語りかけるが、彼女は静かに首を振った。
 「ちょっとだけ、憧れただけです。私、巫女服と着流ししか持ってないから… それよりも、行きましょう。ハルトさん」
 そう言うトウコの横顔は少し寂しそうだった。

 中心部から離れると、新都とはいえ一気に寂しくなる。
 周りには誰一人として見えず、あるのは妙な気配だけだ。
 「驚いたな。新都にも、まだ森が残っていたなんて」
 ハルトは素直に感嘆の声を上げる。
 「ここは… ゴミ捨て場ですか?」
 「いや…… 不法投棄だろうな……」
 トウコにハルトは答える。答えながらポケットに手を入れて、キーを取り出した。
 「ハルトさん?」
 「トウコちゃん、下がって! 来るぞっ!!」
 ハルトが叫んだ瞬間、彼らの前に現れたのは、ホッピング付喪神だった。だが、ホッピングが変形してバケモノの形をしている訳じゃない。昨日の自転車付喪神と同じく、ホッピングに乗った変態だった。
 「なるほどね… 行くぞ! 変身ッ! イグニッションッ!!」
 ハルトはキーを回すと、その姿を仮面ライダーオートへと変化させた。
 「トウコちゃん、離れてて!」
 そう言うと、オートは逃げ出したホッピング付喪神を追って走りだしていた。トウコは、一人、その場に残されてしまった。
 
 ホッピング付喪神は逃げる速度は、当然ながら早くない。だが、オートは追いつくたびに剣を振るが、当たらないのだ。
 霊力の力で異常なまでにジャンプするホッピング付喪神には、のらりくらりとかわされてしまうのだ。
 「あぁ、くそっ! ちょこまかとっ!!」
 オートは苛立ちを隠せず、剣を地面に叩きつけた。勢いが強く剣は地面に突き刺さってしまう。
 「…?」
 その時、剣に書かれている『P』の文字が光っている事に気づいたオート。
 「まさか、な…」
 一人、呟きながら、その柄を握ると少し自分の方へ引き寄せた。
 ガチャリとベルトのギアを変えた時と同じような音が聞こえた。それに合わせて、『P』は『R』へと文字を変えた。
 そして、剣を引き抜くと、剣はその姿を変え、元の剣よりも大きなブーメランへと変形した。
 「これは… そうかっ!!」
 オートはブーメランを掴む。すると、右手はブーメランに反応したように、ブーメランを持つのにふさわしい程太く大きなガントレットを装着されていた。
 勝利を確信したように笑い、ホッピング付喪神を追いかけた。
 
 「見つけたァ!!!」
 オートは付喪神を見つけると、叫び、そしてブーメランを投げつけていた。
 ブーメランは、空高く飛んでいたホッピング付喪神を捉えると、付喪神を巻き込んだまま回転して戻ってくるッ!
 「ターン・アラウンド…」
 オートは大きく右手を振りかぶる。手首から先、エンジンの回転に合わせて激しく回転していくッ! そして、戻ってくるブーメランに巻き込まれている付喪神をぶん殴ったッ!
 「ドライヴ・スルー!!」
 ガントレットは付喪神にでかい風穴を開け、そして戻ってきたブーメランを受け止めると、付喪神は爆散してしまった。

 ホッピング付喪神を追いかけているうちに、随分と遠くまで来てしまった。
 ハルトは変身を解かないで、その姿のまま元いた場所に戻ってきた。
 「!?」
 戻ってきたオートの目に飛び込んできたのは、交戦する仮面ライダー1号と仮面ライダーディケイド。
 そして、頭を抱えて小さく震えているトウコの姿だった。

 つづく
 



2009-06-02

仮面ライダーオート第02話

 第02話『可愛すぎ』

 「は、ハルトさんっ! 大丈夫ですか!!」
 気がつくと、オレンジの光は身を潜め、紺色が空を覆っていた。人間の姿に戻ったハルトの元に、心底心配そうなトウコが駆け寄ってきた。
 「おうっ、俺は大丈夫。むしろ体が軽いぐらいだ」
 そう言って、ハルトは肩がグルグルと回して見せる。その仕草に安心したトウコは、地面に座り込んでしまった。
 「お、おいっ! 大丈夫か?」
 急に座り込んでしまったトウコに、驚いたように声をかける。
 「え、えへへ… 腰が抜けちゃいました……」
 力なく笑うトウコの姿に、ハルトはおかしくなり、喉を鳴らし笑った。
 「くっ…! ぷは、はははは」
 「あ、ちょっとっ! 笑わないでください!!」
 照れて赤い顔をしつつ怒るトウコの姿に、未だ笑いを隠しきれずに笑みを浮かべたままのハルトだったが、そんな彼女を抱き上げた。それは所謂、お姫様だっこだ。
 「あ、あの… 何するんですか!」
 「腰が抜けたんだろ? そのままじゃ家に帰れないだろうしさ」
 そう言ってハルトはトウコを抱きかかえ立ちあがった。
 「はわわ… すっごい恥ずかしいです! せめて、おんぶ! おんぶにしてくれませんか?」
 トウコの懇願にハルトは彼女をおんぶして、工場を後にした。

 上霧神社と言えば、古都では有名な神社だ。道を聞くまでもなかった。
 そんな道中、無言のまま歩くハルトに気を使ったのか、トウコはこんな事を聞いていた。
 「あの、ハルトさん… どうして、仮面ライダーだったんですか?」
 「ん? あぁ… あれね?」
 ハルトは横目にトウコの顔をチラりと見ると、前を向きながら話した。
 「お狐様を受け入れる時にさ、俺の器が小さくて入りきらなかったんだ…」
 だから、外部ユニットを用意することで、はみ出た霊力を保存することになった。だけど、モノがないと受け入れなかったから、車を分解して再構築する必要があった。その再構築をイメージしろと言われたハルトは、過去に憧れたヒーローを模すことにした。
 「だから、仮面ライダーなんだ」
 ハルトはどこか照れくさそうに言う。
 「ははっ、この歳になっても仮面ライダーだなんてカッコ悪いだろ?」
 「ううん… すごくいいと思います。すごくカッコよかったです」
 そう言われて、ハルトは照れくさそうに笑った。だけど嬉しそうにもしていた。
 「あと… もう一つ聞いてもいいですか?」
 「何かな?」
 「昔、チンピラまがいの事をしていたって…」
 「あぁ、それか」
 「あのっ! 嫌だったら話さなくても!」
 「いや、いいよ。面白くもない話だ。高校生の頃かな。友達がちょっとしたゴタゴタに巻き込まれてね。田舎のド不良に囲まれる事が多々あったもんだから、喧嘩なれしたんだ」
 ハルトはゴタゴタについては触れようとしなかった。だから、トウコもそれには触れない方がいい気がして、それ以上は追及せずに、二人は雑談をし始めた。

 30分も歩いていると、ようやく神社に来ることが出来た。
 この頃になれば、トウコも立って歩けるようになっていたので、ハルトは鳥居の前まで彼女を送ると帰ろうとした。
 「待って…」
 トウコは踵を返したハルトの袖をちょこんと掴んでいた。
 「ん?」
 それに気づいたハルトは振り返ると「どうした?」と言った。
 「あの、お礼がしたいので… 一緒に来てもらえますか?」
 ハルトはドキリとした。正直な所、女性に対してあまり免疫のないハルトは、おんぶしていた時の背中や手の感触の為に危険な頭になっている。そんな時に『お礼』などと言われると、正直大変だ。
 とはいえ、まさかの事態は、まさに『まさか』なので期待しない事にして心を落ち着かせると、「おう」と答えた。

 「キ~サ~マ~ッ!!!!」
 境内に入るなり、神主であろう中年の男性にドロップキックを叩きこまれたのはハルトだった。突然の出来事にハルトは守る事も避ける事も適わず、思いっきり吹っ飛ばされてしまった。
 「は、ハルトさんッ!」
 吹き飛ばされたハルトの元に駆け寄るトウコは、彼を抱き起こすと蹴りを叩きこんだ男性をキッとキツく睨んだ。
 「お父さん!! 何するのよっ!」
 「おぉ、トウコ! その男からすぐに離れなさい。その男からは付喪神のニオイがぷんぷんしおるわっ! それに男はオオカミなんだぞっ!!!」
 ビシッとハルトを指さし高らかに吠えるのは、上霧神社の神主、トウコの父、上霧タカヤだった。

 「いやぁ、ハルト君、すまなかった! まぁ、一杯やりたまえ!」
 どうやったら、こういった状況になるのだろうか?なんてハルトは考えながらタカヤが注いでくるビールを受けていた。
 上霧家食卓。神社だからと言って、畳の部屋で食事をするわけでもなく、小さなダイニングで夕食のハンバーグを目の前にハルトはビールに口をつけた。
 あの後、長い長い事情説明があったもののタカヤ氏は一向に納得しなかった。だが、トウコの「お父さん、嫌いになるよ」と言う言葉と、トウコの母のマイコの「別れますよ」という苛烈なダブルパンチで大人しくなり、ハルトを受け入れた。
 その後、再び長い長い事情説明の結果、夕食に呼ばれる事になった。
 「おっ、いい飲みっぷりだねぇ! 俺も負けてられねぇぜ」
 タカヤ氏は、そう言うと自分のグラスを傾けた。
 そんな父の姿を呆れながら見つつ、トウコはビール瓶を持って「どうぞ」とコップにビールを注いでくれた。
 ハルトは久しぶりに誰かと食べる夕食が嬉しかった。
 
 食事の会話の中で、タカヤ氏とマイコさんは付喪神の存在を信じていて、自分たちも文献を調べる事を約束してくれた。
 最初はタカヤ氏がオートになり戦うから、危険な事から身を引くように言ったのだが、彼の年齢などを考えた場合、その選択はあり得なかった。それに、あのキーはハルトにしか使えない事は最初から解っていた。
 そうやって、団らんとした食事の中で決まった今後の方針は、深夜にパトロールをするという事。そして、パトロール前には上霧家で食事をすることだった。

 随分といい時間になった頃、いい加減帰らないとマズいと思ったハルトは「それでは、俺は帰りますね」と言い席を立とうとした。
 そんな彼を引きとめたのは、トウコやマイコではなく、タカヤだった。少しだけ話したいから、外で風にあたろうと提案してきた。
 「すまなかったね。さっきは…」
 深夜の境内でタカヤはおもむろにこう言った。
 「いえ…」
 先ほどのドロップキックの事だろうと思い、ハルトは短く答えた。
 「俺はなぁ、こんなんだからよぉ… マイコと結婚できたのなんて奇跡のようなものなんだ」
 急にタカヤはしんみりとした声で小さく話しだした。
 「それに娘も無事にマイコに似て綺麗になっていく… けれど、あの白い髪に赤い瞳だからな。学校にも行けず、友達もいなかった…」
 それはもう、さぞかし寂しい思いをしただろう。だから、付喪神の件があるまでは死んだような眼をしていた。
 だけど、付喪神の事を知り、そして付喪神の復活が彼女を支えてきた。
 「けど、俺はあの娘を危険な目には合わせたくない。付喪神がトウコの生きる意味だとしてもだ…」
 ポロリと涙を流すタカヤの姿を背に、ハルトは黙って満月を見上げていた。
 「勝手な頼みかもしれないが… あの娘を守ってやってくれないか…… せめて、あの娘の身に危険がないように……」
 あまりにも自分本位な願いだ。要するに命がけでトウコを守れ、そう言っているのはタカヤ自身一番よくわかっていた。
 「マイコと結婚できた幸せ。そしてトウコを授かった奇跡…… 俺は………」
 タカヤはぼろぼろと涙を流している。けれど、ハルトは振り返らない。振り返らずに歩きだした。そして、ポケットからキーを取り出してヒラヒラとさせる。
 「言われなくてもわかってますよ」
 ハルトはキーをぐっと握ると、そのまま鳥居をくぐり家路についた。
 火照った体には、月夜の風は少し寒かった。

 新都大学大講義室、真ん中より少し後ろの端っこの席でハルトは机に突っ伏していた。そんな彼の肩をトントンと叩く誰かに気づき、ゆっくりと起き上がった。
 「ん? あ~~、ナツキか…」
 ハルトの肩を叩いたのは、彼の幼馴染で同級生の桜庭ナツキだった。百八十はある高い身長、エキゾチックなハンサムな顔立ち、流行には目もくれないような自分に合ったファッション、タレントなどになっていないのが不思議な人物だ。
 「おっす、ハルト… 眠そうだな?」
 ナツキだと解ったハルトは興味を無くしたように再び机に突っ伏して、「ま~な~」と心底ダルそうな声で答えた。
 「っていうか、昨日は何で休んだんだよ! ゼミあったのに!」
 ハルトの隣の席に腰を下ろしたナツキは、昨日の無断欠席について尋ねるが、ハルトは「ちょっとなぁ…」と言って、すぐに寝息を立て始めた。
 「……あぁ、そう言えば、昨日は新作のゲームが出たんだっけ? まさか、それのやりすぎ……」
 「あっ!! 忘れてたっ!!!!」
 ハルトは急に立ち上がり、講義が始まる直前の静かな講義室で大声を出すと、鞄をひっ捕まえて講義室を後にした。
 「あっ、オイ! …行っちまった。なんなんだ、あいつ」
 
 とはいえ、大人気シリーズの最新作は新都の何処の店に行っても売っておらず、気がつけば夕暮れになっていた。日が落ちるのにつれて、ハルトの気持ちも落ちていく。
 そんな暗い表情のまま、上霧神社に向かった。
 「あ、ハルトさん! おはようございます…?」
 「あ、あぁ、こんばんわ。トウコちゃん」
 昨日とは様子が違い暗い表情を見せるハルトに、トウコは少なからず困惑した。
 「あ、あの… ハルトさん、どうかしたんですか? すごく暗い顔してますよ?」
 「ん…? まぁね」
 「もしかして、昨日、お父さんに何か言われました?」
 そう言われてハルトは昨日の出来事を思い出すが… 流石にトウコに話してしまうのはアレなので、黙って首を振り否定した。
 「それじゃあ、どうして……」
 「まぁ、歩きながら話そうよ」
 そう言って、ハルトはとぼとぼと歩きだした。その後をトウコは慌てて追いかけた。
 「―――というわけで、買いそびれた」
 「………」
 流石のトウコも呆れて何も言えない。
 「はわわ… ごめんなさい! 私のせいでっ!」
 ワケではなく、本当に申し訳なさそうに言った。ともなれば、今度はハルトが申し訳ない気分になってくるのだが。
 「い、いや… 気にしないで! ほら、すぐに中古とかで出る――」
 「お父さんのヤツ、貰いますから気にしないでくださいっ!」
 ハルトの言葉をさえぎりトウコは、そう言っていた。
 「はっ? 今、なんと?」
 聞き違えたのかな? そう思い聞き返していた。
 「あの… お父さんの分を…」
 「………」
 開いた口が塞がらないというのは、こういう状態の事だろう。
 「あの、オヤジ…… 戻ったら殴ってやる」
 ハルトは小さな決意を胸に、トウコと共に新都へと向かった。

 「あの、さ… トウコちゃん」
 「はい? なんですか、ハルトさん」
 「なんで巫女服なの?」
 夜の八時の新都と言えば、酔っぱらいのサラリーマンや合コンで浮かれた大学生などが溢れている。そんな中で、巫女服を着た女の子が絶妙な長さの袋(要するに刀入り)を持っているという状況は…問題だ。加えて、トウコの髪の色などが、より人目を引く。 
 そんな雰囲気に耐えられず、ハルトは思い切ってトウコに聞いてしまった。
 「あの… 私、何か間違ってましたか?」
 不安そうな子犬のような目でハルトを見上げる。
 「その… 付喪神との戦いなので、一応の対神武装なんですけど…」
 「いや、ま、いいよ… うん、構わないんだ」
 ハルトは諦めたように項垂れた。
 周囲の奇異の視線がビシバシ飛んでくるのに、流石のトウコも気づき始めた。
 トウコは昔から外に出る事は少なく、人と関わることを知らなかった為に、周囲の視線というものに疎かった。
 「あ、あの… ハルトさん… なんだか、すごく見られている気がします」
 「……あぁ、そうだな。どちらかと言うと見られてるのは俺だけど」
 ハルトは乾いた笑いを浮かべながら続ける。
 「大学の友達に見られたら、何を言われるか……」
 「もしかして、私、ものすごく迷惑ですか?」
 泣きそうな顔でハルトを見上げるトウコは、捨てられた子犬のそれに似ている。むしろ、可愛いぐらいだ。
 「出来れば、普通の服を着て欲しいかもしれない…」
 ハルトは申し訳なさそうに、トウコに告げた。
 「……あの、私…」
 「いや、気にしないでくれ。それよりも、だ…… 感じるだろ?」
 これ以上話が進むと困った事態―銀髪の巫女さんが街中で泣きだす―になりかねないので、話を打ち切ると俯いていた顔を上げた。
 「えっ? えっ!?」
 だが、トウコは何の事だかわからなかった。
 「この先に自転車が路駐している場所があるんだ。そこから付喪神の気配がぷんぷんする」
 そう言うと、ハルトは駆け出していた。未だ、トウコには理解できなかったが駆け出した彼の後を追うしかなかった。
 その時、ハルト達の脇を何かが走り抜けていった。
 「!?」
 「は、ハルトさんっ! 今の!」
 「あぁ!!」
 ハルトとトウコは、足を止めると今来た道を… 正しくは走り去った何かを追い駆け出していた。
 彼らがこのまま進んだ先、彼らの脇を通り過ぎた何かが来た道には、ボッコボコにされた自転車回収業者の姿があった。

 「くそっ! こう人が多いと付喪神が追えないぞっ!!」
 「ですね!」
 夜の九時の新都と言えば、更に人が多くなる時間だ。酷く走りにくい。
 だが、それは付喪神も同じであった。大量の人々が付喪神の邪魔をしている為に上手く進めない。だが、前から来る人を避ける程、付喪神は善良ではない。
 「うわぁ!」「なんだっ! あの変質者はっ!」「きゃあああ!」
 遠くない場所から人々の声が聞こえる。
 「トウコちゃん!」
 「はいっ!」
 ハルトとトウコは人の波を掻きわけるように押し進むと、人に囲まれている付喪神の姿があった。
 よくある赤いママチャリが異形に変形…は、してないかった。全身がベージュのタイツに身を包み、黄色いニット帽を顔全体を覆うようにかぶっている、男でも女でもない人型の変質者としか形容できない付喪神が、ママチャリにまたがっていた。
 付喪神は、自分を囲む人たちを次々と襲っていた。自転車ライダーのように器用に後輪を浮かしてサラリーマンの顔を殴る。高く飛ぶと女子高生の上に落ちてくる……
 その凄惨な光景を目の当たりにした人たちは、声を上げて逃げ出してしまった。自転車付喪神は、その逃げ惑う人々を追撃するように走り出した。
 「…ヒドイっ!」
 「あぁ、そうだな。早く倒そう! 丁度、周りには誰もいない… よしっ! 変身ッ! イグニッションッ!!」
 キーを掲げ、ボディスーツを纏う。エンジンに火を入れると、そこ現れたのは…
 「仮面ライダーオートッ! ストップ・ザ・アクシデント!」
 車を彷彿させる仮面ライダーだった。
 オートは腰についているチェンジバーを回すと、ドライブに入れる。
 「トウコちゃん! 君はこの人たちのケアをお願い! 俺は… 付喪神を潰してくる!!」
 「あ、はいっ! 解りました! 気をつけてください、ハルトさんっ!」
 「おう、任せろ!」
 オートは、足に付いているタイヤを外すと、まるでローラーブレードのように装着しなおすと、走りだした。

 変身したばかりで、回転数もギアも上がらない状況。だが、それは自転車と自動車の差だ。すぐに自転車付喪神に追いつくと、頭を引っつかみ自転車から引きずり落とそうとして、地面に叩きつけた。
 「…見事にくっついてやがるな」
 だが、自転車付喪神は自転車ごと倒れてしまった。
 自転車付喪神は、逆回しのようにムクリと起き上がると、オートに向かって襲いかかってきた。後輪を浮かし、前輪を軸に大きく回転!
 「うぉ!? あ、あぶねぇ!」
 だが、オートは間一髪で、その一撃を避けるが、大きく仰け反ってしまう。そこにすかさず突っ込んでくる自転車付喪神。
 「させるかぁ!」
 左手に付いているハンドルの形をしているラウンドシールドを構えた。
 痛烈な衝撃を左手に受け、ビリビリと腕がしびれる! だが、オートは「ふっ」とほくそ笑んでいた。
 プゥーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!
 刹那、大音量のクラクションが鳴り響いた! 近くにあったショーウィンドウや窓ガラスが粉々に砕け散った! それに合わせて、自転車付喪神も吹き飛んでしまった!
 「はぁはぁはぁ… ホーンカウンターだ、このヤロウ…」
 姿勢が悪かったオートは尻もちをつきながら、そう言った。
 自転車付喪神は倒れていたが、すぐに、けれどふらふらしながら起き上がると、くるりと反転。逃げ出した。
 「あっ! 逃げるなっ! 戦えよッ!」
 オートはネックスプリングで起き上がると、自転車付喪神を追い走りだしていた。
 自転車付喪神はオートに気づくと、再度反転。跳躍!
 「!?」
 かなりの速度で走っていたオートは、滑り込むように自転車付喪神の前輪の下敷きに――
 「や・ら・れ・て・たまるかぁ!!!」
 腰のチェンジバーを回転させるッ! ドライヴ、ニュートラル、リバースッ!! バックルの文字が『R』に光ると、オートは動きを止めたのも一瞬、体は逆再生のように前輪の下からすり抜けた!
 今度は『D』に入れ直すと、体制を崩したオートは地面をゴロゴロと転がり転んだ。
 それを見た自転車付喪神は、何度目かの逃走を開始した。
 「自転車がぁ…… 車の前をちょろちょろ走ってるんじゃねぇ!!!」
 遂にキレたオートは、そう怒鳴ると持っていた剣を自転車付喪神に投げつけ、それは背中にさっくりと刺さる!
 「交通弱者は… 大人しく歩道でも走ってろ! ドライヴ・スルー!!」
 刹那、立ちあがったオートの姿が消えた。
 気がつけば、自転車付喪神は自分の前にオートの姿がある事を知る。そして、自分の胸部にはでっかい風穴が空いている。
 「テメェには、この道路は広すぎだ。クズがっ!」
 自転車付喪神は爆散し、自転車から離れた霊魂は、オートの胸部の給油口へ吸い込まれて消えてしまった。

 騒ぎが大きくなり、警察などに捕まえると厄介だと判断したハルトとトウコは、そそくさと新都を後にした。
 その帰り道、トウコが被害者について話をしてくれた。
 「あの怪我をした皆さん、自転車をいつもあそこに置いていたみたいです。不定期的に来る自転車回収業者が回収しては新しいのを買って…」
 「なるほど、ね… 自転車達の怨念とでもいうべきものが、あの一体に自縛されたせいで、大きな霊力になったって所か」
 「これで、新都の皆さんも反省して置かなくなればいいんですけど…」
 「…無理だろうな。人間、あの程度じゃ学習はしないさ」
 ハルトは小さく皮肉を言うが、トウコの耳には届かなかった。
 「あ、ハルトさん! 戦い見てましたよ!!」
 トウコはハルトの数歩先に躍り出ると、振り返り言った。
 「自転車は道路を走るように法律で定められてるんですよ!」
 人差し指を立て、腰に手を当て、「め!」とでも言い出しそうなポーズで言った。
 「~~~~っ!?!?!」
 そのポーズはハルトのツボにハマッたのだろう。
 足を止め、蹲って、悶え苦しんでいた。
 「は、ハルトさん…? はわわ! どうしたんですか!!」
 「い、いや… なんでもない…」
 「なんでもないワケないじゃないですか! どこか怪我してるんですか?」
 数秒間、悶えたハルトだったが、顔は未だに赤いままではあるものの、立ち上がりトウコの肩に手をポンと置いた。
 「トウコちゃん… 可愛すぎ」
 「は、はわっ!?」
 刹那、トウコは顔を真っ赤にして、目を回して倒れてしまった。
 「と、トコウちゃん? トウコちゃーん!!」
 ハルトは、倒れたトウコをお姫様だっこで抱えたまま神社に向かった。

 さて、タカヤには何と言って言い訳をしようか?
 十六夜の下、ハルトは頭を抱えた。

2009-05-27

仮面ライダーオート第01話

第一話『月夜の女神』

 四月上旬、まだまだ肌寒さを感じるものの、桜は見事に満開だ。春を急ぎ足で抜けようとする昼間の気温は高いが、夜になれば冬の名残を残している。
 時刻は丑三つ時。楠木ハルトという大学生は、一人暮らしのアパートから少し足を延ばした所にある、一つの街を大きく二つに分断する川、その川沿いへやってきていた。何があったわけじゃない。単純に川を挟んで見事に並ぶ桜並木を見たかったのだ。
 川を挟んで東側にある通称『新都』、都市開発が進み都会の形相を残している。モノが溢れ、ヒトは忙しそうに歩きまわる。若者は夜遅くまで遊んでいる。新都と呼ばれる場所は、そんな場所だ。新都のシンボルと言えば、多くの有名な店、様々な企業の事務所、分譲マンション、駅を内包した一つの都市と化している超高層ビルであろう。
 それに対して、ハルトが立っているのは、その対岸。川を挟んで西側にある通称『古都』、聞こえだけならキョウトやナラを連想しそうなものだが、実際はそうではない。新都と比べるまでもなく田舎のような場所である。この時代にコンビニがなくスーパーも少ない。あるのは商店街だが、夜七時には閉まってしまう。よく言えば、ノスタルジアな場所だ。新都のビルに対して古都のシンボルは、ナラにあるホウリュウ寺と同時期に建造されたとされる古い神社である。
 さておき。ハルトは川によって分断された街には、これと言って感想を持てなかった。当然だ。彼はこの地で生まれ育ったわけではないし、急成長を遂げた十年間を見ていたわけでもない。彼がこの街にやってきたのは、開発も末期の三年前の事だ。合格した大学のキャンパスが新都にあったから、家賃の安い古都に住みついただけの話。彼は純粋に満開の桜を眺めているだけだった。
 不意に頬を撫でる冷たい風は、桜の木の枝を揺らす。桜の花びらが少し風に悪戯されて宙を舞い、それを視線で追った。だが、次の瞬間には花びらを追わずに別のものを捉えて離さなかった。
 腰よりも長い髪、それも冬を思わせる程のプラチナブロンド、月明かりだけが照らす肌は色白ではなく薄紅色、瞳は真紅に輝いていた。ハルトの視線を捉えたのは、日本刀を佩いた巫女服の女の子だった。
 彼女はハルトには目もくれず、次の瞬間には川の方へ向かって走り去ってしまった。
 古い街だ。幽霊などの類であってもおかしくない。触らぬ神に祟りなし、なんて言葉がハルトの脳裏を掠める。だが、ハルトは押さえられない好奇心のままに、巫女を追いかけていた。

 巫女は川に… 水に躊躇いもなく足を突っ込み一心不乱に何かを追いかけて走っていた。ハルトは川に足を突っ込むことを躊躇ったが、逸る気持ちに突き動かされて彼女の後を追った。
 川を越えれば、そこは新都。眠らない街は、超高層ビルの周辺だけであり、川を越えた所は古都同様に不気味なほど静まり返っていた。そんな静まり返った新都郊外、放置されてから随分の時間が経った、そんな印象がある工場の中へと巫女が消えていくのをかろうじて目視したハルトは、ひざに手をついて息を切らした。
 しっかりと閉じられている門扉の横には、『アオザキ・コーポレーション』の名前が刻まれていた。その名前でハルトは思い出した。同じアパートに住んでいる母子の子供が『新都のオバケ工場』の話をしていた。
 『新都のオバケ工場』と言えば、昔のアオザキ・コーポレーションが車を作っていたが、作業用の機械に人が挟まれて死んでしまった為に閉鎖され、事故死してしまった人が誰もいない工場で夜な夜な呪いの車を作っているという噂がある。
 その子の話を話半分にしか聞いていなかったが、実際に真夜中の不気味な工場の佇まいを見ると、「あながちウソではないな」と思ってしまう。それに、あの巫女が工場に入っていったのが、余計に不気味さを増させるのだ。
 ハルトは川に足を突っ込む以上に、工場へ踏み込むのを躊躇った。だが… どうやっても巫女が気になるのだ。だから…
 だから、ハルトは勇気を持って工場へ足を踏み入れた。

 巫女が入ったのだろうか、ドアが半開きになっている。ハルトは、そのドアから恐る恐る入って行く。真っ暗になる事を想定していたが、実際は薄暗かった。月明かりが入っている、と言えばそこまでなのだが、月明かりだけではないような気がした。
 だが、深く考えても仕方がないので、ハルトは更に歩を進める事にした。
 入った場所は、どうやら事務所のようだ。随分と形は古いがパソコン… というよりもマイコンと言った方が正しいような代物が数代設置されていた。長い時間、誰も来なかった事を示すほど机などの上には埃が溜まっている。
 そんな埃だ、誰かが通れば足跡が残る。ハルトは足跡に気づくと、その足跡を追ってドアに手をかけ、ガチャリと開いた。
 「動かないでください」
 不意に首筋に冷たい物が当たった。それが刃物… 日本刀だと気づく頃には左手を捻り上げられていた。
 「こんな深夜に、こんな場所で何の用事ですか?」
 自分をホールドしている相手の声は女の子。流し目で相手の顔を確認すると、そこにあったのは先ほどの巫女の姿だった。
 「答えてください。何のよう… まさか、あなたはツクモガミに憑かれたのですか!?」
 ハルトは彼女が何の事を言っているのか、さっぱりわからなかった。
 「ちょっと、ストップ! ツクモガミって何!? 俺は善良な一般市民だっ!」
 さっぱりわからないなりにも、状況だけは理解していたハルトは抗議の声を上げた。
 「……はっ! ご、ごめんなさいっ! はわわ… だ、大丈夫ですか?」
 ハルトの抗議の声が届いたのか、少しの間はあったものの、何かに気づいた巫女はハルトを解放するとぺこぺこと謝りだした。
 「ごめんなさい! わ、わたしったら、緊張してて…」
 「い、いや… 俺は大丈夫だから… こんな時間にこんな場所に居たら誤解されるよね! だから気にしてないよ!!」
 はわわと謝る巫女に逆に申し訳なさを感じたハルトも頭を下げた。だが、今度はハルトの言葉を受け取った巫女は神妙な顔をしつつ、刀を握った。
 「そうだ! どうしてこんな時間に、こんな場所に居るんですか!」
 妙な緊張感が場を制した。だが、ハルトは臆することなく、言っていた。
 「河原で君を見かけて、気になったから追いかけてきたんだ」
 「えっ? ええっ!? はわわ……」
 ハルトの言葉に巫女は顔を真っ赤にしてしまった。巫女の反応に、ハルトも何かとんでもない事を言ってしまったのではないだろうか?と思い、顔を赤くした。そうして今度は、先ほどとは違う妙な空気が場を支配していた。
 どちらも顔を赤くして、口を開けずにいた。だが、そんな沈黙は数秒の後に破られた。
 「えぇい! 小っ恥ずかしいわ!! いい若いもんが!」
 男の声だが、年老いた老人のような声で、ハルトのものではない。
 「誰ですか!!」
 巫女は三度、刀を握りなおすと叫んだ。
 「ワシか? ワシは貴様らが付喪神と呼ぶものじゃよ」
 声と共に姿を現したのは、ロボットだった。スポーツカーが変形したロボットだ。
 「と、トランスフォーマー?」
 ハルトは、その姿に言葉を漏らした。
 「トランスフォーマーじゃないです。彼は付喪神。神様の一種です。おそらくは、ここで製造された車が昇華したものかと」
 そう言いながら巫女は、ハルトの腕を引っ張り自分の後ろに回した。
 「神斬りの子よ、そう警戒するな。ワシは害を与えるつもりはないぞ」
 「わたしが神斬りだと知っているなら、話は早いです。早く…」
 「生き急ぐな小娘。貴様程度の力でワシを葬れるとでも思っておるのか?」
 巫女の言葉を断ち切り、ロボット…車の付喪神は言った。言葉と共に付喪神の存在感とでも言うのだろうか、ハルトにも理解できるほど強く濃い強固なものになる。
 ハルトをかばうように立つ巫女の体は小刻みに震えている。それに合わせて刀がカチカチと震える音も聞こえてくる。
 そんな姿をみたハルトは、巫女の手をぎゅっと握り、一歩前に出た。
 「…わかりました」
 付喪神を見据えながら言った。ハルトは視線を外さないまま、「刀を納めて」と巫女に言うと、巫女は少し困った様子だったが、ハルトの言葉に従い刀を納めた。
 「ほぉ… 流石は日本男児。分をわきまえておるな」
 「ありがとうございます」
 付喪神の言葉にハルトは礼を言う。
 「早速ですが、貴方は先ほど害意はないとおっしゃいましたね。つまり、話し合う用意があると思っていいですか?」
 言葉を続けるハルトに付喪神は感心したように頷いた。
 「その通りじゃ。最近の若者にしては、洞察力や道理を知っておるな。ふむ…」
 付喪神はそう言って、しげしげとハルトを観察を始めた。
 「あ、あの… 何か…」
 「ふむ。決めた。ワシのチカラを貴様に託そう」
 「は? 意味がわかりませんが…」
 「解らずとも良い。識る事が出来るのだ」
 「は、はぁ……」
 先ほど巫女が言った、昇華云々の話は理解できたハルトも付喪神の言葉は理解しきれなかった。だが、次の瞬間、全てを理解することになる。

 気がつくと、随分と時間が経ったようで、すっかり夜も明け朝日が差し込んできていた。
 「あ、あれ…? 俺、どうして…」
 「大丈夫ですか! 気がついたんですね!」
 冷たい床の上で眠っていたハルトの顔を心配そうにのぞき込んでいたのは、巫女だった。
 「あ、あぁ… そうゆうことか… ごめんね、迷惑かけて」
 「いえ… 正直助かりました」
 「そうか… それじゃあ、朝になっちゃったけど帰ろうか」
 そう言ってハルトは起き上がった。
 「あ、いえ… 私は…」
 立ちあがったハルトの足元で巫女は視線を落したままだ。
 「えっと… 怪我でもしているの?」
 「いえ… そのわたし… 先天性白皮症なんです」
 「せんてんせいはくひしょう?」
 「はい。俗に言う、アルビノです」
 そう言われてハルトは納得した。
 先天性白皮性…通称・アルビノ。メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により 先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患である。紫外線…太陽の光から身を守るメラニンがゼロに等しく皮膚がんになる確率は、普通の人の比ではない。
 彼女の肌の白さや白銀の髪、紅い瞳はメラニン(色素)がない事に起因するのだ。
 「そうか… 大変だな」
 「もう、慣れました。えへへ…」
 慰めにもならない言葉に、巫女は力なく笑った。
 「おっけ、日陰で隠れておいてくれ。日差しが入らない場所を探してくるよ」
 「えっ? でも… 悪いです」
 「いいよ。昨日は迷惑かけちゃったしね」
 そう言って、ハルトはその場を後にした。

 その後、仮眠室を見つけたハルトは、そこに彼女を案内した。
 ハルトの勧めで彼女はベットに横になると、小さな寝息を立て始めた。
 「さて、と」
 彼女が眠ったのを確認したハルトは、一瞬だけ彼女に悪戯してやろうかと思った。あの神秘的で自分の心を掴んで放さなかった女の子が、無防備に眠っているのだ。
 が、流石に犯罪者になる覚悟はないハルト。自分に「阿呆か」と呟きながら仮眠室を後にした。

 彼女が目を覚ますと、日は傾き始める頃だった。
 起き上がった彼女の周りには誰もいなかった。
 「やっぱり… わたしはバケモノ、なのかな…」
 そう呟き涙が溢れそうになってきた。
 「おっ? 起きたか」
 そんな時、がちゃりと部屋に入ってきたのはハルトだった。その手にはビニール袋がぶら下げられていた。
 「えっ? あ、あの……」
 「あぁ、悪い悪い。買い物行って来てさ。戻ってきても寝てるもんだから、事務所で暇つぶしてたんだ」
 朗らかに笑いながら、彼はそう言った。彼女は、そんな彼の笑顔に先ほどとは違う涙を浮かべた。
 「わ、な、なんで泣くの? 俺、なんかやっちまった?」
 「ち、違いますっ!」
 そんな小さなドタバタが落ちついて、二人で食事を取りながら、ハルトはあの付喪神について話していた。

 あの付喪神は、大昔に神斬りの神主と共に他の付喪神を退治していた。
 そもそも付喪神とは九十九神とも言い、長い時間の経過の果てにモノやヒトに霊魂などが宿った神様である。長い時間や多種多様な物を指す九十九と称されている。故に九十九神。
 霊魂に良し悪しはなく、憑依した依代によって善悪が決定するそうだ。
 あの付喪神は、善い神様であるお狐様で、悪しき神を打ち滅ぼしては封印を施してきた。
 大方の悪しき神を封印したお狐様は封印を盤石なものにするために自身もこの地で眠りについた。
 だが、新都の開発により封印の石が破壊されてしまった。お狐様もその例外ではない。
 目覚めたお狐様の依代となる狐はすでに死んでしまい、早急に新しい依代を用意する必要があり、この廃工場の打ち捨てられた車に憑依して長らえた。
 だが、モノが大きすぎる上に科学と言う彼にとって未知のチカラが、彼の魂をすり減らす事になった。魂は擦り減り弱くなるが、持っている力は強大であり、霧散させるには惜しいし、ヘタをすれば他の付喪神に持っていかれる恐れもあった。
 そこに現れたハルトにチカラを全て託し、自身は消えてしまったのだ。
 だが、ヒトが持つにはあまりにも強大であった為に、ある仕掛けを残しておいた。
 さておき。霊魂に善悪はないと言ったが、悪しき神々は封印された。それは悪しき霊魂が封印されたと言い換えてもいい。
 つまり、悪しき霊魂が次の依代に移った場合、その依代は悪事を働く。
 それを危惧したお狐様は、そう言った意味も含めてハルトに力を託したのだ。

 「なるほど… ですが、それでは、お兄さんまで付喪神の戦いに巻き込まれる事になりますよ!」
 「そうだね。でも、もう関わってしまった。後には引けないよ」
 「でも……」
 何か言いたげな巫女を制して、ハルトは言う。
 「昔、神主と付喪神が共に戦った。今度は俺と君で戦うんだ」
 そう言われて巫女は言葉を失った。
 「さぁ、行こう。一緒に!」
 ハルトは右手を差し出した。その手に恐る恐る手を差し伸ばすが、だが躊躇う。そんな彼女の手をハルトは掴んだ。そして、微笑んだ。
 「さぁて、それじゃあ、始めようか!!」
 立ちあがったハルトは、巫女の手を離した。
 「逢魔時とはよく言ったものだ」
 そう言ってハルトが扉の方へ振り返った。その瞬間、重い鉄の扉が宙を舞いハルト達の方へ飛んできた。ハルトは間一髪で彼女を抱きかかえ横へ飛んでいた。
 そして、彼らの目に映ったのは、事務所にあったマイコンだった。ただのマイコンではない。禍々しく人間大になった不気味なマイコンだ。
 「下がってて! あいつは俺が倒す!」
 「でも…!」
 「夕方とは言え、まだ日が出ているんだ。君は戦えないよ!」
 ハルトに言われ、巫女は悔しそうに唇をかんだ。
 「大丈夫。これでも昔はチンピラまがいの事をやってたんだぜ?」
 そう言って、ハルトは笑った。
 「気をつけてください…」
 小さく言った。
 「おう、任せとけ!」
 ハルトはお狐様から貰った車のカギを天井に向けて高々と上げた。それに呼応するように腰には銀色のベルトが姿を現した。
 「変身ッ!」
 高々と掲げた左手のカギを腰の真横に振り下げる。それはまるで、サイドブレーキを下ろすような動作。それに反応して、ベルトから発せられた光に包まれたハルトは、銀と紅を基調としたボディスーツへと姿を変えた。
 肩からは四本のマフラーが伸びる! 両足の横には二つずつタイヤが現れるっ! 背中には真紅のテールランプっ! 顔を覆うマスクにはヘッドライトのような眼、その下にはウィンカーっ! 右手にはチェンジバーを意識した剣、左手にはハンドルを模したラウンドシールドっ! 額には『A』の文字が浮かび上がるっ!
 「さぁ、行くぞっ! イグニッションッ!!」
 ベルトのバックルの右にある不自然な突起に持っていたカギを差し込み回すっ! それに合わせて、バックル左半分の三つのメーターがゲージを振りきる勢いで動き出したっ!
 「これが… 俺…」
 変身した自分の姿を確認するハルト。そのハルトの姿に驚いたマイコン付喪神は一目散に逃げ出した。過去に自身を封印したお狐様と似て非なる霊力に逃げ出したのだ。
 「あ、待てっ!」
 そう言って、ハルトはマイコン付喪神を追いかけようとした。だが、その時、後ろから声が聞こえた。
 「待って!」
 「えっ?」
 「お兄さん… 名前、聞いてもいいですか?」
 「俺の? …そうだな」
 頭の中で逡巡すると、ハルトはこう言った。
 「『仮面ライダーオート』、楠木ハルト」
 「仮面ライダー… オート。楠木ハルトさん… 私、上霧トウコですっ!」
 ハルトは巫女の…トウコの方へ振り返り、「じゃ、言ってくるよ」と言って、マイコン付喪神を追いかけた。
 
 あっさりとマイコン付喪神には追いつき、その背中に大きな蹴りを叩きこみ、工場内へ吹き飛ばされた。
 「よっしゃ! あの娘に無茶はさせたくなからな、一気に蹴りをつけてやるっ!」
 そう言って、ハルトは地面に剣を突き立てる。そして両手で腰の真横についている半球状のものをガチャリガチャリと回していく。
 P、R、Nと一つ動かす度に半球から見える文字、バックルの真ん中の文字が変化していく。
 ハルトはDになったのを確認すると、剣を引き抜いた。
 「行くぞっ!」
 大股でマイコン付喪神に詰め寄ると、大きく一撃。続けて一撃と重い剣撃をマイコン付喪神に浴びせていく。
 バックルにあるメーター、速度計が上昇する。何処からか聞こえるエンジン音は唸りを上げると、回転計が一瞬小さくなる。ガチャンとギアが変わる音が聞こえる。それと同時に速度計が更に速度を上げていく!
 重い一撃は早くなる…
 斬、斬、ガンッ! 動きも蹴りが入り、拳が入り… ギアはサードへ!
 早い連続攻撃は加速して行く! そして、トップへッ!!
 「トドメだっ! 必殺! ドライヴ・スルー!!」
 ハルトはマイコン付喪神を思いっきり蹴りつけ、間合いを取る。無防備になった、その胸に持っていた剣を投げつけ刺さるっ! 剣が示していた文字は『P』。マイコン付喪神は動けなくなったっ!
 ハルトの足に付いていたタイヤが外れ、その上に乗った。ものすごい回転で唸りを上げるタイヤ。刹那、ハルトの姿が消えた!
 次の瞬間、ハルトは拳で剣の柄を殴り、マイコン付喪神の胸部にでっかい穴を空け、通り過ぎていた。
 そして、マイコン付喪神は爆散してしまった。
 だが、これでは霊魂は逃げてしまう。ハルトは右胸にあるハッチを開くと、逃げようとした霊魂は中へ吸い込まれ、バックルの最後のメーターが動いた。
 ハルトは変身を解き、振り返った。そこには心配そうな表情を浮かべたトウコの姿があった。ハルトは、トウコに向かって笑顔を向けてピースサインを送った。
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