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2010-06-20

Q.E.D.最終話(楓編)

 「こんばんは、ナカミです。」
 「こんばんは、朝倉亜子です。今年でミュージックステーションも五十年です。」
 「亜子ちゃん、今日も可愛いね。」
 「ありがとうございます。さて、今夜のゲストは………………Q.E.D.のお二人です。」

 俺は、楓と組んで音楽活動をやっている。おかげで、人気歌手の仲間入りだ。
 
 「楓さんと、丈さんは来月に結婚するそうですね。」
 そうなのだ、なんだかんだで結局楓と結婚することになった。
 作詞は俺、作曲は楓…そんなこんなで仲良くなって…
 「へぇ、二人の出会いってどんなのだったの?」
 俺達は…
 
 俺達の出会いは良くはなかった。でも、それがよかったのかもしれない。下手に着飾ったりしなくても…
 僕達は心底幸せだ。名誉教授を蹴ってでもやっている活動。その毎日が幸せだ。
 生きている証。それは誰かとの幸せの共有すること。そう、これが俺の証明だ。
                               Q.E.D.
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2010-06-19

Q.E.D. 最終話(加奈子編)

 ロンドンの公園。加奈子とラブラブモード。
 あの時、俺は彼女を選んだ。そう、あの人が言った通りにした。しかし、あくまできめたのは俺だ。
 「ねぇ、覚えてる?」
 ん?
 「初めて会った頃のこと」
 あぁ。二人で探偵ごっこしてたんだったな。なつかしいな。
 「うん…」
 どうした?
 「今年で、三十よ…」
 あぁ…わかってる…
 俺は知ってしまったんだ。自分の死期を…俺は全ての情報を記憶できる。パソコンで言うjpgで保存しているから始末が悪い。人間は一定の容量を記憶量を超えると生命活動が停止してしまうらしい。実際に死んだ人間はいない。俺が第一号となる。俺は自分で計算してそしてわかった俺は今年、三十で死ぬ。
 うーん…今年で終わりか…
 「縁起でもない事を言わないでよ。」
 「そぉーーーーーーーですよぉーーーーーーーー」
 誰?って、コイツは脳外科の権威教授の名前は…忘れた。
 コイツは俺を肉体と脳を切り離して脳をコンピューターに繋げて半永久的に研究をさせるために何度か俺のところに現れている。
 「きょーーーーーーーーーこそ、しーーーーーーんで、もーーーーーーらいますよぉ」
 日本語で話すあたりは意味がわからんね。
 教授(俺命名)は懐から銃を引き抜き俺に向けた。
 くそっ銃を忘れた。これで標本か…
 諦めたその時、教授は絶命した。
 「ひさしいね。」
 教授を殺したのは昔、加奈子を薦めてくれた人だった。
 「君は絶対にしなない。いいか、絶対にだ。」
 そう言って彼は立ち去ろうとした。
 まってくれ!
 「死ぬまで彼女を守れよ。じゃあな。」
 不老なのか、最後にあってから年齢に変化がなかったように見える。
 …死ぬまで守るか…もし、守り抜けたらそれが俺の生きた証になるのかな。親父が俺に宿っていた理由がわかったよ。
                                     Q.E.D.
2010-06-18

Q.E.D.最終話(杏奈編)

 ロンドンはテムズ川沿い。
 俺の隣には杏奈。結局、俺は杏奈を選んだ。
 そして、今は大学で研究をしている。そして完成させた世界最強の兵器。ジャッジセブン。イオノエンジン完全版を積んだ戦艦。エネルギーを圧縮して飛ばす主砲の射程範囲は距離的には地球全土。加えて最大出力砲は月まで届き大陸を砕く。マジで。
 本当は兵器などつくるつもりはなかった。でも、某国が戦闘準備を始め武力で世界を制圧しようとしている。それに対抗するために作った。
 そして、悪用されないようにパスワードは俺一人しか知らない。
 世界最強船は英国所属だが俺の匙加減一つでどうにでもなるワケ。
 「ねぇ、そろそろ子供が欲しいね」
 ん?あぁ。俺達はもう二十五か…
 「今夜は…」
 俺達の前に現れたダークスーツの二人の男。間違いなく懐には銃。
 杏奈…下がれ。
 「神宝博士だな。」
 だったらどうする?
 「死んでもらう。」
 「ついでにそっちの女にもな」
 杏奈を殺す?
 男が懐に手を入れた瞬間、俺は先に銃を抜き六発を乱射。
 弾は男の額を貫き命を奪った。同時に男の弾丸が俺の左胸を…
 乱射したせいでヤツの弾の軌道が変わったか…
 俺はその場に倒れた。そして、気が遠くなった。

 「丈君!丈君!」
 杏奈?俺は…生きてる?
 「よかった。生きてるよ。大丈夫?」
 なんで、俺は生きてるんだ?たしかに心臓を…
 胸に手を当てた。そこには分厚いモノがあった。
 ? 入っていたのは親父の日記だった。父さんから貰った日記を常に持っていた。
 ふっはははっそうゆうことか…
 親父が俺に宿っていた理由。それは、俺を守るため…なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう…
 俺は生きてる証、それは誰かを守り抜いた時、それが俺にとっての生きた証になる。
 これが俺の証明だ。
                                     Q.E.D.
2010-06-17

Q.E.D. 第17話

 気がつけば見慣れた天井があった。ここは…
 「お気づきですか?丈様」
 この声は…マリエッタ?
 「お久しぶりです。お加減はいかがですか?」
 あぁ。そこそこだよ。しかし、かなりの効果があったな。少し改良をせなば。
 「では、私はマリア様にお知らせ致しますので失礼します。」
 あぁ、ありがとう。マリエッタ。
 「いえ。これが私の仕事ですから。」
 マリエッタ!
 「?」
 ただいま。
 「…おかえりなさいませ。丈様。」
 マリエッタは少し微笑んで部屋を後にした。
 ここは紛れもなくライダーマン邸。そして、俺の部屋。あいつは俺のメイドのマリエッタ。英語で会話してたのが何よりの証拠。うーん、飛行機では一切起きなかったのだろう。一応連絡しておいてよかった。ん?加奈子とか圭介さんは?
 「おかえり。丈」
 ん?マリアさんか。ただいま。
 「マリアなんて呼ばないでよ。母さんって呼びなさいよ。ったく…まぁ元気そうで何よりだわ」
 元気そうに見えるか?あれ、ルイ…父さんは?
 「あのバカは今仕事。最近、素人小説を出版しようとして頑張ってるわ。」
 相変わらずのようですね。ンで、加奈子と圭介さんは?
 「あぁ。あの子達ならとっくに起きて食事を取ってるよ。それにしても、アンタも隅に置けないね。あんな可愛い彼女を連れて帰ってくるなんて。ここにいた頃は死んだような顔してさ。人間に興味なんかなかったのに。日本に行って正解だったようね。」
 あぁ。日本に行ってよかったよ。でもな、加奈子は彼女じゃないんだ。ロンドン大学に籍をおいてる娘さ。
 「あの娘もロンドン大學かい?」
 …墜落したジャンボにも乗っていたようだ。パラシュートで脱出して今に至るそうだ…
 「…」
 …
 「丈様。お加減がよろしいようでしたら下でお食事でもいかがですか?」
 マリエッタナイスタイミング!
 今の沈黙の意味は…まぁいいや。腹減った。

 いやぁ、マリエッタの料理は見てくれも味も最高だね。いや、ホント。俺と一緒に日本に帰らないか?なんてな。
 「丈さん…」
 あぁ加奈子。どうした?
 「散歩にでも行きませんか?久しぶりにテムズ川を歩きたいわ。」
 
 俺達はテムズ川沿いを黙々と歩いていた。
 こうゆう沈黙は今は耐えられない。この空気を破ろう。
 んで、話ってなんだ?
 「! うっうん…あのね…」
 杏奈も告白してくれたよ。
 「やっぱり…」
 あのさ、杏奈にも言ったんだけど、全部保留でいいか?どうにもこうにも駄目なんだわ。うん。
 「仕方…ないですね。いいですよ。でも…」
 でも?
 「負ける気はこれっぽちもありませんから!」
 ハハハ…どうよ?もてる男は辛いよ。今夜はマリエッタと寝よう。夜這いされたら…

 結局、本当にマリエッタと寝た。でも、ナニをするわけでもなく…一緒の部屋で寝たわけで一緒のベッドで寝た覚えがない。なのに、なのに、愛しのマリエッタよ。なぜ、貴女は下着姿で俺のベットに潜っている。日系イギリス人…マリエッタ…この状況だけを加奈子に見られては困る。いや、困らない。うーん…悩みどころだな。
 と、悩んでいたら急にドアが開いた。そしてそこに立っていたのは金髪美女のマリアさん改め母さんだった。うーん…
 「帰ってきた初日に自分のメイドを寝取るか…」
 いや、待て。ゴカイをしている。これには海より深いワケが…
 「ほぉ…なにかな?」
 いやぁ…うーん…ごめんなさい。寝取ったかもしれません。記憶が一切ないんです。
 そこで、マリエッタが起きた。
 「うーん…朝ですか?」
 朝だ。そして、覚醒して事情を説明してくれ。どうし…
 「丈様…昨夜は痛かったですわ。」
 !?
 「やっぱり…丈…」
 「丈様の裏拳は効きました」
 はっ?
 と、母さんと声をそろえて言った。

 全貌をここで紹介しましょう。
 まず、間違いなく同じ部屋で寝ました。しかし、ベットは離しておきました。何かが起きると大変なので。さて、彼女は起床時間になり起きたところ、俺が「マリエッタ…」と寝言を言ってしまった。脱衣をすませた彼女が下着姿で近づいてきて、寝返りをうった俺の見事な裏拳が彼女の後頭部を襲撃。そして、現在に至る。ちなみに俺の手が超人的に長いわけでなく俺の顔を覗き込もうとしたので丁度絶妙な位置になった。そうだ…

 しかし、びびったね。いや、ホント。加奈子だったら…
 「なにをやってるんですか?丈さん…」
 話がややこしくなる…加奈子!ゴカイだ!
 「…そうですか…丈さんは私でもなく杏奈さんでもなく楓さんでもない…長年連れ添ったマリエッタさんを選んだわけですね?」
 ちがう!話を聞け!
 「そうですか…丈さんはメイド属性があるんですね?」
 まて!メイド属性ってなんだ?
 って、人の話を一つも聞いちゃいねぇ。颯爽と駆けて行ったよ。
 「丈様。お食事の用意ができてます。お着替えをして食堂へお急ぎください。」
 うわっマリエッタ、いつの間に着替えて通常業務に戻ったんだ?まぁいいや。
 着替えてスグに行くよ。

 ロンドン大学の俺の研究室。朝の騒動以来、加奈子の姿が見えないので圭介さんと二人で作業を進めていた。加奈子がいないので大幅に遅れたが完成はした。三日後の発表に間に合った。
 しかし、問題は加奈子が何処に行ったかわからない…
 
 ロンドン市内を走りまくって一時間…
 どこにも…って、いた!おーい!加奈子!
 加奈子は服を買ったのだろうか?大きな紙袋をもっていた。加奈子は俺の顔を見た瞬間、駆け出した。
 「良介君。そろそろ、夕食にしない?」
 「ん?そうだね。あそこの店でいいかな?亜…のわっ」
 前方を歩いていた日本人カップルの男性にぶつかった。
 彼女の荷物と男性のポケットから何かが飛び出した。
 「す、すみません(英語)」
 「いやいや、大丈夫だよ(英語)」
 「良介君。日本人だから日本語で大丈夫っぽいよ?(日本語)」
 「そうか。大丈夫かい?怪我は?」
 「あっ大丈夫です。すみません」
 男性は加奈子の手荷物を拾い加奈子に渡した。
 あのぉ…これが落ちましたよ?
 俺が拾ったのはナイフだった。間違いなくナイフだった。
 「あぁ、ありがとう。それを失くすとすごく困るからね。」
 ナイフ…
 「昔々、これで父親の喉を貫いたんだ。」
 !?
 「昔話さ。それよりも彼女を追いかけなくていいのか?」
 加奈子は荷物を抱えて遥か遠方を駆けて行った。
 あっ待て!加奈子!
 「少年。彼女はいい女だぞ?逃すなよ!」
 うーん…参考にします。では、失礼…
 そう言って彼女を追いかけて行った。
 「昔の良介君みたいね。」
 「そうかぁ?まぁ昔は僕も亜子を追い回していたからね。」
 「ふふっ天性のおせっかい焼き屋さんですもんね。」
 「あいてが亜子だったからだよ。」
 
 結局、加奈子は屋敷に帰還していた。それを確認できただけでいいか。疲れた。寝よ。
 …
 「おはようございます」
 マリエッタ… !?
 「おはようございます。丈さん。」
 加奈子!? なぜ、メイド服…
 今朝からの行動を仮定とした場合…行き着くところは…俺にメイド属性があると勘違いしたこの方はメイド服を購入して俺の目の前にいるわけか…おもしろすぎるよ。
 「これなら、私を愛してくれますよね?」
 加奈子は顔を真っ赤にして言った。うわぁ、可愛い…メイド属性がつきそうだよ。いやいや。
 あのな…(これより今朝の誤解を解くため順を追って説明した)…
 加奈子は太陽もびっくりするぐらい顔を真っ赤にした。
 
 臨時に召集した学会のじじぃどもがバカみたいに口をあけていた。それをみてとても愉快な気持ちになるのは昔と一切変わらない。ハハハ…バカな連中だ。
 そして、三人は日本へ帰った。

 時は一気に進み…
 文化祭…基本的に人との馴れ合いは嫌いだ。
 体育祭…俺の采配によって見事優勝。
 クリスマス…武が加奈子に剣が杏奈に告白して見事撃沈。
 正月…義両親とマリエッタが来日。ニュースにもなったな。
 
 んで、バレンタイン。この日が運命の日となる。なんて、俺が知るはずない。高校一年で運命の日を迎える俺って…今思えば波乱万丈…すぎる人生だ。
 
 この世に神がいるなら、私はあなたを殺したい。
 加奈子、楓、杏奈が同時に、しかも打ち合わせなしで俺様のところにチョコレートを持ってきてくれた。ハハハ、もてる男は辛いね。
 「加奈子さん、楓…」
 「どうやら…」
 「決着をつける時みたいですね」
 おいおい、決着って…
 「公平に」
 「丈さんに」
 「きめてもらいましょう」
 そんな勝手な
 「さあ、さんにんの内から一人のチョコを受け取って」
 声をそろえて言うな。
2010-06-16

Q.E.D. 第16話

 翌日、校長に呼び出しをくらって渋々学校に出向いた。
 校長の話は特に大した事じゃなかった。出席日数が足りないから留年する可能性があるから、せめて追考査だけでも受けてくれとの事だ。せっかく早起きしたのにとんだ無駄足だったようだ。
 少し気分を害し廊下をふらふら歩いていたら、丁度階段に差し掛かった時、女が一人落ちてきた。急な事態に吃驚しながらもかっこ良く彼女を受け止めた。そして顔を見た
 「か、加奈…ごふっ」
 加奈子が持っていた百科辞典クラスの書物らしきものが頭を直撃した。当然、俺は気を失った。
 
 気がつくと、加奈子と美人保健医が顔を覗き込んでいた。
 「やぁ、加奈子。久しいな。結婚式以来か?」
 「お久しぶりです。丈さん。どうですか?頭は…」
 「あぁ…平気だ。少し痛むがね。」
 「すみません。私、おちょこちょいで…」
 「まぁ、起きたことだ。気にしないよ。」
 
 俺たちは保健医にお礼を言って部屋を出た。
 「ンで、加奈子はこんなトコであんなモノを持って何をしてたんだ?」
 廊下を目的地もなく歩きながら訊いた。
 「実はね…今度、ココに転校してくることになりました!それで、日本語を少し勉強しようと思って広辞苑を借りてきたんです。」
 時代は既に完全デジタル化している。なのに情報源がアナログ?
 「って、思ったでしょ?」
 完全に見透かされている。
 「いいです。だって私、本が大好きなんです!」
 彼女の満面の笑みに見とれてしまった。顔を紅くなっているのがわかったから、顔を伏せて
 「お、俺も好きなんだ…本…」
 「知ってますよ。」
 「へっ?」
 思わず間抜けな声を上げてしまった。
 「だって、いっつも授業をほったらかして大英図書館で本ばっかり読んでたじゃないですか!きょ・う・じゅ!」
 なんで、俺のことを…
 俺は腕組みして考えた。…………
 「もしかして、俺の後にロンドン大学に入学した少女って…」
 「そっ。私ですよ。教授」
 加奈子も天才だったのか…それなら合点がいく。不効率的な電子版をながめるより、本を見ているほうが吸収率が上がるわけか…
 
 いつのまにか、グランドの横道を二人で歩いていた。見る人によっては…なんて考えてしまった自分がイヤだ。
 はぁ、ため息をついた時に野球部よりすごい音が聞こえた。
 「くそっどいつもこいつもヘボバッターばっかりだ!」
 いつになく荒れている武の姿があった。と、言うものの武には二回しか会っていないのでわからないのだが。
 「加奈子…俺、ちょっと打ってくるよ。」
 と、唐突に言ったが加奈子は、「頑張ってくださいね!」と言ってガッツポーズを決めた。
 
 「荒れてるな武…」
 俺は真夏だと言うのに着ていた詰襟を脱ぎバッターボックスに立った。
 「なんのマネだ?神宝。」
 「一打席勝負の決着をつけようと思ってな。さぁ来いよ!」
 カッコ付けてみた。
 「キャー!カッコいいです!丈さん!」
 加奈子一人が騒いでいる。結果、空しい。
 武は加奈子の顔を見て一切動かなくなった。察するに武は加奈子に一目惚れってトコか?
 「いいだろう!決着をつけてやる!カクゴしろ!神宝!」
 武は大きくふりかぶって…投げた!
 むっ速い!しかし、直数眼(ちょくすうがん・絶対数感の目の事。)の精度は日に日に上昇してる!
 「ここだぁ!」
 武の落ちる球を力いっぱい引っ叩いた。
 白球は軽く学校のフェンスを越えて消えていった。
 武はその場に崩れた。そして、止めを刺す言葉を残した。
 「話にならんな。これがドラフト一位確実の実力か。たいした事ないな。」
 そう言って、いまいちキャラのつかめない加奈子の方に歩いて行った。
 「ねぇねぇ、一回でいいからお茶しない?」
 「何やってるんだ?剣」
 加奈子をナンパしていたのは言わずと知れた、堂埜剣だった。
 「うっ…」
 俺は黙って剣をにらんだ。
 「ご、ごめんなさい。軽い出来心だったんです。許してください。」
 剣は土下座をしながら言った。俺はそれを見て、しゃがんだ。
 「お前は、杏奈の事が好きなのか?」
 剣は顔をあげて頷いた。
 「だったら、ナンパなんかやめろよ。大方、杏奈が気持ちに気がつかないから自棄を起こしてナンパしてるか、杏奈とのデートを失敗したからナンパで場数を踏んでおこうってところだろ?」
 「アンタ、エスパー?」
 図星らしい。加奈子が急に口を挟んできた。
 「さっきみたく、彼女を誘ってみたら?そしたら、上手くいくわよ。きっと」
 「加奈子…根拠のない事を…」
 「わかった、やってみるよ!おれ!ありがとう先生!」
 剣はさりげなく加奈子の手を握って走って行った。
 うらやましい…うらやましい?
 
 家に帰る前に加奈子を送り。
 家に帰ると、部屋の鍵が開いていた。ゆっくりとドアを開き中を覗き込んだ。リビングには、杏奈、楓、武、顔に打撲傷のある剣が俺の密かな楽しみのサイダー味のアイスキャンディーを喰っていた。
 「てめぇら何やってやがる!」
 と、ドアを勢いよく開いた。一斉にこちらを見た。そして、口々に俺に話しかけるので
 「シャラップ!ドントシャラップ!」
 興奮して意味不明な事を言ってしまって、一斉に
 「どっちだよ?」
 と、つっこまれてしまった。

 「ンでだ。杏奈はなんの用だ?」
 ようやく落ちつた所で一人づつ処理していくことにした。
 「ごめんなさい。この間は…」
 「ゴメン!わたしったら勘違いしちゃって…」
 先日の事故の事だろう。
 「いや、気にしてないからサ。次、剣。その傷は杏奈にやられたのか?」
 「いや、「杏奈!一緒にお茶でもしない?」って声かけたらニューハーフのおっさんだった。それで、「私は杏奈じゃないわ!私は皐月よ!」って言われて蛸殴り…」
 「はいはい。よかったね。これからは確認してからにしましょうね。はい、次、武。」
 「ちょっと待った!そんな簡単に流すな!」
 「シャラップ!」
 『ドントシャラップ!』
 剣を除くみんなが声をそろえて言った。
 「それで、武は?」
 「実は…野球を教えてくれって頼みに来たんだが…」
 「だが?」
 「君の連れていたあの娘に一目惚れしてしまったんだ!」
 頭痛の種…
 「彼女は加奈子。ロンドン大学の生徒だが、二学期から編入してくる模様。以上!」
 「冷たいなぁ。」
 「お前らが、アイス食ったからだろ!」
 「すまん!ちゃんと返すから、加奈子ちゃんについて教えてくれ!」
 …十分間に及ぶ加奈子の基礎情報を武に教えた。そして、結果
 「俺も、ロンドン大学に行く!」と、武。
 「えっ?私もロンドン大学に行くつもりなの!」と、杏奈。
 そんな杏奈を見て
 「俺も行く!」と、剣
 嘘でも行くと言わざるを得なくなった楓。
 結局、このメンバーがロンドン大学受験を決意して、なぜか円陣を組まされていた。
「ファイット!」「おーっ!」
 「近所迷惑な…」
 と、心底思った。
 
 「京都に行こう。」
 武はいつもどうり真面目な顔を言った。
 「なにをいきなりいいだすんだ?」
 「いや、中学の修学旅行を休んで京都に行けなかった。」
 「いこう!」と、立ち上がったのは剣だった。
 おいおい、勝手な事を言ってくれるな。
 「無論、全員参加で!」
 武…少し落ち着け。
 「行きましょう!」
 杏奈まで…
 
 「着いたねぇ~」
 何を暢気な事を言ってくれるんだ杏奈…大体どこに泊まるつもりだ?残念ながらロンドン大学教授さんは何のコネもないぞ。
 「うーん…出たとこ勝負!」
 使い方を間違ってるし…まぁいいや。メンバーは、俺と加奈子、杏奈、楓、武、剣である。
 実は気になっている事がいくつかある。まず、なぜこうなったのか?俺は蚊帳の外のまま京都に来てしまった。次に、ここの旅費をなぜ俺が出すハメになるんだ?説明がほしいところです。最後に俺は気にしないんだが…誰一人として流行に乗った格好をしていない。十代は流れを作る世代…なのに、我々の格好はそれを完全に無視した格好になっている。紹介したいのだが俺には無理だ。単語が足りなすぎる…
 ンで、何処に行くつもりだ?
 「ん?そう言えば決めてなかったどうしよう…」
 無責任な生真面目野郎だ。うーん…清水寺にでも行ってみるか?俺も一度行ってみたかったんだよね。 
 「うーん…丈さんが行きたいなら私は異論はありません。」
 「加奈子さんが行くんなら俺も行く」
 「丈君がいくなら…」
 「ふっ杏奈が行くとこ俺がありってね」
 「(最近、流されてばっかりだな…まぁ、丈がいるんなら…なんてね)わ、私も!」
 釈然としないが全会一致で清水寺行きに決定。

 「すげぇ…」「すごぉい…」「きれい…」「すごい…」「ひゅー」と、芸のない感想がおのおの述べる中俺は圧倒されていた。感想すら述べられない。そんな、呆然としている俺を放置したまま我が仲間のみなさんは奥へと進んで行った。そんな状況に気がつかない俺は壮大な景色に前のめりになって…
ガクンッ!
落ちかけた。かけたので落ちてはいない。加奈子が俺に抱きついて落下を阻止していた。
あっあぶねぇ…助かった…ありがとな、加奈…!?
加奈子が泣いている。なぜ?
「よ、よ、よ、よかったぁ…」
いや、泣く理由が見当たらない…
「だって…だって…丈さん…急にいなくなって…そしたら、自殺なんか…旅費が払えないからって自殺することないじゃないですか!」
自殺?いや、気が飛びそうになったが…と、言ってる俺を完全に無視した加奈子は
「丈さんがいなくなったら…わ、私…だって…丈さんが…好きだから…兄さんに次いで丈さんまでいなくなったら…わたし…」
うーん…加奈子って俺が好きだったのか?いや、でも…ええぇっ!好き?加奈子が俺を?だって先日フラれたばかりなのに?
「だって、ヒック…想いを止めておくと兄さん見たいになっちゃうから……………(かぁあああ)」
真っ赤になった加奈子はみんな所に走っていった。突然の出来事に俺は整理が出来ていないが、俺のCPUの90%を締めているのは加奈子の『好き』だった。

金閣寺で加奈子が一生懸命に謝っている加奈子を見てカワイイと思った自分がいた。
うーん…この話は保留でいいかな?俺もいきなりすぎて整理が出来てないからさ。
「うん。ゆっくり考えて。」
加奈子は満面の笑みで言った。そんな、ぎこちない二人に杏奈がそばにやってきて
「二人でなにやってるの?」
告白されてね…なんて言えないね。口が裂けても…ううん。なんでもないよ。行こう!
「? うん。加奈子ちゃんも!」
「私、負けませんから。」
「!?」
ボソッと呟いた加奈子の声は聞き取れなかったが、それを聞いた杏奈の顔は驚きを隠しきれていなかった。

加奈子は、結構早くに打ち解けて仲良くやっている。特に武がガンガンに攻めているのは一目瞭然だ…が、加奈子は俺に告白をするくせに武の気持ちに欠片も気がついていない。だろう。と、俺は旅館支給の浴衣にジーパンと言う妙な格好をして鯛のお造りを食していた。
ここは、旅館だ。無論、俺持ちの…溜息混じりに温泉につかってみた。隣で女性陣が胸の大小を恥じることなく騒いでいる。楓、杏奈、加奈子の順らしい(昇順)。俺は全部聞いてからわざとらしく咳払いをしてみた。だって、俺も男だからきになるだろ?
そんな貴重な話を聞き逃したバカ二人は今頃になって入ってきた。それを待っていたかの如く、桶やらシャンプーやらが流星のように降り注ぎ不幸なふたりを襲い俺は無傷で済んだ。いや、流星など簡単に回避できるさ。竹柵の向こうで向こうでキャーキャー叫んでる女性陣をほっておいて湯船に浮く桶などの回収をした。
フロから上がった俺たちは、部屋でボードゲームをしていた。剣が持っきた人生ゲーム…だから荷物がでかくなるんだ。と言いつつ完全に独走態勢(駒も金も)になっていた。早々に勝利した俺は自販機に飲み物を買いに出かけた。
ジュースを両手に抱える俺の所に楓がやってきた。ん?どうした?
「…手伝おうと思ってさ」
ありがたい。重たいんだよ。コレ
「…き…」
ん?
「…すき…」
!?
「好きって言ってるのよバカ!」
いや、まて。ぜんぜん話が読めない。展開が速すぎる。なんで?
「わかんないわよ。なんか、わかんないけどアンタを見てると…とにかく伝えたからね!」
 伝えられても…困…らない。いやでも困る…おおぃ楓!
 波乱万丈(すぎる)旅行の一日目は終わっ…てない。
 「俺さ、加奈子のことが好きなんだよ。仲を取り持ってくれないかな?」
 と、真面目な顔が少してれながら言った。
 男と女が団体であっても同じ部屋に泊まるのは問題ありと思った俺は二部屋借りた。これぞ、無限バンクのなせる業さ。いやいや、どうでもいいか。
 「きいてるのか?ジョー」
 と、髪をかきあげる伝説のナンパ師。ン?ぜんぜんきいちゃいねぇ。
 「だから、加奈子ちゃんとメガネ(武)を取り持つんなら、俺と杏奈も取り持ってくれよ。」
 断る。なんて言ったら間違いなく俺に朝が来なくなる。なんせ、二人とも大真面目に言っているから始末が悪い。はぁ~胃に穴が開きそうだ。どうやって、二人の仲を取り持とう…加奈子…俺は、思考を止めて眠りについた。
 今日は、大阪を経由して奈良に行くことになった。
 しかし、大阪に来てたこ焼きを始めいろんなもんを食べて飲んで(武と剣と楓が)…しかし、突拍子もない告白の後によくもまぁ食ったり飲んだりエクセトラ…少しは色気を感じさせろよ。ひきかえ加奈子は…うん、結構かわいいかも。ずっと隣にいるよこの娘。積極的だなぁ…と、思いながら加奈子を見ていたら加奈子が不意にこっちを見て目が合った。………………うーん、照れくさいな。ハハ…
 ゴスッっと脇腹を何かが突いた。思わず蹲り加奈子がおろおろしてる中、隣には楓がいた。なにすんだ!
 「加奈ちゃんと見つめ合ってデレデレすんなッ!なに?それはアタシへのあてつけ?昨日の告白は冗談じゃなからね!いい?」
 こ、コイツ…べらべらと余計な事を…
 「! 楓さんも告白したんですか!」
 「「も」って何?もしかして、加奈ちゃんもコイツ(丈)に告白したの?信じられない!うわぁミスったぁ…」
 加奈子さんできれば余計な事は言わんでくだせぇ。俺、メガネに締めら…ないね。たこ焼き三つ目を買ってるから聞いちゃいねぇ。
さて、恥ずかしながら俺をめぐる争奪戦は幕を開けた。

結局、奈良に着いても加奈子と楓は俺の隣を離れずメガネの痛い視線とナゼが杏奈の恨めしい視線が俺の心を苦しめて両手に花を楽しめなかった。不謹慎か?
現在時刻は、二十五時。「丈(さん)と一緒に寝る」の一点張りの楓に対抗する加奈子…を振り切って奈良公園で夜風に当たっている。昼間の騒がしさが嘘みたいだ。実際に騒がしかったのは俺たちだけだったけどな。
「丈君…」
ン?呼んだ?
俺は声のする方へ向いた。そこには杏奈が立っていた。浴衣姿で少し汗をかいておりなんか…いろっぺぇ…いやいや、最近おかしいぞ俺。
やぁ、どうしたんだ?夜風は身体に障るぜ?
「うん。ちょっと、お話がしたかったの。」
とりあえず、ベンチにでもかけよう。
「あのね、ずっと言いたかった事があるの。」
まさか、出逢った時からずっと好きでした。なんて、言ってくれるんじゃないだろうね?
「…ごめんなさい。その、まさかです。ずっと、好きでした。」
……俺はどうコメントすべきか…
「ううん。今すぐに返事なんかいらないの。だって、ホントは今日言うつもりはなかったの。でも…」
 加奈子と楓が告白したから、焦って自分も言わざるを得なくなった。ってトコか?ハハ、杏奈らしいや。
 杏奈は顔を真っ赤にした(のだろう)、顔を伏せてしまった。そして、ゆっくり深呼吸をして口を開いた。
 「ケータイを直してもらった時は少し恐い人だと思ってたの。でも、ホントはいい人なんだ。ある日を境に急に恐さが無くなってホントに…」
 堺ってのは恐らく親父さんが抜けていったからだろう。うーん、しかし、未だに親父が俺の身体に宿ってた意味がさっぱりだな。ハハ。
 「だから…丈君、大好き。私、何を言われようと大好きだから、自分の心に正直に答えて。私、絶対に恨んだりしないから。ね!」
 杏奈は腰を砕くような素敵な笑みを俺に向けた。あぶねぇ落ちかけた。
 …しばらくは保留でいいっすか?どうにも、事が起こりすぎて整理できてねぇからさ。
 「うん。待ってるよ。何年でも。じゃあ、帰ろうか!夜風は身体に障るからね。」
 ハハ。そして、俺らは宿に戻って発熱をした(俺だけ)

 楽しかった(?)旅行はあっけなく終わって、日常に戻ってきた。加奈子、楓、杏奈には返事は保留にしておくことを伝えてめでたく普通の関係に戻った。

 夏は、学会の準備で忙しくなった。無論、イオノエンジンについてだ。俺の発表と世界に発信すれば、爺どもはわらわら集まってくるだろう。問題は爺ども頭が俺の頭についてこれないことが問題になってくる。なので、一度ロンドンに戻り資料などを作ることにした。と、みなさんに告げた所、着いていく!と叫ぶ女性が二人。楓と杏奈。いや、これは仕事だから無理だ。すまんな。ンで、加奈子には着いてきてほしい。助手が足りなくてね。なにぶん、人望がなくて…
 「ロンドン大学教授の頼みなら仕方がありません(ニヤッ)。」
 ニヤッてなんだ?後は、申し訳ないが圭介さんも連れてきて欲しい。ブラウンの三十倍は役に立つからね。
 「…わかりました。兄に伝えておきます。」
 
 そんなわけで、空港に来たんだが…恐い。無茶苦茶恐い。飛行機に乗るのが無茶苦茶恐い。それは、加奈子にも言えた事のようで顔が真っ青だ。俺は、飛行機事故のショックで飛行機が恐いハズなんだがこの前まで全然平気だった。これは推測だが親父がいた頃は親父がかわりに乗っていたのだろう。
 飛行機に無理やり押し込められて発狂しそうな俺の隣には発狂寸前の加奈子がいた。
 なんで、こんなにこわがってるんだ?
 「実はね、この娘も飛行事故の被害者なんだよ。」
 !?
 「おどろいていますね。貴方と同じジャンボに乗っていたんです。生存者記録に彼女の名前がなかったのは彼女の本当の父親が彼女を連れて飛行機から飛び降りたんです。ドイツの山の中に墜落したジャンボより少し手前の山の中で彼女と父親が発見されました。」
 父親は?
 「着地に失敗してどてっぱらに木が突き刺さって即死だったそうです。加奈子は奇跡的に無事でした。そんな彼女を引き取ったのが家の両親です。」
 なるほどな。って言っている場合じゃない。このままじゃ俺も加奈子も発狂する。カバンに忍ばせていた俺特製の即効性強力睡眠薬液状を吸わせなければ。呼吸の荒い加奈子にこれを嗅がせてから俺も…
2010-06-15

Q.E.D. 第15話

 二週間後…
 「もうすぐ、完成ですね。」
 「あぁ、イオノエンジン(浮上するためのエンジンの名前。命名・円さん)も早十三号機。被害総額おおよそ三百億。過半数が、プルトニウム(エネルギー源)に消えていった。」
 研究所には俺と圭介さんの姿しかなかった。他の研究員はあまりにも危険なので逃げ出した。
 「後は、推進エンジンですね。どうします?」
 実の所、イオノエンジンで浮上しても前に進めないのだ。そこで必要なのが推進エンジンだ。
 「ふふふ、この俺が何も考えてなかったとでも?ニトロを使う。ニトロを…(中略)…直噴射して推進力を得る。」
 「流石ですね!ワトソン君」
 「ワトソン君ってなんだよ。」
 「すみません。ここ一週間、超多忙でしたので寝てないんです。」
 「知ってる。その件に関しては俺も一緒だ。さて、明智君。休もう。」
 「教授も結構きてま…ZZZ」
 会話の真っ最中なのに俺たちは眠り込んでしまった。

 目が覚めると、視線の先には圭介さんに膝枕をしている円さんを見つけた。あきらめたとは言え、見るも辛いので寝返りをうって反対方向を向いた。その先には、部屋の隅でちょこんと椅子に座って円さんを悲しそうな目で見つめている加奈子を見つけた。
 ハッと加奈子と目が合って慌てて視線をそらそうとしたが、加奈子の瞳の奥にある深い深い悲しみに引きずり込まれてそらすことができなかった。
 
 さらに一週間後…圭介さん、円さんの結婚式当日。
 この一週間はひどいものだった。圭介さんは結婚式直前なので一週間、俺一人で作業。
 そして、ようやく完成したのが、イオノエンジン搭載ツインニトロエンジン二機搭載した、チェイサー。
 俺は栄養ドリンクを五本を一気に飲み干し(栄養ドリンク一本で一日の栄養をカバーできるから、普通はやってはいけないが)、持参した詰襟を着て、チェイサーにまたがり、リオンをチェイサーに接続して(イオノエンジンは完全にコンピューター制御しなくてはならないため)、ゴーグルをかけた(いつの時代もヘルメットは付けないといけないのだが、ヘルメットは実験の際に吹っ飛んだイオノエンジンシリーズの破片に幾度も俺を助けてくれた挙句に割れたので、ノーヘル)。
 
 国道をチェイサーで走らせていたら、結構な距離だあるが、あるビルの下に人がうじゃうじゃいた。
 少し、気になったのでゴーグルでズームしてみたら、ビルの屋上に今にも自殺しそうな加奈子が立っていた。
 「なにやってんだ?あいつ…」
 自殺しかないだろう。と、冷静につっこんでみた。
 「しかし、二人の結婚式の日に自殺はまずいだろう。仕方がないな。助けよう。リオン、イオノエンジン起動。ニトロエンジンスタンバイ。」
 「御意」
 ウィーンと、奇妙な音が鳴り始めチェイサーの隙間からエメラルドグリーンの光がこぼれてきた。その光がさらに一層強くなって、カッと光って光は消えバイクはふわりと浮上した。高さは電信柱を越すぐらいであんていした。
 「兄貴。いつでもオッケーですよ。」
 「ニトロ、噴射三秒前…二…一…」
 ニトロエンジンが爆音を上げた。それと同時に車体がぐっと進んだ。 その爆音に驚いた加奈子が足を滑らせて落ちた。しかし、加奈子は身をすくめるものの決して叫ばなかった。
 ビルの半分まで落ちた加奈子を颯爽と拾い、式場に向かった。
 「よぉ、自殺なんて平和的じゃねぇな。まぁ、平和ボケしてる国にはいい刺激にはなるけどな。」
 加奈子は涙目で
 「なんで、助けたんですか?」
 「死ぬのはもう少し後にしてくれないか?」
 「もう少しって?」
 「八十年か、そこいら」
 俺はどこからかゴーグルを取り出して加奈子に渡した。加奈子はなんの疑いも無くゴーグルを装着しながら
 「それは、できません。だって…」
 「圭介さんが結婚するから?冗談じゃねぇ!そんな事で死ぬんだったら、世界中の人間が死に絶えてるさ。いいか?加奈子が死のうが死なまいが勝手だが、このまま死んだら後悔するぞ。今からでも遅くねぇ、圭介さんに気持ち伝えてみろよ。」
 珍しく熱弁。加奈子は涙ぐんで頷く。冷静になればこっぱずかしい状況に俺は少しほぉを赤らめてしまった。
 
 「これって、どうゆう原理で浮いてるの?」
 「ん?イオノクラフト効果を応用した。」
 「イオノクラフト効果!?すごいすごい!よく考えつきましたね。」
 イオノクラフト効果を知ってる?現代の高校生には無縁…なぜ、加奈子が?
 しかし、加奈子って美人だなぁ。それにすごく懐かしい。
 と、考えていたら顔がにやけてしまった。
 「なに、にやにやしてるんですか?」
 ハッと我に返った。
 「いや。なんでもない。」
 「…これのエネルギーは?推進力はどこから?止まるにはどうするの?ですか?」
 加奈子の質問攻めに少したじろいだが、
 「イオノエンジンはプルトニウム。推進力はニトロの直噴射。止まるのは、少しずつ高度を下げて地面でブレーキをかける。百メートル間で降りていってブレーキをかける。」
 加奈子は指を指して
 「七十メートル先、教会よ。」
 「!? 早く言えって!まずいなぁ…」
 「一気に降ろしちゃえば?」
 「プトニウムエネルギーが行き場をなくして、ジ・エンド。仕方ない、このまま教会に突っ込む。ドアの力でとまるだろう。」
 どんどん高度を下げていった。
 そして、この日の夜、親父の日記を読むとき愕然とするのは必至な行動を取った。
 俺は、予定通りに教会のドアを破って
 「その結婚ちょっと待った!」
 チェイサーは少しドリフトした後、止まった。
 円さんは手のひらを合わせて「まぁまぁ」なんて言っていたし、圭介さんは右手を顎に当てて「ほほぉ」とか言っていたので、怒ってはいないのだろう。
 「なんなんだね?き…」
 神父の口が止まり、何かを思い出して
 「幸せになる二人に何のごようですかな?誓いはまだですぞ。」
 神父はゆったりと笑った。
 「加奈子…」
 「うん。このままじゃ、死ねないもん。」
 加奈子は圭介の前まで歩き、
 「兄さん。ずっとずっと好きでした。いや、愛していました。身寄りのない何処の子かもわからない、私をいつも守ってくれた兄さんが好きでした。だから、兄さんの幸せの邪魔はしたくないんです…」
 圭介さんはそっと加奈子を抱きしめた。
 「ありがとう。でもね…」
 加奈子は圭介を突き飛ばして
 「円さんと幸せになってね。お兄ちゃん」
 加奈子はそう言って、教会を飛び出した。
 俺は圭介さんと円さんに「すみませんでした。」とお辞儀をして、チェイサーを押しながら加奈子を追いかけた。
 加奈子はすぐ外で泣いていた。俺はどうすることも出来なかったが、優しく抱きしめた。じぶんでもなんでそんな事をした全然わからなかった。
 
 落ち着いた加奈子は笑って圭介さんと円さんを見ていた。ふと加奈子と目が合った時、瞳の奥の悲しみが少し和らいだようだ。
 「ねぇ、丈君。」
 円さんが話しかけてきた。
 「ん?どうしたんですか?」
 「私、アレに乗りたい。」
 円さんの指差したのはチェイサーだった。
 「さっき、飛び込んできたときアレ浮いていたでしょ?」
 もともと、円さんを乗せるための物だったことを思い出した。
 俺は円さんを乗せてチェイサーを浮上した。円さんは、チェイサーの上からブーケを投げあげた。

 研究が無事終了して学会のじじぃどもに見せる資料を完成させて、一ヶ月ぶりに部屋に帰った。ほこりまみれかと思ったが、かなりきれいになっていた。きれいと言うか、模様替えしてあったり、まだ開けていない荷物もすっかり整理されていたので首をかしげて考えていたら、急に玄関が開いた。
 玄関に急いだらそこには杏奈がいた。
 「久しぶり。丈君…」
 「あぁ…」
 杏奈が帰ろうとしたが、俺は肩を掴んで引き止めて尋問を開始した。
 尋問結果は、合鍵を作って部屋に入って元々きれい好きの杏奈は掃除をしている間、どんどんエキサイトしてきて結果的に模様替えをしてしまったそうだ。
 本来なら怒るべきなのだろうが、杏奈の罪無き笑顔につい許してしまった。
 一時間正座していた俺は立ち上がろうとした時、足が痺れて杏奈を押し倒してキスをしてしまった。
 「す、すまん。杏奈!事故だ事故!」 
 杏奈はポーっとしていた。
 今日は厄日か?と思いたくなった。楓が部屋に飛び込んできたのだ。
 「久しぶり!じょ…」
 恐らく大概の人は俺と杏奈の現状況だけみたら、仲良くしているように映るのだろう。
 「何やってるんだ!」
 楓が怒鳴った。
 「いや、これは事故だ。足が痺れてだな…そうだよな?」
 俺は杏奈に同意を求めた。
 「…丈君がいいなら私はいつでもいいわ。好きにして…」
 杏奈は頬を赤らめて言った。
 「ば、バカ!何言ってる!」
 「既成事実さえあれば結婚まで押し切れる…さぁ丈君好きにして!」
 俺は顔が真っ青になるのがわかった。
 「へぇ~既成事実ね…」
 杏奈は和室に置いてあった、真剣・池田鬼神丸国重(新撰組・三番組長・斉藤一の愛刀)を手にとって俺の頭を鞘で殴って部屋から出て行った。
 人の話を聞かない奴だ。
 
 あの後、杏奈は我に返って自分の発言に赤面したか俺が押し倒したのにびっくりしたのかは定かではないが、真っ赤な顔をして部屋を飛び出した。
2010-06-14

Q.E.D. 第14話

 俺は目を覚ました。懐かしい夢を見た。しかし、断片的すぎて何がなんだかわからなかった。
 「うおっ」
 たしか、俺はソファーで寝ていた。杏奈が俺の腹の上で顔をうつぶせて寝ていたので、吃驚した。幸い、杏奈は起きなかった。
 「起こすのも可哀想だし、もう少し俺も休むか…」
 俺が再び眠りにつこうとしたとき、不意に杏奈の顔がこちらを向いた。俺は顔だけを起こして杏奈の顔を眺めていた。
 「コイツ、結構可愛いな…」
 なんて、ひとり言を呟いた。その声に気がついたのか杏奈は半目で顔を上げてキョロキョロし始めた。その隙に、俺は抜け出した。そして杏奈は再び眠りについた。
 「一体、コイツはなんなんだ?」
 …
 小一時間経った頃か、俺は日本のテレビ番組を見ていた。ふあ~とまさに寝てましたという感じの声を出して杏奈が起きた。
 「おはよう。杏奈」
 俺はニヤニヤしながら言った。
 「…! …お、おはよう…ございます…」
 杏奈は顔を真っ赤にして言った。そんな杏奈の顔を見て俺は、口の右の上唇と下唇の境目に指を当てて、
 「涎ついてるよ」
 と、言ってみたりしたら、杏奈は太陽よりも顔を赤くして涙目になって涎を拭った。そんな杏奈をみて、
 「ウソ」
 と言った。杏奈は顔を膨らませて
 「バカッ!十回死んじゃえ!」
 と言って怒っていた。
 十分後、杏奈の機嫌が戻った頃
 「さて、行くかな」
 と、言って俺はソファーから立ち上がった。
 「えっ何処行くの?」
 と、杏奈はキョトンとしていた。俺は杏奈の手を取って、
 「デートしようぜ」
 と言って、状況の把握してない状態の杏奈をバイクに乗せて井の頭通りを走った。十分ぐらいした頃に、井の頭通りを外れて小道に入り少し走った所に小さいレストランがあった。
 「ココは?」
 杏奈は未だにキョトンとしていながら俺に質問をしてきた。
 「ココはね、親父の友人の一人の南さんって人がやってるレストランなんだ。親父の日記に書いてあった。南さんの腕は天才的なんだけど、忙しすぎたホテルをやめてココで地味にやってるんだってさ。」
 俺は、淡々と杏奈に説明した。杏奈は
 「で、でも、なんで私なんかと?」
 「う~ん…一週間、身の回りの世話してもらっただろ?それのお礼だよ」
 と、にへらとしながら言った。
 「そんな、たいした事なんかしてないよ。」
 杏奈は手と顔を振りながら言った。
 「いいからいいから。まぁ、正直なところはね、俺自身が君に興味を持ってね。美味いものを食べながらゆっくり話をしようと思ってね。」
 一点の恥じらいもなく俺は話した。
 …
 たのしい食事が終わって、会計を済まそうとした時、レジのおばさんが
 「直樹君?」
 と聞いてきてびっくりした。
 「親父を知ってるんですか?」
 「親父…もしかして、直樹君の一子、丈君?きゃー!こんな所で逢えるなんて思ってなかった!ちょっと!貴之さん!直樹君の息子さんが来てるわよ!」
 おばさんは、きゃあきゃあ言っていた。まもなく、奥から口ひげを生やした小柄なおじさんが出てきた。
 「やぁ、君が直樹の倅だね?直樹の旧友の貴之だ。で、こっちが妻の桜。」
 貴之さんはニコニコしながら、自己紹介をしてくれた。
 「ホントはね、娘が二人いるんだがね。今は、他の所で暮らしてるんだ。」
 貴之さんは聞きもしない家族構成まで教えてくれた。
 「ここって、都心外れの外れだからね。学生の娘達には暮らしにくいから追い出したのよ。」
 と、桜さんはニコニコ言った。
 …
 十分程話していた。貴之さんは東大生だったり、桜さんが伝説的歌手だったり(三枚連続ミリオンヒットをだした)なんて話がきけた。
しかし、親父に関しては何も聞けなかった。
なんて考えていたら、
「直樹の話が聞けなくてがっかりしてるだろ?」
と、言われて吃驚した。
「正直、今の君に直樹の話をするつもりはないよ。君がもっと大人になれば、話す事にするよ。さて、引き止めて悪かったね。ここの御代は私が持とう。ささ、若い二人はデートでもしてきなさい。」
貴之さんはそう言って奥へと消えていった。

俺と杏奈はすっかり日が落ちた頃、浅草を歩いていた。バイクは適当な場所に止めて、デートをすることにした。
「あ、あの…」
相変わらず、ぼそぼそと杏奈は声をかけてきた。
「なんだ?」
「そ、その…どこの大学の教授さんでしたっけ…」
「ん?あぁ…ロンドン大学だけど?」
「そ、その…私、その大学に行きたいんです!私に勉強を教えてください!」
珍しく杏奈が言い切った。俺は少したじろいで
「い、いや、別にいいけど…」
杏奈の顔は、今まで以上に明るくなった。
「えへへ、私、喉渇いちゃったなぁ~」
やはり、珍しく杏奈は明るく振舞った。これが彼女の本質なのだろう。俺はやれやれと言わんばかりに自販機に向かった。

 俺が缶ジュースを片手に二本持って杏奈の所に向かった。
 「またせ…」
 茶髪の若者が俺の脇を颯爽と走りぬけ、杏奈の肩に手を置いて
 「へぃ!彼女!彼氏でも待ってるの?そんなの置いといて俺と…」
 いまどき、へぃ!って…なんて思っていたら、男の顔から血の気が引き冷や汗が滝のように流れた。杏奈は振り返って、若者の顔を平手打ちをくらわせた。
 「剣(つるぎ)君、まだこんな事やってるの?」
 「いや、その、杏奈さん…これには海より深いワケが…」
 「問答無用!」
 杏奈は何処から出したのか、ハードカバーの本の角で若者の頭に一閃…
 「丈君…行きましょ!」
 杏奈は俺の手を引いて行った。つまり、若者と杏奈は知り合いで若者のナンパ癖を怒って、一閃をくらわせた。そんな所だろう。
 「とりあえず、これ見舞い…」
 と、言って缶ジュースを投げておいた。
 …
 とある公園のベンチで、時は既に二十時を越えている。
 「はしたない所、見られちゃったね。」
 なんて、杏奈は照れながら言った。今にも顔から火が出る勢いで真っ赤な顔をしていた。
 「んで、ありゃ誰だ?」
 俺は足を組みながら聞いた。
 「堂埜剣。私の幼馴染。渋谷の方では伝説のナンパ師って呼ばれてるの」
 「伝説の…」
 杏奈は急に立ち上がって、
 「さっ帰りましょ!」
 そう言って今日のデートは終わった。

 後日、俺は家に篭ってある資料を丸一日かけて作った。
 
 俺は杏奈の家に出向き、その資料をポストに投函して家に帰った。
 資料の内容は、来週の期末テスト対策の資料だった。冗談か否か、ロンドン大学に行きたいと言った彼女の為にテスト対策資料を作っておいた。あの大学に行きたかったら、最低限あの程度の高校のテストで百点を取らなきゃ話にならない。と、思って作った。
 その日の晩にお礼の電話が入っていたようだが、一ヶ月間気が付かなかった。
 
 その週の金曜日、東京大学に出向いた。工学部が手を貸してくれるそうだ。資材及び資金はロンドン大学及び自腹を切る。
 俺は、そんな事も考えながら研究所に入った。そこには、圭介さんと円さんが立っていた。
 「あら?丈君じゃない?」
 円さんは手のひら合わせて言った。
 「久しぶりです」
 「やぁ、君が丈君?僕が圭介だ。加奈子が世話になったね。」
 圭介さんは握手を求めてきた。本来なら握手など決してしないのだが、うっかり手を出してしまった。
 「で、今日は東大の見学かい?すまないが、今日はイギリスの偉い先生がココに来るんだ。だから、ちょっと案内できないなぁ。すまないね。」
 と、圭介さんはペラペラしゃべっていた。
 「すみません。その、イギリスの偉い先生って俺です。」
 申し訳なさそうに言った。
 「えっ?で、でも…」
 「はぁ~俺が神宝丈。ロンドン大学教授の」
 俺は懐から名刺を渡した。圭介さんは顔から一気に血の気が引いて、土下座をした。
 「す、すみませんでした。神宝教授!」
 「い、いえ…いつもの事ですから。頭を上げてください。」
 と、言って俺はしゃがんで手をさし伸ばした。

 ようやく、事が終わって手伝いの自己紹介が始まった。アシスタントは圭介さんを含む四人。
 さて、気になるのはナゼ圭介さんがこんな所にいるかと言うと、実は東京大学工学部講師だったのだ。残りの三人の研究員は大学院の圭介さんが最も信頼してる人たちらしいが、俺は誰でも良かった。言ってしまえば、馬車馬のようにこき使いまくるつもりだったの馬車馬のように労働意欲のある年寄りや小学生でも良かった。
 俺は、とりあえずリオンに入れておいた論文及び設計図を展開して今後の仕事分担をしてその日は解散になった。が、圭介さんの誘いで、食事をすることになった。実はあさってが、加奈子の誕生日らしい。プレゼント買うのはいいが何を買うべきか迷っているようだ。
 「ンで、ナゼ玩具屋?」
 「だめかなぁ?」
 似たもの夫婦…
 「…奮発してアクセサリーにしてみたら?」
 と、アドバイスしたら
 「いやぁ、金欠で大したものが買えないんだよ!はっはっはっ」
 頭が痛くなってきた。
 「はぁ~仕方がないな。俺が立て替えるから、行こう!」
 そして、男二人で店内に入ると奇異の目で見られていた。
 俺はペンダントを、圭介さんは指輪を購入した。

 あの日の夜は研究所で二人で…いや、正確には圭介さん一人でドンチャン騒ぎをして、共に二日酔い。
 目が覚めると、残りの三人が部屋の片づけをしてくれていたのか、きれいさっぱりしていた。わけでもなかった。英国から来た機材や資料、資材でごった返していた。
 
 そんなこんなで、一週間缶詰になって第四号機で浮上エンジンそのものが浮上した。
 「あっ!」
 俺は何かを思い出して声を上げた。そして、圭介さんに視線をやると、
 「まずいね」
 と、言って僕らは走り出した。チェイサーの飛び乗って、加奈子の所に急いだ。
 
 「すまん!加奈子!」
 「参った参った!すまんな加奈子!」
 俺らは圭介さんの家のドアを蹴破る勢いで部屋に転がり込んだ。
 「お帰り、兄さん。それに…丈さん?」
 加奈子はキョトンとして言った。
 「久しいね。加奈子ちゃん。」
 「いやぁ、すまんすまん。おそばせながら誕生日プレゼントを…はい。誕生日おめでとう!加奈子」
 そう言って、圭介さんは加奈子に指輪を渡した。しかし、一瞬明るい顔をした加奈子に暗い暗い影がさした。

 結局、一晩中ドンチャン騒ぎ(圭介さんだけ)をして、二日酔い。
 朝、目が覚めて重い頭をよっこらしょと持ち上げて周りを確認すると、散らかっていた部屋がきれいになっており、食卓には朝餉がならんでいた。
 「おはよう。加奈子ちゃん。」
 「おはようございます。よく…眠れてませんね。すみません。兄が…」
 加奈子はペコっと頭を下げたので、俺もつられて頭を下げてしまった。
 「圭介さんは?」
 「兄は、東大に行きました。講義があるそうで。さぁ、食事を用意したので食べてください。」
 俺は加奈子の言うがままに食事を取って、昼前に大学に向かった。
 
 「やぁやぁ、教授。眠そうな顔をしてますね。」
 この人はどんな身体をしているんだ?あんだけの度の酒をガブガブ飲んで朝一に講義…一度解剖してみたいな。
2010-06-13

Q.E.D. 第13話

 翌日、加奈子は朝食と弁当を作ったまま居なくなった。弁当を作られては、サボるつもりだった学校に行かざるを得なくなった。
 ぼんやりと一日を終えた。杏奈がケーキを食べに行こうと言っていたが今日はそんな気分になれなかったので断った。
 学校から帰ってきた俺は、近くの公園のベンチで空を眺めていた。
 《なんなんだろうな。この感覚は》
 《僕にもわからない。》
 《がらんどうの心…か》
 《僕もそろそろ…》
 《えっ》
 《なんでも無い。最近、僕らは人間味が出てきたな。》
 《あぁ、少なくともロンドンに居た頃よりもな。》
 《日本に来てよかったな》
 《俺はそうは思わないな。失恋もしたわけだし》
 《それが良かったんだよ。君が人間になるための要素だからね》
 《最近、丸くなったな。》
 《人間に近づいているんだよ》
 「丈君!」
 顔を覗き込んできたのは円さんだった。
 「結婚おめでとうがざいます。円さん」
 俺は以前とは違い舞い上がっていない声で言った。
 「ありがとう!」
 円は嬉しそうに言った。
 「あの、円さん…」
 「なぁに?」
 「なんで、恋人がいるのに俺とデートなんかしたんですか?」
 俺は暗い表情で言った。
 「…ゴメンね。傷つけるような事して…あの時、圭介と喧嘩してたの。そんな時に丈君と出逢ったの。丈君ってなんだか、圭介が高校生になったみたいな感じがあってね。つい、デートにさそちゃったの…でも、丈君のおかげで圭介と仲直りできたの。それで…」
 「一気に結婚まで話が進んだわけですね?」
 「…えぇ…」
 「なら、良かったです。俺は二人の恩人ですね。」
 俺は自分でも腹が立つぐらいの作り笑顔を円さんに向けていた
 「そうなの!本当にゴメンね。」
 「いや、いいっすよ。」
 俺の作り笑いは円さんには満面の笑みに見えたのだろう、彼女は満面の笑みで答えてくれた。
 「円さん!」
 「なぁに?」
 「結婚祝いに何が欲しいですか?」
 「えっ?えーとねぇ…一度でいいから空を飛んでみたいわ」
 欲しいものを聞いてるのに…この人は…
 「空ですか…頑張ってみますよ」
 「わぁありがとう。じゃあね、楓ちゃんの夕飯作らなきゃだめだから…」
 そう言って、円さんは公園から出て行こうとした夕方…既に子供の姿はない
 「円さん!」
 俺は立ち上がって、呼び止めた
 「えっ?」
 円さんは立ち止まり振り向いた。
 「初めて会った時からずっと好きでした。短い間でしたけど、好きでした。」
 俺は言いたい事を言った。胸に秘めた事を言った。
 「ありがとう。でも…」
 「わかっています。最後に一つお願いがあります。」
 「なぁに?」
 「もう一度キスしてもいいですか?」
 円さんは何も言わず首を縦に振った。
 
 《これで、未練はないね。》
 《何言ってるんだ?》
 《僕は所詮、俺を守る為の盾でしかなかった。そして、今日、君は盾を必要としないぐらい強くなった。だから、僕は消える。》
 《おいおい!急すぎるぞ!》
 《本来ならもっと早くに消えるべきだったんだがな。円ちゃんがね…》
 《円さん?》
 《ミコに似てたんだよ。ハハ…流石は貴之と桜の娘だな。》
 《何をワケのわかんないこと言ってるんだよ!》
 《僕は直樹…神宝直樹だったモノ。丈を守るために丈の身体に入った。時は満ちた。僕は消えるよ。》
 《ちょっと、待てよ!親父!非科学的だ!認めない!絶対に認めない!》
 《だったら、証明してみろ!お前のお得意な学問で証明してみろ!それがお前の生きた証になる!》
 《あぁ、やってやるよ!絶対に証明してやる!見てろ、クソ親父!絶対に…》
 「絶対に証明してやる!」
 俺は、この超高度文明の都会では珍しい満点の星空に叫んだ。

 俺は珍しくゴキゲンで登校した。
 僕を改め親父がいなくなって、混乱していた頭がすっきりして、大幅に性格が変わった。もとい、これが俺の本来の性格なのだろう。
 「お、おはよう…」
 杏奈は相変わらずおどおどと言ったのに対して俺は
 「おはよっ」
 と、いままでの俺を見ていた人にとってはショッキングな挨拶を返した。それを聞いた杏奈の顔はパァッと明るくなった。
 「なによ?上機嫌ね」
 楓がいきなりな挨拶を飛ばしてきた。
 「ん?まぁな。年に一度の大吉だからな」
 「わけのわかんないことを…」
 呆れている楓をよそに緑川先生が会いも変わらずヘラヘラ教室に入ってきた。
 …
 俺は授業中悩んでいた。頭を抱えて悩んでいた。数学担当の加藤が「寝るな!」とか言っていたのはお構いなしに悩んでいた。悩みの種は、円さんだった。先日、空を飛びたいと言っていたが、車は未だに空を飛んでいない時代に、どうやって円さんを飛ばすか悩んでいた。
 「神宝!この問題をといてみろ!」
 と、加藤が言ったので、しぶしぶ電子版(黒板の進化したやつ。電子版に専用ペンで書き込む事ができる。コンピューター処理が出来るのでコピーとかも可能。)の前で、簡単に解いた。加藤は、すごく悔しそうな顔をしていて、実に愉快だった…その時、ひらめいた。
 「イオノクラフト効果!」
 イオノクラフト効果とは、水分子に数億ボルトの電圧をかけると水分子が宙に浮く事だが、水分子に触れれば確実に黒こげになる。しかし、その前に理論上可能だが、現実問題として未だに出来ていないのだ。
 「なんだ、神宝。さっさと…ゴフッ」
 俺は、加藤の顔面に回しケリをくらわせた。
 「杏奈!リオンとクロウを持って来い!」
 と、杏奈に命令した。杏奈はすぐに俺のカバンから、銀玉とケータイを持ってきた。
 「サンキュー杏奈」
 俺は、杏奈のおでこにキスをした。杏奈は顔を真っ赤にしていたが、俺は気付きもせずにリオンを起こした。
 「リオン!仕事だ!合法・非合法を問わない。イオノクラフト効果について調べろ!」
 「あいあい」
 リオンにケータイを接続すると、一瞬で検索結果がでた。俺はそれを電子版に接続して映し出した。電子版には無数のファイルが展開されていたが、「論文に絞れ」というと、数十個まで減った。そのなかから、最も優秀な論文を選び、五分ほど読んだ後に
 「帰る。」
 と、言い残して俺はカバンを持って教室を出た。
 バイクを走らせて自宅に帰り部屋の中がコンピューターでぎっしり詰まった部屋に入った。
 …
 俺は夢中になって計算をしていた。未だかつてこんなに必死になった事はない。いつだって、適当に選んだ課題を適当に解いていたからだ。しかし、今回は自分で選んでやっている。このときが楽しくて仕方がない。
 「あのー丈君…」
 後ろで声がしたのに気がつかず夢中でキーボードを叩いていた。
 「丈君」
 少し声を上げたのだろうが、俺は一切気がつかない。
 「丈君!」
 とうとう、大声を張り上げて、ようやく気がついた。
 「ん?なんだ、杏奈か。いらっしゃい。なんも出ないし出さないけど、ゆっくりして行ってくれ。」
 俺はそう言って再びキーボードを叩き始めた。
 …
 小腹がすいたなぁ。なにか買ってくるか…
 そう思い部屋から出るとリビングで杏奈がソファーで寝ていた。テーブルの上には湾ホールのケーキが置いてあった。
 「! ご、ごめんなさい…」
 杏奈は顔を真っ赤にして飛び起きた。
 「あぁわりぃ起こしちまったか?」
 俺はにへらと言った。
 「そんな事ない…です…」
 杏奈は顔をうつむけたまま言った。
 「美味そうなケーキだな。食べてもいいかな?」
 「えっ?あの…駄目です。」
 俺は脱力した。
 「じゃあなんで置いてるんだよ?」
 「その、ご飯を食べてからの方が…」
 杏奈はおどおどしながら言った。そういえば現時刻は十九時。夕飯時だ。
 「それもそうだな。ピザでも頼むか。」
 俺は電話の前まで歩きながら言った
 「あの、私、作ります。材料も買ってきてるから…」
 杏奈が何を考えているのかさっぱりわからなかった。
 「…なら、お願いするよ。俺、もう少し計算してるから。できたら呼んでくれ」
 俺はそう言って部屋に戻り計算を始めた。
 …
 「出来ました!」
 杏奈が部屋に入ってきて、わざわざ俺の肩を叩きながら言った。
 「おう。今行く。」
 俺はひと段落終わらせて食卓に行った。
 杏奈の料理は見てくれはあまりよくないがなかなかの腕前だった。
 食後のケーキを食べようとした時、楓がいきなり入ってきた。
 「おっす!楓ちゃん登場!…って、なんで杏奈がいるの?」
 楓はいきなり現れて誰もが口にはしないが心の底から思っていたことは簡単に言った。
 「あのね、丈君が急に帰ったから、心配になって来た…だけ…」
 杏奈は弱弱しく言った。
 「そうだったんだ。知らなかった。」
 と、俺が言ってしまった。
 「…」
 楓の台詞をとってしまった。
 結局、三人でケーキを食べることにした。
 …
 夜、杏奈をバイクで送った。
 
 俺は、部屋に篭って一週間、不眠不休で完成させた。その間、食事は杏奈が毎日作ってくれた。まったく何を考えているのかわからない。ただ、少なくとも俺の中での杏奈に対する好意度は上がっていた。計算が終了した俺はリオンに実験・開発をさせてくれる機関を探させて眠りについた。
 
 「この……危……フラン……小型……」
 「そう……マリ……」
 「おいお……ル…ス…」
 「…樹…」
2010-06-12

Q.E.D. 第12話

 俺は、渋谷近郊をバイクでうろつき、気が向くままバイクを走らせたら港区まで来てしまった。バイクを止めてぶらぶらしてみることにした。
 そこで、俺はあまり見たくないものを見てしまった。円さんがデートをしていた。反射的に隠れてしまった。隠れた先には妙な女が円さん達を見ていた。
 女は、綺麗な黒髪で背中まで伸ばして、全身黒色に統一されていた。上は長袖で裾に近づく程大きくなっていたり、スカートの前をごっそり切り取って、中には短めのズボンをはいていた。
 なんだコイツと思いながら顔を見ていたら、女は急に振り向き
 「なにか用があるんですか?」
 と聞かれて首を横に振った。女の顔立ちは大人っぽい可愛らしい顔だった。
 「何をみてるんだ?」
 と聞いてしまった。疑問に思った事は調べてみないと気がすまない性格だ。人間の三大欲は、食・睡眠・性で成り立っているが、俺の場合は全て知識欲に書き換えられている。女は、再び振り向き指を指した。指の先には円さんと男がいた。
 「あれは、私の兄の圭介です。女の情報は少なくてまったくわかりません。」
 「女の名前は南円だよ。」
 「なんでそれを?」
 「隣人だからね。それで、何をしているんだ?」
 「監視をしているんです。もし兄があの女と、あんな事やこんな事をするようであれば容赦なくとめます。」
 と、言った。俺は女の手を握って
 「素晴らしい。是非、俺にも協力させてくれ。」
 と、言ってしまった。日本に来てから俺でも僕でもない自分が勝手に動き始めている。
 「はぁ?なぜ、ですか?」
 「俺は、円さんが好きだから断固阻止せねばならない理由がある。」
 余計な事を口走ってしまった。女はプルプルと震えだして
 「素晴らしい!私も兄を愛しているのでどうしてもアレだけは回避しなくてはいけないのです。是非協力してください。」
 女は涙目になって俺の手をブンブンと振った。
 円さん達が移動を始めたので俺たちも追走をすることにした。圭介は円さんをバイクの後ろに乗せて走り出した。俺たちはバイクの上で
 「なぁ、君の名前は?」
 と聞いてみた
 「霜月加奈子」
「俺は、神宝丈だ」
 「えっ?神宝?」
 加奈子は少し驚いたようだったが俺は気が付かなかった。
 圭介・円は高級レストランに入っていったので俺たちも入る事にした。しかし、店員に止められた。理由はお金を持っていなさそうだからだそうだ。俺の詰襟がまずかったのだろう、すぐに着替えてレストランに入った。席は、二人の会話を聞こえるぐらいの近さで死角にある席を指定した。
 適当にフルコースを注文して、二人の会話を聞いていたが他愛のない話だったので少し気を緩めて加奈子と話す事にした。
 「なんで、兄貴さんの事が?」
 なんて質問をしてみた。すると、加奈子は
 「実は私は養子なんです。もともと、お父さんとお母さんはイギリスに住んでいて身寄りのない私を拾ってくれたのが二人だったんです。で、幼い頃からずっと面倒を見てくれたのが兄だったんです。」
 柄にもない嫌味ったらしい笑顔で
 「へぇ~だからかぁ」
 と、言ってみた
 「う、うん」
 とこのかは頬を真っ赤に染めた。そして、急に真面目な顔をして
 「丈さ…」
 「しっ!」
 俺は人差し指を自分の口の前に持ってきて言った
 …
 「なぁ、そろそろ結婚しないか?」
 圭介さんはさらっと言った。
 「いいわよぉ」
 と、円さんもさらっと返事をした。
 「ちょっ…」
 飛び出そうとした加奈子を押さえつけて聞いた。
 「? 加奈子の声が…まぁいいや。アイツはイギリスだし。で、式はいつにする?」
 どうやら、気がつかなかったようだ。
 「そうねぇ、休講中の夏なんていいわね。」
 と、円さんはしゃくしゃくとサラダを食べながら言った。
 「この二人、ほんとに結婚するつもりなのか?」
 と、言ってみたが加奈子は聞いちゃいなかった。
 二人は少し経った後、レストランを出て行った。僕らも追走するために出て行った。食費は四万…大した額ではなかった。
 夜、お台場は汐留の海岸で二人きり…+二人の空間で圭介はポケットから指輪を出した。それをつまみ円の手を握って
 「結婚してくれないか?」
 と、真顔で言った。「さっき言ったじゃない」と加奈子はむくれていた。円さんは心底嬉しそうに頬を紅く染めて
 「うん。」
 と、言って指輪をはめた。そして、二人は抱き合ってキスをしようとした時に俺の隣が寂しくなっていた。
 加奈子を探して海岸をうろついていたら、加奈子は蹲ってぼろぼろと涙を流していた。
 「加奈子…」
 加奈子は辛かっただろうか?泣きたいのは俺とて同じ。でも、泣くわけにはいかなかった。十年も想い続けた相手…それがたとえ義兄でも…加奈子の涙は止まらなかった。
 俺はそんな彼女を抱きしめた。よくわからないけど自らの涙を堪えて抱きしめた。
 「あのさ、あんまり我慢はしないほうがいいよ。あんまり詰めるとこわれちゃうからさ。ほら、今人いないからさ。」
 加奈子は顔を上げた。
 「私に優しくするな…やさしく…」
 加奈子は声を上げて泣いた。そんな加奈子をずっと抱きしめていた。
 今日初めて会った少女。なのに…
 初恋は実らないという鉄則…今夜は誰かのそばにいたかった…
  
 朝、俺はソファーの上で目を覚ました。ロンドン大学で研究していた頃はよくソファーで休んでいた事はあったが今回はそうゆうワケではない。
 「おはよう…ございます…」
 台所から女の声が聞こえた。昨夜、泣きに泣いた加奈子は兄の部屋に押し入るつもりだったらしいが、そんなワケにいかなくなった。十年越しの恋の終焉の直後に会うのは辛いと言うもんだから仕方がなく家に泊める事にした。
 「おはよう。加奈子ちゃん」
 俺は、寝起きの頭を掻きながら言った。十代の若い男女が一晩、同じ屋根の下にいたからと言って特に何も無かった。
 俺は、寝ぼけ眼のままで食卓についたら、そこにはご飯に鮭の塩焼きに卵焼き味噌汁が並んでいた。
 「これ、加奈子ちゃんが作ったの?」
 俺は何故か彼女には優しく当たっていた。
 「は、はい…」
 加奈子は持っていたおぼんで顔を半分隠して言った。
 「でも、加奈子ちゃんって英国出身だよね?どうやって…」
 素朴な疑問だ
 「その、さっきインターネットで調べて材料を買ってきて作ったんです。」
 加奈子は徐々に声の大きさを小さくしながら言った。俺は一度加奈子の顔を見てから、箸を持って、料理に手をつけて一口食べた。
 「うまい!うん、うまいよ」
 加奈子は嬉しそうな顔をして、自分も席について食べ始めた。俺たち二人は何も言わずに黙々と食べていた。正直なところ、話のネタがないのだ。
 食事が終わり、加奈子は食器を洗い始めた。今日は日曜日だ。学校は休み。やることもないので退屈していたら、ある疑問が浮かんだ。
 「なぁ、これからどうするんだ?兄貴の結婚決まってさ。」
 加奈子は驚き、皿を一枚割ってしまった。
 「ご、ごめんなさい。」
 加奈子は手を拭いて破片を拾い始めた。
 「いいって、俺やるから。」
 俺は、食器を拾い始めた。二人で割れた皿の破片を集めていた。
 「いたっ」
 加奈子が指を切った。
 「大丈夫か?」
 俺は加奈子の手を取って、切り口を銜えた。加奈子は顔を真っ赤にして
 「ありがとう…」
 「いいよ」
 妙な沈黙が空間を支配した。この絶対沈黙を破ったのは加奈子だった。
 「私、もうしばらく日本に居ようと思うの。兄さんの結婚式もあるし…」
 「そうか…」
 食器の破片を片付け終えて腰を上げた時…
 ピンポーン…インターホンの音が聞こえた
 俺は玄関まで行って、ドアを開けた。すると、疾風の如く部屋に流れ込んで来たのは楓だった。
 「ちょっと!おねーちゃんが結婚することになったよ!どうすんの!」
 俺は頭を掻きながら
 「おいおい、いきなりそれか?冗談がきついな。」
 と、加奈子とは違う声色で知らないふりをして言った。
 「冗談じゃないって!昨日の夜嬉しそうに帰って来て踊りながら、結婚するんだぁ~って言ってたもの!」
 「だから、どうしたんだ?俺には関係ないだろ?」
 「関係なくないわ。結婚式は夏…八月にするんだって。おねーちゃんの誕生日の八月十七日に!なんか、丈にも来て…」
 勢いよくしゃべっていた、楓の声は急に勢いがなくなった。楓の視線の先には加奈子がいた。そして、楓は刹那の如くビンタを俺に食らわして部屋を出て行った。最後に
 「サイテー」
 と言い残した。
 加奈子はパタパタと俺の側に寄ってきて
 「大丈夫ですか?」
 と、言った
 「あぁ、平気だ。」
 俺は頬をさすりながら答えた
 「私のせいですか?」
 「俺に聞くな。」
 俺は少し冷たく言ってしまった
 「さっきのは?」
 「あぁ、となりの南楓…圭介さんの恋人の円さんの妹。似ても似つかない女だ」
 俺は、ゆっくりと立ち上がった。
 「ほんとに大丈夫ですか?」
 「あぁ、大丈夫だよ。どうせ、世界が必要なのは俺の右目と脳だけだからね」
 俺は、そう言いながらリビングに戻った。
 
 「ちょっと、ブランクメディア買いに行ってくるから、部屋から出るなよ。」
 昼飯(加奈子の手作り)を食べてから出かける事にした。
 俺が居なくった部屋で一人思いつめた顔で「よし、行くぞ!」と、一人呟いた加奈子は部屋を出て、楓の家に向かった。加奈子はインターホンをならして、楓が出るのを待った。すぐに楓が顔を出した。加奈子はすかさず部屋に入り込み話を始めた。
 俺が部屋に戻ると、加奈子と楓が仲良く話をしていた。
 「なにやってるんだ?」
 加奈子と楓は振り向いて同時に
 「お帰り(なさい)」
 と言った。
 「事情は大体聞いたわ。ゴメンね。朝は…」
 楓はあやまってきた。特に怒っているワケではないので許した。
 … 
 「そうそう、おねーちゃんが結婚式に来て欲しいだってさ」 
 楓は何かの序でのように言った。
 「…行かせてもらうか。」
 俺の心、僕の心には大きな穴に開けていた
2010-06-11

Q.E.D. 第11話

 翌日
 ロビーで南と会った。当然って言ったら当然だ。同じ学校に通っているのだから。
 「お、おはよう…」
 「おはよう…南…」
 朝からぎこちない挨拶を交わした。
 「急がないと、遅刻しちゃうよ。」
 南は視線をそらして言った。
 「俺、バイクだから…南こそ遅刻するぞ。」
 俺は、今日からバイクで通学することになっている。バイクは無論、親父のチェイサー…を改造たチェイサーだ。南は未だに視線を合わさず
 「私は、おねーちゃん、待ってるから…」
 おねーちゃん…おねーさん!
 「おねーさん来るのか!」
 俺は思わず大声を上げてしまった。
 「言っておくけどね、昨日のは事故よ。事故。何を期待してるのよ。ばっかみたい。」
 南はそう言うと駅に向かって歩き出した。
 「お、おい!おねーさんはいいのかよ!」
 「おねーちゃん、先に行ったもの。」
 南は振り返らずに冷たくそう言い放った。
《じゃあ、なんでアイツはココで何を待っていたのだろう?わかるか相棒…》
 《おおかた、僕らを待っていたのだろうな。》
 《なんでさ?》
 《恐らく、昨日の事は事故だと伝えたかったのだろう。おっと、「何で学校で言わないんだよ」なんて言うなよ。我ながら器が知れるからね。学校で言えば…》
 《話がややこくなるんだろ?》
 《こんなトコで無駄話をしてると遅刻するぞ。》
 《そうだな…行くか…》
 俺らは駐車場に向かって歩き始めようとした…その時後ろから、ぐーたらランドののほほん姫と言わんばかりののんびりした声が聞こえた。
 「あらまぁ、昨日の男の子…そう、丈君じゃない?」
 振り向いたら、おねーさんが立っていた。俺は、緊張してしまった。
 「お、ひゃようごさます。」
 原因不明の心拍数の上昇、連鎖的に体温上昇…
 「学校は?遅刻しますよ」
 おねーさんが心配してくれている…頭が真っ白な俺は昨日読んだ、三文小説の台詞を咄嗟に言ってしまった。
 「実は、美しき姫君をお送りしようと思いまして、お待ちしておりました。」
 どんなキザな奴でも今日日こんな台詞は吐かないだろう。完全に変な奴だと思われた…
 《なにやってるんだ!阿呆か!君は!》
 「まぁまぁ、じゃあ送ってくださいな。白馬の王子さま」
 俺らは頭の中でこけた。
 《なんなんだ、この人は!》
 《なんだかわからんが嫌われなかったようだぜ、相棒…》
 《そのようだな。助かったよ。この人が阿呆で…》
 《俺は、阿呆じゃなくてノリのいい人だと、思う》
 《そんな事はどうでもいい。さっさと出発する!》
 「それじゃあ、行きましょうか。おねーさん」
 俺らは駐車場に歩き始めた。その時、嬉しい事におねーさんが腕を組んでくれた。
 「丈君!」
 いきなり名前を呼ばれて吃驚した。
 「な、何ですか?」
 「いつまでも、おねーさんじゃ駄目ね。これからは、円って呼んで!」
 いきなりの提案に流石の僕も吃驚した。
 「へ…あっはい。わかりました。おねー…」
 言いかけた僕の俺の唇に、おねーさんが人差し指を当てて
 「ま・ど・か」
 と言われて、顔を真っ赤にして
 「わかりました…円さん。」
 「よろしい。それじゃあ、デートしましょう。」
 円さんはわからない。いきなりデートって…世の中の事象のほとんどを計算で弾き出す事が趣味の僕。円さんはまったくもって計算出来ない。
 「いきなり、なんですか!しかも、デートって!」
 と、俺が言うと…
 「そうよね、こんな年増とデートなんていやよね」
 と、悲しそうな顔で言ったもんだから、
 「そ、そんな事ないですよ。いきなり、デートって言われても困りまして…」
 あたふたと俺は言った。
 「あらあら、丈君はロンドンに居た頃は、ガールフレンドは居なかったの?(←昨日の事は忘れてる…天然故に)」
 「いや、その、ロンドンに居た頃は研究しかしてなくて…すみません」
 俺は、名誉教授にも下げたことのない頭を円さんに下げた。
 「そういえば…楓ちゃんもそんな事言ってたわねぇ…」
 《余計な事を…》
 「とにかく、今日は私とデートしましょう。それにさっき、送ってくれるっていったしね。」
 と、言うわけで円さんのペースに完全に飲まれてデートすることになった。
 
 俺は円さんをチェイサーに乗せて
 「何処、行きましょうか?」
 「そうねぇ、まずは、遊園地!」
 《まずはって?》
 俺は、中央線沿いにバイクを走らせて読売ランドに行った。
 どうやら、開園と同時に到着したらしい。平日の遊園地は人も少なくて快適だった。円さんは俺と腕を組んで嬉しそうに走り出した。
 昼時に
 「そろそろ、お腹がすいたわねぇ」
 と、円さんが言い出した。
 「そうですね。どこかに食べに行きましょうか?」
 「この近くにおいしいフランス料理屋さんがあるんだって!行ってみましょう!」
 「わ、わかりました…」
 円さんの提案で行くことになった、仏料理店…高級そうだ…
 「さぁ、入りましょう!」
 と言って円さんは俺の腕を引っ張って行った。
 中に入って、席に案内された。俺は不意に
 「高そうですね。」
 と、言った。
 「あらあら、お金の事は気にしなくていいのよ。ここはおねーさんがご馳走してあげるから!」
 なんて言っていたが、本当に大丈夫だろうか?
 …
 会計時
 「五千円になります。」
 と、おじさんが言った
 「五千円ですね」
 円さんは自分のカバンの中をあさり始めた。
 ………百人中百人が予想できるオチが待っていた。
 「あらあら、財布忘れちゃった。」
 そんな事だろうと思った。
 「こまりますねぇ、お客様…」
 「どうしましょう。身体で払わなくちゃだめですかねぇ?」
 「物騒な事をいわんで下さい。ここは、俺がご馳走しますよ。」
 ここの料金を支払って店を後にした。
 …
 「あとで、返すわねぇ」
 円さんはへらへらしながら言った。
 「いいっすよ。あれは俺のおごり。」
 「それじゃあ、悪いわ。ここはおねーさ…」
 俺は円さんみたいに人差し指を円さんの唇に指を当てて言った。
 「いいですって。昨日、事故とはいえ、こんな美人とキスできたんですから、これは御礼ですよ。」
 なんて言ってみた。
 《僕のキャラじゃない》
 《えっ?俺でもないぞ今のは…》
 《はっ?どうゆうことだ?》
 《もしかしたら、第三の人格か…》
 《もしくは、僕らの本質かもしれないな。》
 「まぁまぁ、おねーさん、丈君に惚れちゃうかもよ?」
 《惚れる…》
 《まさか、この胸の高鳴りは恋って言うものか?》
 《かも、しれないな》
 「丈君?」
 自問自答をしていたので、円さんの提案を聞いていなかった。
 「な、なんですか?」
 「もぉ、やっぱり聞いてなかった!あのね、これから丈君の行きたいところに行きましょう!」
 《俺の行きたい所…》
 《僕の行きたい所…》
 「神保町!」
 大声で言ってしまった。
 「あらあら、神保町なんて…」
 《しまった!嫌われたか?》
 「初めてだわ!楽しみ!」
 初音さんは手の平を合わせて言った。
 嫌われなかったようだ。神保町は歩いてすぐだった。神保町は、世界で最も本が集まる場所だ。本の虫としては一度は行きたかった。特にこんな時代だから、生の本が打ってる場所は少ないのだ。
 神保町…ある店舗の前で
 「まぁ、神宝直樹先生の本だわ!」
 円さんは親父の本を取り上げて言った。
 「その本って、たしかデビュー作だったなぁ」
 「あら、丈君も知ってるの?神宝先生の本」
 知ってるも何も、親父だよ。と言ってやりたかった
 「あら?丈君の苗字って…たしか…」
 「神宝ですけど…?」
 円さんが僕が直樹の息子だと知ったらどんな顔をするだろう?
 「もしかして…おんなじ苗字?きゃあ!すごいすごい!珍しい苗字なのに一緒なんて!すごいわ!丈君!サインして!」
 忘れていた、円さんは天然だった。
 俺は、親父のデビュー作を購入して、なぜかサインをした。
 時刻は二時前後。円さんが行き先を告げずに、行き方だけを指定した。
 着いた先は東京大学だった。
 「ここは?」
 俺は唖然としながら聞いた
 「東京大学よ。私、ここの学生なの」
 円さんはどうも東京大学薬学部らしく、これから授業だそうだ。このままだったら、性悪女になるだろう。しかし、円さんは一切悪気はないのだろう。
 「小一時間で帰ってくるから待ってて!」
 と、言い残して円さんが校舎に向かって歩き出した。俺は、咄嗟に円さんの腕を掴んでしまった。
 「待ってください!」
 「えっ?」
 こうなったら、引っ込みが付かなくなる
 「俺も一緒に授業受けてもいいですか?」
 無茶な言い訳をしたが、
 「いいわよ!行きましょ!」
 天然が幸いして、薬学の授業を受けることになった。
 意外にセキュリティが甘く、簡単に受講できた。俺は円さんの隣で受講していたが、簡単すぎて涙が出てくるほど簡単だった。真剣に受講してる円さんの隣で大あくびを我慢していたら、教授に目を付けられて
 「君、この副作用を消すにはどうしたらいい?」
 なんて言う事を聞かれた。
 「えっと、副作用効果のある物質を破棄して…」
 教室中は笑いに包まれた。
 「君は本当に受かったのかね?」
 と、禿げた禿げ丸に言われて怒ったのは僕だった。僕は立ち上がり、電子板の前に行ってペンを取って、ロンドンであまりしたことのない講義を勝手に始めた。
 四十分後…僕の講義は終了した。その間にはげ丸の妨害があったのだが、親父譲りのケリで黙らせた。講義終了後に、学生が群がり始めた。しかし、人ごみが嫌いな僕は円さんの手を取って、校舎を後にした。

 「丈君の講義、すごくわかりやすかったわ。」
 円さんがニコニコと手のひらを合わせながら言った。
 「そんな事ないですよ。」
 「そんな事ないわ。だって、普通なら副作用を消す物質を混ぜるのに…ねぇ」
 「そんな、関心しないでください。偶然です。偶然」
 そんな他愛のない時間がとても楽しかった。こんなに楽しいのは初めてだった。
 その後、十時までデートは続き、家に帰った。
 「今日は楽しかったわ。ありがとうね」
 「いや、いいっすよ。こっちも楽しかったですから」
 その後、一瞬間が空いた。その時、
 「今日、学校はどうしたの?お休み?」
 この人は…
 「さぼっちゃいました。」
 なんてへらへら言った。今日一日詰襟で過ごしていたわけじゃない。バイクに入れていた服に着替えていたので、今の今まで気が付かなかったのだろう。
 「まぁまぁ、大変ねぇ。一日遅れたら、取り返すのは大変よ」
 「いや、平気です。じゃあ、俺、戻ります。」
 そう言って、部屋に入ろうとしたら、
 「丈君!」
 と、呼び止められて、振り向いたら、円さんがキスをしていた。円さんは頬を赤らめて
 「じゃあ、また明日」
 と言って部屋に帰った。
 
 翌日、学校に着いたら教室はピリピリムード一色だった。
 「おはよう。丈君」
 杏奈が声をかけてきた。
 「おはよう」
 俺は、通常の声でクールに言った
 「昨日はなんで休んだの?一昨日、都内引っ張りまわしたから?」
 心配そうに言った秋山に
 「そんな事じゃない。」
 「おねーちゃんと一日デートしてたものね」
 後ろには南が立っていた。
 「俺が一日何しようが、関係ないだろ?」
 俺は不機嫌に聞こえるような言い方だったが普段これが普通なのだ。
 「デート…」
 杏奈がなぜか悲しそうな顔をしていた。
 「さ、こんな奴ほっておいて、テスト勉強しよ、杏奈!」
 南は少し軽蔑しているような目で言った
 …
 テスト一日目が終了した。こんな問題は寝ててもわかるな。くだらない。
 「どうだった?テスト?」
 杏奈が声をかけてきた。
 「んあ?くだらん問題ばっかりだな。寝ててもわかる。」
 「え~難しかったって!特に最後の問題!」
 「こんな問題、三秒もあれば解ける。あほらし、帰る。」
 俺はカバンを持って教室を出ようとした…が、杏奈が俺の服のすそをまたも掴んでいた。
 「なんだよ?」
 杏奈はぼそぼそと何か言っていたが何も聞こえなかった。
 「はっきりしゃべってくれ!」
 すこし、きつかったか?杏奈は顔を真っ赤にして
 「一緒に勉強しよ。これから…」 
 たったこれだけを言うのにこんなに顔を真っ赤にする必要はあるのだろうか?俺は顔を人差し指で掻きながら…
 「なんだよ、急に…」
 杏奈は少し涙目になって
 「わ、私ね、楓や丈君みたいに頭良くないから…その…」
 こんな雰囲気は苦手だ。
 で、
 杏奈宅にて、
 「ゴメンね。無理にお願いして。」
 雰囲気に流されて杏奈宅に来てしまった。
 「来てしまったからには仕方がない。しかし…なぜ、南…君がココにいる?」
 「なんでって、それはアンタが杏奈に変な事するのを阻止するためよ。」
 「おいおい、この僕がそんな事すると思ってるのか?」
 「だって、現に昨日おねーちゃんとデートしたんでしょ?」
 痛い所を突かれた。
 「そ、それは…」
 「まぁまぁ、楓もそんなにカッカしないで!さぁ勉強をはじめましょ!」
 杏奈の助け舟にまんまと乗ってしまって自分のペースを乱してしまった。
 《くそう、あの女…円さんに似ているから、下手に強く言えない》
 《珍しいな…お前の趣味は口で相手を潰す事だろ?》
 《人聞きの悪いことを言うな。》
 《すまん。さぁ、杏奈にしっかり教えてやれよ。講義は苦手だ。》
 僕は、気を取り直して杏奈に講義を始めた…
 数時間後…日は徐々に沈み夕陽が空を紅く染めている頃…杏奈は買い物に走っていて南と二人きりの時
 「ねぇ、なんでおねーちゃんなの?」
 南が不意に聞いてきた
 「なんだ?急に」
 「なんでおねーちゃんの事、好きになったの?」
 「僕は、この手の質問は苦手だな…」
 僕は深く瞳を閉じた。
 「ねぇ?」
 「そんな事、急に聞くな。俺だって困る。…とは、言ってもね、やっぱり…」
 「キレーだから?」
 「一概に違うとは言えないなぁ。なんて言うか…そうだなぁ、事故の時に円さんの瞳を見ていたら、深い深い海の底を見ているようで悲しくなってね。なんか、初めて人を守ってあげなくちゃと思ったんだ。」
 俺でもない、ましてや僕でもない誰かがこの身体を使って紅い紅い夕陽を背中に一度もしたことのない優しい笑顔で答えた。
 「!(なによ、ちょっとカッコいいじゃない)よかった。容姿だけを見てたんじゃないんだね?うんうん」
 南は腕を組んで頷きながら言った
 「なんだよ。容姿だけで人を好きになると思うか?この俺が?笑い話だなそりゃ!」
 俺は、クククと笑いをこらえて言った
 「ねぇ、丈。これからは、南じゃなくてさ、楓ってよんで!」
 ミナ…楓はニッコリと言った。
 「どうゆう風の吹き回しだ?まぁ、いいや。よろしくな、楓。」
 
 答案返しの日…英語以外は百点だった。苦しかった国語もなんとか満点だった。しかし、納得いかないのは英語の九十ぴったり…
 「なんで、ココとココとココが間違いで、しかも配点が高いんだ!」
 俺は英語の担当に抗議した
 「ははは、君はイギリスに住んでいたそうだが、ここで教えてるのはアメリカの英語だ!よって、イギリス英語は間違いだ!」
 「なんだそれは!だいたい、米国は英国を母体としたんだ!即ち、本当の英語は英国にあり!アメリカ英語なんて邪道だ!」
 「いまさら抗議しても無駄だ!これは決定事項だ!ははは、あきらめたまえ。」
 担当の教師はにやりと言った。
 「ちっ」
 俺は舌打ちして席に帰った。すると杏奈は
 「そんなに怒んないで!ほら、ほかは全部満点じゃない!ね?」
 「納得できねぇ…」
 「まぁまぁ、私に免じて怒らないで」
 なにに免じろと?
 「ふんっまぁいいだろう。で、杏奈はどうだった?」
 杏奈は嬉しそうな顔をして
 「それがね、アベレージ八十なの!」
 「まぁまぁだな。で、楓は?」
 「えっ!」
 楓はボーっとしていたのか吃驚していた
 「まさか、楓が赤点なわけないわよね?」
 「まさかぁ!ほら、アベレージ九十台だし」
 得点は九十台というよりきっちり九十だった。全教科。ある種の奇跡体験だ。今度、この奇跡体験に遭遇する確率を求めてみるのも面白そうだ。
 「ねぇ、これからケーキを食べに行かない?」
 彼女に非常に似合う提案だった。
 「俺は忙しいからなぁ」
 俺は人とじゃれるのは嫌いだ。無論、僕も。
 「丈の何処がいそがしいの?昨日の夜、「退屈だぁ!」なんて言ってたのは誰?」
 「楓、お前…聞いてたのか?」
 「ねぇ、話が見えないけど、丈君は来れないの?」
 杏奈の淋しそうな瞳を見るとどうしても…

 「行く。」
 と、答えてしまった。
 
 俺は、歩いていた。校舎側に楓と杏奈が並歩している。その時、カッキーンといういかにもバットがボールを引っ叩いた音がした。
 「ライトにきれる!…危ない!」 
 案の定、弾丸ライナーのボールは俺をめがけて飛んで来た。避ければ済むのだが、そんなわけにもいかない理由は少し前に説明してある。
 久々に絶対数感の目を使うとするか…基本的に片目だけでは距離感はつかめないのだが、絶対数感のおかげでカバーができている。
 《まず、速度はこうだから…次に地面をゼロとした場合…空間ベクトルで…激突時は…つまり、この親父の日記を地面を基準として…真上に上がる。ここまで0.59sec》
 計算ではじき出した、場所に持っていた日記を真上に上がる角度の設定してボールを待った。全て計算どうりにボールは真上に上がった。そして、墜ちてきたボールを受け止めて、再び計算してはじきだした答え通りに投げたボールはど真ん中のストライクを取った。
 
 翌日、俺はため息混じりに登校してきた。
 「なに、ため息ついてるのよっ!」
 楓は元気よく俺の背中を叩いた。
 「お前…楓がいきなり遅刻するから乗せてって言うから、円さんに勘違いされたかもしれないんぞ!」
 「あはは、ごめんごめん」
 「笑い事じゃねぇ…はぁ」
 なんて、ため息つきながら、自分の席に着いた。
 「よう…昨日は凄いストライクだったな。」
 俺に話しかけてきたのは眼鏡をかけた生真面目ですと言わんばかりの男だった。
 屋上に連れ出された僕は不機嫌に
 「なにか、用事があるのか?俺は然程暇じゃねぇ」
 「そう、カッカするなよ。単刀直入に言おう。野球部に入らないか?」
 男は表情一つ変えずに言った。
 「いきなりすぎねぇか?自己紹介ぐらいしたらどうだ?」
 「すまないな。俺はD組の中山武。武と呼んでくれ。よろしく。」
 やはり表情は変わらず手を差し伸べてきたが、俺は無視をして
 「断る。俺はデスクワークが向いてるんだ。じゃあな」
 俺はそう言い残して教室に帰った。
 放課後…帰ろうとしている俺に武が声をかけてきた。
 「なんだよ?野球の件は断ったハズだ。」
 と、言ってみたものの、武は
 「俺と一打席勝負しないか?…いや、無論負けたら入れなんて言わない。神に誓おう」
 どうあっても表情は変わらない。
 「一打席勝負?そうだなぁ、俺が勝ったら二度と勧誘はしないと約束すればいいだろう。」
 他の部員は「不公平だ」とかいろんな野次を飛ばしていたが
 「いいよ。俺は君と勝負したいだけだからね。普通なら俺が勝って当たり前だからな。」
 てなわけで、武と一打席勝負することになった。
 ルールは、互いに一打席ずつ打ち投げる。引き分けなら、サドンデスになる。
 勝負の前に俺は野球部のマネージャーにスコアを見せてもらった。スコアを見れば大体であるが、選手のクセから攻略、強化練習のメニューまで組める。
 まずは、俺が投げるらしい。着ていた詰襟を脱いだ。
 《ここは、全てストライクを取るべきだな》
 俺は下目の内角に投げてみた…見送ってストライク
 変化球が投げれるハズもない。次の球は、外角に投げて、空振り
 最後は、寸分の狂いもなくど真ん中…武は大きく振った…が、引っ叩く直前に突風が吹き、ボールは大きく曲がって空振り。
 野球部はざわめいた。
 次に、俺が振る番だが
 「わかった。俺の負けだ。すまなかったね」
 そう言って武は消えていった。一体なんなんだアイツは?
2010-06-10

Q.E.D. 第10話

 放課後。親父が死んでから科学技術は進歩をせず、完全に紙幣が電子化してパソコンの容量が5Tになった…いや、僕が新物質の合成に成功したから、300Tぐらいになったのか。リニアは世界中で開通し、飛行機は十時間以上乗ることは無くなった。たいして、進歩していない。
 図書館と言ってもほとんどが本を読まず、ケータイに一時的にダウンロード…いや、巨大なコンピューターに自分のケータイを接続して、各々自分のケータイの画面を読んでいる。僕も俺もケータイの画面を覗くより紙を見ている方が好きなので部屋の奥にある本当の図書室に入って本を読んでいた。
 「あのー」
 「わっ」
 本に没頭していて背後の気配に気付かず、かなりびっくりした。振り向いたら秋山と楓が立っていた。
 「なんだよ。お前らか。文句でも言いに来たか?」
 俺はやや不機嫌そうに言った。
 「いや、今から帰るんですけど、よかったら都内を案内します…」
 以外だった。経験上、文句かお小言を言われるのが普通だった。故に吃驚してつい
 「えっと、おねがいする。」
 なんて、言ってしまった。
 …
 成り行きとはいえ、いきなりデートをする琴になった。しかも、ただのデートではない。右に秋山。左に楓。結構、すごいことになっている。…なんてこの時は気付かなかった。
 電車の中…
 「あっそうだ。」
 唐突に秋山が手を叩いた。
 「なんだ、急に。」
 「自己紹介がまだでしたね。私は、秋山杏奈。趣味は読書です。できたら、杏奈と呼んで欲しいです。次、楓!」
 「…南楓。」
 南は照れているのか怒っているのか名前だけを言った。で、俺も僕も柄にもなく
 「どっちが苗字で名前かわからんな。」
 なんて、言ってみたりした。
 「五月蝿いわね。次、あんたの番でしょ。」
 南は少し怒っていた。
 「俺は、神宝丈。呼び名は…任せるよ。とりあえず、ロンドン大学の教授をしてた。この事は黙っておいてくれ。知れると話がややこしくなる。」
 俺は、簡潔に自分の事を紹介したつもりだ。が、あまり人と話す事が無かったので無愛想になってしまった。なんて事を柄にも無く考えていた。
 「ねぇ、丈君はなんでそんなに日本語が上手なの?」
 杏奈がくだらない質問をしてきた。
 「とりあえず、生まれは日本なんだが物心着く前に両親が死んでて、英国の知り合いに引き取られた。で、家の中は完璧に日本語が飛び交っていたけど、流石にメイドと話すのは英語だったなぁ…」
 「ちょっと待った!」
 南が俺の生い立ちの説明に割って入って来た。
 「今の話の中におかしな部分があったわね。」
 南は顎に手を当てて言った。
 「なんだよ。おかしな日本語を使った覚えはねぇぞ。」
 「そうゆう事じゃないわよ。メイドって何?メイドって。」
 「くだらん事を聞くな。メイドってお手伝いさんのこ…」
 ゴンっ
 南はいきなりチョップを食らわせてきた。
 「なにすんだ!」
 「聞きたいのはそこじゃなくて、なぜメイドがいるのよ。」
 俺は頭をさすりながら
 「父さんと母さんの親が共に出版社の社長だったわけ。二人が結婚して会社も結婚…合併したわけ。で、アホの父さんが馬鹿でかい家を購入して、メイドを雇わざるを得なくなたわけ。」
 「…」
 「で、なんの話だっけ?…そうそう、日本語の話だな。会話はもっぱら日本語。大学では英語。論文とか読むためにフランス・スペイン・ロシア・ドイツ・中国語を習得したなぁ。」
 俺は淡々と語った。
 「まぁ、勉強家なんだね。将来は博士になれるわねぇ。」
 杏奈は天然か?と思わせる発言だった。
 「たまに、おおぼけをかますのよ、あの娘。」
 南が耳打ちしてきた。
 
 九時、ようやく杏奈から開放された。
 下車駅が偶然、南と一緒だった。
 「やぁ、偶然だね。」
 俺はそう言って自宅に向かって歩き始めた。
 …
 なかなかのマンションに住んでいる。ロビーで指紋を照合して鍵を開けてエレベーターに乗った。その時、駆け込んできたのが…何の因果か南だった。
 「なんで?」
 南は息を切らせながら言った。
 そして流石に誰かの陰謀を感じる…あろうことか、南の部屋の隣が俺の部屋だった。
 「よ、よろしく。」
 「よろしく…」
 近所への挨拶が終わった。その後で運命の出会いがある事もしらず…
 俺の部屋の手前の部屋…つまり、南の部屋のドアが開いた。そこに現れたのは、人間に興味が無かった俺が僕が見とれる美人だった。
 「あら、楓ちゃん。おかえり。」
 「ただいま~おねーちゃん。」
 …姉妹か…冷静になれば、南も杏奈のなかなかの美人だったような…
 「あら、そっちの男の子は?」
 おねーさんは僕に興味を持った。
《いや、俺だ。》
どっちでもいいか。
 「こいつ、英国からの転校生。となりに引っ越してきた。神宝丈。」
 南が簡潔に紹介してくれた。
 「神宝です…」
 また、柄にもなく照れながら言った。
 「まぁまぁ。こちらこそよろしくおねがいしま…」
 おねーさんは握手をしようとして近づいて来たのだろうが、目の前でこけた。俺を巻き込んでこけた。そして、勢いでキスを…キスをしてしまった。
 「おねーちゃん!丈!」
 おねーさんは、ゆっくりと立ち上がって僕を引き上げてくれた。そして
 「まぁまぁ。刺激的な挨拶になっちゃたわねぇ。ごめんね、丈君。大切なファーストキスを私が奪っちゃって。」
 なんて、呑気な人だ。
 「い、いえ。だいじょうびゅれしゅ。失礼すめす。」
 俺は、右手と右足が一緒に出しながら自分の部屋に帰って行った。
 「動揺しすぎ…」
 南のつぶやきに気付かなかった。
 …
 なんだ、この胸の高鳴りは。辞書にも載ってない。こんなときは…
 「なんじゃこりゃぁー」
 と、叫ぶと言うことをルイ…父さんから聞いたが、特に変化は無かった。
 …
 「ったく…おねーちゃん!あれは刺激的すぎよ!」
 南はおねーさんの前に立ち腰に手を当てて言った。
 「さっきのは事故だわ。じ・こ(ハート)」
 おねーさんはウインクを混ぜて言った。
 「おねーちゃん!事故だろうがなんだろうが、アイツは勉強しかやった事が無いの!女の子と話した事すらない奴が、いきなりキスはまずいでしょ!」
 そう、実は友達がいなかった為に少し浮かれて余計な事を口走ってしまった。
 「楓ちゃん。そんなに怒んないで!ね(ハート)」
 「もぉ、おねーちゃんの天然は神がかり的ね。」
2010-06-09

Q.E.D. 第09話


十三年前、作家の神宝直樹、妻・美琴、息子・丈、両家の両親を乗せた英国行きに飛行機が墜ちた。
 原因は航空会社の経費削減の為のいい加減な整備によるものだと警察が言っていた。
 俺は、この事故の唯一の生き残りで、名前は神宝丈。
 この事故で俺は一瞬にして身内をなくした。
 そんな俺を引き取ってくれたのが、親父達の親友の英国在住のルイス・マリア夫妻だった。
 以来、俺は英国で暮らしている。
 
 俺は、事故の衝撃で頭を強打、左目を失明した。親父も失明し、幸い右目は平気だったらしい。俺も右目は平気だった。マリアさんは、「さすが、親子」なんて言っていた。
 失明と同時に変な能力がついてしまった。絶対数感…… 見るもの全てを数値化できる迷惑な能力だ。
 頭を強打した場合、障害が発生するのが一般的だが、俺の場合、脳内の回線が全開になって、見るもの全て記憶できるようになった。たちが悪いのは、それが全て数値化されているので、余計に記憶力が上昇した。
 おかげで十二才でロンドン大学の数学教授と言う、ありえない地位に着いた。
 モリマーの最終定理…… ニュートンもアインシュタインも証明できなかった問題を解いて見せたのが原因だろうか? 子供だから、柔軟な思考があったからこそ解けたのだろう。
 モリマーの最終定理を解いて五ヵ月後、人工知能プログラム及び人格プログラムの完成。
 一躍、学会で注目の的となった。
 このままいけば、必ず世界中の教科書に名前が永遠に載るだろう。でも、これは、俺が生きた証にならない気がする。
 俺がどんな人物かこの文だけでもわかるだろう。
 しかし、もっとたちが悪い。
 例えば……
 
 ロンドン大学、教授室。
 「教授! 神宝教授!」
 助教授のブラウンが息を切らせながら走って室内に飛び込んできた。
 五十七歳で教授の席に着いた途端に俺がその席をさらっていったので、俺に多大なる恨みを持っている人の一人。
 「なんだよ。うるさいな。グーテンベルク聖書読んでるんだ。静かにしてくれ」
 僕は、冷たく言い放つ。僕は、読書の邪魔をされるのがとてつもなく嫌がる人間だ。
 「教授…… 今年もノーベル賞…… はぁはぁ…」
 ブラウンは息が途切れ途切れで何を言ってるかわからない。
 僕は、聖書を閉じ席から立ち上がってお茶をブラウンに渡した。
 「す、すみません」
 ブラウンはお茶を一気に飲み干すと
 「今年もノーベル賞受賞です」
 一昨年から三年連続は異例だ。二流学者のブラウンが興奮するもの無理はない。
 「めんどくせぇ。ブラウン、行ってきて。賞金も名誉もくれてやる」
 「えっ?」
 ブラウンは唖然としていた。
 「何度も言わせるな。手柄は全部やる。僕は今、四十二行聖書を読んでるんだ。」
 「はっ、はぁ。わかりました」
 ブラウンは何が起きてるのかが理解できないまま部屋を出ようとした。
 「ブラウン助教授!」
 ブラウンはすくみ上がった。
 「なんですか? 教授……」
 「一昨日、僕の机から盗んだ資料を返してください」
 「そんなの私は知りません。ご自分が無くしたんじゃないんですか?」
 僕は机に肘をついて手を組んで少し前かがみになりながら、
 「昨日、女子高生らしき女性と仲よさそうにしていましたね?た しかし…… ブラウンさんには娘さんはいませんでしたね。」
 ブラウンは半泣きで
 「すぐに返します」
 その反応を見ていて実に愉快だった。
 僕は、一度深く目を閉じて、ブラウンが部屋から出ようとしてるところに
 「ブラウン助教授」
 「まだ、何か?」
 「俺に紅茶を」
 少し、ムッとしたブラウンは
 「自分でやってください」
 と、珍しく抗議してきた。
 俺は、踏ん反り返って、
 「いっいのっかなぁ~ 今度、インターネットを越える通信システムが開通するんだけど、試験データに助教授の不倫現場の写真を採用しちゃおうかなぁ~ 開発者、俺だし~」
 ブラウンは泣きながら
 「すぐに用意します」
 そう言って走って出て行った。
 「ベーグルもね~」
 俺は、ブラウンに手を振って言ってやった。
 
 俺の趣味は、口だけで大人をねじ伏せる事と、本を読むことだ。
 さて、気がついただろうか?
 会話の中に自称が『俺』と『僕』のふたつあったことを。
 事故の記憶を思い出さないために二重人格になってしまった。俺と僕のどっちが本当の自分かよくわかっていないので、始末が悪い。
 
 神宝直樹の一子、神宝丈はかなり性格の歪みがあるものの、今は元気な十五歳だ。
 ある日、ルイスさんから親父の日記を渡された。
 「ジョーにそろそろ渡してもいいと思ってな」 
 「ルイスさん。これをどうしろと?」
 「それはお前次第だ」 
 ルイスさんの意図が見えなかった。
 俺は、僕と一緒に親父の日記を読んだ。
 ……
 《どうした?》
 《親父は生きた証を残したような気がする》
 《僕らは教科書に載る》
 《でも、それが生きた証になる? 少なくとも親父達は、ルイスさん、マリアさん、桜さん、南さん、その他の心の中に生きていた。》
 《……》
 《俺たちは?》
 《本当の証を見つけるには今の状態を続けてたら駄目だな》
 《だったら、どうすればいい?》
 《日本に行こう。父、母の故郷に》
 《あぁ…… 行こう。親父たちの国に。高校に》
 
 そうと決まれば行動は早かった。ルイスさんマリアさんは快く承諾してくれた。住まいはマンションの一室を買ってくれた。
 決めてから三日後、出発の朝。
 「それじゃあ、行ってくるよ」
 「必ず、帰ってきなさいよ!」
 マリアさんが手を振っている。
 「あぁ、必ず帰って来るよ。父さん、母さん」
 十三年間決して呼ぶことの無かった呼び名で呼んだ。
 
 未だに車は空を飛んでいない時代。でも、ケータイの普及率はほぼ百パーセントで、AIをつんでたりしたり、癌になれば薬局に行けば治る時代。
 俺は親父達が青春を過ごした学校に来た。学問が目的ではない。生きた証を探す為に来た。
 五月
 さっそく、事務室に行き編入テストを受けることになった。
 試験時間は一教科五十分だったが、五科目で三十分もかからなかった。
 俺が教授だという事実を知っているのは校長と教頭だけだった。そんな、校長は俺を五十分で解放してくれた。感謝すべきだろう。
 時間ができたので、校内をぶらつくことにした。この日は平日でみんな授業を受けていた。俺は授業風景をずっと眺めていた。あまり、授業を受けた記憶がない。
 脳が天才の片鱗を見せたのは小一の頃からだった。ある日、教科書の問題が全て解けてしまって退屈していたら、先生が小二の教科書をくれた。しかし、翌日には全て解いてしまった。気付けば、小二にして高校の範囲に達してしまっていた。担任や周りの連中、その親が僕を気味悪がり始めて、まもなく登校拒否になった。僕は、引きこもって勉強を続けて教授になった。
 だから、まともな授業を受けた覚えがない。なんて考えている間に授業が終わった。俺は、その場をすぐに去った。
 
 後日、試験に合格した。当然だ。世界一の天才が高校ごときの問題を解けないハズがない。すぐに、学校に行き手続きを取り、制服を購入した。なぜ、制服を着る必要があるのかわからない。帰りに事務室に寄り、テストの成績を聞いた。無論、満点だった。
 
 翌日、俺は学校に初めて登校した。
 まず、職員室に行き先生に挨拶をして、くじを引かされた。カードにはCと書かれていた。つまり、一年C組に編入されることになったらしい。
 チャイムが鳴り、生徒は自分の席に座り前を向いて静かになった。担任の緑川先生の後ろを付いて歩いていた。不意に緑川先生が
 「君、直樹と美琴の息子だね?」
 「先生、親父とお袋を知ってるんですか?」
 「あぁ、顧問と担任をしていたよ。何かの縁だ仲良くしよう」
 緑川先生はへらへらと手を差し伸べた。
 俺は、雰囲気に飲まれつい握手をしてしまった。
 緑川先生はガラガラと扉を開けた。そして、教壇の前に立った。
 俺も後を付いて教室に入った。とたんに教室の温度が上がった。
 「静かにしろよ~」
 緑川先生はへらへら言った。
 「おはようさん。さて、今日は転校生を紹介するぞ~」
 緑川先生は黒板に俺の名前を書いた。
 「神宝丈だ。彼は英国からの留学生だ! 適当に仲良くしてやってくれ。丈、自己紹介は?」
 俺は、首を横に振った。
 「はは。親父さんそっくりだ。よし、秋山の後ろに座れ。」
 俺は、秋山と呼ばれる女の子の後ろに座った。
 …ホームルーム終了後、クラスメイトが集まって来た。俺も僕も人ごみが嫌いだし、質問攻めにされるもの嫌いだった。彼らには悪気は無いのだろうが、転校生は珍しいらしく、人ごみで質問攻めにされた。俺はガマンできたが、僕は無理だった。
 冷静沈着な僕は意外に切れるのも早かった。
 「えぇっいっ! 鬱陶しい! 僕に近づくな! 失せろ!」
 僕は切れた。学園生活は最悪の出だしだろうか。人ごみがなくなったが、陰口を叩かれるようになった。僕は影の存在だから、陰口に強かったが、俺はどうもガマンできない。
 「文句があるんなら、直接俺に言いやがれ!」
 教室は静まり返った。人ごみも陰口も無くなり、生まれたのは冷たい視線だけだった。
 俺も僕も冷たい視線には慣れていたのでちょうど良かった。
 一日目にしてとんでもない印象を植え付けたまま、昼休み。職員室から帰って来て席に着こうと思ったら、秋山がAIケータイをいじっていた。
 「楓、どうしよう。ケータイが…AIプログラムが壊れちゃったかもしれない…」
 秋山の隣には楓と呼ばれる女の子が立っていた。
 「修理に出さなくちゃ駄目ね。でも、この子の人格が消えるのは必至ね。」
 可愛い顔をしてかなり酷な言い方をする女だった。
 「…どうしよう…」
 秋山は今にも泣きそうな顔で言った。
 俺はしばらく考えた。
 相棒、この場合助けるべきか?
 僕に聞くな。まぁ、君がAIプログラムの開発者だから、人格を破壊せずに救う事も出来るだろうな。
 …
 「貸してみ。」
 俺は、秋山に向かって手を差し出した。その瞬間、教室が静寂に包まれた。
 「えっ?」
 「いいから、貸してみろ。人格を破壊せず何とか直してみせる。」
 教室は、「はったりよ。壊れたAIを直すなんて不可能」とか、「カッコつけか?」なんて言っていた。
 「外野は黙ってろ!」
 僕が切れた。秋山は一瞬すくみあがったが、僕にケータイを寄越した。
 俺は受け取ると、カバンの中から、ボーリングの玉ぐらいの銀色の球体を取り出した。
 「なんですか?これ?」
 秋山が聞いてきた。
 「これ?これは、ケータイAIを越えるAIをつんだロボットさ。」
 「ロボット?」
 楓と呼ばれる女は首をかしげた。
 「まぁ、見てろって。おい、リオン起きろ。」
 俺は銀の球体をコンコンと叩いた。
 「なんすか?坊ちゃん。いや、声色から兄さんか。」
 銀球はしゃべりだした。
 「きゃっ!しゃべった。」
 秋山は俺に抱きついていた。楓と呼ばれる女はわざとらしく咳払いをした。秋山は顔を赤くして俺から離れた。
 「で、なんすか?」
 俺は秋山の事はひとまず忘れてリオンと話をすることにした。
 「…と、言うワケで人格を破壊せずにウィルスの除去のアシストをして欲しい。」
 「いいでしょう。じゃ、アダプタだすんで接続してください。それと、ワクチンディスクとクロウも接続してください。」
 クロウとは、俺のケータイAIの事だ。俺は、秋山のケータイと俺のケータイをリオンに繋いだ。俺はカバンからバーチャルグラスをとり、リオンに接続しグラスをかけた。
 …五分後
 「除去完了。」
 俺は、軽く浮き上がっていた額の汗を袖で拭いながら言った。
 「あっありがとうございました!」
 秋山は心底嬉しそうだった。
 僕は一度もあんな顔をしたことないな。
 「いやいや、そんな大した事してないよ。もしかしたら、記憶が少し飛んでるかもしれないのは予め了承してもらいたい。」
 俺はリオン、グラス、ケータイをカバンに片付けながら言った。
 「少しぐらい飛んだっていいです。ありがとうございます。」
 秋山は何度も頭を下げて言った。
 「ねぇ、なんでそんな事出来たの?販売元が出来ない事がナゼ貴方にはできたの?杏奈のケータイって業界最大手よ。」
 楓は流し目で言った。
 「ん?あそこの技術者なんて所詮、二流の輩ばっかりだからね。」
 俺はカバンのチャックを閉めながら言った。
 「そうじゃなくて、ナゼ貴方ができたの?」
 楓は少し怒っているようだ。
 「…AIプログラムを開発・完成させたのは僕だ。なにか文句でも?」
 僕は言った
 「…そんな嘘を信じるわけないでしょ。だいたい、これを完成させたのはロンドン大学教授で十二歳の少年よ。貴方のわけ…」
 楓は硬直した。
 「あ、貴方、歳は?」
 「十五。完成時は十二だったなぁ。」
 「…出身は?」
 「誇り高き英国はロンドン。数学教授の椅子は座り心地が悪かったなぁ。」
 「………」
 楓は完全に動かなくなった。
 「さて、僕は次の授業をエスケープするから。」
 僕はそう言って部屋を出ようとした。そんな僕の左手の袖を掴んだのは秋山だった。
 「ホントにありがとう。」
 「いいって。じゃあな。」
 僕は教室を去った。
2010-06-08

Q.E.D. 第08話

 マリアの出発の日。
 空港にて。
 「とうとう、行くか」
 「うん。いろいろ、ありがとね」
 「いや、気にすんな。あっそうそう、これをエルロンさんに渡しておいてくれ」
 「うん。わかった」
 「ルイス」
 僕は手を差し出した。そして、がっちりと握手した。
 「シンホウ、世話になったな」
 「いいって」
 「屋敷にチェイサーを残してきたから、使ってくれ」
 「チェイサーって、あのバイクか?」 
 チェイサーとは、ルイスがコレクションの中でも最も気に入っていたバイクで、正式名称を忘れたのでチェイサーと呼んでいる。
 「一番、大切にしてたじゃないか」
 「ナオキになら、渡してもいいと思ったからな」
 ルイスが初めて名前で呼んだ。
 「大切にするよ」
 「じゃ、行くわね。」
 マリアがそう言って、カートを引いて歩き始めた。
 僕らは手を振って見送った。
 しかし、マリアが振り返って急に走り出した。
 そして、あろうことか僕にキスをしてきた。
 「!?」
 マリアとは、三回目……
 「今度は、直樹からしてほしいな。なんてね。じゃーねー」
 僕らは呆然としていた。
 彼女達は英国へと帰って行った。

 マリアが帰国してから、三日後、手紙が届いた。
 「マリアからかな?」
 差出人は……栄桜!?
 「なぜ?」
 手紙の内容は、生徒手帳を返したいからライブに来て欲しいとの事だ。
 ご丁寧に、最前列のど真ん中の席二つのライブチケットが入っていた。
 明日か……無茶な相談だな。
 ……
 「ミコ、桜のライブにいかない?」
 「なによ、唐突に? テレビで名前を呼ばれて嬉しくなってチケット買ったの?」
 「失礼な。本人からチケットを送られてきたんだ」
 「! ホントに?」
 「うん」
 僕らはライブに行くことになった。
 
 音楽の描写って難しい。故にカット!
 ライブはあっという間に終了した。
 指定された喫茶店に入って美琴と二人で待っていた。
 「ご、ごめんなさい」
 桜がやってきた。
 「いや、気にしないでくれ」
 「……そちらは?彼女さん?」 
 「違います!」
 こうもあっさり否定されると淋しいものだ。
 「こっちは、幼馴染の美琴」
 美琴は頭を下げた。
 「よろしく、おねがいします。私は、栄桜といいます」
 桜はカバンから生徒手帳をだした。
 「これ……」 
 「ありがとう」
 僕は笑顔で答えた。
 急に僕のケータイが鳴った。
 「ごめん、ちょっと席をはずすね」
 僕はそのまま席を立った。
 「ねぇ、美琴ちゃんは直樹君の事、どうなの?」
 「どうなのって?」
 「私、直樹君の事、本当に好きになりそう」
 「! ど、どうぞ」 
 「よかったぁ。私、結構、直樹君、好みなんだよね」
 「そ、そうなの…(なんか、すごく…)」
 「私、本気だからね」
 「積極的ですね。(昔、同じような事が…)」
 「正々堂々、勝負しましょうね」
 「そんな、私は……(マリアちゃんと直樹が……)」
 僕はようやく戻ってこれた。
 「直樹君、連絡先教えてくれる?」
 「ん?いいよ」
 僕は、一切の抵抗無く番号とアドレスを教えた。
 「はい」
 「ありがとう! じゃ、私、行くね。次の会場にいかなくちゃ」
 「生徒手帳ありがとうな!」 
 僕がそういうと桜は笑顔で手を振って走って行った。
 「ミコ、顔赤いぞ? 熱でもあるのか?」 
 僕はここぞとばかりに美琴のおでこに自分のおでこを当てた。
 美琴は顔を真っ赤にして僕の顔にビンタをくらわせてさっさと出て行ってしまった。
 「なんなんだ?」
 
 それから、一週間後……
 マリアたちと別れた空港で。
 「さて、アメリカにいきますか」
 「忘れ物は無いか?」
 「いいよ、別に」
 「あれ? 暁…… 美琴ちゃんが見当たらないが?」
 「「行かない」の一点張りで……」
 「ワケわかんねぇなぁ」 
 「さぁ、ゲートインするかな」
 「じゃあ、また今度」
 ……
 飛行機はアメリカ目指して飛びだった。
 空港屋外で一人、美琴が泣いていたことなど誰も知らない。
 
 八月の下旬。そろそろ、日本中の学生があせり始める頃、美琴は一人窓の外の僕の部屋の窓を眺めていた。
 美琴は一人、呟いた。
 「なんで、いままで気が付かなかったんだろう。近すぎて……」
 美琴は屋根に出て、いるはずの無い、僕の部屋の窓をノックした。
 「いるハズないか…… 登り過ぎて山の形を忘れるなんて…… 私…バカだ……」
 美琴は屋根にうずくまって泣いていた。
 「よんだかぁ~ミコ~」
 窓から顔を出したのは僕だった。
 「時差ぼけと締め切りで睡眠不足なんだ~用件だけ……って、なんで泣いてるんだ? ミコ」
 「直樹!」 
 美琴は、いきなり僕に抱きついた。勢いで自分の部屋でこけた。
 「なんだよ? ミコ」
 「なんで、ここにいるのよ!」
 「なんでって、帰って来たんだからいるんだよ」
 「そうじゃない! おじさん達と向こうで暮らすんじゃなかったの?」
 「ククク……」
 「なによ?」
 「お、お前…… この…… 僕が…… 僕が…… アメリカに…… だぁっはっはっはっは!」 
 「なんで、そんなに大笑いするのよ?」
 僕は涙目で
 「永住するのは親だけ。僕は引越しの手伝いをしに行っただけだ」
 「バカ……」
 「ん?」
 「バカ!」
 美琴は泣いていた。
 「なにも、泣く事はないだろ? わるかったわるかった。笑いす……」
 美琴は僕にキスをしていた。
 「!?」
 「寂しかったんだから……」
 「ミコ?」
 「あのね、直樹…… 私、ずっと言えなかった事があるの。ずっとずっと、好きだったの。近くに居すぎて気が付かなかった……」
 大混乱の頭に「好き」と言う単語だけが流れてきた。
 「ごめんね、直樹」
 「僕も……」
 「えっ僕もミコが好きだった。十年間ずっと……」
 「直樹……」
 僕らは再度、口付けをした。さっきよりも長く長く……

 五年後……
 善福寺川緑地公園の広場、今日は小春日和。
 芝生の上に暁美琴は座っていた。
 「いい天気」
 遅れて来たのが、左目に大きな傷跡のある服のセンスは相変わらずの僕だった。
 「ごめん。締め切りが近くて……」
 「いいのよ。貴方は「天才作家」ですからね」
 「おいおい、そんな言い方するなよ」
 「事実そうでしょ? デビュー本は活字離れしていた中高生が貴方の本は「面白いし読みやすい!」とかで、ベストセラー。文学的な賞は取れなかったのに、出す本、全てベストセラー。天才と呼ばずなんと呼べばいいのよ」
 「おいおい、大げさだって」
 「で、明日は平気でしょうね?」
 「あぁ、今日、全部仕上げてきたからね。明日は大丈夫。いや、向こう一ヶ月は大丈夫」
 
 あれから五年。いろいろあった。
 美琴は有名な大学からの誘いを蹴って、マリアの会社に入社。
 帰国(?)マリアとルイスは既に正式に婚約していた。
 桜は…… みなさんは覚えているだろうか? この物語の最初の方に出てきた、僕の数少ない友人のひとり南貴之と付き合っている。どうも、相談のために友人の彼を捕まえて話をしているうちにこうなったらしい。
 僕は、書いた本は活字離れしている現代の学生に読みやすいと評判で、ベストセラーになっている。当然だ。学生の心で書いてるのだから。
 しかし、一時期、盗作疑惑の為に世界から追放されかかるし、盗作されたと逆上したそちら様のファンが僕のサイン会の時に左目をナイフで突き刺して逃亡したが直ぐに捕まった。僕は不幸中の幸いか、連鎖的に右目を失明することがなかった。
 盗作疑惑は、向こうの先生が「似ているが違う。彼はそんな姑息なことをする人間じゃない!」と言ってくれたので、僕は今作家をしている。
 
 百人中百人が予想できた物語だけど、それでも僕らは幸せだ。
 明日、僕と美琴は結婚する。
                                       完


 あとがき
 十四年前、飛行機事故で親父とお袋は…… 神宝直樹・美琴は死んだ。
 俺はあの事故の唯一の生き残りだ。
 今は、ルイス・マリア夫妻に引き取られ英国で暮らしている。
 ある日、ルイスさんから親父の日記を渡された。
 俺はこの日記を元にこの小説を完成させた。
 二人が生きた高校時代を残したい。俺は、自分が生きた時間を見つけるために日本にやってきた。
 日本人が知っている作家である親父を忘れないで欲しい。
 切に願います。
                                 神宝丈
2010-06-07

Q.E.D. 第07話

 修学旅行は無事に終了し、日は一気に進み終業式
 「おーい、席につけ~」
 隼人先生が教壇から言った。
 クラスメイトは自分の席に座った。
 「え~と、今日でマリアとルイスの留学期間が終わる」
 クラスがざわめいた。当然だ。クラスの大半がこの二人が留学生ということを忘れていた。無論、僕もだ。
 「以上。よい夏休みを!」
 おいおい、隼人先生それだけか? いくら、祥子さんとラブラブな新婚生活を楽しんでいるからか?
 その日の放課後……
 マリアとルイスの下駄箱がポストのようになっていた。
 「なんじゃこりゃ?」
 「さぁ?私にもワケがわかんないわ」
 「日本じゃ、いなくなる留学生の下駄箱に手紙を入れて送り出すのか?」
 「いや、たぶんラブレターよ。きっと」
 「……私がこんなにあるのはまだわかるけど。なんで、ルイスもこんなにあるの?」
 「マリア知らなかったっけ? ルイスは密かにファンクラブが立ち上がるぐらい、人気があったんだぜ」
 「realy?」
 「yes」
 
 「あーあ、今日で学校もおわりかぁ~」
 「でも、もう少し日本にいるんだろ?」
 「うん。八月上旬まで」
 「ルイス君も?」
 「あぁ、荷造りやら何やらやらせなくちゃな」
 「やらせるって……」
 「あっ!」
 マリアが突然大声を上げた。
 「吃驚しただろ?なんだ急に」
 「七月三十日に家でパーティーするのよ」
 「へぇ」
 「直樹と美琴にも来て欲しいのよ」
 「招待してくれるの?」
 「えぇ、もちろん」
 「何のパーティーだよ」
 「お父様が日本に来るから、日本の財界人をかき集めて私の誕生パーティーを……」
 最早次元が違う話だ。日本の財界人……
 その中にただの高校生……
 「なんか、すげく行きたくなくなってきた」
 「そんな事言わないで、ね?」
 かわいい…
 「しゃーないな。行くか?ミコ」
 「うん」
 「もしかしたら、有名人に会えるかもよ? 財界人と仲良くしとけばなにかいいことあるかもよ?」
 「はは、人生そんなにあまくないよ」
 
 そんなこんなで、パーティー当日。
 僕は黒のタートルネックに黒のジーパンというまぁ普段の格好だ。
 美琴も白のワンピース。いつもよりかわいい…
 「直樹…パーティーに行くのにその格好……」
 「いいんだよ」
 
 「や、マリア」
 「あっ、直樹!」
 「こんばんは。マリアちゃん」
 「へぇ、美琴、可愛いじゃない」
 「えへへ」
 「「えへへ」って」
 「なにか言った?」
 「いいや。なんも言ってない」
 「直樹……その格好……」
 「五月蝿い」
 僕らは一連の漫才を済ませてから会場に入った。
 会場にはテレビで見るような人がわんさかいた。
 「ねぇ、直樹! あそこにいるのって…」
 「ん? あぁ…… 銀行の頭取さんとか……」
 「あっちには、人気俳優の竹川友則!」
 「次元がなんかよくわかんねぇや」
 「やぁやぁ、シンホウ、アカツキ」
 「ルイスか」
 「こんばんは」
 「なにやってんだ? ルイス」
 「失敬な! 俺はマリアの幼馴染だ」
 「わかってるって。で、マリアとの進展はあったのか?」
 「……」
 「ないようね」
 「しかし、こんなのを十年もやってるので平気だ! HAHAHA!」
 「はいはい。それじゃあ、他の所に行くから!」
 「おう! 後で会おう!」
 何故か上機嫌なルイスを残して場所を移した。
 僕らは会場をふらふらしていた。
 「なんか、パーティーの趣旨がわからないわ」
 「僕もそう思う」
 「あっいたいた!」
 マリア再び。
 「おっす」
 「ちょっと来て!」
 僕らは半強制的に連れて行かれた。
 「お父様!」
 「おぉ、マリアか! そちらは?」
 「こっちの全身黒いのが神宝直樹。白いのが暁美琴」
 「おいおい、もう少しマシな紹介をしてくれ。」
 「君たちか! 直樹君と美琴ちゃんと言うのは! 私はマリアの父でエルロンと言う。以後お見知りおきを」
 「こ、こちらこそ…… よろしくです」
 なんて言うか、エルロンさんは上流階級のオーラがでていて、緊張のあまり舌が回らなかった。
 「私は英国で出版社を経営している」
 「……社長さん?」
 「そのとおり。一代で築き上げた出版社。大成功でね」
 「はぁ」
 「ルイスのお父様も出版社の社長なのよ」
 「だから、許嫁なんだ」
 「いい迷惑だわ」
 「私が悪かった。レイドの奴と競って大きくした出版社。子供が結婚したら社の合併をしてルイス君とマリアに世代交代するつもりだったんだがな」
 「……」
 「どうしたのかね? 直樹君。深く考え込んで」
 「いえ、日本語がお上手だと思いまして」
 「あぁ、今度、日本に支社を建てようと思って勉強したんだ。それに……」
 「それに?」
 「愛娘が日本にいるのだから勉強したのだ!」
 おそらく、後者の理由の方が大きいのだろう。
 「お父様……」
 「おぉ、そうだ! 日本に支社を建てるにあたって、社員の募集をしてるんだ。どうだろう。君たち、入社してくれないだろうか?」
 「はっ!?」
 僕と美琴は同時に声をあげた。
 「出来れば支社の上層部に配属したいのだよ。もちろん、高卒でかまわない。支店長にはマリアを配属するつもりだ」
 「はぁ……」
 無茶苦茶な展開にかなりパニックに落ちている。
 「なぜ、私たちを起用しようと思ったんですか?」
 「……マリアの友達と言う安易な理由じゃない。聞くところによると直樹君の家の一室が本棚だけらしいじゃないか。本をそんなに読む子なら、下手な人間を雇うよりずっといいじゃないか」
 「でも……」
 「美琴ちゃん。君も本はたくさん読んでるそうじゃないか。どうか、入社してくれないだろうか」
 「……いいでしょう。入ります。ただし!」
 「ただし?」
 「月給は高額ですぜ」
 「ぜんぜんかまわない。ありがとう。内定書は学校に送っておくよ」
 「いいの? 直樹?」
 「あぁ、僕の夢に近づく為に、ね。」
 「直樹の夢は小説家になる事だったわね」
 「なんで、知ってる?」
 修学旅行のバスの中で寝言を言ってたわよ」
 「失敗したなぁ」
 エルロンさんは少し考え込んで
 「……よし、日本での初めての出版物は直樹君の本にしよう!」
 「!」
 「お父様!?」
 「なにを寝ぼけたことを!」
 「直樹君、マリアの出国日までに小説を書いてきなさい。それがよければ、日本で販売をしよう。どうかね?」
 「……いいでしょう。ここで認められなければそこまでの人間だったって事だ。」
 「直樹……」
 ……
 「ごめんね。マリアちゃん、エルロンさん」
 「気にすることはないわ」
 「そうだぞ。日本支社の話は以前から決まってた事。それに君たちを組み込むのも決まってた事」
 「決まってたんですか?」
 「はは。正直、作家を選ぶのに困っていたんだ。そんな時に美琴ちゃんが直樹君の夢の話をマリアにしてくれてね」
 「それで、直樹を新人として送り出す」
 「すみません。無理言って……」
 「いや、いいんだよ。私も若い力を潰すほど野暮じゃないかな」
 
 パーティー終了後。
 「作家になれる……」
 「まだ、決まってないでしょ?」
 「あぁ、頑張らなくちゃな」
 家の前に着いた。
 「じゃ、おやすみ」
 「あぁ、おやすみ、ミコ」
 僕らは自分の家に帰っていった。

 朝、九時頃、僕は呼び鈴に起こされた。
 寝起きの顔で外に出ると宅急便だった。
 「判子おねがいしまーす」
 僕は判子を押して荷物を受け取った。
 「誰からだろう?」
 差出人…エルロン・セレスタ。
 「エルロンさん!?」
 綺麗に包装された箱を開けると、来年発売予定のノートパソコンと手紙が入っていた。
 『直樹君へ。このノートパソコンを君にプレゼントしよう。昨日、販売元の社長から譲ってもらった最新型だ。思う存分、書きたまえ。健闘を祈る。エルロン。セレスタ』
 ……やるしかないか……
 僕は、ノートパソコンをセットアップして早速、書き始めた。
 幼い頃から頭に蓄積してきたプロットを全て吐き出す勢いで書いた。
 気が付くと夜だった。
 そういえば今日は桜ちゃんがテレビにでる事を思いつき、紅茶を片手にテレビの前に座っていた。
 …
 「この間、痴漢にあったんですよ」
 「へぇ」
 「その時助けてくれた、高校生が名前を言わずに去っていったんです」
 「かっこいいね。それ」
 桜ちゃんは顔を真っ赤にして頭を掻いた。
 「で、その人の生徒手帳を拾ったんです。たしか…夢水学園の神宝君っていうんです」
 
 僕は思わず紅茶を噴いた。
 生放送なので加工ができなかった。
 故に僕は全国的に有名になってしまった。
 「直樹! これでふきなさい」
 「ありがとう、お袋…… お袋?」
 両親共に現在、米国在住……
 「! なにやってんだ!」
 「帰ってきたのよ!」
 「連絡ぐらいしやがれバカ親が! で、なにしに帰って来たんだ?」
 「俺から話そう」
 「親父……」
 僕は紅茶を口に流した。
 「アメリカに来ないか?」
 僕は再び紅茶を噴いた。
 「いきなりかよ!」
 
 「はむ。だいたい、わかった。米国に永住するんだな?」
 「そうゆうことだ」
 「じゃあ、行くしかねぇなぁ」
 「ものわかりがいいね」
 「どうも。じゃ、僕は寝るよ」
 僕は部屋に戻り、小説を書き始めた。
 
 気が付くと朝だった。
 「なんか、どっと疲れた……」
 コンコンと、ノックする音が聞こえた。
 「はいはい」
 そこには満面の笑みを浮かべた親父の姿があった。
 「おはようさん。今から、暁の家に行くぞ!」
 「行ってくればいいじゃんか。」
 「お前も来い」
 「なんで?」
 「寂しいから」
 「コドモか!? 二人で行って来い!」
 僕は親父の尻を蹴っ飛ばした。
 
 小一時間経ってから、久しぶりに美琴の家に正面から入った。
 両家の両親は大学の軽音部のメンバーだったらしい。
 故に仲がいいのだ。
 リビングから笑い声が聞こえる。
 「おっ来たな!」
 「朝っぱらから酒かい!」
 「無礼講無礼講!」
 「おじさん、意味不明だから……」
 「気にするな! 昼は寿司でいいかな?」
 「また、唐突だなぁ。まぁいいけど」
 「よし、決定。直樹君、特上六人前よろしく!」
 「僕が電話するんですね」
 僕はしぶしぶ電話をした。
 
 「ミコは?」
 「上にいるよ」
 僕はそれを聞くと二階に上がった。
 コンコンと僕は美琴の部屋のドアをノックした。
 「ミコ、入るぞ」
 僕は返事も聞かず部屋に入った。
 「直樹……アメリカに行くの?」
 「行くけど?」 
 「そう」 
 「?」
2010-06-06

Q.E.D. 第06話

 僕は今、恋をしている。
 相手の名前はマリア・セレスタ。
 英国からの留学生だ。
 僕はあの日以来、彼女に心を奪われたのだ。
 ミコが好きだった。でも、それは叶わぬ恋だったのだ。彼女は僕を、一番の親友と言った。それじゃあ、僕は眼中にないって事だろ?

僕らは無事に二年に上がれた。
 しかし、問題は山積みだ。
 まずは、クラス分けだ。
 「朝から頭抱えてどうしたの?」
 ミコが話しかけてきた。
 「今日、クラス分けの発表でしょ?」
 「そうだけど…」
 「僕……友達がいないんです。」
 「…」
 掲示板前に行くのがとてもイヤだった。掲示板の前では狂喜する男子がちらほらいた。
 大方、マリアか美琴と一緒なのだろう。学校の美女二人だしな。

 ミコとマリアが仲良く合流した。
 「おはよっ」
 「おはよー。ゴキゲンだね、マリアちゃん」
 「わかる? うふふ、直樹と同じクラスなの」
 「私は?」
 「もちろん、美琴も一緒よ」
 「やった! で、ルイス君は?」
 「…一緒なの。助けて直樹~」
 マリアは僕に抱きついてきた。
 「ばっ、ばか! 恥ずかしいだろ!」
 「いいのよ。うふふ」
 「じゃあ、先いくね。直樹」
 美琴はそう言ってさっさと教室に向かった。
 「…なんで、私怒ってるんだろ? わかんないなぁ」
 
 クラス替えがあってからスグに修学旅行だ。今年は北海道。楽しみだ。
 
 確かに幾つかのステップを飛ばしているが、語るに値しないのでカット!
さっそく、修学旅行。
 
 一日目
 札幌某所…
 言い忘れていたが担任は隼人先生だ。
 「十七時にここに集合! じゃあ、解散!」
 半日、ココで自由行動らしい。って、隼人さん、もう少し生徒に興味持とうよ。ずっと、祥子さんの写真見てるやん! 北海道なのに関西弁がでてしまうよ。
 「ねぇねぇ、暁さん」
 クラスの自分は、ファッションに長けてモテるぞ的な感じの野郎がミコに声をかけて来た。
 「なに?」
 「僕らとこの辺まわらない?」
 「いや、私は…… 直樹と行くから。ごめんなさい」
 「……チッ、仕方ないね」
 「本当にごめんなさい」
 「よぉ、ミコ。探したぞ。マリアもいないし……」
 「じゃあ、マリアちゃん達さがしましょ!」
 美琴は僕と腕を組んで引っ張って行った。

 マリアはマリアで、ナンパされていた。
 「セレスタさん、僕とこの辺を回りませんか?」
 「ごめんな……」
 「マリアとデートなんてゆるさーん!」
 マリアのやんわりした断りを途中で遮ったのは、言うまでも無くルイスだった。ルイスは、マリアを誘った男の胸板を一点の迷いもなく蹴り放った。
 「マリアを誘うなんて十年はや……」
 「無茶、するな!」
 マリアのハイキックがルイスの顔面を強襲した。
 「な…なぜ?」
 そのままルイスは倒れた。
 「おーい、マリア~」
 そんな、一連の漫才を見逃した僕たちはマリアの発見に成功した。
 「あっ直樹!美琴!」
 「なにやってたの?」
 「いいじゃない。さ、行きましょ」
 「ルイスは?」
 「そこで寝てる。」
 「あっそ」
 僕らはルイスを放置したままその場を去った。
 
 「さて、昼飯を確保せねば……」
 「せっかく北海道に来てるんだし、ラーメンでもたべない?」
 「おっいいねぇ。ナイスアイディア、マリア!」
 僕らは札幌で旭川ラーメンを食べた。

 昼食も終えて、手持ち無沙汰になった僕たちは立ち往生していた。
 「さて、どうしようか?」僕は替え玉三枚で食いすぎを否めない腹を抱えて言う。
 「近くに円山公園ってあるわよ」替え玉なしのミコは、満足そうにパンフを広げる。
 「ふ~ん。で、何があるの?」ギョーザを追加注文したマリアは、いつも通りだ。
 「わかんないや。」
 「あそこは……動物園があったような気がする」
 「まぁ、いいわ。行ってみましょう」
 「ルイス君大丈夫かな?」
 「大丈夫よ。死んでも死なないやつだから」
 「だな」
 
 円山公園
 「来たのはいいが、広い……」
 広すぎる、しかし、綺麗なところだ
 「マ~リ~ア~」
 草むらから現われたのは、いわずもがなルイスだった。
 「キャッ!」
 声を上げて僕に抱きついたマリア。それを見て不機嫌になっているミコがいることなど知らなかった。
 「……ルイス……熊か君は?」 
 「マリアのいる所、どこにでも参上つかまさりそうろう」
 「日本語変になってるし」
 僕は、不意に美琴の方を見た。何か言いた気な顔をしていた。
 「……! マリアと美琴はここで待っとけよ。今、飲み物買いに行ってくるからさ」
 「!」
 美琴は、心を読まれているのか的な顔をしていた。まぁ、付き合いは長いしね。
 「ルイス、お前も来いよ」
 「ナゼ、YOUと行かねばならぬ」
 「マリアの好きなジュース知ってるのはルイスだけだろ?」
 ……僕は知ってるけど
 「なるほど。承知した」
 そう言って僕らはその場を離れた。
 
 さて、僕たちがいなくなった所で話が始まった。ここは、僕が感知しない所なので、音声のみでお送りします。
 「ねぇ、マリアちゃん?」
 「なぁ~に?美琴」
 「直樹とは…… その……」
 「なによ? はっきりしなさいよ。」
 「付き合ってるの?」
 「まだよ。でもね、落とすわよ。確実にね」
 「……」
 「もう、私にとって貴方は……」
 「なに?」
 「It is not much of a problem」
 「えっ?」
 「なんでもない。それよりも、なんでそんな事聞くのかしら?」
 「えっ…… その…… マリアちゃんと付き合ってるなら…… 私……」
 「うそね」
 「えっ?」
 「そんなの嘘よ。貴女はまだ気がついていないだけ」
 「……」
 
 さて、音声放送は職務怠慢のような気がするが、この際いいんだよ。それよりも、目の前の問題を処理しなければならない。
 「なぁルイス……」
 「なんだ? シンホウ……」
 「目の前で展開されてるのは、痴漢か? 誘拐か?」
 「たぶん、誘拐だ」
 「助ける?」
 「やるべきか」
 
 持っているジュースをこぼさないように、誘拐犯の前に颯爽と現われる。
 「おい、白昼堂々誘拐なんて大胆だな」
 カッコよく登場した
 「こんな時間にナゼ人が?」
 犯人は、状況が理解できていないようだ。こうゆうとこそ、やるに適している。
 「成敗してくれよう」
 ルイスがカッコよく言った後に、ジュースをルイスに預けて僕は大きく後ろに下がって走り出した。
 ルイスは背の高い馬を作った。
 僕は自慢の跳躍力でルイスの背中を蹴って高く高く飛んだ。
 「一刀両断!」
 僕はそのまま犯人の顔面を蹴り上げた。これは痛い。なんせ、つま先でボールを蹴るような感覚で蹴り上げてやった。
 犯人はふっとんで、ぶっ倒れた。
 僕は犯人を踏まないように少し離れたところに着地した。
 きまった…
 「だいじょう……」
 僕が、おびえている女の子に手を差し出そうとして、ルイスが邪魔してくれた。
 「大丈夫ですかな?お嬢さん」 
 ルイスが先に手を取って女の子の目を見つめていた。
 「この浮気もんが!」
 僕はルイスにドロップキックをくらわせた。
 「ぬおっ!」
 ぶっ飛んだルイスは、犯人の上に落ちた。
 「すみません…… バカで……」
 「いえ、ありがとうございました。」
 帽子を深くかぶってサングラスをしているが、女の子であることがわかった。
 「ん? どっかで見たことがある……」
 僕は脳の引き出しを探した……探した……探し……
 「あっ! 桜ちゃん!」
 桜…最近デビューした歌手、ファンは多いがさっきの類の事件に巻き込まれることが多い事で有名。
 「そっか……札幌在住だったか…… はむ。いい事を知ったな。」
 「あの、お名前は?」
 「名乗るほどの者ではございませんよ」
 一度、言ってみたかった台詞第二弾。
 「おい、ルイス。いつまで寝てるつもりだ? 行くぞ」
 僕はそう言って倒れているルイスのわき腹を蹴り、こぼれたジュースの買いなおししにその場を離れた。
 
 お互いに戦いを終えた四人は再会した。
 「おまたせ。はい、ジュース」
 「ありがとう。直樹」
 「マリア、俺には……?」
 「ベーだ。」
 ルイスのテンションが一気に下がっていったのがわかった。
 「で、美琴。話は出来たのか?」
 「えっ、あっ、うん」
 「ありがとね、直樹」
 「いいって。幼馴染の考えてることなんか、顔みりゃわかるって」
 僕らはこの後、動物園に行ってから集合場所に行った。
 動物園で生徒手帳を見せろと言われて、初めて手帳を無くした事に気がついた。
 
 二日目の小樽は特に面白いことが無かった。だからカット! ルイスが逆ナンされていたぐらいかな?
 
 三日目…最終日
 ここは美瑛…… 
 千代田の丘で有名なところだ。
 僕は今日、大きな決心をしてここに来た。
 一生に一度、美琴にするハズだった告白をマリアにするつもりだ。
 僕は、マリアを待っていた。千代田の丘の小高い丘の上、大きな木が一本ある。その下で待っていた。
 「遅れてごめんね」
 遅れてやってきたのは、マリアだった。まぁ、待ち合わせよりも早く来ていたんだ。
 「いや、いいよ」
 「……」
 「はぁ…… 単刀直入に言う。好きだ」
 回りくどいのは嫌いだ。
 「ずいぶんストレートね」
 「名前に直がつくからね」
 「……」
 「上手く、言えないんだけど…… あの日、初めてキスをした日から、が動いていたんだ」
 「はぁ……駄目ね。直樹も」
 「へっ?」
 「私も直樹が好きなの。でもね、直樹……貴方は十年にも及ぶ美琴への恋心が実らず限界まで擦り切れていたのね。だから、貴方は美琴と向き合うのが怖くなって私を好きになった。でもね、それは単に逃げているだけ」
 「……」
 「ちゃんと美琴の事はケリをつけなさい。それでも私が好きだったら、もう一度告白して。でないと私が辛すぎるから」
 マリアが初めて涙を流した。結局、僕は逃げているだけだったんだ。逃げ場所に使われた彼女は、真面目に僕が好きだった。そんな彼女を裏切った僕は、最低だ…
 「ねぇ」
 「ん?」
 「一度だけキスしていい?」
 「……あぁ……」
 僕は…… この時。この瞬間だけは、美琴のことを忘れていた。
 僕たちは心の底から恋をしていた、
 
 僕はマリアを残してその場を去った。
 その後、ルイスが木から降りてきた。
 「いいのか? マリア……」
 「ルイス…… いつからそこに?」
 「ずっとさ」
 「バカ」
 「本当にこれでよかったのか? マリア、ずっとシンホウが好きだったんだろ?」
 「いいの。これでよかったの…… これで……」
 マリアはルイスの胸で嗚咽を漏らしながら涙を流した。
2010-06-05

Q.E.D. 第05話

 再び春……
 僕は美琴の部屋のドアに寄りかかって座っていた。
 「なぁ、早くしねぇと遅刻するぞ」
 「行かない」
 ドアの向こうから返事があった。
 「そんな事言うなよ」
 「いや、行かない」
 「そりゃ、エゴだぞ。隼人さんも悲しむぞ」
 「…直樹一人で行きなさいよ」
 「そうもいかないよ」
 今日は隼人先生の結婚式の日だ。
 美琴は今朝からこの調子なので困っていた。とりあえず、僕はポケットからケータイを取り出した。
 「もしもし? ルイスか?」
 『なんだよ、シンホウ』
 「実はな、頼みがある」
 『断る』
 断るルイスを無視して話を続ける僕
 「お前のコレクションの中で一番速いバイクを僕の家に持ってきてくれ」
 『君にそんな事をする義理はない。』
 「ふっ、そんな事言ってられるかな?」
 『なに?』
 「マリアの胸のサイズ知りたいか?」
 『すぐに届けよう。待っていたまえ、my best friend!』
 声色を変えて、親指を立てて拳を突き出すルイスの姿が目に浮かび、思わずふきだしそうになった。
「まぁ、馬鹿と金持ちは使いようってね。さて、足は用意できた。あとは…」
 どうしたものか…
 「ミコ…… その気持ちくすぶらせたままでいいのか? 前の麻生の時も同じだったろ? 引越しするのわかっていたのに言えなくて後悔したんじゃないのか?」
 説得を始めた。他に方法もないしな。
 「……どうしたらいいのよ……今からじゃ遅刻よ」
 あっさり陥落したミコは、可愛いな。違う違う。
 「足は確保してある」
 がちゃっとドアが開いた。
 「…行くわよ。この気持ちに決着をつけるわ」
 「そこなくっちゃ」
 僕らは外に出た。ちょうど、ルイスも到着した。
 「ルイス君!」
 意外なモノを見たような声をあげるミコ。まるで、初めてジンベエザメを見たときのような声を上げた。懐かしいな。昔、家族で水族館行ったっけ? ミコの家族と一緒に。
 「ナイスタイミングだ」
 「シンホウ、さぁ言え! サイズは? この俺でさえ知らないマリアの胸のサイズは?」
 「Cだ」
 「REAL?」
 「あぁ、じゃあ借りるぞ」
 既に失神しているルイスを道の端っこに寄せておいて、バイクに跨る。
 「直樹、免許は?」
 「ない」
 「どうするのよ?」
 「気にすんな。乗れ!」
 僕はヘルメットを美琴に渡した。
 美琴はヘルメットを被りバイクにまたがった。
 僕はゴーグルを付けてエンジンをかけて走りだした。
 「で、マリアちゃんの胸のサイズって?」
 「あぁ、アイツそうでも言わないとバイクを貸してくれないもん」
 「Cってのは?」
 「あぁ、カンだ。カン」
 「いやね。」
 「なんとでも言えよ。好きな女に悲しい顔されるぐらいなら、ぜんぜんマシだ」
 と、心の中で呟いた。めんと向って、言える馬鹿は、世界中でもルイスだけだろうな
 …
 僕はひたすらバイクをとばして教会に着いた。途中信号無視した。鼠捕りの警察も撒いた。それでも境界に着いた。完全に遅刻で…
 「まだ、指輪交換じゃないな」
 「ねぇ直樹、スピード落とさなくていいの?」
 「なかなか落ちないんだよ。これ。クセがあるなぁ」
 一向に速度が落ちない。困ったもんだ。速さにこだわってブレーキを怠ったってことか? 大型バイクだしな。ボディに、chaserって書いてあるだけはあるね。
 「しみじみ言わないでよ! どうすんの?」
 きんきん声を出すな。やかましい。
 「このまま突っ込む」
 ルイスが履いていた特殊な靴を拝借しておいてよかった。チェイサーを止める為に足を使うようだ。一歩間違えば大怪我するこのブレーキで速度を落としていったが、僕は教会のドアに突っ込み派手に入場した。
 「その結婚ちょっと待ったぁ!」
 バイクは着地して少し滑ってから止まった。会場はざわめいていた。当然だな
 「なんなんだ、君は今神聖な儀式の途中だ。非常識すぎるぞ!」
 神父が怒りまっくっているのをよそに僕は美琴の手を引いて隼人先生の前に立った。
 そして振り返って
 「祥子さん申し訳ない。結婚式に無茶な登場して…」
 「いいのよ」
 「少し時間を頂きたいのですがいいですか?」
 「美琴ちゃん?」
 「えぇ。美琴…… ちゃんとケリつけろ」
 美琴が先生と向き合った。
 しかし、神父や新郎婦の両親がずっと講義の声を上げていた。
 「これだから、今時の学生は何をするかわからん」
 「まったくね」
 「失礼じゃないか! さっさと出て行きなさい!」
 年寄り連中が僕を言いたい放題罵る。それのせいで、ミコが言いたいことが言えないようだった。その時、
 「五月蝿い! 外野は黙ってろ!」
 声を張り上げたのは隼人先生だった。
 仏の緑川……授業中どんなに教室がうるさくてもどんなに生徒に罵倒されても決して怒らなかった隼人先生が初めて大声を張り上げた。
 予期せぬ事態に年寄りたちは黙ってしまった。
 「すまんな。で、話があるんだろ? 僕らの誓いの前に……」
 「はい。先生ごめんなさい。でも、結婚する前にどうしても伝えたかったことがあるの。あの… ずっと好きでした。でも、私が好きになった先生は祥子さんが既に先生の中にいた。そんな先生が好きだった。だから、一生祥子さんを愛していてください」
 ミコは、心の中にあった全てモノを吐き出した。
 「あぁ、ありがとうな、美琴。はは、君のためにも一生、祥子を愛するよ」
 「隼人君……」
 そうして、二人は永遠の愛を神でも神父でも両親にでもなく、美琴に誓ってくれた。
 流石に、「神に永遠の愛を誓いますか?」と神父に問われた時に、二人そろって「誓いません!」と言った時は吃驚したね。
 …
 「直樹……貴方も無茶をするわね」
マリアは呆れた声で言った。まぁ、当然なんだが
 「あぁ、我ながらそう思うよ」
 ミコが苦しまないように尽力しても、やはりつらいもんだ。
 「貴方……表情暗いわよ」
 「あぁ、自虐的な事してるからな。あぁ、ぶち切れそうだ……」
 協会から現われた祥子さんは、
 「さぁ! ブーケ投げるわよ!」
 と、幸せそうな顔つきで言う。いつか、ミコにもあんな顔をしてもらいたいな。
 「ほら、ミコもマリアも行ってこいよ」
 「うん」 
 「えぇ」
 祥子さんが投げたブーケは空高く飛んで……

 その日の帰り道。安全運転のチェイサーに乗っていた。
 「ありがとね」
 いきなり美琴が呟いた。
 「ん?」
 「すっきりしちゃた」
 「よかったな」
 「流石は私の親友!」
 「あ、あぁ……親友だ。」
 親友、か…… 最高で最悪な言葉だな。
 「じゃあ、また明日」
 「あぁ。僕はコイツをルイスに返しに行くよ。」
 僕は、そう言ってそそくさとバイクを走らせた。
 
 あ! ルイスの家知らないや。どうしよう…… 明日、バイクで登校しようか? いやいや、そうもいかないか…… 無免許がバレる。
無闇にバイクを走らせていた。
この辺って、マリアの家が近かったな。行ってみよう。
 
 何度か、来たことがあるマリア家。彼女に言わせれば、別荘にしかならないらしい。
 「いつ来てもでかいなぁ。なんかでるんじゃねーの?」
 「人の家の前で何をぶつくさ言ってるの?」
 僕の独り言を聞いていたマリアが現われた。
 「ん? マリアか。めずらしいな、お嬢が一人で出歩くなんて」
 「なに言ってるの? 結婚式の帰りよ。送り迎えは蹴ったの」
 「そうか」
 「夕食まだでしょ? 家で食べていきなさい」
 「いいの?」
 「えぇ、いつも一人だから寂しいのよ」
 「じゃあ、お邪魔させてもらうかな」
 
 いつも一人の食事に呼ばれたが、某刑事の名台詞しかでてこなかった
 「なんじゃこりゃ?」
 「これは……食べ物よ。」
 「いや、わかってる。聞きたいのは、この異常な量はなんだ?」
 食堂にはおびただしい数の料理が並んでいた。
 「メイドとかいるから、あるんじゃない?」
 「メイド……」
 アバウトな理由だし……
 
 食事を終えてマリアの部屋に行くことになった。
 実のところ美琴以外の女の子の部屋に入った事がなく、緊張してしまっていた。
 マリアの部屋は意外にシンプルで、でもあくまでも上品な部屋だった。
 「テキトーに座ってて。今、紅茶淹れるから」
 こんな場合、どこに座ればいいのだ?
 「ねぇ、紅茶は何がいい?」
 「えっ!あっと、その…… オレンジペコを……」
 「オレンジペコね」
 今、僕は異常なまでに挙動不審だ。
 知らない人が見たら間違いなく泥棒に見えるだろう。
 「なにさっきから、キョロキョロウロウロしてるのよ?」
 「!!! ごっごめんなさい。」
 「まさか、貴方、美琴以外の女の子の部屋に入ったことがないんでしょ?」
 「すっすましぇん」
 「はぁ…… そこに掛けて、紅茶を飲めば落ち着くわ。」
 僕はマリアのいうままの行動をした。
 マリアの淹れたお茶を一口飲むと一気に落ち着くことが出来た。
 「これは美味いなぁ」
 「でしょ? だてに英国には住んでいなかったわよ。……落ち着いたようね」
 「おかげさまで」
 「さぁ、直樹。悩みを打ち明けなさい。なにかあるから来たんでしょ?」
 「はは、お見通しか。…ルイスの家って何処だ?」
 マリアは思いっきりこけた。
 「なによ、ソレ!」
 「ルイスにバイクを返さなきゃだめだからね」
 「はぁ、美琴の事言うと思ったのに…… 直樹はいい人すぎよ」
 「わかってる」
 「昼間、言っていたわよね。自虐的な事してるって。いいかげんにしないと、貴方、死ぬわよ?」
 「おいおい」
 「死ぬまでは、いかなくても病気になるわよ」
 「ホントに?」
 「ええ、直樹は十年間の片思い…… 自分を削ってまで美琴の事を想い、でも、美琴は気付かない。そうとう、精神を削ってるわよ」
 「はぁ…… そうかもな。でも、やっぱり駄目なんだ。居心地が良すぎるんだ…… さて、行くかな」
 よっこらしょと立ち上がったが、足がしびれていた。
 無意識にソファーの上で正座をしていた。緊張するといつも正座になる悪い癖だ。
 僕はよろけてマリアをソファーに押し倒した。
 僕はマリアの上に覆いかぶさっていた。
 「ご、ごめん。足がしびれて……」
 マリアは顔を真っ赤にしていたが、僕を抱きしめた。
 「いかないで……」
 ! 
 なんなんだ? この感覚は? それ以前に、この、僕が押し倒したような状況は……
 コンコン。
 ノックをする音がした。うぉ! これじゃあ、僕が変態扱いされる!
 「お嬢様……お電話です」
 ドアの向こうで男性の声がした。
 僕は慌てて離れた。
 「失礼します」
 初老の男性が電話の子機をお盆に乗せて入ってきた。
 こんなのはアニメの世界だと思った。
 マリアは不機嫌に電話を取った。
 「もしもし、変わりました。マリアです」
 『マリアか? ルイ……』
 マリアは電話を切った。
 「いいのですか?」
 「いいのよ。今から行くから」
 マリアは僕とライダーマン邸に行くつもりだ。
 「さ、直樹。行きましょう」
2010-06-04

Q.E.D. 第04話

新学期。
 自慢じゃないが、運動は苦手だ。そのくせ跳躍力は異常だ。
 
 今日は大凶だ。とにかくついていない。
 「はぁ~」
 大きなため息をついた。そこにマリアが元気良く現われた。
 「おはよう! どうしたの? 新学期そうそうにため息なんて。美琴が休みだから?」
 「今日の俺は大凶だ」
 「え?」
 「学校に来たくなかった」
 「なに言ってるのよ。占いなんて迷信よ」
 「いや、俺の占いは当たる。マリア、君も大凶だよ」
 占いと言っても、夢なんだが。内容を覚えている悪夢を見た日は厄日だ。昔からそうだ。ミコが麻生に惚れた時も、緑川先生に惚れた時も、先生に彼女がいた事が発覚した日も、全て内容を覚えている悪夢の日は、絶対に悪夢だ。そして、悪夢に出演した人物もまた、厄日なのだ。
 「え? ホントに?」
 僕らが校門を通った時に大凶がやってきた。 爆音を撒き散らしながら学校に一直線に向かってくる大凶…
 僕らは振り向いた。
 大凶は、一本の反抗も許さない撫で付けられた金髪のオールバック。ガタイはかなりあり、顔は欧米人の優男。ヤツはハーレーにまたがりまっすぐ僕に突っ込んできた。
 「くらいやがれ!」
 ウィリーをしたまま突っ込んでくる優男…
 「!」
 僕はマリアを抱いて横に飛んだ。マリアを抱きしめたまま僕は地面に背中を強打した。
 「つつつ… マリア大丈夫か?」
 「えぇ、なんとかね」
 バイクは再度突っ込んできた。
 「マリア、ちょっくら離れててくれ」
 バイクと僕の距離はかなり開いていた。
 僕は二、三歩下がって駆け出した。
 
 昔、美琴をいじめているヤツがいた。
 僕は、普通に喧嘩じゃ勝てない相手だった。
 でも、美琴を守ってやると約束した以上、立ち向かうしかない。
 当時のヒーローの真似をして、助走をつけて思いっきりジャンプして…

 今回は相手はバイク……  狙うはただ一点、乗者の顔面。
 僕は飛んだ。
 敵がウィリーをする直前に顔面を右足裏で蹴った。敵は後ろに飛び、地面に激突した。
 バイクは主人を無くしバランスを崩しすぐにこけた。
 「この野郎!あぶないだろ!」
 金髪が叫ぶ。
 「阿呆か! いきなりウィリーで突っ込んでくるヤツの台詞か!」
 「なんだと? やるのか?」
 「ルイス?」
 マリアが言った。
 「ん? おぉ! 愛しのマリア! 再会の抱擁を……」
 ルイスと呼ばれる男はマリアに抱きつこうとしたが、マリアのハイキックを貰ってまた倒れた。
 「一回、死になさい!」
 「いい蹴りもってるじゃないか…」
 ルイスはそのままのびた。
 「さ、行きましょ、直樹」
 マリアはそう言って僕と腕を組んで教室に行った。

 「なぁ、マリア…… アイツは?」
 「え?」
 「あの金髪…… たしか… ルイス!」
 「……はぁ。直樹の占いは当たるわね。ルイスは幼馴染よ。英国でのね」
 「馴染み……」
 「正直、こっちに来たのもルイスから離れたかったの」
 「……」
 ルイスはマリアの幼馴染で物心がついたときから毎日のように求婚していたらしい。
 TPOをわきまえず、現れるルイスのおかげで彼女の恋が成功したためしが無かった。
 ルイス恐怖症が発病する前に留学の話が持ち上がり、そのまま日本に来た。
 
 「ホームルームはじめるぞ~」
 担任が言うと、生徒はおのおのの席に帰っていった。
 「まず、転校生を紹介するぞ~」
 教室の温度が上がった。
 「なぁマリア……」
 「……直樹……助けて……」
 マリアの顔が強張っていた。
 僕はそんな顔にドキッとしてしまい、顔を伏せた。
 普段は気丈な彼女が一瞬だったが弱さを見せた。それが、不意…
 「入ってきなさい」
 先生の呼びかけに入ってきた男… 今朝戦った相手、ルイスが教室に入ってきた。
 ルイスの身長は百八十は越えていた。
 ルイスはさわやかな笑顔で入ってきた。
 爽やかな優男の顔には今朝、僕がプレゼントしたスタンプが未だに残っている。
 「初めまして。ルイス・ライダーマンです」
 さわやかスマイルで教室の女子が騒ぎ始めた。
 「彼は、セレスタと同じ英国から来た留学生だ。仲良くしてやってくれ」
 「はいっ!」
 情けない話だが、クラス全員の顔と名前が未だに一致していない。
 クラスの女子の一人が元気よく手を上げた。
 「なんだぁ~」
 「ライダーマン君はなんで日本語が上手なんですか?」
 「あぁ、それ、俺も思った。ライダーマン、何でだ?」
 「え~と、三年B組金八先生の大ファンで、DVDを直輸入してずっと見ていたらしゃべれるようになりました。」
 恐るべき学習能力……
 「さて、ライダーマンには何処に座ってもらおうか… あぁ、セレスタの後ろが謀ったように空いてるな。そこ座れ」
 「マリアぁ~会いたかった~」
 ルイスは走ってマリアに抱きつこうとしたが、マリアは容赦なく顔面を殴った。
 「ぐはっ」
 「はやく、自分の席に座りなさい」
 さっきの弱さはどこへ行ったのか?
 そんな疑問が残るパンチだった。

 放課後。ルイスの異常なストーキングは授業中にも行われていた。
 「マリア! 家まで乗っけていってやる。乗りな!」
 「いやよ。私は直樹と帰るの」
 「なんでだよ! こんな腐った蜜柑のどこがいいんだよ」
 「腐った蜜柑……?」
 「clumsy……」
 「なんだって?」
 「不細工だって…」
 気にしていることをあっさりと言った。
 「あのねぇ、clumsyは腐った蜜柑じゃなくて、不細工っていうの!」
 「ブサイク?」
 「日本語しっかり覚えなさいよ。」
 「ごめんなさい……」
 ルイスは、意外に素直だったり。マリアの時だけか…
 「それに直樹は不細工じゃないわ。アンタより何倍もかっこいいわ。行きましょ、直樹」
 「あっあぁ……」
 日本語の間違いを指摘されて、真面目にへこんでいるルイスを無視して、マリアは僕の腕を組んで歩いていった。
 
 「いいのか?」
 「いいのよ。それよりも、美琴のお見舞いに何を持って行こうかしら?」
 あぁ… ルイスの件には触れないほうがいいんだね。
 「う~ん。アイス……」
 「は、やめておきましょう」
 「なら、なにが良いだろう?」
 何故か、僕はマリアと一緒にいることがとても楽しかった。
 
 お土産の焼き芋(マリアが食べたことがないから)を持って暁家に訪れた。
 「元気かぁ~ ミコ~」
 「おじゃましま~す。」
 「あっ直樹、マリアちゃん。いらっしゃい」
 「これ、お土産。」
 僕は美琴に焼き芋を渡した。
 「わぁ、ありがとう。」
 ……
 「そろそろ、帰るわね」
 「そうか、じゃあ送っていくよ」
 「そうね、外は物騒だしね。行ってらっしゃい。」
 僕はマリアを送ることにした。
 
 駅までの道中、マリアが不意に話しかけてきた。
 「ねぇ、美琴とどこまでいったの?」
 突然の質問に僕はこけた。
 「なんだよ、急に……ここ十七年なんも変わってないよ」
 「なんで、気持ちを伝えないの? 好きなんでしょ? 美琴のコト」
 「そうなんだけどな……駄目なんだ。今の状況が心地良くて……関係が壊れるような気がするんだ」
 「わかんないなぁ」
 「マリアはルイスのせいでわからないだろうね。はぁ…今は近くに居すぎて「好き」の一言が簡単すぎて出てこないんだよ」
 「歌詞みたいね」
 「歌詞だもん。好きなアーティストの歌詞がそのまま現状なんだよ」
 「元気だしなさいよ。コレあげるから」
 「!」
 マリアは僕のファーストキスを奪っていった。
 「じゃーねー」
 いつの間にか到着していた駅。駅の明かりが届きそうで届いていない、やんわり明るい道の上で、マリアはキスをした…
 僕はなんだかわからない状況のまま手を小さく振っていた。
 マリアの唇は柔らかくはぜる水のように熱く…… 自分で何を言っているのかわからない。

 ミコと一緒に登校している。昨日の出来事が忘れられなくてボケッとしていたら、
 「直樹……昨日から変よ」
 「ん?あぁ……」
 曖昧な返事しか出来なかった。
 「なんなのよぉ」
 「うん」
 「全然、話聞いてない…… あっマリアちゃん!」
 「おっはよー」
 「おはよう」
 現われたマリアに全身の筋肉がこわばった。
 「どうしたの直樹?」
 「昨日からこの調子なの」
 呆れた声でマリアに僕の近況報告をするマリアは、「ふぅ~ん」と、言った後に
 「なによぉ~まだ元気出ないの? せっかく私のファーストキスをあげたのに……」
 と、言わなくていいような事を言ってくれた。
 「!」
 「きっ、キス!」
 美琴の顔が真っ赤になった。それ以上に僕の顔は赤いのだろう。
 「なんで! なにがあったの?」
 「ヒ・ミ・ツ!ね、直樹!」
 「ははは……」
 脱力する僕の後ろから叫び声が聞こえた。
「Noooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!」
 ルイス……
 「この野郎! どうしてだ! この俺にすらくれなかったキスをなぜ? キサマ…… 襲ったのだな? そうだ、そうに違いない。この悪魔め成敗してくれる!」
 ルイスは勢いのついた拳を僕の顔面めがけて飛ばしてきた。しかし、僕はそれを片手で受け止めて、右足でルイスのわき腹を蹴った。
 「ぐはぁっ」
 悶絶するルイスを無視して僕は、美琴の方を向いた。
 美琴はにっこりと笑って見せると僕にビンタをくらわせて
 「最低…… 襲ったなんて…… ホント最低……」
 美琴は冷たく言い放つとそのまま走り去っていった。
 「あらあら、逆効果だったかしら……」
 意外なものを見ているような顔をしたマリアが暢気な事を言っている。
 「はぁ?」
 僕は頬をさすりながら聞いた。
 「美琴の心を揺さぶれば直樹の方に向くと思ったのに…」
 「じゃあ、本当にすること無かろう」
 「…したかったのよ。直樹とね! ほら、早くしないと遅刻するわよ」
 この言葉の真意はわからなかった。
 
 美琴が一週間も口を聞いてくれない。
 いつもは、昼食は三人一緒だったのに今はマリアと二人っきりだ。
 何を考えているのかマリアは手作り弁当を持参して僕にくれていた。
 そのために学校では僕とマリアが付き合っていることになってしまっている。
 週末… 金曜日の放課後、美琴は最近一人で帰っているのでマリアと一緒に帰っているのに今日はマリアの姿がない。あるのは、泣きながらマリアを探すルイスの姿だけだった。
 「おい、シンホウ! マリアを何処に監禁した!」
 「こっちも探してるんだ」
 「なにをいけしゃーしゃーと嘘をつく! 成敗してくれる!」
 「やめろって。本当にマリアの事は知らないよ。しかも、今時の日本人すら使わない「いけしゃーしゃー」なんて言葉、よく知ってるな……」
 意外に日本語に詳しかったルイスに感心しつつ、マリアを探した。
  
 僕の知らないところで…… まぁ、屋上なんだけどな。
 「美琴、ごめんね。屋上なんかに呼び出して」
 「いいのよ。で、用件ってなに?」
 「直樹の事よ」
 「!」
 「直樹が私を襲ったなんて誤解よ。あのバカ(ルイス)が勝手に叫んでいただけよ」
 「そうなの?よかった。…よかった?」
 「そんな事はどうでもいいの。あのね、美琴、私、直樹の事好きなの」
 「!!」
 「攻めるわよ」
 「そんな事、私に言われても…… 私はまだ緑川先生の事が……」
 「そう。よかったわ。それじゃあ行くね」
 マリアはそう言って校舎への扉のノブに手をかけた。そして振り返って言った。
 「直樹にキスしたのは私だから。ごめんね、先に貰っちゃって」
 そういい残してマリアは消えていった。
 「なんなのよ……もぉ……」
 フェンスにしがみ付き、そう呟いたミコは…
 
 その後、ミコは徐々に歩み寄ってきてくれた。春先には、いつもの二人に戻った。
 あぁ…… 長かったよ……
 
2010-06-03

Q.E.D. 第03話



この時期になると、ある事件を思い出す。
それは、小学校二年生のとき美琴が道路でトラックに引かれそうになったことがあった。
 僕は、何度も危ない!って叫んだんだが、美琴はトラックにはねかけられた。僕が、飛び日込もうとしたら、めがねをかけたお兄さんが僕を止めて自分が飛び込んだんだ。
 お兄さんは見事に美琴を助けてくれた。そんなことがあった。
お兄さんの顔をよく覚えていない。覚えているのは夕陽で、顔が見えなくて眼鏡がひっていることだけだ。
そのお兄さんが美琴の初恋の人だ。

ある日の放課後、マリアが風邪をひいて学校を休んだ。マリアから、僕と美琴に見舞いに来いと言うメールが届いていた。
「さて、お嬢の見舞いにいくか……」
お嬢って言うのは、マリアの事だ。なかなかなネーミングだろ?
「うん。行きましょう!何か買っていきましょう」
僕らは、研究室を後にした。
「あっ忘れ物!直樹、下駄箱でまってて!」
「あいよ」
僕は美琴を残して先に下駄箱に行った。
この学校は、私立の学校で化学室、生物室、物理室のほかに科学部専用の研究室という部屋が設けられている。設備は、三流大学にひけをとらないものだった。

「失礼します…… 忘れ物を取りに来ました……」
「おう! 美琴か!」
緑川先生は振り向きそう言った。
「!」
「早く帰れよ~」
「……」
「美琴? なんだ、帰っちまったのか。」
美琴は、走っていた。頬赤らめて下駄箱目指して走っていた。
振り向いた先生の顔が、昔助けてくれたお兄さんそっくりだった……
「はやいな、ミコ」
「は、はやく行くわよ!」
「?」
「ほら、はやく!」
 美琴は、何から逃げているのか、駆け足で学校を後にした。
 前に一度同じようなことがあった。それは、中学生の時に同じクラスの男子に一目惚れした時と同じだった。
 
 お嬢の見舞いの帰り道、僕は美琴に聞いた。
 「おまえ、好きな人でもいるのか?」
 「な、な、な、なにいってるのよ!」
 突然の意外な質問に美琴は不意を突かれたようだ。
 「お前、麻生に惚れた時と同じだぜ」
 「はぁ~お見通しかぁ~ ……そうよ、緑川先生に」
 「ホワイ!」
 今度は僕が不意を突かれた。
 「昔、私がひかれそうになった事があったでしょ?」
 「あぁ」
 「緑川先生が夕陽をバックに振り向いた時、お兄さんそっくりだったの」
 「……」
 「それで、少し不意を突かれただけ!」
 「ミコ……」
 「じゃーねー」
 美琴は、ぱたぱたと自分の家に帰った。



緑川先生が入院した。
盲腸らしい……
しかし、美琴は人の話をキチンと聞かずに家を飛び出した。
僕は、追いかけることにした。
しかし、特に運動ができるわけではないのですぐにバテた。
「はぁはぁはぁ…… 美琴のヤツ病院の名前も聞かずに飛び出しやがって……」
ひざに手をついて信号を待っている時に高級車が僕の前に止まった。
「ナオキ?」
窓を開いて見慣れた金髪の美女、マリアが言った。
「よぉ、何処行くんだ? お嬢」
「緑川先生の病院へ。貴方も?」
「あぁ、そうだ」
「乗せていってあげる。さぁ、乗りなさい」
「こりゃどーも」
運良くマリアの高級車に転がり込む事に成功した。

車の中は、古典的な高級車だった。
机があったり、ワインがあったり。
「お嬢…… お前、財閥の令嬢?」
「らしいわね。お父様の仕事はなにも知らないの。とりあえず、飲み物を出すわね」
マリアはそう言って、車の中にある冷蔵庫をあさり始めた。
「ビール? ワイン? 日本酒? ウォッカやジンもあるけど?」
「できれば、ノンアルコールがいいです」
「ノンアルコールビールはないわ」
「そうゆうことじゃなくて…… 水か何かないのか?」
「リンゴ、オレンジ、グレープフルーツジュースならあるわよ」
「それをお願いします」
「わかったわ」
マリアはコップにリンゴジュースを注ぎ持ってきてくれた。
「ナオキって、お酒だめなの?」
「いや、大丈夫だけど…… 流石に病院いくのにはまずいだろ? それよりも、マリアこそ酒が好きなのか?」
「私は、あんまり」
「じゃあ、なんで酒を勧めた?」
「お酒すきそうだったし……」
その時、僕のケータイが鳴った。この音楽は…美琴だ!
「もしもし?」
「あっ直樹? 緑川先生の病院って何処よ?」
「学校の近くの総合病院だけど……」
「わかった!」
「おいっ何処だよ? ミコ! 何処にいるんだよ!」
しかし、電話は既に切れていた。
「ミコト?」
「あぁ、緑川先生の事を言ったら飛び出したんだ」
「……ミコトって、緑川先生の事…」
「……」
「着きました。お嬢様」
運転手のおじさんが言った。

僕とマリアは緑川先生の病室に入った。
そこにはわりと元気そうな緑川先生の姿と見知らぬ女性の姿があった。
「緑川さぁ~ん?」
半ギレの声色で病室に入る。
「やぁ、よく来たね」
いつも通りのニヘラとしたカンジで笑う緑川先生に青筋が立ってくる。
「わりと元気そうね」
「たかが盲腸だからね」
「しかし、盲腸も油断をすれば命を食らいますよ」
「そうだね、気をつけないと」
なにに気をつけるんだ?と言いたかったがやめておいた。
「ねぇ隼人君この子達は?」
急に現われたのが、緑川先生の病室にいたおねぇさんだ。
「あぁ、教え子だよ。科学部の……」
おねぇさんは、手をポンっと叩いた。
「こっちが、直樹君でそっちがマリアちゃん?」
「そうですけど」
「ごめんね。自己紹介がまだだったわね。私は谷祥子」
「緑川先生の彼女…… いや、フィアンセね?」
「正解! あれ? あと一人は? たしか… そう! 美琴ちゃん!」
「!」
忘れていた。こんな状況を美琴に知られたら…
「すみません。少し席をはずさせてもらいます」
僕はマリアを連れ病室を出た。
「どうしよう……」状況に焦っていて、頭が回らない。
「知らないわよ」クールに流すマリア。
「いや、しかし……」ミコを傷つけたくない僕。
「いつかはバレるんだから、仕方がないんじゃない?」なにかしら、ミコにキツイマリア。
「…はぁ、つらいなぁ」
意気消沈する僕をよそに少し怒っているのか不機嫌にマリアが言った。
「来たわよ」
「はぁはぁはぁ…ようやく着いた」
美琴は、町中の病院を駆けずり回りましたてな感じで、息を荒くしている。
「遅かったわね」
「うん、少し道に迷って」
「先生の病室はそこよ」
美琴が緑川先生の病室のドアノブに手をかけたときに僕は言った。
「やめとけ」
「えっ?」
「行くな」
「なんで?」
「……」
僕は答えなかった。答えられるハズが無かった。
「緑川先生の婚約者がいるのよ」
マリアはクールに言い放った。
「!」
「ばっ、ばか! マリア!」
「さっきも言ったでしょ? いつかはわかること。隠してもだめなの」
「……」
美琴は何も言わずに病室に入っていった。
僕らも後から入った。

数十分後、僕たちは部屋を出た。
病院の廊下、僕らは口を開かなかった。
「ありがとう。マリアちゃん」
「えっ?」
「マリアちゃんが言ってくれなかったら、きっと病室で泣いてしまっていたと思うわ」
「どういたしまして」
それ以降、美琴は口を開かなかった。

そんな状態で冬休みに突入した。
美琴が一切口をきかなくなって一週間。
朝早く、窓をコンコンと叩く音がした。
僕はベットの中から
「開いてるよぉ~」
と言った。
「おじゃましまぁ~す」
僕は寝返りを打って美琴の方に向いた。
「ようやく、話す気になったか?」
「うん。ごめんね。心配かけて」
「いや、気にしないよ。あぁそうだ、今日緑川先生の退院の日だぜ。行くけど?」
「……私も行くわ」

「退院おめでとうございます」
「そんな、おおげさなことじゃないよ」
「いえいえ、先生がいないと科学部が稼動しませんから」
美琴はいつも以上に明るい。
僕はそれがたまらなく辛かった。
「先生と祥子さん、もしイヴの日、暇だったら家に来ませんか? パーティーするんです」
「そうなの?」
「はい。直樹の料理は達人並なんですよ!」
「隼人君、何か用事ある? あたしは無いわよ」
「俺もないなぁ。じゃあ、行かせてもらうよ」
「お待ちしています」
僕はそういい残すとその場を去った。

自慢じゃないが、料理は得意だ。和・中・伊・仏何でもできる。美琴によると達人クラスらしい。
 イヴの日、僕は滅多にしない料理をした。 何かを忘れる為にたくさん作った。
 パーティーには、美琴・マリア・緑川先生・祥子さんが参加した。
 その日は楽しく過ごした。

 その日の夜
 「なぁ、美琴」
 「なぁに?」
 「緑川先生の事だけど……」
 僕たちは、僕の家の屋根に登って二人で星を眺めていた。
 「ありがとう。今日の私の為にでしょ?」
 「気にすんな。だてに一七年一緒に住んでないよ。」
 「直樹!」
 「ん?」
 美琴は僕にニット帽をかぶせた。
 「なんだよ?これ」
 「クリスマスプレゼント。」
 「僕もなにか……」
 「いいの。だって、普段、絶対にやらない料理をしてくれたんだもの」
 久しぶりに僕はミコと夜明けまで馬鹿話をしていた。お互いに何かを忘れるように
 そうして夜は更けていった。
2010-06-02

Q.E.D. 第02話



あの日を堺にふっきれた僕は美琴と堂々と話すようになった。
たびたび、不良に呼び出しされて美琴と別れろとワケのわからんこと言い、リンチを受けるようになった。最近は護身用のナイフをちらつかせれば、どうにかなるんだが。
それでも、めげずに学校に通っている僕は阿呆なのか……否か……
今日は夏休み半ば、部活のために一人で学校に来ていた。
美琴は夏風邪のためお休みだそうだ。帰りに、アイスでも買っていってやるか。
家から駅まで五分、列車に揺られて十分、駅から学校まで五分。
学園前の駅に着いたとき、金髪の女が困っていた。彼女は、アンティークドールのように美しい顔つきに青い瞳が見るものを引き込む美しさ。日本人にはない、完璧なプロポーションが服の上からもわかる。
僕は、助ける義理もないので行こうとしたが、金髪の女が俺の腕をつかんだ。
「私を学校まで連れて行ってください」
意外と流暢な口で言ってきた。
「日本語しゃべれるんだ」
「私、イギリスから留学してきたマリアです。よろしく」
「よ、よろしく……」
「さぁ、私を貴方の学校に連れて行きなさい!」
「命令かよ!」
僕は、しぶしぶ連れて行った。
彼女は、マリア=セレスタ。彼女の祖父の父がつまり、彼女のひいおじいさんが日本人らしい。で、家系はほぼイギリス人でアンティークドールの中に『和』が感じられたのは、そのせいだろう。父親が企業家で日本進出の為に彼女を留学させたようだ。彼女の父親は海外進出を企み彼女を留学させたそうだ。彼女自身、日本に興味があったらしい。
僕は彼女を職員室に送り届けると、科学部に向かった。

一通り仕事を終えて帰ろうとしたとき、
「おまちなさい!」
「!?」
そこには、マリアが立っていた。
「私を駅まで送りなさい。」
「また、命令かよ!」
彼女は、僕の首根っこをつかみ校門をでた。
「貴方、お名前は?」
「あっ? あぁ、神宝直樹だよ。」
「シンホウナオキ…よし、これからは私は貴方をナオキと呼ぶわ」
「いきなり、呼び捨てかよ!しかもファーストネーム!」
「そして、貴方は私の事をマリアと呼びなさい。わかった?」
「わ、わかったよマリアさん…」
マリアはいきなりキックをくらわせてきた。
「マリアと呼びなさい。いいわね?」
「了解です、マリア……」
このあと、都内を案内しろと言って引きずりまわされた。渋谷や池袋に連れて行こうとしたら、蹴られた。どうやら、そんな所は興味がないらしい。
むかついたので、浅草から高円寺、荻窪、中野と、東京都でもマニアックで何も無い練馬区内を案内してやった。それで、よろこんでいたのが不思議だ。そんな笑顔をみていると、不憫に思えてきて、最後に井の頭公園に連れて行きアイスをおごった。
時間も時間なので、彼女の家の最寄駅まで連れて行った。

夜九時に、ようやく開放された僕はアイスを買って帰った。
「うっす、ミコ元気か?」
俺は、自室の窓から美琴の部屋の窓から入っていった。
「直樹? ……えぇ、少し楽になったわ。まっててお茶入れてくるから」
熱が下がらなさそうな顔をしてまま、ミコが起き上がった。
「いや、やめろ。お前、朝は四十度の熱を出して寝てたんだぞ。それより、ほれ、アイス……ミコ、バニラが好きだったな」
慌ててミコを寝かすと話題をそらした。
「わぁ、ありがとう!」
「じゃあ、スプーンを取ってくるよ」
僕は、スプーンを取りに下に行った。
「あら、いらっしゃい直樹君」
この人は、美琴のお母さん。ミコにそっくりで美人だ。美人って言っても、僕にはわからないんだけどね。
「あっどうも。スプーンはありますか?」
美琴のお母さんはスプーンをとりながら言った。
「直樹君。ツインズはまだアメリカなの?」
ツインズとは、僕の両親の事だ。僕の両親とミコの両親は、大学時代の友達だそうだ。
「そうです。年末は帰ってくるそうです。」
「そう…… あっ、はいスプーン」
「ども」
僕の両親は中学二年のときから、アメリカに行って仕事をしている。
隣に美琴一家がいるから、僕を残してアメリカに行ったのだ。

ミコの部屋に戻ると、待ちかねたミコが体を起こして待っていた。
「あいよ、スプーン」
「ありがと」
「……」
なぞの沈黙。
「今日…… なんでこんなに遅かったの? 部活午前だけだったでしょ?」
「あぁ、今朝イギリスからの留学生を学校まで連れて行って、帰りにそいつが都内を案内しろって言って、有無問わずに引きずり回された」
「くすっ 災難だったわね」
「まったくだ」

二学期になった。
僕はあいも変わらずに理不尽な暴行を受けていた。
「なぁ、神宝さぁいい加減切れたらどうだ?」
南が神妙な顔をして言ってきた。
「なにがだよ。」
「毎日毎日、北岡から暴力を受けてどうなんだ?」
北岡とは、美琴のファンクラブ第一号らしい不良で、不細工な男。人望があるんだが、僕は生理的に受け付けないヤツだ。
「勝てる相手じゃないよ」
はははと笑い飛ばしてやった、その時!
「ナオキ!」
教室に飛び込んできたのは、夏休みの一日を都内案内に連れまわした張本人が現われた。
「げ、マリア!」
「うふふ、同じクラスになったわよ。」
「どうやったんだよ…… マリア…… って、ゆーかさぁ、このクラスなの?」
「日本に友達がいないの、唯一の友達のナオキって言うヒトがいるんです… おねがいします、ナオキと一緒にしてください!って、泣いたら入れてくれた。」
「おまえ…魔性だな…」
「直樹~その人だれ?」
イキナリ現われた美琴が聞いてきた。
「こいつがこの間言ってた、マリアだ」
「この人が…よろしくマリアちゃん。私、直樹の幼馴染の暁美琴です」
「貴方が、美琴さんね。よろしく」
二人は笑顔のまま、握手を交わした。心なしか、背景に竜と虎が見えた。

朝のホームルームが終わってから、アリアが話しかけてきた。
「ナオキ、貴方は何部なの? 私もそこに入るわ」
「勝手すぎるぞ」
「あら、いいじゃない。マリアちゃんがいれば仕事もはかどるし……」
「ほら、美琴もこう言ってることだし」
「はぁ、厄日だ」
こうしてマリアは科学部に入部した。
2010-06-02

Q.E.D. 第01話

幼少期
「やーい、直樹の泣き虫!」
「泣いてないもん。ぐすっ」
「泣いてんじゃんか~うそつき~」
「嘘じゃないもん。」
「直樹はうそつき、泣き虫。明日、みんなにいいふらしてやろう!」
「やめなよ、龍一君。」
「なんでだよ!みーちゃんは、直樹の味方かよ?」
「そうよ。だって、龍一君が直ちゃんをいじめたんじゃない。」
「なんだよ~みーちゃんは直樹が好きなのかよ?」
「好きよ!」
「なっなんだよ、明日みんなに言いふらしてやる!」
「大丈夫?直ちゃん。」
「ありがとう。でも、美琴ちゃん明日みんなになんか言われるよ。」
「いいの。きっと、直ちゃんが守ってくれるもん。帰ろう直ちゃん。」
「うん!帰ろう!」

僕はこの日からずっと美琴が好きになってしまった。

あれから十年…美琴が都内有数の進学校に行くと聞いて、死ぬほど勉強して見事美琴と
同じ高校に入学できた。しかし、つけはたまるもので合格発表のあとに入院するはめになった。
 災い転じて福と成すという言葉が日本にはある。美琴は毎日僕の見舞いに来てくれた。
 美琴とは生まれた頃から家が隣同士で毎日面を合わせて生活してきた。そのせいか、美琴を美人とは思えずにいたが、まあ、好きは好きだからよしとしよう。
 美琴が毎日来てくれたので、予定よりも二週間早く退院した。
 主治医は「君は化け物か?」と聞いてきた。まあ、これが美琴パワーってやつだ。
 そんなこんなで、僕は入学式に間にあった。

 春
 
 同じ中学からきた人間は誰一人いなかった。男子の半数以上が受けた学校だったが、合格者は僕だけのようだ。当然だ。一年前から勉強して通った学校、美琴と仲良くなろうとなんて考えてるような、スカタンには縁のない学校なのだ。
 入学式の前にクラス分けがあった。誰の陰謀かはわからないが、美琴と同じクラスになれた。
 入学式の後に実力テストがあった。前日に美琴と一夜漬けをしたおかげで、苦しむところはなかった。
 そんなこんなで、入学して一週間がたった。美琴は既に学校の憧れの的。日二回は告白をされていたが、イエスの返事はいまのところはないようだ。友達もたくさんできたようだ。
 一方の僕は、基本的に社交的ではなくて友達ひとり出来なかった。そんな僕に声をかけてきたのが、南貴之だった。
 身長は低いものの頭の良いオーラがでていた。話してみればいい奴だった。南は僕の数少ない友人のひとりとなった。
 それは、おいといて、入学して以来校内では美琴と会話をしていなかった。会話をすればたちまちクラスのいや、校内の全男子から迫害されるのは必至だった。そんなひとの気を知らない美琴は昼休みに話かけてきた。
 「ねぇ、直樹はどうするの部活?」
 イキナリ話しかけてきたのは、髪は腰まであって、ソレをリボンで二つに括って、すごく可愛く美しい、スタイルも賞賛に値する一歩手前でそれが返ってアイドル性をだしている、女の子。美琴だった。
 「いやぁ、どうするって言われても……」
 この学校は、絶対に部活に所属しなければならない。迷惑な話だ。 そして、ミコから話しかけられている僕は全身に大量の視線を感じていた。
 「今日の放課後さ、見学してまわらない?」
 「あっあぁ…… 了解」
 「それじゃあ、放課後ね!」
 美琴は可愛い笑顔を僕に向けて手を振って、どこかに行った。あと、五分で授業なのに……
 「おい!」
 後ろからの声に僕はすくみあがった。
 「暁さんと何を話していたんだ?」
 これは、本当のことを言えば即刻地獄行きだと思った僕は、
 「えっあっその…… 職員室…… そうっ職員室の場所を聞かれただけ! うん、そうだ」
 「……なんで、お前にきいたんだ? カミタカラ…」
 男子からと思われる視線が一斉に僕を襲った。
 「いや、ジンポウです…… それは……」
 「それは?」
 「おっ同じ中学出身だったからだよ。」
 「本当か?」
 「本当で……す……」
 「そうかそうか!いやいや、そうかそうか!」
 いつの間にか集まっていた大量の男子は安心したように散っていった。
 「災難だね」
 南が、呆れ気味に言った
 「あぁ、美琴が幼馴染なんてばれたら殺されるよ」
 「まぁ、がんばれよ。神宝……」
 「頑張るよ……」
僕は、念のために美琴にメールを送っておいた。全員いなくなったら、会おうと。

放課後……全員教室からいなくなったことを確認してから美琴と会った。
「なんで、みんないなくなってからなの?」
「鈍いよ。美琴お前は、学園男子の憧れの的なワケ。ユーアンダースタンド? ミコと話をすると即刻地獄行きなんだよ。」
「迷惑だなぁ~」
「……」
迷惑なのはこっちなんだよ! と、心の中で呟き部活見学に出かけた。

「ここが茶道部……」
「足がしびれた……」
「だめね、次行こう!」
「まて、ミコ…… おいていくな!」

「アニ研!」
「やめとけ。お前、絵がへたくそだろ?」
「うぅ、じゃあ次!」

「将棋部……」
「ストッピング! ここはやめろ。南の話によると将棋なんか一つも指してない。ずっと、部員がいなくて、廃部寸前だ」
「……次行ってみよう!」

「吹奏楽! ……は、やめておきましょう。たぶん直樹はこう言うわ。お前の使った楽器の取り合いで戦争が勃発するから却下。ってね☆」
「くやしいが、ほぼ正解……って言うかなぜにお前と同じクラブに入る前提なの? しかも、文化部ばっかり……」
「いや?」
「いやじゃない」
「ならいいじゃない。それに、直樹は運動好きじゃないでしょ? それに、どうせ入るなら一緒がいいじゃない!」
「何故にホワイ?」
「ふふっそれは……」
「夜道を一人で歩くのが死ぬほど怖いから、一緒の部に入り一緒に帰りたいから……」
「正解! さすが、直樹!」
「伊達に十六年一緒じゃないよ。」

「料理部……」
「却下…… 戦争が……以下省略……」

俺たちは、数々のクラブを回っているうちに、寂れた教室に出た。
「ここが最後、科学部…」
僕たちはとりあえず入ってみた。そこには、髪伸び放題で無精ひげを生やしたそこそこ若そうな男がラーメンを食べていた。男は、俺たちに気づくと、
「食べる?」
と、言って、古ぼけた鍋に入っているラーメンを進めてきた。
「いや、結構です。ここは科学部ですよね?」
啜ったラーメンをヒトのみすると、
「そうだが、君たち入部希望者?」
「まだ、決定してないんです。」と、ミコ
「ここではなにを?」と、僕
「何でもやるよ。化学、物理、生物……天文学まで」
「天文学……」
ほう、とした目で自分の世界に旅立ちかける美琴を無視して、無精ひげのラーメン青年(?)は、
「入る?」
言うと、最後の麺を一気にかきこんだ。
「どうするのミコ?」
 自分の世界から戻ってきた美琴は
「はいろうかな?ここなら直樹も文句はないよね?」
まぁ確かに、ここなら寂れてて人気もないし、隠れ家にはちょうどいいね。
「まぁそうだな。入部します。」
完全にラーメンを食べ終えた先生は、ガタンッと立ち上がり
「そーこなくっちゃ! ここ十年部員がいなくて困っていたんだ。いやぁありがたい」
「条件が一つあります。」僕は、低い声で真面目な話を始める
「条件?」すっとぼけた顔をした先生。
「科学部への入部希望する男子は全て断ってください」大混乱が起きるのを未然に防ぐためにな。
「……はっはーん。なるほど、よし、了解した。ようこそ科学部へ!私が顧問の緑川隼人だ。一年の化学、二年の物理を担当しています」
「僕は、神宝直樹です。」
「私は、暁美琴です。」
「よし、直樹と美琴だな!手始めに、ラーメンを作ろう! 俺のおごりだ!」
こうして、僕らは科学部に入った。

次の日……
「キンコンカンコーン」
昼休み食事中に放送がはいった。
「1‐Cの直樹と美琴は今すぐ緑川のところまで来なさい。」
僕は、飲んでいたお茶を吹きかけた。
「神宝…… おまえ、下の名前でしかも、暁と一緒に呼ばれたな……」
僕は、凍り付いていた。キリキリと首を回し美琴の方を向くと目の前に美琴が立っていた。
「行こう! 直樹!」
美琴は人の気も知らないで僕の右手をつかみずるずると僕を連れて行った。こいつは、昨日の僕の話を聞いていたのか?と疑いたくなる。

「暁と神宝入ります!」
血の気が完全になくなっている人のことはそっちのけで元気よく職員室に入っていく美琴のあとは、とぼとぼとついて行った。
「なにか御用ですか? 緑川先生」
「来たか! いや、とりあえず白衣の注文をしよかなとおもってな。」
「白衣ですか? だったら、私が、Sで直樹がXLにしておいてください。」
「承知!」
緑川先生はへらへらしていた。
「先生…… なぜにファーストネームでコールした?」
「いやぁ、気分だ! 気分! じゃあ、今日放課後化学室に集合!」
のんきなもんだ。このあと、どうなるのかな?意気消沈する僕に声をかけてきたのは美琴だった。
「元気だしなさいよ!私が、言ってあげるから!」豪快な美琴に男らしさが感じられて、イヤだった。
「いや、美琴気持ちは嬉しいがお前はペラペラと余計なことを言いかねない」
「安心しなさい。ドントビーアフレイド!」
「いや、微妙に使い方を間違っているぞ」
僕らは教室に帰った。
教室では男子が自分の席に座りしーんとしていた。美琴の友人の杉浦真衣ちゃんが、僕らを教室から連れ出した。
「美琴どうゆうこと? なんでカミタカラ君と下の名前で呼ばれてたの?」
「いや、シンポウです。」
「二人で、科学部に入ったの。」
「で、あの教室はなんですか杉浦さん?」
「真衣でいいわよ。神宝君を待ち構えているのよきっと。学校の憧れの的、美琴と下の名前で呼ばれた理由を聞くために。」
「……」
「神宝君……ぐっとらっく!」
「真衣ちゃん!?」
真衣ちゃんは、僕を教室に押し込み扉を閉めた。
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