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2009-05-25

クロイツ王国物語~あとがき~

いかがだったでしょうか? クロイツ王国物語。

久しぶりにがっつりと短編を書かせてもらいました。
この作品は蒼崎が全力をかけて書いた作品ですが、掲載するごとにありがたいお言葉を頂きまして、自分もまだまだだと思いましたが、それでも自分の中では最高の出来ではないかと思います。

この作品は、DIVAさんから出ているゲーム『冬のロンド』(18禁)を根底に作られたものです。
あらすじとしては、wiki参照です。

幼い頃に母親と死別した日本人の青年「倉敷光」は、仕事で世界各地を転々としていた父親が北方の小国「ルミアウラ」の王族女性と再婚したことにより、自らも同国に移住することになる。
ルミアウラに渡った光は、義理の母となる女性の連れ子で国の姫君であるマリー、ヴィクトリア、ダイアナ、グレースという名の四姉妹と同居することとなった。しかし、王位継承権の低い彼女たちは従姉妹のクリスティーナ姫のように城には住めず、一般国民と同様町の一軒家で質素な暮らしを送っていた。
電気もガスも水道もない日本とはまるで違う環境に戸惑うことの多い光だったが、経済的・物質的な豊かさに固執することなく、共に支えあいながら生きてゆこうとする心優しい四姉妹や町の住人達の姿に心を動かされ、少しずつ新たな生活に溶け込んでゆく。
まもなくして、四姉妹とすっかり仲が良くなった光はある日、彼女たちに恋愛についての話題を振るが、何故か四人とも異口同音に「自分達には関係ない」と言い張る。王族である彼女たちにはそれぞれに婚約者がおり、近い将来祖国のため他国へと嫁いでいくことが宿命付けられていたのだった。

このように、極寒の貧困な国で姫様が、言い方は悪いですが、身売りして経済援助をもらう事で国を助けていく設定です。
冬のロンドに関わらず、この手のゲームのヒロイン… 金持ちや姫様などは、二人の障害として、殆どの確率で『政略結婚』が出てきます。
毎度毎度、主人公の熱血さに金持ちの気持ちが折れて、二人の交際を認める結果になります。
蒼崎は毎度毎度思います。
経営のトップ、あるいはそれに準ずる人が、世間知らずのクソガキの言葉で、国やら何やらを捨てるつもりか!と。
そんな甘い世界じゃないだろう。
そう思って、この話を書きました。

物語の特徴としては、主人公が街の青年のヴァイス… ではなく、金持ちの息子のジェイドです。これが、まずは初手であります。
上記のようなゲームでは、多少イヤミでも政略結婚相手はヒロインに好意を持っていたりします。その気持ちを無下にするのはどうだろう? という事から、ジェイドが誕生しました。
ジェイド(悪役)の観点から見れば、ヴァイス(主人公)の愚かさは判るんじゃないだろうか?と思いまして。
そして、この作品の特徴としては、蒼崎作品では珍しくヒロインに対して二人が行為を寄せるものであります。昔書いていたのは、馬鹿馬鹿しいラブコメでしたが、今では黒歴史です。
さておき、一人の女性をめぐって二人の男性を描くというのは、存外苦労しました。
結果、ヴァイスが非常におざなりになってしまった感は、正直、否めません。

各キャラクターについて

ジェイド・アオザキ
毎度、言っている気がしますが、蒼崎自身、名前を考えるのが苦手なんです。なので、いつもは『信哉』という名前を使っていました。ですが、心機一転のために名前を変えてみました。
ジェイド。特に意味はありません。
アオザキに関しては、まったく思いつかなかったので苦渋の選択でした。
特に容姿について言及はしていませんが、蒼崎の中では黒いロングヘアで整然とした綺麗な顔で野生と知性を併せ持ったような感じをイメージしていました。
彼の性格については、もう少し残虐性とか持たせたかったかな。残虐ってのはなんか違うけど、冷血な面と心根は優しい感じの差を出したかったです。

クゥ・クロム・クロイツ
ミドルネームを入れるとなると、個人的には頭の文字を同じ音にしたくて。アーレント・アリス・アークレットみたいな? ということで、意味はありません。
ビジュアル面としては、アンジェリークみたいなのが頭をちらついて離れませんでした。
さておき。
彼女のキャラ付けもまだまだでした。
国を大切に思うために政略結婚は受け入れているが、突然の出来事に動揺してしまう様などはもう少し丁寧に書けたらいいな。
あとは、もう少しだけ普通の女の子っぽく、あるいは王女っぽくしたかった。なんか、どっちつかずの感じで消化不良気味です。

ヴァイス
恥ずかしい話、コイツのファミリーネームを覚えていませんでした。今も思い出せません。本文中にあるかもしれません。見つけた方、教えてください。
さて。
彼のビジュアルは… 恋愛ゲームに出てきそうな感じの主人公という、ジ・曖昧。
彼の扱いはもう少し改善したいですね。あまりにも消化不良ですし。
ですが、これはある種のメッセージと受け取ってもらえれば嬉しいですね。
恋愛ゲームで蔑ろにされている、結婚相手。だったら、こっちは本来主人公の彼を蔑ろにして何が悪いっ! これは心優しい金持ちの話だ。というメッセージを。
すみません。こじつけです。
もうちょっと、彼についても突っ込んだ話を書くべきだった。

物語の補足
ジェイドの祖父、ジェイク氏がクロイツ王国を救ったのには理由があります。
元々、ジェイクとリクに親交があった事もありますし、ジェイクはクロイツ王国に眠っているレアメタルの優先的採掘を狙っていた事もあります。
ジェイクからすれば、ジェイドを連れて行ったのは、将来の結婚相手との顔見せの意味合いも含んでいたのです。
いやぁ、怖いですねぇ。ジェイク氏。
ですが、それは老人だからこその老獪さなのかもしれません。ジェイドの若さで、その老獪さがあったら、それこそ本当に魔王になりかねませんですしね。

さて、ここまで作者の戯言にお付き合い頂きありがとうございました。

感想をお待ちしております。

2008年11月22日 蒼崎真紅
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2009-05-24

クロイツ王国物語~第7章~

 第七章~クロイツ王国物語~
 
 昔々、クロイツ王国に突然現れたのは、孤高の魔王でした。
 魔王は、その国の姫を差し出せば国民を幸福にしてやると言い、姫様をさらっていきました。魔王は約束を守り、人々の生活は豊かになりました。
 しかし、国の勇者は姫様の身を案じて、魔王に挑みました。ですが、魔王の力はあまりにも強大で、とても勇者には手に負えませんでした。
 勇者は魔王を倒し、姫様を救うために日夜修行を積んでいます。いつか、魔王を倒すだけの力を得るために。
 ですが、気づけば勇者は魔王の側近の一人になっており、クロイツ王国に更なる繁栄をもたらしました。

 クロイツ王国史 第七章より抜粋
 ヴァイス著

fin
2009-05-24

クロイツ王国物語~第6章~

 第六章~社長~

 クゥが退院するこの日、ジェイドは自前のディアブロに乗って病院にやってきた。少し遅れてやってきた彼は、玄関前で退院を祝うクゥ達の姿を見つけた。
 ロータリーに車を止め、ジェイドは彼らに近づいていくと、クゥの声が聞こえた。それは、まだまだたどたどしいが、この国の言葉であった。ジェイドはその姿に少しだけ目頭が熱くなった。
 だが、涙を流すのは流石にカッコ悪くて、それを堪えると、ゆったりと歩きはじめた。
 「クゥ、退院、おめでとう」
 ジェイドはそう言うと色とりどりの花束をクゥに手渡した。
 「ありがとうございます」
 「うんうん、上手くなったな」
 「ありがとうございます」
 「それと、服、可愛いな」
 「ありがとうございます」
 ………
 「寿司、天ぷら、鉄火丼」
 「ありがとうございます」
 クロイツ語。
 「クゥ、『ありがとうございます』しか言えないだろ?」
 「ち、違います。言えます」
 「ほぉ、そうか、言ってみ?」
 「『ありがとうございました』」
 ……ジェイドは周囲に翻訳してみせると、医師も看護師もドッと沸き、クゥは恥ずかしそうにしつつも、何処か嬉しそうにしていた。

 そんな病院の一幕の後、クゥはジェイドの運転する車に乗って、初めて行くジェイドの… 二人の家に足を踏み入れた。土足で上がろうとした事をジェイドに怒られながらも。
 クゥはカルチャーショックを受けていた。ジェイドの家が、王城よりも二倍とはいかずとも一.五倍はあるだろう巨大な建物。地下には沢山の車。エレベーターに乗れば、六十階までの直通だ。
 ジェイドはこんな大きな家に住んでいるのか、というショックを受けており、同時にこんな家に住んで、果たして部屋の場所などを覚えられるのだろうか?という不安もあったが。そんな折、ジェイドはジト目のまま、クゥに言った。
 「この建物全てが俺の家じゃないからな? この部屋だけだぞ?」
 と。ポカンとするクゥに、ジェイドは呆れ顔でマンションの概念を伝えると、やはりクゥの顔はみるみる赤くなっていった。
 「ま、建物自体は俺の持ち物だがな」
 と付け加えたが、クゥには何の事だがわからなかった。

 ジェイドは部屋の一室にクゥの荷物を運び込んだ後、すぐに出かける準備を始めた。
 「ジェイド様、お仕事ですか?」
 ジェイドの姿を見るなり、クゥが尋ねると、ジェイドは寂しそうな顔を見せた。
 だが、それも一瞬の事で、ジェイドの顔つきは仕事の時のようになっていた。
 「あぁ、これから一ヶ月ほど家を空ける事になる。ちょっと大掛かりな仕事があってな」
 一拍置いて、言葉を選ぶようにジェイドは続けた。
 「一ヶ月、仕事にかかりきりになるから、滅多に電話に出ることも出来ないと思う。だから、キミが何処で何をしていようと、俺は知ることは出来ない」
 ジェイドはそう言うと、クゥの返事を待たずに早々に家を出て行ってしまった。その場に取り残されたクゥは、ジェイドの言葉の真意を知るには数秒の時間が必要であった。

 一日経った後、移動の為にリムジンに乗っていたジェイド。唐突に乗り合わせていた秘書官の女性のケータイが鳴った。
 「失礼します」
 秘書官はジェイドに断りを入れると、電話に応じていた。仕事関連の電話は全て彼女にかかってくることになっており、ジェイドは内心「このクソ忙しい時にまたトラブルか」とボヤいていた。
 電話を終えたのか、秘書官はケータイを閉じると、淡々とジェイドに報告をしてきた。
 「ジェイド様」
 「また、仕事か?」
 呆れたような表情のジェイドは、半ば投げやりに答える。
 「いえ、実は…」
 「…」
 言いよどむ秘書官だったが、ジェイドは無言で続きを促していた。おそらくは、ジェイドは電話の内容を既に理解しているのではないだろうか?
 「失礼しました。実は奥様が先ほど家を出られました。行き先は恐らく、クロイツ王国かと」
 「…そうか」
 ジェイドは短く呟くと、沈痛な面持ちになった。
 昨日、クゥに言った言葉。あれは、「表面上は夫婦であっても、気持ちは好きな人と共にありなさい」という意思表示。「俺は仕事が忙しくて妻の事を考える事が出来ない」。
 「……俺も甘いモンだな」
 ジェイドの小さな呟きに、秘書官は少し驚いていた。

 怒涛の一ヶ月が過ぎていた。
 クゥが旅立った、その日。ジェイドは自身の父親で、現・アオザキ・コーポレーションの社長をリコールした。端的に言えば、「お前は社長として無能だから、代わりに俺がなってやる」というものである。
 突然のリコールに、メディアはもちろんだが、政財界にも多大な影響をもたらす事になったが、それは予想よりも小さなものであった。無論、メディアはお祭りのような状態だったのだが、それはそれ。人の口に戸は立てられないというもの。
 ジェイドは、クロイツ王国より帰って来てから一年間。今までにない程の忙しさに見舞われていた。それもこれも父親を社長から引き摺り下ろそうとするための準備に忙しかったのだ。内外関わらず、不安要素は全てクリアした。後は、自分の一声で、全ての計画が終わる。
 ジェイドに近しい人など父か、そしてクゥしかいなかった。たった二人だけを幸せにするために仕組んできた。祖父、ジェイク・アオザキの教え「俺は少なくとも自分の周囲の人間を幸せにしてやりたい」を信念に生きてきた。これが自分の集大成だ。
 頭の悪い若い女に騙された、経営者としては致命的な程お人よしの父親。
 胸に病を抱え、貧しい国を救うために政略結婚を受け入れる姫。

 たった二人を救うために… その日、ジェイドは社長に就任した。

 父親を会長職には就かせずに、完全にアオザキ・コーポレーションから追放したジェイド。すぐに、あの女は父親と別れるだろう。そうすれば、再びアオザキ・コーポレーション系列の会社に放り込めばいい。もっと、従業員と近しい会社に入れてやればいい。肩の荷を降ろして、和気藹々とわっているほうが幸せだろう。
 クゥは国でヴァイスと仲良くやっているだろうか? 子供が出来るのは、少し困るが、出来たら出来たで、早々に別れてしまおう。大丈夫、クロイツ王国への金融支援等の見返りに地下に眠っているレアメタルの採掘権は会社が握っている。町も作ったし、少なくとも町から得られる外貨が国の経済不順を良くしてくれる。
 グルグルグルグル、思考は同じ問答を繰り返す。気づけば、ジェイドは、一ヶ月ぶりに自宅へと戻ってきた。
 ドアを開けても誰もいない。大丈夫、それが常だった。寒い部屋で、メディアの垂れ流す、頭の悪い番組を見ながら酒を飲めばいい。その後に眠って… それが常だったじゃないか。
 がちゃり、冷たいドアノブを回すと。
 「おかえりなさい。あ、あな、あなた」
 可愛いエプロンを付けたクゥが出迎えてくれた。
 「な、なんで、だ?」
 ジェイドは幻を見ているかのような感覚に襲われる。そのために、珍しく動揺していた。
 「もぅ、私はジェイド様の奥さんですよ? 家に居てもおかしくないでしょう?」
 クゥは心外だと言わんばかりに言った。
 「クゥ… クロイツ王国に戻ったんじゃないのか?」
 「えぇ、戻りました。けじめをつけに」
 「だが…」
 「ジェイド様。私達は他の人たちとは違う出会い方をして、結婚しました。でもね、それが何だって言うんですか? 仮に私達の糸が赤くなくても、これから一緒に赤く塗って行きましょう」
 クゥの言葉に、ジェイドはポロポロと涙を流し始めた。
 「わ、わわ、な、泣かないでください。ほら、ご飯の準備も出来てますから、早く中に入りましょう。ね?」
 クゥはジェイドの手を引いて部屋の中に入っていった。二人の新居に―――
2009-05-24

クロイツ王国物語~第5章~

 第五章~妻~

 約一年ぶりに故郷の雪を踏んだ。雪は記憶と同じ感触だというのに、街中は活気に溢れていた。いや、昔から活気があったんだろう。だが、それは貧しいながらも、みんなで協力して生きていこうという雰囲気であった。だが、久しぶりに訪れた故郷の持っている活気は少しだけ毛色が違っていた。少しだけ生活が改善されて、子供たちが働かなくても良い様な、子供たちに未来と言う翼を与えてやろうとする大人達が頑張っているのだ。
 クゥ・クロム・クロイツ王女は、久しぶりに訪れた故郷の雰囲気を肌で感じていた。これは、きっといい事なのだろう、と。
 街中をワクワクしながらも、恐る恐ると言う感じに歩いていく。
 「姫様っ! おかえりなさいっ!」
 「姫、よく戻ってきたな」
 「ありがとうございます、姫」
 街の人たちはクゥの顔を見るなり、昔のように彼女に声をかけてくれた。クゥはその事が堪らなく嬉しかった。けれど、クゥに声をかけてくる人たちは、時折、ジェイドの悪口を言う。成金、誘拐犯、外道…… そんな言葉がクゥの胸をちくりと痛めつけた。
 
 「お父様、お久しぶりです」
 「おぉ、クゥ。よく戻ってきてくれた。私は… 私はぁ…」
 いつものように玉座に座っていた国王は、クゥの姿を見た途端に玉座を押し倒しそうな勢いで立ち上がり、よろよろとクゥの所までやってきた。そして、熱い… 熱い抱擁を。
 「お、お父様!?」
 「おぉ、クゥ。我が、愛しの娘、クゥ… もう二度と戻らぬと思っていたぞ」
 「お父様…」
 クゥは国王の気持ちを察したのか、最初こそは抱擁に対して抵抗したが、その抱擁を受け止め続けた。
 それから数分後、国王がクゥを放し、再び玉座に座った。その顔はぐちゃぐちゃになっており、国王としては、男としては、情けない限りであったが、その場に居合わせた誰も国王を嗤ったりはしなかった。誰もが国王を敬い慕い、誰もが王女を敬い慕い、二人の感動の再会を… 親子の再会を嗤う者などいなかった。
 「すまんな、クゥ。みっともない姿を見せてしまった」
 「いえ」
 「それで、もう患っていたものは、もう大丈夫なのか?」
 「はい。おかげさまで。ジェイド様の計らいに感謝しても感謝しきれません」
 クゥの言葉に国王の顔は、すこし辛そうな顔をした。
 「して、ジェイド殿は何処に?」
 「ジェイド様は、仕事があるために家を空けております」
 「ふむ、ジェイド殿は元気なようで安心した」
 それから、クゥと国王は日が暮れるまで語り明かした。病院生活の事、ジェイドの事、気候の違い… 様々な出来事を国王に話して、今日は終わった。

 翌日、クゥは荷物を纏めていた。そして、手短に国王に別れの挨拶を済ませたのだ。
 そんなクゥの行動に国王は動揺するが、だが、それはクゥの意思であることを読み取ったのか、何も言わずに、ただクゥの目を見て頷いただけだった。
 ただ、クゥが出て行った途端、扉の向こうからは号泣する父の声にクゥはただただ苦笑するしかなかった。そう、苦笑しか出来なかったのだ。
 飛行機を使って四十時間も移動したとは思えない程、荷物は少なく、いつものように近場まで出かけるような身軽さでクゥは街を歩いていた。
 やはり、街の人たちは、クゥを見るなり嬉しそうに挨拶をしたり、世間話をしていた。そんな光景に、クゥは「この国は本当に平和だ」と思わずにはいられなかった。
 街の人の好意に甘えてクゥは昼食を摂ると、今回の帰省の目的を果たしに学校に向かった。一年前までは、ここで教鞭を振っていた事を思い出し、懐かしむ。代わり映えしない廊下、懐かしい教室、そして…
 「ヴァイス」
 懐かしい生徒。
 「こんにちは、姫様」
 授業が終わってもなお、ヴァイスは机にかじりついて勉強をしていた。一年ぶりの再会だというのに、いつものような挨拶。まるで、クゥがここに来ることを知っていたかのような自然さだった。
 「久しぶりね、ヴァイス。元気だった?」
 「はい。姫様もお変わり… いえ、以前よりも顔色がいいですね」
 「えぇ…」
 そこで、一度、沈黙が降りた。
 「ジェイドは… 元気ですか?」
 沈黙を破ったヴァイスから、思いがけない言葉が飛び出してきた事に、クゥは少し驚き、同時に嬉しくなった。まるで、育てていた子供が成長したような…そんな感覚。
 「えぇ。いつも私の事をからかっていたわ」
 「えっ? あのジェイドが、ですか?」
 「うん。―――」
 クゥは一年間に及ぶ入院生活の事を楽しそうに語った。その様子にヴァイスは、朗らかな笑顔とは裏腹に気持ちは沈んでいくような、諦めのような気持ちになっていた。
 「姫様は、ジェイドの事が好きなんですね」
 楽しそうに―少なくともヴァイスの目にはそう映った―話すクゥに漏らすような声で言った。その言葉にクゥはボンッと顔を真っ赤にさせ、俯いてしまった。そして、俯いたまま、コクンと頷いていた。
 「やっぱり、ね。ふぅ… 敵わないよな、アイツには」
 ヴァイスは「ははっ」と笑いながら言った。
 「僕、姫様が行ってしまう日にジェイドに啖呵を切ったじゃないですか。だから、僕は僕なりに勉強したんですよ。街の外れにアオザキ・コーポレーションの人たちが住む町が出来たんです。そこに通ったりしてね、勉強したんです」
 ヴァイスはゆっくりと語りだした。
 ジェイド達と入れ替わりにアオザキ・コーポレーションの人たちが街の外れに、あっという間に町を作って、なるべく自然と同調するような開発を進めていた。最初こそは、なりふり構わず突っ込んで、「勉強を教えてくれ」と言っていたが、彼らは流暢なクロイツ語で「まずは礼儀を覚えて来い」とか「TPOをわきまえろ」と言われた。ヴァイスはかっとなって掴みかかろうとしたが、アオザキ・コーポレーションの人の中の一人、初老の男性がヴァイスに言ったのだ。
 「君がここで馬鹿なマネをすれば、それはクロイツ王国の品位を落とすことになるよ」
 と。その言葉はヴァイスは雷を受けたような衝撃だった。外交も少ない国である以上、情報の出入りが少ないために、現地人とあまり交流を持てない彼らが持ち帰るのは、ヴァイスの行動…それがひいてはクロイツ王国の情報となってしまう。言われた当初こそは、そこまで深く考える事は出来なかったが、それでも漠然とながら大変な事をしてしまったのではないだろうか?と言う気分になった。
 翌日からは出来るだけ邪魔をせずに、暇な時に教えてくださいと頭を下げることを覚えた。田舎で助け合っていると、軽くお礼を言う程度だ。キチンとした礼節を重んじる事は殆どなかった。それだけに、ヴァイスが頭を下げる… 誠意をもって頭を下げるという行為は大きな進歩であり、そんなヴァイスの姿に初老の男性は驚いていた。
 それからは、ヴァイスは何か協力できることがあるなら、と言ってアオザキ・コーポレーションの仕事を手伝ったりしてみたり、その合間に勉強などを教わっていた。
 そんな経験がヴァイスを大きく成長させ、同時にジェイドのすごさをひしひしと感じていたのだ。
 「まだまだですけどね」
 なんて言うが、たった一年でここまで成長できるのは本当にすごい事だと、クゥは感動していた。
 「けど、沢山の事を知った今なら、ジェイドのすごさがわかります。姫様がジェイドを好きになった事も…」
 「ねぇ、ヴァイス。少し勘違いしているわ」
 「えっ?」
 「あのね、ヴァイス。私がジェイド様に惹かれようとしているのは違うの。貴方の言う勉強が出来るからとかじゃなくて、私はジェイド様の本質(やさしさ)に触れたからなの」
 たった一年の付き合いだったし、お見舞いに来てもすぐに帰ってしまうような人だったけれど、いつもクゥの事を気にかけてくれた優しい人。遠い異国の地に、それも病院と言う閉鎖的な空間に閉じ込められた不安から、唯一の知り合いであるジェイドが優しくしてくれた。一種の刷り込みかもしれないけど、それでも、好きになってしまったものは仕方がない。
 「よね」
 クゥは照れたように笑った。嬉しそうに、恥ずかしそうに、何処か悔しそうに。楽しそうに笑っていた。ヴァイスは、その表情を見るなり、ため息を一つ。そして。
 「ホント、敵わないよ。ジェイドにも…」
 ヴァイスの言葉、ため息にクゥは申し訳なさそうな顔になったが… ヴァイスは言葉を続けた。
 「姫様の惚気にも、さ」
 意地悪くヴァイスが笑い、クゥは何度目かの顔を真っ赤にしていた。
2009-05-24

クロイツ王国物語~第4章~

 第四章~婚約者~

 ようやく国に帰ると、ジェイドはケータイを取り出した。久しぶりに電源を入れると、山のようなメールと着信履歴が残っていたが、それは一旦無視して、電話帳を開き病院へと電話をかけた。
 「もしもし、俺だ。今から例の患者を連れて行くから受け入れ準備を進めてくれ」
 と言ったが、電話の主は、
 「…すみません、アオザキ様。何を言っているのか判りません」
 と返してきた。ジェイドは「おかしいな、電波の状況でも悪いのだろうか?」とも思ったが、クロイツ王国ではアンテナの一つも立たなかったというのに、今ではバリ三である。
 「ジェイド様… 病院って…」
 隣に立っていたクゥが不安そうな顔でジェイドの顔を見上げていた。そこで、初めてジェイドは気が付いた。
 「あ、すまない。―――――」
 クゥには最初の「すまない」という言葉だけが聞き取れ、後の会話は知らない言語であった。
 ジェイドは話を終えたのか、ケータイを閉じると「いくぞ」と短く言い歩き出した。
 「ジェイド様、病院って何ですか?」
 歩き始めたジェイドの背中をにらみつけながらクゥは言い、その言葉を受け取ったジェイドは振り返ると、心底バカにしたような笑みを見せて。
 「病院ってのは、病気の人を治すための施設だ」
 と言った。
 「知ってますっ! そんな事を聞いてるんじゃないんです」
 「…じゃあ、クゥはどうしたいんだよ」
 「それは……」
 「当ててやろうか?」
 言葉に詰まるクゥに歩み寄るジェイドは、顎に手を当てながら思案顔になる。
 ジェイドは顎に手をあてたまま、何度かさすり「そうだなぁ…」と呟いた。そして。
 「病院が怖いんだな?」
 「違いますっ!」
 ジェイドが思いついたと言わんばかりに明るく言ったが、クゥはすかさずにツッコミを入れてしまった。
 「…」
 クゥは自分自身、酷く驚いていた。今までは王女らしく振舞ってきていたのに、ジェイドと… 特に国を出た後のジェイドとの会話は、今までの自分では思いつきもしなかったような会話が出来ている。彼女は……
 「さて、と。姫君が怒り出す前に理由を説明しておこうか」
 スッとジェイドの顔から笑みが消えた。冷たい、人としての感情を無くした機械人形のような、冷たい経営者の顔だ。
 「君は不本意だろうけど、君は俺の嫁になる」
 ジェイドの言葉にクゥは、やはり顔を… いや、全身を強張らせる。
 「だが、君は心臓に病を抱えている。改めて言うことでもないけど、君の病気は死に直結するものではないけど、何かの拍子にパッタリいかれると困る」
 暗に、急にそんな事になれば忙しい間に面倒ごとを抱えるのはゴメンだ、とでも言いたそうに思えて、クゥは悲しくなった。
 「まぁ、それ以上にその若さで死んでしまえば、これから待ち受けている楽しい事も知らずにいることになるのは、不幸だしな」
 と、ジェイドは笑った。だが、その笑顔には何処か寂しさを思わせるものがあった。
 「とにかく、クゥ。君は今から病院に行って、診察して、じっくりと病気を癒すといい」
 言うだけ言うと、ジェイドは「わかったな」と言葉を区切ると、先ほどまで見せていたにこやかな顔を見せ、そして歩き出していった。
 クゥは直感的に、これはジェイドの優しさなんだと思った。飛行機に乗っている間も感じたことだが、ジェイドの本当の顔は、多分先ほどのにこやかな顔なんだろう。彼女は少しだけジェイドを理解できて、本当に自分の事を心配してくれているんだな、と思い至り、小走りにジェイドを追いかけて彼の隣まで行った。

 少なくともクロイツ王国では見た事がない、大きな大きな箱。真っ白な外壁に綺麗な中庭。建物の名前が記載されていると思われる看板に、何が書かれているのかはわからないけれど、クゥはここがこれから自分が入院する病院だと悟った。
 ジェイドの後を追って、病院の自動ドアを一緒にくぐると、ジェイドに「少し、ここで待ってろ」と言われ、椅子に腰をかけていた。
 ミナミ総合病院。都市郊外に立てられている総合病院。この病院を設立するにも、やはりアオザキ・コーポレーションが深く関わっているらしく、ジェイドが受付で二、三、受付の看護師に何かを言うと、数分もしないうちに恰幅のいい中年が現れた。
 おそらくは病院の院長なのだろう、何人も医者を連れて歩いている。しかし、ジェイドを前にした途端、頭をぺこぺこと下げ始めた。クゥにはその姿が可笑しく見えていた。クロイツ王国ではあまり見たこともない光景だ。年長者も若輩者も同時に頭をさげている。
 「クゥ」
 二人の様子を見守っていたクゥを呼びつけたジェイド。その声に呼ばれて、クゥはジェイドの元までやってきた。そして、スカートの裾を掴んで優雅に頭を下げた。
 「―――」
 「―――」
 ジェイドと院長が話を始めた。院長は何度もクゥを見ては、大手を広げて高らかに何か言っていた。後ろに控えていた医者達もクゥに視線が釘付けになっていた。
 「クゥ、今から診察して貰うから、行こうか」
 ジェイドはクゥにそう言うと、「はい」と彼女は短く答えた。

 その後では、クゥは様々な体験をした。
 ジェイドを介しての問診、それから聴診器を当てたいと言う医者に従い服を脱ごうとした。が、そこでジェイドの存在に気づいた。
 「…」
 「ん? なんだ」
 クゥはジト目でジェイドをにらみつける。
 「…」
 「…」
 なおもジェイドをにらみつける。その頬は、ほんのり桜色になっている。
 「あー、はいはい。わかりましたよ。俺は席を外すよ。―――」
 沈黙の抗議に音を上げたジェイドは心底残念そうに言うと、そのまま退室した。これは余談になるが、彼女の診察をしていたのは女性だ。
 さておき。
 この後もレントゲンやMRIなとの様々な医療機器でクゥの体を調べた。
 クゥは、今までクロイツ王国にはなかったような、そして思いもつかないような機械やその性能に驚かされるばかりであった。
 ジェイドは表情がくるくる変わるクゥの顔を見ては微笑み、それに気づく度にクゥは頬を膨らませて怒っていたが、それでも次の瞬間には忘れたように目移りしていた。

 「と、いうわけで入院だ」
 「何が、『と言うわけ』なのかはわかりませんけど、わかりました」
 再び戻ってきたのは診察室。検査の結果を聞いたジェイドは、説明が面倒だと言わんばかりに、医者が長々と話していた事を端折り結果だけを伝えた。
 「存外、冷静だな、クゥ」
 「えぇ」
 クゥ自身、入院させられることを覚悟していたので、さほど驚いてはいなかった。
 「そうか… ドクター、彼女を部屋に」
 ジェイドは拍子抜けしたように呟くと、女医に言った。「では、奥様はこちらに」と看護師が言ったが、クゥはきょとんとしていた。
 「あの看護師についていけ」
 ジェイドがかなり適当に翻訳すると、クゥは「わかったわ」と言い看護師に案内されて診察室を後にした。
 「それじゃあ、世話になったな」
 「えぇ、お大事に。奥様をね」
 女医は悪戯っぽく笑って見せたが、ジェイドは「奥様、か」と寂しそうに呟くと部屋を後にした。

 この日から、クゥの闘病生活が始まった。とは言っても、肉体的に苦痛を伴うものではなかった。もしかしたら、入院までしなくても通院していればいいのではないか?と思わせるほど、彼女を制限する項目が少なかった。ただ薬を飲むだけ。別に体調に変化があるわけでもない。
 苦痛と言えば、看護師との言葉が一切通じないのだ。クロイツ語以外にも共通語が喋れるが、どの看護師にも話が通じないのだ。
 出来るだけ毎日、どれだけ空いても三日に一度は見舞いにやってくるジェイドから言わせれば、「この国の共通語なんか、受験に必要なだけの腐ったものだ」と言っていた。
 クゥは英語が通じない以上、そして、これからこの土地で生きていく以上は言葉を覚えなければならないと思い、ジェイドに頼んで参考書を買ってきてもらった。
 「ねぇ、ジェイド様。これは… なに?」
 クゥはこめかみをひくひく、口の端もひくひくさせながら言った。
 「いや、なにって… 参考書」
 ジェイドがニヤつきながらクゥに差し出していたのは、子供向けのデフォルメされた動物が楽しそうにしている表紙の本だった。
 「あれ? 私、ここで怒るところ?」
 「いや、それが馬鹿に出来ないぞ? 騙されたと思って、勉強してみろよ」
 ジェイドはクゥから不穏な雰囲気を読み取り、早口で言うと、言うだけ言ってその場を後にしていた。
 「まったく、もう。私を馬鹿にして……」
 なんて、文句を言いつつも本を開いた…。

 「ごめんなさい。馬鹿に出来ませんでした」
 三日ぶりにジェイドが病院に顔を出すと、クゥは深々と頭を下げていた。
 そう、ジェイドが置いていった本は馬鹿に出来たものではなかった。本を開けば、大きく文字が書かれていて、同時に発音もしてくれた。
 「そうか。そりゃよかった。じゃ、これを渡しても大丈夫かな?」
 言って、ジェイドは鞄から取り出した本。前にジェイドからもらった本よりは幾分マシにはなっているが、それでもやはり子供向けなのは判った。
 だが、前例があるためにクゥは「ありがとうございます」と言うと、本を受け取った。
 いつもなら、ジェイドはすぐに病院を出て行ってしまうのに、今日はベット脇にある丸椅子に腰を下ろした。
 「クゥ、本を貸してみ?」
 「えっ? あ、はい」
 と、ジェイドに言われるままクゥは受け取った本を渡した。
 「違う違う。この間、渡したやつ」
 「えっ? あぁ、はい。これですね?」
 クゥはジェイドにこの間もらった本をジェイドに渡した。
 「それじゃあ、たまには生きた会話術でも勉強しますか」
 「ジェイド様、お仕事は…?」
 「ん? あぁ、段取りだけ済ませて、後は部下に丸投げ。あれで失敗するようなら、全員クビだ」
 などと笑っていた。以前のクゥならば、それを咎めていただろう。人の生活を何だと思っているんだ、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい、と。だが、不思議とクゥは叱れなかった。それはきっと、ジェイドという人間に触れて、彼の人間性を知ったからだ。さっきのジェイドの言葉は、信頼の裏返しなのだ、とクゥは密かに思った。
 「それじゃ、行くぞ! 『あ』」
 「あ」
 ジェイドは本を開き発音する。本に付いている再生機は黙らせてある。部屋に響くのは、ジェイドの声と、後に続くクゥの声だった。
 「い」
 「い」
 クゥはジェイドに続いて言葉を発する。
 「し」
 「し」
 「て」
 「て」
 「る」
 「る」
 ふぅ、とジェイドが一息。そして。
 「あいしてる」
 と言えば、クゥが続いて、
 「あいしてる」
 と言った。
 「あの、ジェイド様。この言葉の意味は…?」
 ジェイドはいやらしく笑うと、「自分で調べな」と言い、辞書をクゥの膝に置いた。
 「それじゃ、俺は行くわ」
 「あ、はい。いってらっしゃい」
 クゥはきょとんとしたまま、思わず「いってらっしゃい」と言っていた。その事にクゥも驚いていたが、それ以上にジェイドが驚き、口をあんぐりと開けたままだった。だが、すぐに口元を正すと、「いってきます」と言って部屋を出て行った。
 数日後、クゥは言葉の意味を知り、顔を真っ赤にして怒っていたが、不思議と嫌な気分ではなかった。

 それから、月日は流れ、そろそろ一年が経とうとしていた。クロイツ王国では感じられなかった暖かな春。クロイツ王国では想像も出来ない暑さの夏。クロイツ王国の短い春と同じ様な秋。クロイツ王国とは比べ物にならないほど暖かな冬。
 季節は廻り、クゥはこの日、退院した。
2009-05-24

クロイツ王国物語~第3章~

 第三章~青年、社長~

 ジェイドとクゥの披露宴にヴァイスが乱入してから一週間の間、国王が自ら国民の前に立ち、二人の結婚を伝えた。これは見れば政略結婚になる。けれど、それは王族の宿命であり、抗えば国はたちまち傾き、瞬く間に潰れてしまう。確かにクゥは戸惑ったが、これを決して拒みはしなかった。
 国王の誠意ある言葉と、真摯な態度、国民を思うクゥの気持ちを考えてやれば… 国民は納得し、いつしかデモ行動も収まっていた。
 ジェイドがクロイツ王国へやってきて、一ヶ月と一週間。ジェイドがクロイツ王国を立とうとしていた。
 「国王様、長い間、お世話になりました」
 ジェイドは謁見の間、玉座に座る国王に傅き言った。
 「なに、構わぬよ。それよりも面を上げよ。そなたも王族の一員となるのだ」
 「はっ」
 リク国王に言われると、ジェイドは顔を上げ、立ち上がった。
 「滞在中、大変ご迷惑をおかけいたしました」
 立ち上がったジェイドは頭を下げて、言った。
 「確かにな。だが、そなたも、ヴァイスも、クゥもまだ若い。過ちを繰り返しながら学び成長していくのだと思えば、な」
 国王の顔は、子供を見守る父親のそれだった。その笑顔にジェイドも思わず頬を綻ばせてしまう。しかし、次の瞬間には、国王の顔が険しくなった。
 「だが、本当に良いのか? 例の件、そのままで」
 「…」
 国王の言葉にジェイドは苦虫を噛み潰したような表情を見せ、黙ってしまう。
 「父親としての立場から言わせてもらえば、そなたの計画は申し分ないものであるが… だが、それでは、そなたが……」
 「国王」
 国王の言葉を遮りジェイドは言った。
 「祖父の信念を覚えていますか?」
 ジェイドの祖父、ジェイク・アオザキ。アオザキ・コーポレーションの創始者であり、貧困で今にも死に絶えそうなクロイツ王国に経済支援を行った、クロイツ王国では救国の英雄。政財界では、怪物と呼ばれた男。
 リク国王は、そんなジェイクの顔を閉じた瞼に映し出し、懐かしむように言った。
 「「俺は少なくとも自分の周囲の人間を幸せにしてやりたい」」
 国王に合わせてジェイドも言葉をつむぐ。
 「私も、この言葉を信念に、その信念を通すために生きてきました」
 ジェイドはぽつりぽつりと語りだした。自分の過去を…

 発展を続けるアオザキ・コーポレーション。その発展が最も著しい時にジェイドは生まれた。だが、行き違いに母は他界してしまう。父親は巨大グループの跡継ぎになるために、切磋琢磨していたが、そのストレスからかいつもピリピリしていた。
 ジェイドが物心付く頃に、父は若い女と再婚した。再婚相手の女と言うのが、酷いもので、まるで金を湯水のように使い、遊び呆けてジェイドの面倒など見ても居なかった。家に居場所がなくなったジェイドを助けてくれたのは、ジェイクだった。
 ジェイクは仕事の合間を縫っては、ジェイドと遊んでやり、出張の度にジェイドを連れて世界中を飛び回っていた。クロイツ王国も、その中の一環でやってきていたのだ。
 当時、同年代の友人が皆無だったし、ジェイク以外に心を開かなかったジェイドに初めて出来た友達というのが、クゥだった。
 あまりにも月並みな話だと、今では思う。だが、あの時、クゥと出会わなければ、今頃は父親と同じ様にいつも追い詰められたような顔をしていたかもしれない。そう思うと、ゾッとする。
 残念ながら、後にも先にも、下心なしでジェイドと付き合ってくれたのはクゥだけだった。滑稽な話だが、ジェイドはクゥに恋をしてしまっていた。

 「ハハハ、つまんない話ですよ」
 「ジェイド…」
 「さて、と。俺はこれで失礼しますよ。…多分、これが最後になるんじゃないんですかね。末永く、お元気で。国王」
 ジェイドは自嘲気味に笑い、そして謁見の間を去った。
 国王は、ジェイドの寂しそうな背中を見送ることしか出来ず、たとえ国王であっても、まだ若い親友の孫を救う事が出来ない事を痛感させられていた。
 ジェイドと入れ替えにクゥが謁見の間に入って行った。
 「…」
 「…」
 すれ違い様に言葉を交わすことはなかった。
 クゥが扉の向こうへ消えていくのを見てから、ジェイドは頭を掻きながら「しくじったかな。中での会話、聞かれたかも」と呟きながら、部屋に荷物を取りに行った。

 たっぷり、二時間は待たされただろう。親子の別れの会話だ。それも仕方がない。それにクゥの目が真っ赤になっている。きっと、涙の別れをしてきたのだろう。
 ジェイドは隣を歩くクゥの顔を見ながら、そう思った。
 本来なら、車で空港まで送って貰うつもりだったのだが、クゥが最後に街を見ておきたい、と言ったので街を出るまで歩いて行く事にした。
 道中、クゥに別れの言葉を言う者、ジェイドに侮蔑の視線を送る者が多く居た。中には、ジェイドに「クゥ様を幸せにしてやってください」と言う者もいたが、そんなヤツは全体に比べれば、雀の涙同然だ。
 もうすぐ街を出る。その先には黒塗りの車が待っている。だが、車の前に誰かが居るのに気づいたのはクゥだった。
 「ヴァイス…」
 車の前でジェイド達を待ち構えていたのは、ヴァイスだった。
 「姫様… 行かれてしまうんですね」
 「えぇ…」
 「…」
 「…」
 足を止めて、二人は短く言葉を交わすと、そのまま黙りこくってしまう。だが、すぐにヴァイスは言葉を繋いだ。ジェイドに向かって。
 「ジェイド。三年だ。僕は三年で、この国を救うだけの力をつけてやる。だから、それまでは姫様を預けてやる」
 ヴァイスは瞳に強い炎を宿していた。いままでに比べれば、段違いの瞳の色の強さ。ジェイドからすれば、三年で国を救えるものかっ!と一蹴してやれた。だが、彼は言わなかった。ただ、一言。
 「頑張れよ」
 そう言うと、さっさと車に乗込んでしまった。
 「ヴァイス…」
 「姫様、僕、頑張りますから。だから、待っていてください」
 「………」
 ヴァイスの言葉にクゥは何も言わず、哀しそうな笑顔を見せるだけだった。そして、車に乗込んでしまった。

 「あれでいいのか?」
 車の中、ジェイドはクゥにたずねた。
 「えぇ… これ以上、話していれば私の決意がゆらぎます」
 「…決意、か。酷い言われようだ」
 それから再び、彼らの間に会話はなくなった。

 クロイツ王国にも空港はある。だが、小さな空港の為、便は多くなく、またジェイドの国に行こうと思えば、近くの国の空港に降りてから、乗り換えなければならない。それに総合的に移動に時間がたっぷり四十時間以上はかかる。
 クゥの様子がおかしくなり始めたのは、乗り換えてからの事だった。
 「クゥ?」
 「…」
 大型飛行機に乗込んでから、クゥの様子がおかしくなっていた。だが、無情にも飛行機は離陸を開始してしまった。
 「おい、クゥ、大丈夫か?」
 まさか… ジェイドは最悪のケースを想定する。
 「クゥ、お前、まさか病気が……」
 クロイツ王国王女、クゥ・クロム・クロイツ。彼女は心臓に病気を抱えている。だが、何かの拍子に即死という程、深刻なものではない。せいぜい、激しい運動を控えるように、というものであるし、死に直結するものではない。なぜ、一国の王女が病気を抱えたまま今日の今日まで居たのか… それは彼女の意思によるものだった。
 クロイツ王国は貧乏であり、病院の設備もあまり褒められたものではない。ゆえに心臓病を治すだけの技術も機器もなかった。海外へ行けば、時間はかかるものの治るというのに彼女は、「私はこの国で生まれました。国民が満足の行く治療を受けられないというのに、私だけが治るのはおかしい」と言い張り、治療を拒み続けていたのだ。
 その事実を知っているのは、国王とかかりつけの医者、そしてジェイドの三人だけだった。
 「クゥ、大丈夫なのか? おい! 心臓か?」
 ジェイドの心配そうな声に、クゥはふるふると首を横に振った。
 「じゃあ、何で、そんなに真っ青なんだ?」
 「…い…」
 クゥは俯いたまま、呟いた。
 「なんて言ったんだ?」
 「怖い…」
 ………
 「はっ?」
 「こ、怖いって言ってるんです」
 「…」
 「…」
 「何が?」
 「飛行機が…」
 「…」
 「…」
 「ぷっ」
 「!」
 ジェイドは堪らず噴出していた。
 「ひ、酷いっ! なんで、笑うんですか!」
 「ふひ、ふははは… いや、なんでも… そうか、飛行機か… そうだよな、怖いよな。飛行機」
 ジェイドはまるでクゥを子供のように言ってやった。意図的に。
 「あっ、馬鹿にしてますね! 考えてみて下さい。飛行機が飛び原理がわかんないんですよ? こんな形でエンジン付けたら飛んだし、他のもこんな感じで作れば、飛ぶんじゃね?みたいな感覚で作ってるんですよ、飛行機って! そもそも、鉄の塊が人を乗せて飛ぶなんて、おかしいじゃないですかっ!」
 クゥは顔を真っ赤にして、もっともらしい事を矢継ぎ早に言った。
 「…おいおい、航空関係者が激怒しそうな事を言うなよ。確かに飛行機が飛ぶ仕組みがわかっていないのは確かだが、仮説は立てられているわけだし…」
 「そ、それに、飛行機が落ちなくてもエコノミー症候群で死んじゃうんですよっ!」
 「…なぁ、クゥ」
 「な、なんですか?」
 「この席はな、ファーストクラスって言ってだな。広々としてるだろ? エコノミー症候群にならないよ」
 「!」
 ジェイドの言葉に、クゥは更に顔を真っ赤にして、恨めしそうに上目遣いでジェイドをにらみつけた。
 「ふぅ」
 ジェイドはため息を一つ。そして、笑顔でこう言った。
 「仮に飛行機が落ちても、エコノミー症候群になっても、俺が助けてやるから。安心しろ」
 ジェイドの言葉、そして見たこともないような笑顔に、クゥは顔を真っ赤にしてしまい、俯いてしまった。
 これは余談だが、クロイツ王国からの移動の際に平気だったのは、飛行機の中で眠っていたからだという。おそらくは飛行機に乗ることの恐怖から夜は寝付けず、国王との会話で散々泣いたために疲れてしまい眠ってしまったのだ。
 「だったら、今回も寝ればいいじゃん」とジェイドが言ったが、クゥは「私に三十時間も寝てろって言うんですか!」と言って、怒っていた。
 更に余談だが、クゥが治療を拒んだのは、飛行機が怖いからではない。多分。
2009-05-24

クロイツ王国物語~第2章~

 第二章~街の青年~

 あの日以来、ヴァイスはクゥに会えずに居た。おそらくはジェイドに軟禁されているのだろう。だが、それは仕方がないこととも思えていた。
 城門前、そこには人人人。街中の人々が城門前に訪れているのではないか?と思わせるほどの人が立っていた。
 騒がしい。それは聴覚的にも、視覚的にも騒がしいものだった。人々は、「姫を放せ!」「クゥ様を返せ!」「出て行け、資本主義の犬!」と言い、訴えていた。ある者は口に出し、ある者は看板を持ち。
 彼らがクゥの婚約の件のみならず、先日の三人の会話の内容を知っていた。無論、ヴァイスが誰彼構わず吹聴していたわけじゃない。むしろ、自分の無力さに打ちひしがれてさえ居たのだ。
 おそらくは、他の誰かが偶然にも話を聞いてしまったのだろう。クゥの婚約、ジェイドの暴言などを…… 小さな国の小さな街だ。話はすぐに隅々まで行き届き、デモを起こすまでに発展してしまったのだ。
 人だかりから少し離れた場所に立っていたヴァイスを誰かが見つけた。すると人々は、皆ヴァイスの方を見ると、まるで救世主のように集まってきた。「クゥ様を助けてくれ」「アオザキ・コーポレーションを追い出してくれ」「お前なら出来る」様々な言葉を浴びせかけられる。
 ヴァイスは、「何を無責任な事を」と思いつつも、「僕以外に誰が出来る」と思う自分がいる事に気づいてしまう。今までの無力な自分では、決してクゥを助ける事は出来ない。だったら、やれることをやってみよう。そう思い、今日もデモに参加する。
 城門前、最前線まで言ってみると、そこにはいつもの門番の姿はなかった。代わりに居たのは、何処かの安っぽいヒーローを思わせるような甲冑に身を包んだ、その手にはガトリングと呼ばれる銃が携えられていた。いつからか門番が、おそらくはジェイドの私兵に代わった当初は、もう少し大人しいライフルで武装していたものの、日を追う事に武装が仰々しくなっていた。
 憎憎しげに門番を睨み付けたヴァイス。その時、私兵が動いたのだ。
 今までは、どれだけ罵詈雑言を浴びせられても、動きもしなかった私兵が急に動き出した。そして、ヴァイスごと、門前に集まる人々を除けていった。門が開き、更に私兵が増え、やはり同様に人々を退けていった。そう、まるで、道を作るかのように…
 その時、人の海が割れた中を黒塗りの車が次々と通って城内に入っていった。どれもこれも高級車ではあったが、車が日常的に存在しないクロイツ王国では、車の存在自体が珍しかった。だが、ヴァイスは直感的に「偉い人が乗っている」と感じると、同時に「今日が披露宴の日なんだな」と考え至った。
 理屈ではなく直感だったが、ヴァイスはすぐに人ごみを離れると、人目につかない手ごろな木を見つけ、登り、そして塀の中へ飛び込んだ。不安定な場所からのジャンプに体勢を崩したものの、しんしんと降り続く雪がクッションとなりあまり痛みを感じなかった。
 思ったとおり、塀内は静かなものだった。私兵が人を抑えているものだから、手薄になっているに違いない。物陰に隠れながら移動するヴァイスはそう考えていた。

 物陰から物陰へ、私兵などの目を掻い潜り、ようやく城内に潜り込む事に成功したのは、潜伏を始めてから、二から三時間は経過しているだろう。ヴァイスは腕時計などの類のものを持っているハズがなく感覚でしかないのだが、それでも長年時計とは離れて生活していた為に体内時計は割りと正確である。
 すっかりと冷えてしまった体に痛いほど染みる暖かい城内。この国に長く住んでいるが、またクゥの友人ではあったが、結局は平民。ヴァイスは初めて踏み入れる城内に感動していた。
 だが、そんな感動はすぐに打ち消されてしまう。近くで物音がしたのだ。さっと身を潜めると、メイドがカートに見たこともないような食事を乗せてバタバタと走り去っていった。不意にメイド達を目で追うと、彼女達の向かう先に大きな扉があり、その中へ消えていった。
 「あそこか…」
 ヴァイスは小さく呟くと、今度は先ほど中へ入っていったメイド達が部屋を出て行く姿を見送ると、しばらくは誰も通らなくなった。
 今がチャンスと言わんばかりに、扉まで近づき、そっと耳を済ませた。
 ――――
 中でジェイドの声が聞こえた。だが、言葉がクロイツ語ではなく、恐らくニュアンスからすれば英語だろう。何を言っているのかは、さっぱり判らなかったが、ジェイドが言葉を区切るたびに拍手やざわざわと大勢の人の声が聞こえてくる。
 何を言っているのかは判らない。けど、多分、「私はクゥを妻にすることを誓います」と言っている。ヴァイスにはそう聞こえて仕方がなかった。
 重々しい扉を開き、「ジェイドッ!」と気づけば叫んでいた。「しまった」と思った時には後の祭りだ。中に居た全ての人が突然の闖入者の事を見ていた。
 「ヴァイスっ!」
 そんな中、声を上げたのはクゥだった。いつもの可憐な少女を思わせる雰囲気はなく、高貴な血筋を思わせるドレス姿の姫様の姿がそこにはあった。だが、姫の顔は決して晴れやかなものではなく、どんよりとした鉛を背負わされたような顔であった。
 「―――」
 一瞬、呆気に取られ、視線だけで人を殺せそうなまでの鋭い眼光でヴァイスを睨み付けたが、すぐに仮面を被り、感動を表すかのような、三文芝居染みた動きを見せ、やはりヴァイスには判らない言葉で何かを言った。
 「この…っ!」
 そんな態度を見せたジェイドに沸騰したヴァイスは歩みだした。それに合わせるかのように、偉そうな人々は彼に道を譲り、道を作る。
 ヴァイスは駆けた。そして、ありったけの力を込めてジェイドを殴ろうとしたが、あっさりとかわされ、勢いづいたヴァイスの首根っこを掴むとグンッと無理矢理引っ張り、そして足元をすくわれ無様に倒れてしまった。
 「何しに来た! 大事な式典の時にっ!」
 先ほどの三文芝居など何処かへ行ってしまったように、ジェイドは犬歯をむき出しにして怒号をふんだんに含んだ言葉をヴァイスに叩きつけた。
 「姫を… クゥを返せっ!」
 ヴァイスはジェイドの胸倉を掴み、ジェイドと同等以上の怒気を孕んだ言葉を返した。
 「まるで、クゥが物のような言い方だなっ!」
 ジェイドもヴァイスの胸倉を掴むと、彼を無理矢理立たせ、そのまま扉まで押し歩き、壁にたたきつけた。
 周囲は闖入者と主賓の突然の喧嘩に騒然としていた。そんな中、渋い顔をしている国王と、立ったまま動けずに居たクゥだけが口を縛り二人の様子を見ていた
 「いいか、よく聞け。ここはお前が来ていい場所じゃないっ!」
 「煩いっ! 黙れ!」
 「そんなに俺とクゥの結婚を祝福したければ、後で町全体を協賛アオザキ・コーポレーションでお祭りにしてやるっ! 食べた事も見たことも、聞いたこともないような料理を、酒を、たらふく食わせてやる、だから帰れっ!」
 ジェイドの言葉に再度沸騰するヴァイス。
 「この野郎っ! ナメんなっ!」
 言って、ヴァイスはジェイドに殴りかかった。だが、やはり拳はジェイドには届かない。受け止められ、あまつさえそのまま投げ飛ばされた。
 「なんだ、テメェ。決闘のつもりか」
 この国では古来より現代に至るまで、モメ事の決着の相場といえば決闘で決まる。法律で定められているわけではなく、暗黙の了解のようなものである。流石に現代では人殺しまでは発展しないし、近年では決闘自体あまり執り行われない程、住人同士の仲は良い。だからこそ、ヴァイスが暴力を振るった事実は、クゥもそしてヴァイス本人も驚いていた。だが、そんな驚きに浸る暇はない。ヴァイスはゆっくりと起き上がり、真っ直ぐにジェイドを睨み付けた。
 「上等だっ! 僕はお前に決闘を申し込むっ!」
 「ほぉ、そいつは結構な事だが、一体何を賭ける?」
 ジェイドは先ほどまでの激情を収め、ヴァイスの知る限りの人を見下したような物言いに戻っていた。
 「僕が勝ったら、クゥを返してもらう!」
 「で、お前が負けたら?」
 「僕は潔く身を引く」
 「………」
 ジェイドはヴァイスの言葉を聞くと、何も言わずにヴァイスの傍まで歩み寄ると、そのまま胸倉を掴み乱暴に振り回した。
 「ふざけるなっ! 馬鹿か貴様はっ!」
 ジェイドは再びヴァイスを床に叩きつけると、仰向けに転ぶヴァイスに馬乗りになり、三度胸倉を掴み、怒鳴りつけていた。
 「いいか、この決闘で俺は何を得るというのだ? 何も得ない、この賭けに何も発生せず、一方的に俺が失う。そんな馬鹿げた賭けに乗れと? 愚かにも程があるっ! そんなに決闘がしたければ、テメェの命を賭け(ベットし)ろ! それだけの覚悟もなく、軽々しく決闘を申し込むなっ! いいか、よく聞け、無知者(せけんしらず)! この婚姻には大きな意味合いがある。それは、この国の国民の生活を左右し、俺が背負う会社に勤める多くの社員、その家族、関連会社、依存する国… 多くの命が掛かっているんだっ! お前の掃いて捨てるほどあるようなボーイ・ミーツ・ガール(三文芝居)に付き合う為に、俺に関わる全てを賭けられるものだと思うなっ!」
 ジェイドは散々怒鳴りつけた後、その手を放した。ヴァイスは重力に引かれるまま床に倒れた。そうして、駆けつけた兵士に取り押さえられて、呆然としたまま、部屋を後にした。

 気づけばヴァイスは自宅に居た。
 今、思えば無謀な事をしたと思う。世界中のVIPを前に大立ち回りをやらかしてしまい、ジェイドやアオザキ・コーポレーションはさておいても、国王やクゥ、国民の顔にまんべんなく泥を塗ったのだ。時代が時代なら、その場で切り捨てられてもおかしくないし、どれだけ刑が軽くても一生牢獄から出れないものであったに違いない。
 ジェイドの言葉、自分の決意の甘さ、様々な思いの中で抜け殻になっていたヴァイス。城を追い出される寸前。兵士達の会話の記憶が正しければ、彼が事実上の無罪放免になったのはクゥの口ぞえがあったからだ。そして、意外にもジェイドがクゥの言葉を尊重してやれと付け加えたのだ。
 ヴァイスは、世の中にある全ての辛酸を飲まされたような気分になり、そして眠りについた。
2009-05-24

クロイツ王国物語~第1章~

 第一章~王女~
 
 不意に黒板に文字を書く手を止めてしまい、何度目かのため息を漏らしているのは、クゥ・クロム・クロイツ王女である。
 「せんせー、どーしたの?」
 子供達に声をかけられて、クゥは苦笑いと共に「えへへ、ごめんね」と返した。そして、カツカツと文字を書くと、また手が止まり、ため息。それから、手が再び動き出した。
 クゥは朝からずっとこの調子である。もうすぐ… あと五分ほどで授業が終わる。様子がおかしいクゥを心配したヴァイスは授業の後にでも話を聞こうと決意し、ノートを写していた。
 時刻が正午を指した時、電子音ではなく、ましては本物の大鐘の音でもない、福引が当たった時のような安っぽい音が聞こえてきた。終業の鐘の音だ。
 「はい、お疲れ様でした。それじゃあ、また明日…」
 いつもなら笑顔で優しい彼女だというのに、今日はあまりにも簡素。そして、疲れているようだった。そんなクゥの姿をヴァイスは追いかけた。
 「姫様っ」
 廊下を歩いていくクゥの背中にヴァイスは呼びかけた。
 「あ、ヴァイス… どうしたの? 質問?」
 クゥが振り返り、笑顔を見せた。ヴァイスはクゥの笑顔にひとまずは安心した。
 「姫様… 今日はどうしたんですか? ため息ばっかりついて。悩み事なら僕が聞きますよ」
 ヴァイスの言葉にクゥは少しだけ笑顔を見せたが、すぐに笑顔は萎み暗い表情を見せた。
 「姫様…?」
 「あ、うん… ありがとう。でも、大丈夫だから、心配しないで」
 クゥは言うと、「それじゃあ、私は行くね。また、明日……」と付け足すと、早々に帰ってしまった。
 「姫様……」
 ヴァイスは、その後姿を見送るしか出来なかった。

 「やぁ、お帰り、姫」
 城に戻ると、出迎えてくれたのはジェイドだった。この国ではまず見かけない黒髪はざんばらで、瞳の色も黒く鋭い。身長はヴァイスと同じぐらいで、中肉中背と極東ではよく見かけるものだ。だが、貧困に喘ぐクロイツ王国の男性の(ある意味)引き締められた体と比べれば恰幅がいいといえる。
 黒いハイネックのセーターに黒いジーパンという、やはりこの国では見かけない格好の青年は、まるで自宅にいるような雰囲気でクゥを出迎えた。
 「ただいま戻りました、ジェイド様」
 ジェイドにどういう風に接すればいいのか判らず、困惑気味に答えるクゥ。
 確かに昨日出会ったばかりの青年が自分の住まう城で、まるで自宅にいるような雰囲気を持って迎えてくれば戸惑いもするだろうが、それ以上に突然現れた婚約者にどのような顔を見せればいいのかが判らないのだ。

 昨日、アオザキ・コーポレーションの者を城に案内した後に、案内した相手が自分の婚約者と聞かされたのだ。
 所詮はクゥも一国の王女。遠くない未来に好きでもない相手と結婚させられる事ぐらいは覚悟していた。貧しい国政の中で、自分は国民の税金で生活をしているようなものだ。その代価として、身売りといえば聞こえが悪いが、結局自分が嫁ぎ、嫁ぎ先から援助を受けるのが義務のように考えていた。
 だが、あまりにも唐突に自身の婚約者が現れたのだ。国籍は当然だが、本当に見たこともないような人種の男がやってきた事は、クゥからすれば寝耳に水というような事実だ。
 もっと事前に話を聞いていれば、心の準備ぐらいは出来たものだが… 国王から追い討ちのような言葉が出てきた。
 「一ヵ月後、婚約披露宴を行い、その後にこの国からジェイドの国へ行って貰う」
 十八年に及ぶ人生の中で国はおろか、街からも出た事がないクゥは一ヶ月という執行猶予は短いものに思えて仕方がなかった。
 これも一つのマリッジブルーというのだろうか? しばらくジェイドと言葉を交わすと、適当な理由をつけて、早々に自室へ引きこもってしまった。
 ベッドに飛び込み、顔を枕に押し付けると、しばらく動かなくなった。
 婚約者、披露宴、旅立ち、別れ、引継ぎ、ヴァイス………
 ヴァイスという青年はクゥにとって数少ない友人であった。そして、彼からは友人以上の感情を… それが何かは判らない。いや、きっと判っている。判っているが、認めてしまえば、きっと王女の責務が果たせなくなる。そういった思いが彼女の中でグルグルと廻り廻っていく。
 気づけば、日が沈み、夕食の時刻になっていた。メイドに呼ばれ、食堂へ向かうとそこには……
 「これは…」
 王城で暮らしていると言っても、食事は城下の人たちとあまり変わらないものばかりだ。だが、クゥが目の当たりにしているのは、いつもの食事よりも次元が一つ二つ飛び越えたような… 豪華絢爛と言うべきものだった。
 「やぁ、姫。お気に召したかな?」
 豪勢な食事の置いてある机の先、そこに座っていたのはジェイドの姿だった。
 「ジェイド… 様。これは一体… こんなに食材を使って…… 一体、何のマネです!」
 最初こそは呆気にとられていたが、次第に頭に来て、クゥらしからぬ声を上げていた。
 「何のマネ? あぁ、どうも姫の元気がないように見えたからね。少しでも元気が出るような食事を用意しただけだが?」
 ジェイドは、気の利いた事をしたんだぜ?と遠まわしに言っていた。クゥにはその態度が気に入らなかった。
 「大切な食料をこんなに使ってッ! ジェイド様もこの国の状況はお分かりでしょう! なのにッ!」
 少なくともジェイドの知っているクゥとはまるで違う口調に気圧されたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、席を立った。
 「この国の状況? そんなものは君よりもよほど判っている」
 カツ… 歩を進める。
 「だったら、なぜ!」
 カツカツ… 迷いもなく歩を進める。
 「君は勘違いをしているようだな」
 カツカツ、ドンッ。クゥの目の前までやってきて歩を止め、クゥの顔の横に手を伸ばし、壁に手をついた。
 「これは、俺のポケットマネーで取り寄せたものだ」
 「と、りよせた…?」
 ジェイドの言葉にクゥは言葉を詰まらせた。ジェイドはそんな事も意に介さず、続ける。
 「私はこれだけの食事を簡単に用意することが出来る。それだけの経済力を持ち、それだけの実力がある」
 一息。
 「これは、私の実力を… 経済力、有能性を誇示する為に用意したものだ。君は、それだけの男の所に嫁ぐ事を理解してもらわないといけない。それだけの… そうだな、ちょっとした余興だ」
 クククと喉で陰湿に笑う。そんなジェイドの姿にクゥは底知れぬ恐怖を感じ、同時に怒りを覚えていた。そして…
 乾いた音と共に「馬鹿にしないでッ!」という怒声が飛び出していた。
 クゥが自分がジェイドの頬を叩いた事に気づいたのと同時に驚いていた。今の今まで誰にも暴力を働いたことはなかった。なのに、彼女は知らず知らずに禁じていた暴力をあっさりと解いてしまった。その事に恐怖し、そして叩かれたジェイドは驚きも悲しみ怒りも感じさせない程の無表情に二度恐怖した。
 「え、あ…」
 クゥは気づけば走り出していた。食堂を走り、廊下を駆け、自室に転がり込むと、そのままベットへ飛び込んだ。
 そして、涙を流していた。

 翌日、目を真っ赤に腫らしたクゥが廊下で出会ったのは、最も合わなければならない人物で、最も会いたくはない人物… ジェイドだった。
 「おはよう。その様子だと、あまり眠れなかったようだね」
 ジェイドはクゥの顔を見るなり、いつもの口調で語っていた。
 「お、おはようございます。ジェイド、様」
 「…あまり無理して俺と話す必要はないよ。それに『様』もだ。精神衛生上よろしくない」
 「あ、あの……」
 「やめとけ、心からの謝罪以外は受け取らない主義でね。王女たるもの、自分の信じる正義を曲げてまで頭を下げるなんて、馬鹿げた事はやめるんだな」
 ジェイドは自分が言いたいことを言うと、そのままクゥの横を通って行ってしまおうとした。が、足を止め、振り返ると…
 「そんな目をしていると、折角の美人が台無しだな」
 そう言うと、今度こそ行ってしまった。クゥはその後姿を見送ると悔しそうに唇をかんだ。

 「それは酷いッ!」
 その日の放課後、目を腫らしていたクゥを心配したヴァイスが、彼女を捕まえて話を、昨日のジェイドの振る舞いを聞き怒っていた。無論、婚約者の話は伏せたままだが。
 「なんだよ、それ! 何様のつもりだよ、アイツ」
 「ヴァイス…」
 「姫様、そんなヤツ、追い出せばいいじゃないですかッ!」
 「それは… 無理よ…」
 「どうしてッ!」
 ヴァイスは興奮のあまり立ち上がった。
 「彼はアオザキ・コーポレーションの人間なのよ。知っているでしょ、ヴァイス。この国はアオザキ・コーポレーションの支援があって今の生活を保てているの。だから、彼を蔑ろにすれば、この国は……」
 クゥは悔しさのあまり、嗚咽を漏らし言葉をなくしていく。
 「支援って何だよっ! そんな事知らないよッ!」
 「ヴァイス」
 「アイツが城から出て行かないなら、姫、僕の家に来ればいい。そうすれば―――」
 ふわりと風が流れ込んできた。風の中に嗅ぎなれない匂いが混じっていた。
 「そいつは困るな」
 唐突に現れた第三者。彼の名前は…
 「ジェイド…」
 搾り出すように、クゥが言った。
 「そいつは困るよ、ヴァイス。嫁入り前の娘が、一人暮しの男の部屋に行くのはよくないな。そうだな、まるで… 特上の羊を狼に住む小屋の中に投げ込むようだ」
 ジェイドは嗤う。その姿にキレたヴァイスは、ジェイドに向かって拳を叩きつけようとした。が、その拳はあっさりと受け止められてしまった。それどころか、胸倉をつかまれ、そして強烈な頭突きを喰らって仰け反ってしまう。だが、ジェイドは掴んだ手は離さない。グッとヴァイスの顔を引き寄せると、彼の耳元で「クゥは俺の嫁になるんだよ」と呟き、乱暴に手を突き離した。
 「クゥ、帰るぞ」
 ジェイドは言うと、今度はクゥの手を取り、半ば引きずる感じで部屋を後にした。
 部屋に残されたヴァイスは、ジェイドの言葉の意味を理解する頃には、もう二人の姿は見えなくなっていた。
2009-05-24

クロイツ王国物語(序章)

 序章

 「十三年ぶりか… 相変わらず、時間が停滞しているな、この国は」
 空に染み付いたかのような鉛色の空から、しんしんと雪が降ってくる。吐息は白なり、触れただけでひび割れそうな程かじかむ肌。
 クロイツ王国とは、そんな極寒の地にある小さな小さな国。町並みは、さながら中世ヨーロッパのようであり、仮に馬車が走り、シルクハットのタキシードの紳士が闊歩し、まさしくドレスと言わんばかりのドレスを着たマダムが数人集まって自慢話に花を咲かせていてもおかしくない。そんな町並みだ。けれど、残念ながら、馬車も紳士もマダムもいない。
懐かしむように呟いた青年はジェイド・アオザキ。ハイネックのセーターにジーパンという格好は、二一歳という若さには不相応な立派な黒いロングコートの下にある。
 彼はポケットに突っ込んでいた手を引き抜くと、煙草の箱を取り出した。一本、口に銜え火を点けた。すぅと吸い込み、そして吐き出した。紫煙なのか、それとも吐息なのか、口から白い煙を吐き出した。飛行機の移動のために、実に一日ぶりに煙草を吸ったために、クラッとしてしまう。だが、そんな感覚も一瞬で、肌が凍りつきそうな寒さで元に戻った。
 「さて、と」
 ジェイドは一言呟くと、久しぶりにやってきたクロイツ王国の雪の積もった道を歩き出した。

 一三年前。当時のアオザキ・コーポレーションの会長であった祖父に連れられてクロイツ王国へやってきたジェイド。その時に祖父が仕事をしている間、王女が彼を連れてクロイツ王国内を案内してもらっていた。
 アオザキ・コーポレーションは戦後間もない頃に設立された企業であり、国内でもズバ抜けた成長を見せ、早々に市場を国内から国外へと移した。今でこそ市場は世界規模であるが、その先駆者となったのがアオザキ・コーポレーションである。様々な国を相手に取引をしており、今では世界第一位の規模を誇る巨大な企業になっていた。
 
「相変わらずだ。それに物価は恐ろしく安いな」
 町を歩くジェイド。昔、王女に連れられて見た時と変わらない町並み。しかし、ジェイドの目には新鮮に映っていた。大人になり、物理的視線も人間としての視線も高い所になっているからだ。
 流石に外に出て商売をしている人の姿は見えないが、外に出ている看板に書かれている値段を見れば、ジェイドの国よりも高いものでも三分の一。安いものでは三十分の一という安さだ。それほどまでに、この国の経済は貧困なものが伺える。
 それに加えて送電線が見当たらない。最初は地下に埋められているかとも思ったが、そんな技術も金もこの国にはないだろうし、街灯は全てランプだ。資料では読んでいたが、この国には電気が通っていない。さすがに国の中枢などには電気はあるのだろうが、国民に行き渡っていなければ、通っていると言えない。
 久しぶりに訪れた国で、懐かしむよりも経済状態やら何やらを考えている自分に気づき、ジェイドは「我ながら可愛げがないな」などと自嘲した。
 時刻は現地時間で一一時半ぐらいだ。少し大きな建物…おそらく学校だろう。そこから、小学生ぐらいに見える子供がわらわらと出てきた。そして、その後ろから高校生ぐらいに見える男女が一人ずつ出てきた。
 女の方は、美しい金髪を腰まで伸ばしていて、遠目に見ても美人なのが伺える。
 男の方は、冴えない感じでオーラを感じられない。
 「………」
 ジェイドは足を止めて、その男女を見ていた。二人とも楽しそうだ。多分、男は女に恋している。女は男の想いを知りつつも、その想いの正体に気づいていない。そんな感じの二人だ。再び思う、楽しそうだ、と。
 「ねぇ…」
 不意に足元から声が聞こえた。ジェイドが視線を降ろすと、コートを掴んだツインテールの女の子がジェイドを見上げていた。そして、その少女だけではない、複数人の子供がジェイドを物珍しそうに見ていた。
 ジェイドは吸っていた煙草をケータイ灰皿に入れ、膝を折って少女の目線まで姿勢を落とした。
 「どうした?」
 流暢なクロイツ語でジェイドは少女に話しかける。普通なら、こんなマイナーな言語を使えるのは驚愕と賞賛に値する程の事だが、世界を知らない少女は何の驚きもせずに、ジェイドにたずねた。
 「お兄さんは、ガイジンさん?」
 「あぁ、そうだよ」
 そう答えると、子供達から「わぁ」という声が沸きあがる。そして、矢継ぎ早に様々な質問が飛び交う。何処の国から来たのか、どんな所なのか、何をしに来たのか、どんなものを食べているのか………
 こんな辺境に外国人が滅多に来るはずがない。閉鎖的な国で外国人というのは、珍しく普遍な毎日に舞い込んだ刺激のようなものなのだ。ジェイドは質問に答えながら、そんな事を考えていた。もっとも、子供からすれば幼い好奇心が疼くだけなのだろうが、と心の中で呟くと、気づけばすぐ近くに、先ほどの男女がやって来ていた。
 「こらっ、あなた達、何を騒いでいるの?」
 金髪の少女が子供達に尋ねると、ジェイドは立ち上がり代わりに答えていた。
 「俺がガイジンだから、珍しいだけなんだよ」
 「あなたは?」
 「俺? アオザキ・コーポレションの者だ。すまないが、城は何処かな? 国王にお目通りを願いたいのだが」
 ジェイドは答えながら、少女の姿を見ていた。やはり、流麗な金髪で陶磁器のような白い肌、調度品のような黄金比に則ったような綺麗な顔、そして芯の強さの窺える強い瞳は紅だった。
 「まぁ、アオザキ・コーポレションの! 解りました、王城までご案内させて頂きます」
 「そうかい? 助かるよ」
 「あ、申遅れました。私はクゥ・クロム・クロイツ。この国の王女です」
 「王女、ですか。通りで美しいと思った」
 ジェイドは口で感嘆を表していたが、言うほど驚いてはいなかった。昔出会った少女が美しく成長した姿だと当たりをつけていたからだ。
 「まぁ、お上手ですね。それでは、案内させていただきます」
 「あぁ、頼むよ」
 「ヴァイス、仕事、頑張ってね。じゃあね。では、こちらへ…」
 クゥ王女が声をかけた男… ヴァイスは何が起こったのか理解できず、ただ呆然としたまま、「あ、あぁ…」と解っているのか解っていないのか解らない生返事を返すだけだった。

 道中、ジェイドは他愛のない世間話の中で、思わず聞いていた。
 「先ほどの彼… 確か、ヴァイス君だっけ? 王女の恋人か何かですか?」
 口にしてから、ジェイドは「しまった」と思った。しかし、吐いた唾は戻らないというか、零したミルクは飲めないというか、何か取り返しのつかない事を言ってしまったように感じられた。
 「えっ? あ、いえ… そんな… ヴァイスはただの生徒で……」
 クゥは顔を真っ赤にして、困ったように返事をしていた。
 「…」
 ジェイドはクゥの言葉を聴きながら、地雷を踏んでしまった気分になり、居た堪れない空気の中、城門までやってきた。
 「ここがクロイツ城です。さぁ、お入りになってください」
 クゥに促されて、ジェイドは城に足を踏み入れた。

 その後、ジェイドは城に仕えるメイドによって客室に通された。おそらく、城に仕える者たちは、今日、自分がやってくることを知らされていたに違いない。でなければ、こんなにすんなり客室に通されるハズがない、などと思いながら、誰もいなくなった客室で、スーツへと着替えていた。

 着替え終えた後にメイドが現れて、紅茶を用意してくれた。無言のまま立っているメイドの存在が気まずくて、部屋から出て行ってもらうとようやく一息をついていた。
 そんな矢先、再びドアをノックする音が聞こえた。それに答えドアを開けると、そこにはクゥが立っていた。
 「国王がお呼びです。ご同行を願います」
 「わかった。いま行く」
 ジェイドはネクタイを締めなおすと、部屋を出てクゥの後ろを付いて行った。

 言うなれば謁見の間。酷く広い部屋の真ん中に質の良い真っ赤なカーペットが敷かれおり、それは数段上った所にある玉座まで続いていた。
 そして、その玉座に座するのは、中年とも老人ともいえない男性だった。
 リク・クロム・クロイツ。クロイツ王国の現国王。その初老の男性の放つ圧倒的な存在感に護衛兵のような者はもちろん、大臣のような者までが萎縮していた。
 「ジェイド… アオザキだな?」
 重く腹に響く声。ビリビリと肌で感じながらも、けれどジェイドは平然としていた。
 「はい。お久しぶりです。国王様」
 ジェイドは自然に傅いた。
 「一三年ぶりになるか」
 「はい」
 「そうか… ジェイク様が亡くなられて一三年になるか」
 「はい」
 ジェイクとは、アオザキ・コーポレーションの創始者であり、ジェイドの祖父である。
 「すまないな。世間話は後にしておこう。クゥ」
 「はい」
 国王は隣に立っていたクゥを呼びつけた。そして、クゥの顔を見てから、再びジェイドに視線を移した。
 「ジェイド。顔を上げよ」
 「はっ」
 ジェイドは顔を上げて、そして立ち上がった。
 「クゥ、紹介しよう。彼はジェイド・アオザキ。この救世主であるジェイク様の御氏族であり、お前の夫となる男だ」
 「えっ―――」
 この瞬間より、ジェイドとクゥと、そしてヴァイスの三人の物語が始まる―――
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